ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第24話 大いなる存在。

 

 

 

 

 盗っ人は、小馬鹿にしたように鼻で笑った。

 

「なんだそのチンケな鳥は? そんなんで勝てると思ってんのかあ!? お前ら吹き飛ばしてやれ!」

 

 2体のゴルバットが羽ばたき、突風を巻き起こす。

 ルギアは懸命に踏ん張るが、小さくて軽い体はどうしたって不利だ。

 

 俺は指を鳴らした。

 なら、やり返せばいい。

 お前も鳥なら、この技は使えるだろ? 

 

「かぜおこし!」

 

 体格に見合わぬデカい翼が音を立てて振り下ろされる。たった1回で、ゴルバット2体分の風よりも遥かに強い豪風が吹き荒れ、蝙蝠たちをぶっ飛ばした。

 乱気流に揉まれてもみくちゃになっているところを、すかさずマツバのムウマージがサイケ光線で撃ち落とす。

 

 こそ泥が目を丸くした。

 

「んなぁ!? ご、ゴル代、ゴル美!」

「ぼーっとしてんなよオッサン!

 ちびすけ、もいっちょかぜおこし!」

「げるるぁっ!」

 

 高揚したルギアが何度も羽ばたくと、局所的な台風が出現した。まずベトベトンの体が浮きあがる。必死の形相で地面にしがみついても、土ごと剥がされていった。エレブーとブーバーは手近な木に抱きついたが、すぐに根っこごと押し倒された。犯人に至ってはとても自力で立っていられず、木の幹にぎゅうぎゅう押しつけられていた。まるで丸太に磔けられた罪人のようである。

 

「うははははははは!」

 

 俺は高笑いが止まらなかった。

 正直予想以上だった。飛行タイプの中でも間違いなく最弱の技であるかぜおこしでこの威力とは。いつもの俺なら慌てて止めたろうが、今はブチのギーレェDX状態である。あらゆるブレーキがぶっ壊れて、どんどんハイテンションになっていった。

 

「いいぞぉ最高だ!

 そのままウェザーボールもぶっぱなせぇ!」

「げるるるるぃ!」

 

 エネルギー弾が直撃したエレブーとブーバーが遥か彼方まで吹っ飛んでいく。

 

「盗んだもの返すかぁ、おっさん!?」

 

 風に負けぬよう大声で問えば、悪党は情けないツラで何度も頷き「返すっ、返しますう!」と泣き叫んだ。

 

「全部お返ししますぅううう! すみませんでしたぁあああ! 風を止めてくださぁああああい!」

 

 俺はわざとらしく耳に手を当てた。

 

「んー? なんか聞こえたかマツバ」

「いや、なにも?」

「だ・よ・なあ〜?

 よーしちびすけ、ギアあげてくぞぉ。

 エアカッターとか撃てるか? あ、 撃てるの〜。おっけおっけ、バンバンいこう♡ 悪い人のおててはぜーんぶ捥いでないないしちゃおうな〜♡」

「げるっ♪」

 

 ルギアがぱたぱた足を鳴らす。暴れられるのがたまらなく嬉しいらしい。うんうん、技の練習にもなって一石二鳥だ。いっぱい遊べー? 

 

「ひぃいいいいいい!」

 

 泥棒の悲鳴が晴天に響き渡る。

 

 

 ────数分後。

 大暴風のなかで生死の境を彷徨ったおっさんは、一気に10歳も20歳も老けたような顔で土下座していた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ブルゾンからは出るわ出るわ、自然公園でパクった代物がごろごろ発掘できた。財布にアクセサリー、金のたまに高価な道具。

 大量の戦利品を掻き分けカブトプス(カブルー)の入ったフレンドボールを見つけた瞬間、俺は狂喜乱舞した。

 

「ごめんなカブルーもう二度と盗まれたりしねえから!」

「ぎっしゅ」

「げるるん」

 

 カブルーは慈愛に満ちた眼差しで俺を抱きしめ、ルギアを抱っこした。

 許してくれるのか、こんな不甲斐ないトレーナーを。

 お前はなんて優しいんだ。

 ありがとう、ありがとうなあ。

 

