オレの生家は古い家柄でね。先祖代々よその地方どころか隣町にも出たことがない筋金入りのエンジュ人なんだ。親父殿は地元の名士なんて言われていい気になってるが、なんてことはない、ただ昔から居る家系ってだけの話さ。
何代か前のじい様が、三犬を甦らせたホウオウにいたく感動して、親戚一同総力を上げてホウオウを奉ると宣った。そうして出来たのが鈴の塔だ。今ではオレと従姉妹たちが、毎日掃除して祈りを捧げている。
ところで、オレは物心ついたときから幽霊が見えた。あんまりはっきり見えるし喋れるもんだから、生者と死者の区別がつくようになるまでは随分混乱したよ。
エンジュは歴史の街と言われるだけあって、いたるところに名跡がある。そういうところに湧くんだな、ゴーストポケモンは。ムウマと出逢ったのもこの頃だ。
人を惑わし、命を奪うと恐れられているゴーストタイプだが、オレにとっては気のいい奴らだった。
同年代と遊ぶよりも、ムウマやゴースたちと遊ぶ方がよっぽど楽しかった。
四六時中ポケモンと一緒にいたおかげで、彼らが何を望みどう動くか、目を合わせるだけで手に取るようにわかった。バトルは負け知らずだった。当たり前だ、次に何をするか相手のポケモンが教えてくれるんだから。
「まるで心を読まれてるみたいだ」
「気味が悪い」
そういう陰口に心を痛めたのは、オレよりも祖母のほうだった。
「あなたは聡い。聡すぎる。もうすこし同い年ぐらいの子と遊ばなければ」
そう言われても、遊んでくれる子なんて誰もいなかった。オレが公園にいくだけで、呪われると泣かれ、逃げられていたから。
憂えた祖母はオレをカントーのヤマブキ学院に入れると言いだした。怒ったのは祖父だ。我が家は代々エンジュに生き、エンジュに死ぬ定め。それを破るとは何事かと、物凄い剣幕だった。
だが祖母は一歩も引かなかった。オレを産んですぐ天に召された母に代わり育ててくれた彼女は、凛とした眼差しで真っ向から祖父に立ち向かった。従順で奥ゆかしい祖母が初めて反抗する姿に、家族はみんな度肝を抜かれた。
「このままではこの子は人との付き合い方も知らず、己の世界に閉じこもった矮小な人間になってしまうでしょう。ホウオウ様は天下に遍く慈愛をもたらすお方、それに仕える者が、愛を知らないでどうするのです」
彼女は戦った。丸2年祖父を説得し続け、遂にオレをヤマブキ学院に入れることに成功したのだ。
出発の前夜、祖母は涙ぐみながらオレの頬を撫でた。
「どうか、金蘭の友と出逢えますように」
「きんらんの、とも?」
「ええ、そう」
祖母は優しく微笑んだ。
「何にも替えがたい、宝物のことですよ」
────そうして7歳の春。
オレはムウマを連れて、故郷から遠く離れたヤマブキ学院の門戸を潜った。
ヤマブキ学院は5歳から7歳までの児童に受験資格が与えられる。対象年齢であれば毎年受験できるが、その年受かったのは5歳児ばかりで、2個上のオレはなんとなく座りが悪かった。
なにせこの年頃の2歳差はかなり大きい。君も覚えがあるだろうミナキ、公園で砂遊びをしていたら年上の子供に邪魔されたことが。たった1年2年早く生まれただけで、随分大きく見えたもんだよな。
しかもオレはムウマとばかり喋って誰とも仲良くしようとしなかったから、はやくもクラスで孤立していた。
入学初日からオリエンテーションという名の模擬試合が開かれた。ただのお遊びだと教師たちは言うが、それが現在の力量をはかるためのものだということくらい、子供たちだってちゃんと見抜いていた。
オレはカイロスを使う男子と戦わされ、ナイトヘッド1発であっさり勝利した。
エリート校といっても入学したてはただの新米トレーナーだ。手ごたえがあるわけもない。早く終われと念じていたら、珍しいポケモンを繰り出す生徒が現れた。
丸みを帯びた茶色い甲羅。どこに顔があるのかも判然としない出で立ち。
教師達の会話で、それがカブトというポケモンであるとわかった。この世には化石から復元された生き物もいることを知ってたいそう驚いたよ。
その子の相手は女の子だった。紫陽花色の髪を無造作に垂らし、どこか夢見るような目つきをしている少女でね。大きくなってもマイペースなひとだったな。
彼女はキャモメを連れていた。
結果は────なんというか、勝負にならなかった。カブトは一生懸命みずでっぽうだのひっかくだのでダメージを与えようとしているのに、キャモメは上空にふわーっと飛びあがってちっとも当たりやしない。キャモメは風に乗りたいだけで、バトルになんかてんで興味がなかったんだ。教師はなんとか体裁だけでも整えようと苦心してたけど、結局ノーゲームにして仕切り直すことになった。
でも、それにカブトのトレーナーが怒った。猛烈に怒ったんだ。顔を茹でエビみたいに真っ赤にさせて叫ぶのさ。
「まだしょうぶはついてない!」ってね。
地団駄を踏む様は、まるっきり癇癪を爆発させた幼児だった。
教師もクラスメイトも笑ってたよ。仕方ない、もう一度別の相手とやり直させてあげるからと担任が宥めたら、その子は泣きじゃくりながらこう言った。
「だったらぼくのまけだ!」
「じめんにおとすこともできない、こうげきもあてられないならぼくのまけだ! ちゃんとこうさんしてないのに、かってにおわらせないでよ!」
信じられるかミナキ。たった5歳の子が、負けを認めるのだって嫌がるような歳の子どもが、
オレははっとした。ああ、この子はなんて気高いんだろう。幼児だなんてとんでもない。もう既に、立派なポケモントレーナーじゃないか。
…………うん。君の想像通りだよ。
そのトレーナーこそが、そこで寝ているアシタバなのさ。
それ以来、オレはアシタバから目が離せなくなった。
というわけで30話。
マツバという男と主人公のキャラクターについて深掘り出来ればいいなと思って書いています。
途中の少女はネームドですが、これはすぐ当てられそうな予感笑
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