ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第17話 喪いたくないもの。

 

 

 

 

 ロケット団員の指示は的確で、敏速で、残酷だった。

 

「ギャラドォス!」

 

 ただ一言叫ぶだけで、10秒前までコイキングだったものが吠え猛り、太い尾を地面に叩きつけた。大量の土煙が舞いあがる。ギャラドスの長躯によって、俺とイツキは分断されてしまった。

 

「うわぁぁぁあっ!」

「大丈夫かイツ──っ」

 

 瞬間。

 激しく嫌な予感がして、俺は咄嗟に後ろに跳んだ。

 さっきまで頭があったところをニューラの爪が行き過ぎる。ほんの一瞬でも躱すのが遅れていたら、喉元を切り裂かれていただろう。冷や汗がうなじを濡らした。

 

 体勢を整え、振り返る。

 黒猫の姿は既に無かった。

 

 ────あの野郎…………! 

 

「流石マフィアだな、クソったれ!」

 

 俺は小さく毒づいた。

 

 ニューラの技の冴え、移動速度、気配の殺し方。どれをとっても厄介だが、最悪なのはあの男にまともなバトルをする気が更々ないことだった。

 砂埃に紛れての一撃離脱。いつどこから来るか、まるで予想できない。初撃を回避できたのは奇跡だ。二撃目も躱す奇跡が起こるか? 

 

「…………まあ、起こすしかねえけど、よ」

 

 拳で自分の胸をぶっ叩いた。

 イツキは優秀な子だ。ユンゲラーを見ればわかる。だが、まだ子供だ。平気で相手を殺そうとするような男と渡り合えるわけがない。

 

 ならば。

 俺がこいつを倒すっきゃねえ!

 

「カブルー、固めろ!」

 

 カブトプス(カブルー)が身構える。両腕を己に巻きつけ、外殻を硬化させた。

 続けて剣の舞を舞わせる。とにかく攻撃と防御を上げることに集中した。

 

 絶対にあいつをイツキに近づけさせてはならない。俺たちが負ければ、イツキも死ぬ。

 

「勝つぞ、カブルー」

 

 相棒は、無言で頷いた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 イツキは焦燥の只中にあった。

 突如進化したギャラドスによって、アシタバと離ればなれにされてしまった。ユンゲラーのテレポートで合流することも考えたが、あれは強い集中力を必要とする。目の前の怒れる龍が、そんな猶予を与えてくれるとは思えなかった。

 

 ギラギラする眼がイツキを睥睨する。

 唐突に、先日図書室で読んだ本を思い出した。ヒスイ地方を興したデンボクという老人の自叙伝で、怒り狂ったギャラドスに故郷を滅ぼされるくだりがあった。人々が焼かれ、悶え苦しむ描写はおそろしいほど生々しかった。

 

(なんでこんなときにそんなこと……っ)

 

 後悔してももう遅い。

 舌が痺れるような恐怖が這い上がってくる。ともすれば膝が萎えそうになるのを、気力を振り絞って耐えた。

 

 学校でのバトルとは何もかも違う。整備されたコートに並び、双方お辞儀をして、先生の合図で始まるバトルは、目の前の現実に比べればまるでお遊戯だった。

 

 歯が勝手に震えだす。

 どうしよう。

 どうすればいい。

 たくさん本を読み、勉強してきたけれど、こんなときの答えはどんな書物にも書いていなかった。

 

 ユンゲラーが不安そうにしている。エスパータイプはおやの感情を直に感じてしまうことがあるのだ。恐怖が伝染する前に安心させてやらなきゃ。だけど息が苦しくて、胸が痛くて、とても声をかけてやれなかった。涙で視界が歪んでいく。

 

 その時。

 強い思念波がイツキの脳を揺さぶった。

 テレパスを遮断する特製サングラスをつけて尚届く強い思念に、イツキは瞠目した。

 

『護る────』

 

『────絶対に』

 

『イツキを────』

 

 

『死なせはしない!』

 

 

「…………!」

 

 イツキの胸が、ぐわっと暖かいものに包まれた。

 

 アシタバだ。

 アシタバの声だ。

 あのひとは全力で、ぼくを護ろうとしてくれている。

 絶対に諦めずに、最後まで戦おうとしている。

 

 涙が頬を伝う。この涙は、さっきまで浮かんでいたものとはまるで種類が違っていた。

 

 イツキは改めて敵を見つめた。

 ギャラドスはゴロゴロ唸りながらこちらの動向を窺っている。襲ってくる気配がないのは、トレーナーの指示を待っているからだろう。

 

()()()()()()()()()()()

 これは、かなり大きな情報(アドバンテージ)だった。

 

 考えてみれば当たり前だ。

 本人の意思に関係なくいきなり進化させられて、大いに戸惑っているはずだ。コイキングの時とはまるで違う大きく膨れ上がった肉体を持て余しているに違いない。

 

 つけいる隙は、そこにある。

 

 袖口で涙を拭う。

 恐怖がなくなったわけじゃない。ギャラドスが暴れればイツキの命なんてあっけなく散るだろう。

 でも、何もせず諦めてしまったら、あの男に大事な友達を()()()()奪われてしまう。

 

 ユンゲラーもアシタバも絶対に────失いたくない! 

 

「がんばろう、ユンゲラー!」

「ふるっ」

 

 ユンゲラーのスプーンが、頼もしい輝きを帯びた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 突然脳内に声が響き、俺はその場で飛び跳ねるくらい驚いた。

 

『アシタバさん!』

「おわっ! な、なんだっ!?」

 

 おもわず辺りを見回すが、土煙ばかりで何も見えない。

 もう一度声がした。

 

『ぼくです、イツキです! テレパスであなたによびかけています! おもうだけでぼくにつうじますから、そのままきいてください!』

『イツキ! 無事だったか!』

『はい! アシタバさんもけがはないですか?』

『なんとかな』

『よかった……。アシタバさん。あいてはつよいです、すごく。でも、ふたりでちからをあわせればきっとかてます! そっちはどんなジョウキョウですか?』

 

 俺はニューラの戦法をざっと説明した。思うだけで伝わるのは妙な気分だが、慣れるとこれほど便利なものはなかった。

 

 イツキからはギャラドスの状態が返ってきた。指示があるまで睨むだけで動こうとしないと知り、俺は光明が差すのを感じた。

 

『…………使えるな、それは。イツキ! お前のテレパスってこういうことは出来るか?』

 

 咄嗟に思いついたアイディアを()()と、イツキは一瞬黙った。

 

『かんがえたこともなかったですけど…………やってみます!』

『よおし。それが上手くいきゃ、この勝負俺たちの勝ちだ! 気張れよ!』

『はい!』

 

 通信が終わる。

 この策戦はタイミングが肝だ。早すぎても遅すぎても意味が無い。

 

「おーし。見てろよクソロケット団っ!」

 

俺は頬を叩き、威勢のいい声を上げた。

 

 

 

 




というわけで第17話。
ロケット団はトレーナーへのダイレクトアタックが基本なのでまともなトレーナーほど勝てません。
汚いさすが汚い。
もっと続き描きたかったんですがこの回だけ5000字超えちゃいそうだったので一区切り。

よければ感想評価おなしゃす。
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