ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第21話 才女の鼻をへし折るぞい。

 

 

 

 

「このひととバトル……ですの?」

 

 ツツジがちらりと俺を見やった。その瞳はありありと「こんなどこの馬の骨とも知らない人間と戦ってなんの意味が?」と語っている。

 マツバは目を白黒させている俺の肩を引き寄せ、にっこり笑った。

 

「ああ。言ってなかったが、彼はオレの同級生で、今も昔もいちばんのライバルなんだ。バトルの腕は確かだよ。保証する。もしも彼と戦って1勝でも出来たなら、今日1日つきっきりで修行をつけてあげるけど、どうかな」

 

 その提案に色めきたったのはむしろ教師陣のほうだった。現職のジムリーダーが手ずから稽古をつけてくれる。いかにヤマブキ学院といえど滅多にあることではない。

 

 ツツジも俄然やる気になって、話はとんとん拍子に纏まり、朝食後すぐにマツバのジムに行くことになった。

 

 ────俺の意思は1度も確認されることなく。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「いやおいちょっと待てっ! なんでこうなった!?」

 

 部屋で荷物をまとめていたマツバに詰め寄ると、こんちくしょうはきょとんとした顔で小首を傾げた。

 

「何か問題あったか?」

「大アリじゃい! なぁあんで俺があのチビッ子とバトルせにゃならんのじゃ!」

「そりゃするだろ。ツツジは岩タイプを侮辱したんだぞ? それはつまり、君のカブトプスを馬鹿にしたようなもんじゃないか」

 

 俺は溜息を吐いた。

 それはちょっと飛躍しすぎだ。

 

「ガキの言い分をいちいち真に受けんなよ。俺たちゃもう大人だろーが」

「…………かもな」

 

 ぱちん、とトランクの蓋を閉め、マツバが振り返る。えらく真剣な表情に、おもわず気圧された。

 

「でも昔の君なら、絶対に許さない暴言だろ?」

 

 俺は二の句が継げなかった。

 身に覚えがあったからだ。

 

 ────入学したばかりの頃。

 カブトは珍しいポケモンなこともあって、よくからかいの的になった。

 岩・水タイプは弱点が多く、陸上で動くのもあまり得意じゃなかったから、どんなにのろい攻撃も避けられなくてよく負けた。負けるたびに笑われた。面と向かって「もっとマシなポケモンにしろよ」と言われたことすらある。

 

 それが悔しくて悔しくて、毎日泣きながら猛特訓した。

 馬鹿にしてきたやつら全員を見返してやりたかった。

 俺の相棒はこんなに凄いんだぞって分からせたかった。

 

 少しでもカブルーが邪険にされたり粗末に扱われたと感じたらすぐに勝負を吹っかけて、勝つまで挑み続けた。やりすぎて学長室に呼ばれたことも1度や2度じゃない。

 ついたあだ名が「茹でエビ」だ。顔を真っ赤にさせてプリプリしてるからだと。やかましいわ。

 

 ともあれ、たしかにその時の俺なら、ツツジの発言は絶対に許さなかったろう。

 

 思い出を突き破るようにしてマツバが言う。

 

「誇りを傷つけられる痛みに鈍感になることが、大人になるって意味じゃないぜ」

 

「…………」

 

 俺は、返す言葉もなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 マツバが案内したのはエンジュジムの横にある屋外バトルコートだった。

 ここは常時解放されていて、ポケモントレーナーなら誰でも使えるらしい。マツバがジムリーダーになってから設置したのだそうだ。

 

 俺とツツジが向かい合う。幼女様はもうヤル気満々で、開始の宣言がかかるのを今か今かと待っていた。

 

「1vs1のシングルバトル! 使える技は4つまで。道具、回復一切禁止。どちらかが倒れるか降参を宣言した時点で終了とする。…………双方、異論はないな?」

「ねぇ」

「ございませんわ!」

「それではツツジvsアシタバ、バトル・スタート!」

 

 俺たちはほぼ同時にボールを投げた。

 あちらはモンスターボール、俺はもちろんフレンドボールである。見慣れないデザインにツツジが一瞬眉をひそめたが、互いのポケモンが睨み合った途端、目つきがきりりと引き締まった。

 

 彼女が繰り出してきたのは地面・ドラゴンタイプのビブラーバだった。

 岩は半減、水は等倍。正直カブルーで相手取るのはかなり厳しいポケモンだが、マツバにあそこまで言われた以上情けない試合はできない。

 己に言い聞かせるつもりで相棒を奮い立たせた。

 

「いくぞカブルー! 竜退治だ!」

「せんてひっしょうですわ!

 ビブ、りゅうのいぶきっ!」

 

 ビブラーバが青白い息吹を吹きつける。カブルーが地を這うように身を低くして躱したところに、2撃目が襲いかかった。

 

「ばかぢからっ!」

 

 渾身の力を込めた打撃ががら空きの背中を打ち据える。効果抜群の格闘技に、カブルーの殻が激しく割れた。

 

 ツツジの口元が緩む。所詮岩タイプなどこんなものだと嘲っているのが手に取るようにわかった。

 

 ────その油断に、つけいらせてもらう。

 

「トドメですわ! もういちどばか──」

 

 ぢから、と言い終わるよりも俺の指示のほうが早かった。

 

()()()()()!」

 

 カブルーの目がぎらりと光る。今の今まで地に伏していたのに、目にも止まらぬ速さで転がりながら起き上がると、近づいていたビブラーバの首に鎌を引っ掛け半回転。曲芸のごとき立ち回りで竜の背中に跨った! 

 

「なっ!?」

「そのまま吸血!」

 

 無防備なうなじにカブルーが噛みついた。情け容赦なく相手の血を吸い上げる。ビブラーバは必死に振りほどこうとするも、羽と体幹を押さえつけられてはどうしようもない。充分に体力が回復したところを見計らい、ダメ押しの一撃を発動する。

 

「地球投げ!」

 

 体力を吸われ尽くしてフラフラのビブラーバを投げ落とす。地面に叩きつけられた竜はぐったりとして、ぴくりとも動かない。完全に気絶していた。

 

 マツバが朗々と宣言する。

 

「ビブラーバ戦闘不能。よって勝者、アシタバ!」

「……………………っ!? 

 まけた…………? わたくしが…………!? 

 わたくしの、ポケモンが…………?」

 

 ツツジは呆然と立ちすくみ、青ざめた顔でビブラーバを見つめていた。

 

 

 

 




というわけで21話。
ツツジ嬢の鼻っ柱をぶち折る回です。
岩のかっこよさと魅力を伝えるつもりが岩技1個も使ってないっていうね。
こ、これから魅せていくので。

作中でマツバさんがちらっと言ってますが、公式試合や正式なバトルでは使う技は4つまでに制限されます。5つ以上使ったら即失格です。
野良試合ならいくつ使ってもOKです。
リーグ戦ともなると予め使う技を書いた紙を運営に提出するんだとか。
何の技を書くかめちゃくちゃ悩みそうですねえ。
もちろん拙作だけの独自設定です。

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