「メレシーを傷つけず、怖がらせず、化石を抜き取ってくる方法を考えてください」
そう言われて即答できる人間がどんだけ居るんだろうか。何コレ、ブラック企業の圧迫面接?
「いやもう気絶させようや」
速攻諦めた俺に発掘の天才は容赦なくダメ出しした。
「ダメです。発掘作業は野生のポケモンに極力影響を与えないように進める。いろはのいですよ」
「あいつらが動かねえってんならしょうがねぇだろうが! ってかそんなに拘るならお前がやれや! 相手の嫌がることはしないって人付き合いのいろはのいだぞ!」
ダイゴは涼しい顔でやれやれと首を振った。様になるのが腹立たしい。
「僕のポケモンはちょっと鍛えすぎてて、こういう繊細な役割は難しいんですよ」
「俺の
「そうですね。あなたのカブルーもとてもお強い。僕のパーティに加えたいくらいです。でもそこはほら、アシタバさんの発想力でなんとかこう、ちょちょっと」
「ふわっふわしてんなあ!」
なにをどー工夫したらこの無理難題がクリアできるってんだ。無責任にぶん投げてくるダイゴを睨めつけると、お坊ちゃんはふーむと考えてから、キザったらしく指を鳴らした。
「ではこうしましょう。無事このクエストを達成できたら、僕が既に掘り当てた2つの化石のうち1つをプレゼントしますよ」
「────」
ぴく、と肩が揺れるのが我ながら浅ましい。だがダイゴの申し出は恐ろしく魅力的だった。
化石の所有権はそれを掘り出した人物にのみ帰属する。当人が譲渡しない限り、発掘者以外の人間が持つことは認められない。
アノプスを復元できるツメの化石。
リリーラを復元できる根っこの化石。
写真でしか見たことのないそれを入手出来るまたとないチャンスだ。逃す手は────ない。
「…………なあ」
「はい?」
俺が引き受けることを微塵も疑っていない瞳を見つめながら、噛み締めるように確認した。
「当然、メレシーたちが守ってるやつもくれるんだよな?」
「勿論です」
ダイゴの答えは澱みない。それで俺の腹も据わった。
フレンドボールからカブルーを呼び出し、指示を下す。
「鉄壁を積んでくれ。限界まで」
カブルーはこくりと頷いた。
護衛任務に就いているメレシーは全部で5体いた。
うち3体が瞳を閉じて身体を休めている。あとの2体は先程入ってきたニンゲンたちがようやく出ていったのを認めて、安心したように目を見交わした。
だが、その安寧はすぐに破られた。
入れ替わるように見慣れないポケモンが入ってきたからだ。
それはひょろりと高い背と、禍々しい刃を持っていた。ゆっくりゆっくり近づいてくる。護衛官・メレシー1が警告を発した。
『止マレ! ソレヨリ先ニ近ヅク事ハ許サヌ!』
見慣れぬ者は歩みを停めなかった。速度を保ったまま、少しずつ距離を詰めてくる。
『止マレ! アト2歩コチラニ来タラ攻撃スル!』
メレシー2が身構える。仮眠していた者たちも跳ね起きた。5体10対の視線が闖入者に突き刺さる。
緊張溢れる一瞬。
対象は────止まらなかった。
『現時点ヲモッテ敵ト認定! 排除セヨ!』
隊長が号令すると、メレシーたちが一斉に襲いかかった。訓練通りの陣形でパワージェムを放つ。四方から放たれた力ある原石が、無法者を打ち据えた。
敵が蹲る。雨あられと降り注く石の弾丸の前ではとても動けやしないだろう。
攻撃が止んだ瞬間尻尾を巻いて逃げ出すに違いない。
ところが、敵はしぶとかった。
ジェムが止むとまた立ち上がり、性懲りもなく進み始めたのだ。
隊長は怒りを込めて再び命じた。
『エエイ休ムナ! アノ分カラズ屋ニタップリオ仕置シテヤレ!』
護衛官たちがもう一度パワージェムを発射する。先程と同じ威力のはずなのに、今度は蹲りもしなかった。まっすぐ、じわじわ迫ってくる。
怯えたメレシーたちが後ずさった。
『ア、アイツ……怯マナイ……っ』
『ナンデェ?』
『コ、怖イデス隊長っ』
隊長は口ごもった。隊長もまた、全く同感だったからである。
こんなしつこくて不気味な輩は見たことが無い。
逃げたい。
それだけは。
護衛隊長としての誇りが許さなかった。
『ウォオオオオオオ!』
裂帛の気合とともに隊長が飛んだ。
コマのように回転しながら敵に向かっていく!
