薄暗い洞窟を、4人の男たちが歩いていた。黒一色の揃いの隊服に身を包み、ハンチング帽を目深に被って目ばかりギラギラさせている。
明らかに堅気ではない。まるで、岩陰に凝る闇が、悪意を軸に人の形を成したような容子であった。
三つ叉に別れた路にくると、リーダーの男1人を残して3人がそれぞれの道に散っていった。程なくして戻ってくる。
「見つけたか」
部下たちは異口同音に「否」と答えた。
男が舌を鳴らす。
「面倒な。手間取らせやがる」
右の道を調べた部下が訊ねた。
「どうします。進みますか」
「当たり前だ!」
刺々しい声が三叉路に木霊した。
男が長年感じてきた焦りは今や頂点に達していた。同期や後輩がどんどん出世していく中、己だけがめぼしい成果を挙げられていない。このままではそう遠くない将来に、かつて手下だった連中を上司と呼び、指示を仰ぐ日が来るだろう。
考えるだに憤ろしい。そんな屈辱を味わうくらいなら死んだ方がマシだ!
いわば不退転の決意を持って今日の作戦に臨んでいることをわかっているのだろうか、この
凶暴な力を漲らせ、拳を突き上げる。
「本日のミッションに失敗は無い!
成功か、さもなくば死だ! 絶対に捕まえるぞ…………
「お、応!」
男は鼻息も荒く中央の路に突進した。
先ほど質問した部下の瞳が冷たい光を帯びていることには、ついぞ気づかないままで────。
「ぶえっきし!!」
盛大なくしゃみにイツキが顔を顰めた。
「せきエチケットがなっていませんね」
「くしゃみは力いっぱいぶっぱなした方が気持ちいいんだよ。てか寒くねーの?」
「へいきで…………っくちゅん!」
咄嗟に押えた口元から可愛らしいくしゃみが飛び出す。イツキはきまり悪そうにうつむいた。
「へいきですけど…………すこしさむいかも……」
「少しどころじゃないだろ。湖に落ちたんだ、我慢すんなって。服の替えは持ってるか?」
小ぶりな頭が横に振られた。あいにく、俺もタオルしか持ってない。びっちょびちょの服のまま洞窟を歩くのだけは勘弁願いたいところだが、さてどーしたもんか。
2人して思案することしばし。唐突に美少年が立ち上がり、喜色の滲む声を漏らした。
「どうしておもいつかなかったんだろう!」
俺は驚き訊ねた。
「どうした?」
「ふつうにまっていてもこごえてしまうだけなら、ポケモンにかわかしてもらえばいいんですよ! ちょうどきのう、すてきなワザをおぼえさせたばかりなんです。
おいでっ、ユンゲラー!」
紅葉のような手がモンスターボールを放る。現れたユンゲラーがイツキの足元に恭しく
エスパータイプはなべて知能と自尊心が高く、生半可な人間には決して従わない。とりわけケーシィ族はその傾向が強いため、育成は困難を極めるのだ。
それをここまで手懐けるとは…………!
こやつ────できるっ!
「ユンゲラー、にほんばれ!」
白く輝く光球が俺たちの頭上に浮遊する。にわかに周囲の温度が上昇した。
降り注ぐ光が心地いい。
「うおお〜、これはいいなあ」
仰向けに寝転がると、「じべたにねそべってはいけません。よごれちゃいますよ!」と窘められた。
「へーきへーき。発掘ンときなんかもっと泥まみれ砂まみれになるぜ。こんなとこベッドルームみてえなもんだ」
「…………はっくつ?」
「お、興味ある?」
イツキがこっくりした。
「…………このあいだ、れきしのせんせいにおそわりました。あるとくていのばしょをほっていくと、おおむかしのたてものとか、だれかがくらしていたショウコがでてくるって」
「その通り!」
俺は嬉しくなって半身を起こした。
「発掘は根気と体力勝負だ。長い時は何週間も何ヶ月もかけながら、コツコツコツコツ掘っていく。1日2日で出るなんてことはまず有り得ない。だけどそのぶん、見事掘り当てたときは感動モンだぜ?
「ポケモン!? ポケモンもでてくるの!?」
イツキは目をまん丸にして叫んだ。そうしていると、敬語で喋っている時よりずっと年相応に見える。
「おうよ。そうやって何千年、何万年と眠ってたのを化石ポケモンつってな? カントーのニビシティは────」
子供の頃から好きだった分野に興味を持ってもらえて有頂天になった俺は、思いつく限りのエピソードや知識をガンガン語った。イツキは最高の聴き手だった。真剣な眼差しでこっちの目を見ながら、ジャストタイミングで頷いたり、鋭い質問を投げてくれる。
興の乗った俺が更に話を深堀りすると、イツキもまた、ぐぐっと耳を寄せてくれるのだ。
俺たちはすっかり意気投合して、サングラスを見つけてくれたカブルーが戻ってくるまでの1時間、たっぷりお喋りした。
というわけで第15話。
冒頭の怪しい連中は何者なんでしょうねー?(棒)
ちなみに4人中1人だけネームドが混じっています。
ちびルギアじゃ飽き足らずネームドキャラもちびにしてみましたが、このイツキくん書いててクッソ楽しい。
よければ感想評価おなしゃす。