 涙ながらに謝る横で、ムウマージがおっさんに催眠術をかけて深い眠りに落としていた。ついでに悪夢でも見せたってください姐さん。二度と目覚めなくなるレベルのやつ。

 

 すぐにツツジのもとに駆け寄る。マツバが介抱してくれていたが、容態はかなり悪かった。

 呼吸が荒く、浅い。体は冷えきっているのに汗がとめどなく流れている。ベトベトンの毒が全身を痛めつけているのだ。

 

「1番近くの病院は!?」

 

 問いに、しかしマツバは首を振った。

 

「必要ない」

「は?」

 

 いやどう見たって救急車案件だろ! 

 怒鳴りかけた俺を目顔で制する。

 

「君の小鳥が助けてくれる」

 

 その言葉を待っていたかのようにルギアがぺたぺた歩いていき、少女の額に額を寄せた。

 ぽう、と淡い光が宿り、黒い煙が吸い出されていく。ツツジの顔色がみるみる回復し、呼吸も落ち着いていった。

 

呆気に取られる俺に、マツバが穏やかな声で説き明かす。

 

「おそらく、これが彼の神通力なんだ」

「じんつう、りき…………」

 

 この世ならざる存在と繋がり、奇跡の御業を授かる技。

 マツバのムウマージはこの技で、失くしたものの在り処を()るという。

 

 なら、ルギアのこれは────

 

「癒しの波動、だな」

 

 マツバは感心したように顎をさすり、俺を見やった。

 いわくありげな視線だった。

 

「実はね。これを見るのは2回目なんだ。

 既に一度、昨日の夜にも見てるんだよ」

「え」

 

 背筋が強ばった。

 心臓が早鐘を打ちはじめる。

 口の中が急に乾いていった。

 

「ど、どこで……?」

「ホテルだよ。泥のように眠る君の横で、この雛鳥が勝手にボールから出てきたんだ」

「げる?」

 

 ルギアがマツバを見上げる。

 マツバもルギアを見下ろした。

 

「寝ている君に近づき、ぽーっと光ったと思ったら、次の瞬間にはあんなにあった傷が全部治ってた。

 オレは度肝を抜かれたよ。

 癒しの波動を使えるポケモンはそこそこいるが、本来は体力をいくらか回復する程度の技だ。毒を消したり、怪我を完治させるほどのパワーはない。

 彼はよほど大いなる存在とチャンネルが繋げられるのか。あるいは()()()()()()()()()()()()なのか。まんじりともせず一晩考えて、そして、ある仮説に至った」

 

 マツバは真正面から俺を見据えた。

 力強く凛とした眼差しに、俺は、逃げられないことを悟った。

 

「なあアシタバ。

 エンジュジムのジムリーダーは代々、鈴の塔の管理を担う。毎日掃き清め、祈り、主が帰ってくるに相応しい状態を保つんだ。その主が誰かと言えば────」

 

 続きは俺が引き取った。

 

「ホウオウ、だろ」

 

 その昔、落雷による火事で焼け死んだ3頭のポケモンに新たな肉体と命を与えたという不死鳥。

 考古学研究において、伝説ポケモンが存在することを証明する最も有名なエピソードだ。

 

 マツバが首肯する。

 

「────そう。()()()()()()()()()()()()()

 

 俺は深々と息を吐いた。

 まあ、こんだけ大暴れさせて正体がバレずに済むわけないよな。

 

「…………話すよ。全部。つっても俺だって知ってることは少ないけど、な」

「────ありがとう」

 

 腹を括った俺に、マツバは甘く微笑んだ。

 

 

 

 




というわけで24話。
マツバくんにバレるの回。
マツバくんはルギアの存在は知っていても外見までは知らなかったので、昨晩は「ひょっとして?いやでも……」と結構悶々としたんだとか。

ちなみに盗人おじさんの手持ちは意外なことに全部自分で捕まえたポケモンです。愛着を持って育ててます。
ニックネームはゴル代、ゴル美、ベト子、エレ助、ブバ太郎です。

よければ感想高評価おなしゃす。
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