『ジャイロボール!?』
『隊長ォ────ッ!』
護衛官たちが口々に叫んだ。
隊長の攻撃は侵入者のボディに強烈なタックルをかまし、耳障りな金属音を響かせた。
さしもの敵もこの攻撃には耐えきれず、糸の切れた人形のようにくずおれる。
メレシーたちの勝利だ。
『ハァッ…………ハァッ…………』
『流石デス隊長!』
『素晴ラシイ!』
部下たちが駆け寄る。隊長は疲労をぐっと堪えて振り向いた。
『…………フゥ。オ前タチモ良ク』
ヤッタナ、と言いさした口が途中で固まった。
隊長の目が限界まで見開かれる。
一体どうしたことか。
5人がかりで守っていたはずの一族の秘宝が根こそぎ無くなり、代わりに黒い穴がぽっかり空いているではないか。
メレシーたちは、勝利の余韻も吹っ飛ぶ大パニックに陥った。
土を掻き分け出てきたカブルーは、目当てのものをしっかり脇に抱えていた。
「さっすが相棒。完璧な仕事ぶりだな」
「ぎしゅ」
カブルーが嬉しそうに鳴く。ダイゴが横から、カブルー好みの苦いポロックを数粒差し出した。
「お疲れ様カブルーくん。良ければ食べてみてくれ。こう見えて僕は結構ポロック作りにうるさいんだよ」
1口齧ってみたカブルーはぱあっと表情を輝かせ、ぱくぱく頬張った。相当美味いらしい。あとでレシピを教えてもらおう。
ダイゴが微笑みながら俺を見やった。
「それにしても、やっぱり凄いですねアシタバさんは。僕けっこう無茶を言ったつもりだったんですが、こんなやり方でクリアするなんて」
「無茶って自覚あったんかいクソガキャ」
呆れた息を吐いた。
今回の作戦、タネを明かせば至って単純である。
鉄壁を積んで限界まで硬くなったカブルーに身代わりを作らせ、メレシーたちに向かわせる一方、本体は穴を掘ってお宝の真下に突き進んだのだ。
身代わりは、難しいことはこなせない代わりに、例えば「歩け」とか「ずっと立ってろ」といったシンプルな指示は実行することができる。その特性を利用した囮作戦だった訳だ。
普通に穴を掘ってたんじゃ気づかれただろうが、メレシーたちが敵意剥き出しで攻撃してきてくれたお陰でバレずに済んだ。無事ターゲットを掘り出せるかが心配だったが、流石俺の相棒である。
獲物をそうっと持ち上げる。一抱えほどもある石の表面に、葉っぱか翼のような紋様が刻まれていた。
ダイゴがはっと口元を覆った。
ほとんど叫ぶようにして歓喜の声をあげる。
「これは……っ!? なんと珍しい!」
「なんの化石だ?」
ダイゴは化石から片時も目を離さず教えてくれた。
「これまでホウエンで発掘された事例のない化石です! 大発見ですよ! ああまさかこんなところでこの
ねえアシタバさん、この子誰だと思います? ヒントは永久凍土の上で生涯を送ると考えられている氷ポケモンですよ!」
俺も考古学研究の端くれだ。それだけ情報を与えられればすぐにピンと来た。
「じゃあこれって…………!」
「はい!」
俺とダイゴは同時にその名を口にした。
「「ツンドラポケモン・アマルス!」」
2人は呆然と見つめあい、その後、喜びを爆発させた。
というわけで35話。
ミッションインポッシブルを課せられた主人公、なんとか達成できました。
ゲームでの身代わりはなんだかよくわからん緑のぬいぐるみ(?)が出てきますが、拙作では使ったポケモンと全く同じビジュアルの残像が出てきます。
身代わりなんだから本来こうあるべきだよなあ。
あのぬいなぁに?
メレシーちゃんたちは無事秘宝を取り返せるんでしょうか。
よければ感想高評価おなしゃす!