ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

22 / 100
第22話 大事ならしっかり守れ。

 

 

 

 

 教師たちは言葉を尽くしてツツジを慰めていたが、肝心の本人は唇を噛み締めたままうつむいて、ひと言も口をきかなかった。

 俺は心底他の生徒が居なくてよかったと思った。たぶん、彼女は生まれて初めて敗けたんだ。そんなところを同級生に見られたら傷つくなんてもんじゃない。

 

 俺はマツバの脇腹をつつき、小声で囁いた。

 

「おい」

「うん?」

「なんかフォローしてやれよ。アンタの提案で始まったバトルだろうが」

 

 正直この雰囲気はいたたまれなかった。こっちは勝負しただけなのに、いきなり針のむしろに座らされてる気分だ。ところがこいつはあっけらかんとした口調で「言うことなんか何も無いよ」と切り捨てやがった。

 

「バトルに勝ち負けはつきものだ。どちらかが勝ったならどちらかは負ける。それを受け入れられないなら、そもそもポケモントレーナーになるべきじゃないな」

「…………っ!」

 

 ツツジの顔がみるみる赤くなった。大きな瞳に涙が溜まっていく。俺の方がどぎまぎした。

 

「お、おまっ、声がデカいっ。てか言葉を選べよ相手は子供だぞ!」

「なぜ? トレーナーに大人も子供もないだろう」

「んぐ」

 

 正論だ。

 正論だが、世の中には言い方とタイミングってものがあんだよ! 

 しかし慌ててももう遅い。

 少女はとうとう涙しはじめてしまった。いたいけな少女が声を殺して泣く様はめちゃくちゃ心にくる。教師──とくに学年主任の視線が痛い。抗議の声があがらないのはマツバがジムリーダーだからだろうか。

 

 いよいよ空気が険悪になり始めたとき、担任の若い女教師が高声で提案した。

 

「そ、そうだ! クラスの子達はいまごろキャッチレースに参加しているでしょうから、わたし達も行きましょう! ほらツツジさん、可愛いポケモンがいっぱいいるわよ〜!」

 

 教師たちも口々に賛成し、ぞろぞろ移動し始めた。

 

 キャッチレースとはエンジュシティそばの自然公園で開催されるイベントだ。制限時間内に捕獲したポケモンの大きさや重さなんかを競ったり、他地方のコンテストを模したステージがあったりと、中々盛況な催しである。前は虫取り大会という名前だったが、虫以外にもスポットを当てて欲しいという要望が殺到してこの名前に変わった。

 

 さすがにツツジの好きなドラゴンタイプは居ないだろうが、いい気晴らしになるだろう。

 ナイス担任! 俺は心の中で惜しみない拍手を贈った。この地獄みたいな空気から解放してくれる彼女が女神に思えた。

 

「じゃ、じゃあ俺はこのへんで……おつかれっした〜」

 

 と帰りかけた腕をぐっと掴むバカがいる。

 

「折角だからオレたちも参加しよう。楽しみだなあ、アシタバ?」

 

 有無を言わさぬ笑顔を向けられ、俺は白目をむいた。

 

 

 なあマツバ(アンタ)

 ひょっとして俺のこと嫌いだろ? 

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 自然公園は大勢の人で賑わい、黒山の人だかりがあちらこちらに出来ていた。

 子供の頃に遊んだ虫取り大会とは大違いである。俺は呆然と辺りを見回した。

 

「な、なんだこの人出」

「コンテストステージに近頃話題の有名人が出てるみたいだぞ。期待の新人ミクリだとさ」

「へえ……」

 

 ステージに目を向ける。

 やたら露出度の高い衣装を纏った青年がキレキレのポーズを決めながらミロカロスに冷凍ビームを撃たせていた。

 審査員たちが軒並み高得点を掲げている。

 晴天にきらめく氷が見惚れるほど美しい。が、どうしたって青年のヘソ出しスタイルに目がいってしまう。

 

「すんげぇ格好」

 

呟くと、マツバが横から教えてくれた。

 

「ん? ……ああ、あの人がミクリだよ。たしかもうすぐジムリーダーに就任するとか聞いたな」

「…………まさかあの服でジムリはやらんよな?」

「…………そこはほら、人の自由だから」

 

 いやまあそうだけども。

 

「そうだ。アシタバもコンテスト出たらどうだ?」

「何部門で出んだよ」

「可愛さ部門とか」

「アホか!」

 

 軽口を叩きながらウロウロしていると、誰かにぶつかってしまった。

 この陽気に厚手のブルゾンをしっかり着込んだオッサンだった。さぞ暑かろう、額には玉の汗が浮かんでいる。

 

「あっあっ、す、すいやせん、へへ……」

 

 男は愛想笑いを浮かべ、そそくさと行ってしまった。

 気を取り直して焼きそばの屋台に並んだ時、横手から悲鳴があがった。

 ミニスカート女子が青い顔でカバンの中を引っ掻き回している。

 

「やだ! あたしのお財布がない!」

「ええ? うそお。落としたんじゃないの?」

「さっきまであったもん! なんでぇ?」

「ひょっとして……スられたんじゃない?」

「ええ〜!?」

 

 女は泣きそうな顔でしゃがみこんだ。

会話を聞くともなしに聞いていたマツバがぼそりと囁く。

 

「さっきの…………」

「んあ?」

「さっきの男、いかにも掏摸(スリ)っぽかったよな?」

「いや人を見た目で決めんなって」

 

 全くこいつは。

ジムリーダーたるものもっと倫理観を持ちなさいよ。

ツッコミつつ、とりあえず持ち物をチェックした俺は、一瞬で血の気が引くのを覚えた。

 

「え。まじで? まじか?」

 

 全身をバンバン叩きまくって再確認する。

 ない。

 ガチでない。

 

「どうした?」

 

 マツバの問いに、俺はぎぎぎっと振り向いた。

 認めたくない事実を口にする。

 

 

「盗られた…………いちばんだいじなやつ…………。

()()()()()()()()()()()が! ない!」

 

 

人目も憚らず絶叫した。

 

 

 

 




というわけで第22話。
ミクリさん名前だけ登場。初めて見た時西○くんと思ったのは作者だけじゃないはず。

盗っ人おじさんはグレンタウンのポケモン研究所にいた火事場ドロボウをイメージしてください。アレです。
こっちから話しかけないとバトルにならない異例のモブキャラですが、大金くれるので大好きでした。

よければ感想評価おなしゃす!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。