相棒の回復が無事に終わった俺たちは、飯を食いに行くことにした。思えばホテルの朝食ブッフェ以降ろくなものを食べていない。すっかり腹ペコだった。
「ガッツリしたもん食いてえな」
「焼肉は?」
「いいね。カルビとハラミ山盛りで」
「まずはタン塩だろう」
ひとしきり焼肉談義で盛り上がる。なんと言っても俺たちは10代の食い盛り、話せば話すほどに食欲が刺激され、次から次へと肉のイメージが湧いてきた。
こーしちゃいられない、すぐ行こう今すぐ行こうとポケセンから出た途端、白マントの男と正面衝突した。
「あでっ!」
「っすまない、不注意だった…………おや?」
男は俺を見、マツバを見るや、両腕を広げて歓喜した。
「なんと! 君たちに逢えるとは!」
俺は仰天した。そこにいたのは、アルフの遺跡で俺をポケモン泥棒呼ばわりしたスイクンハンター・ミナキだったのである。
「「ミナキ!?」」
俺とマツバの声が重なり、揃って顔を見合せた。
「「なんで知ってる!?」」
これもハモった。
ミナキが大笑いした。
「息ぴったりだな! なんて奇遇だ、3人とも顔馴染みだなんて! 君たち夕食は済ませたかい? まだ? なら食事に行こう! 臨時収入が入ったんだ、ぱあっとやろうじゃないか! 奢るぜ!」
ミナキが朗らかな笑顔で言い放った。
────繰り返すが、俺たちは食べ盛りの、しかも極限まで腹が減っている10代である。そんな2人に奢るよなんて言った日には、そりゃブレーキも利かなくなるというもので。
すぐさま焼肉屋に直行し、目につくメニューを片っ端から頼む俺たちの横で、ミナキの顔色が蒼くなるのに大して時間はかからなかった。
たらふく喰ってようやく人心地ついた俺は、改めてミナキとマツバの関係を聞いてみた。
何でも、ミナキが求めてやまないスイクンはホウオウを祀るマツバにとっても縁の深いポケモンらしい。年に一度、子供たちに《ホウオウの偉業》と《甦りし三犬》伝説を広める活動をしているときに出逢ったという。
「鈴の塔の管理をする家系に生まれたオレに、勝るとも劣らない知識を持っているミナキに惹かれてね。気がつけばしょっちゅう連絡を取りあう仲になったのさ」
「うむ! マツバはいつでも冷静沈着、常に私を支え、励ましてくれる良き友だ! よもやアシタバ君とも友達とは知らなかったよ!」
「はへえ」
世間てのは狭いもんだな。
感心しつつ、コークハイにレモンをぶちこんで一気に呷った。炭酸の刺激的な感触とこの上ない風味が駆け抜けていく。脳天が痺れるほどの美味さだった。
「っかー! たまんねぇ!」
「旨そうに飲むなあ」
「うめぇもんよ。サンキュなミナキ」
俺は心からミナキに感謝した。なにせ貧乏学生が酒を飲める機会は恐ろしく少ない。
ましてや他人の金においては。
五臓六腑に沁みるとはこのことだ。
調子に乗ってぐびぐびぐびぐび飲んでいると、「ところで」とマツバが俺を見た。
「君たちはどうやって知り合いに?」
「あー」
氷を頬張りながら、俺はいたって気楽に答えた。
「
「……………………ほぅ?」
マツバの目がすうっと細くなる。
ミナキの肩がびくりとした。
「ま、マツバ? どうしたんだいやけに怖い顔をして。というかよく今のが聞き取れたな?」
「声なき声を聞くことには慣れていてね。それよりぜひ詳しく聞かせくれよ。オレの親友が? なんだって?」
「い、いやいやそれは私の誤解だったとすぐにわかったよ。速やかに撤回し謝罪したとも! そうだよなアシタバくん!」
「んー?」
「あれっ、ゆらゆらしてる? おいアシタバ、アシタバ君、お腹いっぱいで眠いのかい? でも寝る前に少しでいいからお話してくれないかな? 君の発言で友達と思っていた男からとんでもない殺気を向けられているんだが!」
「んあー、オッケー、まかせ…………」
身体が雲の上みたいにふわふわする。どうにも目を開けていられない。試しに瞼を閉じてみたらすこぶる気持ちが良くて、そのままかくーんと意識が落ちていった。
「アシタバくんっ、アシタバくん!?」
「焦るなよミナキ。閉店までたっぷり3時間はあるから」
「いや彼さえ起きてくれれば3分で済む話なんだがっ! あ、アシタバくぅうううん!」
ミナキの悲鳴は、残念ながら誰にも聞き届けてもらえなかった。
40分かけてなんとかマツバを説得した私は、鉛のような疲労感を覚えながら梅酒のロックをちびりと舐めた。
蕩ける甘さが優しく癒してくれる。ああ美味い。
アシタバは完璧に撃沈し、テーブルに突っ伏して小さく寝息を立てていた。とんでもないペースで飲むから強いのかと思いきや、すぐに回るタイプらしい。顔色ひとつ変えずに度数の強い酒をパカパカ空けていくマツバとは大違いである。
「相変わらず強いな君は」
「除霊に酒は付きものだからね」
呆れる私に、マツバは平然と嘯いた。
店に備えつけてあるテレビから夜のニュースが流れてくる。ぼんやり耳を傾けていると、よく知っている名前が飛びこんできた。
────夜の9時になりました。ニュース・ステーションのお時間です。本日、エンジュシティそばの自然公園で常習的に盗みを働いていた男が逮捕されました。警察署の発表によりますと、エンジュジム・ジムリーダーのマツバ氏が逮捕に多大なる貢献をされたとのことで、近く感謝状が贈られるとのことです。
「へえ。君、良いことをしたね」
私が言うと、マツバは目だけをテレビに向けて片眉を上げた。
「今日のことがもうニュースになるとは。早いな」
吟醸酒が注がれたグラス(猪口ではない)を傾けながらまるっきり他人事のように言う。画面には、ロープでぐるぐる巻きにされたいかにも怪しい風体の人間をジュンサーに突き出すマツバが映っていた。その後ろに見切れている人影を見て、私はおやと小首を傾げた。
「あれはアシタバくんじゃないか?」
「ご明察」
マツバが誇らしげに微笑んだ。
「2人がかりでとっちめたのさ」
「ほう」
私はアシタバを新鮮な気持ちで見やった。アルフの遺跡で出会った時は、ポケモンをリュックに押しこんでいる姿からついつい悪党だと勘違いしてしまったが、存外アツいところのある人物ではないか。
「なあマツバ。君とアシタバはどこで知り合ったんだい? さぞ長い付き合いなんだろう?」
水を向けると、マツバはグラスをゆっくり置き、しみじみ頷いた。
「長いね。家族とポケモンを除けば、最も古い友達だ」
「聞かせてくれよ。君ってやつは、自分のことをあまり話さないんだもんな」
するとマツバは、ここではないどこか遠くを見つめるような眼差しで、ぽつりぽつりと話しはじめた。
人嫌いの少年と、常に怒っていた落第生の話を────
というわけで29話。
この世界では16歳から飲酒OKです。なので合法!
ちなみに主人公はコーラ大好きなのでコーラ割りばっかり頼みます。ミナキは果実酒系、マツバさんはゴリゴリのポン酒党。
次回過去編です。
よければ感想高評価おなしゃす!