「騒ぐなって! 言ったでしょうが!」
後輩の立場も忘れて詰め寄ると、レホール先輩は瞳をキラッッッキラさせて謝罪した。
「面目ない!」
「思ってないだろアンタ」
「思ってるさ。さあその子をもっと見せてくれ」
俺を押しのけ、リュックの中の伝説(ミニ)に目線を合わせる。
全身からワクワクが立ち昇っているのが分かり、俺は天を仰いだ。
「うわこの人ほんともう」
「ふむ……ふむふむ……」
先輩はやや怯え気味のルギアをあらゆる角度から舐めまわすように観察しだした。
どこから取り出したのか、手帖に凄まじい速さでスケッチしている。
もはや俺のことなど眼中にない。
いいですけどね。別に。
「顔つきが幼いな……成体のルギアが怪我を負ってミニチュア化したというより雛と見るべきか。ならば伝説のポケモンも一般個体と同様に卵生あるいは胎生して殖えるということになるなしかしその場合────」
「……げるぅ」
ルギアが俺を見上げた。
目の前の美女が何を言ってるかは分からなくとも、何について語っているかは察しがつくらしい。
大層居心地が悪そうだ。
…………仕方がない。
「先輩すんません。コイツ怖がってるんで」
リュックの中からルギアを取り上げる。
雛鳥はあからさまに安心した顔をして俺に抱きついてきた。よほど怖かったのかぶるぶる震えている。
はは、なんだよ。可愛いじゃん。
──そう思ったのも束の間。
俺の鼻を、嫌な臭いが刺激した。
遅れて感じる、腹の辺りの濡れた感触。
「…………まさか」
そのまさかだった。
ルギアはうっとりと目を細めながら、思いっきり放尿してやがった!
リュックと机と俺の服に白の混じった透明な液体が降りかかる!
こんなちっこい身体のどこに溜めてたのかと思うほど大量で、俺は腹の底から絶叫した!
「だあぁああぁあ!」
「おおお! ルギアの排泄! なんと貴重な!」
「興奮してねぇで助けろやぁアア!」
スケッチを止めない先輩と糞尿に塗れた俺と、めちゃくちゃスッキリした顔をしているルギアとで、研究室は一時カオスになった。
……掃除に30分かかりました。
ぐったりと座りこむ俺の前で、レホール先輩がぐるぐる歩き回る。思考する時に歩くのが彼女の癖だった。
「興味深い。非常に興味深いな」
何度もそう呟いている。
俺とルギアの馴れ初めを聞いてからというもの、ずっとこの調子なのだ。
どうも彼女は、最初の「ガラス窓に突っ込んできた」という点が気になるらしい。
「
ここはチョウジタウンの次に海が遠い街だぞ」
「飛べるようになったのが嬉しくて遠出しすぎちゃったとかの、めちゃくちゃアホな個体なんじゃないすか」
笑いながら言えば、ルギアが俺の太腿に鋭い嘴を突き刺してきた。無言の抗議かテメェ。いってぇ。
先輩は俺の意見など聞こえなかったかのように独白を続けた。
「生息域から大きく外れたところを飛行していた理由はなんだ? それも翼が折れるほどのスピードで。
先輩の鋭い眼差しがルギアに注がれた。
「
俺はドキリとした。脳裏にロケット団の悪名が甦る。
珍しいポケモンを捕まえるためなら、人殺しもポケモン殺しも厭わない、おぞましい悪党ども。
────もしも。
もしもコイツを追っていたのがロケット団だとしたら。
俺は、マフィアの獲物を横取りしたことになるんじゃないのか?
青ざめ、脂汗だか冷や汗だかをかき始めた俺の手に、柔らかいものが触れた。
目を向けると、ルギアが分厚い舌で手の甲を舐めていた。上目遣いに見上げてくる。
「げるる」
「な、なんだよ……」
おもわず口元が緩む。
励ましてくれてるのか。可愛いとこあるじゃねえかよ。
じんわりした俺の心に、レホール先輩が情け容赦なく冷水をぶっかけた。
「腹が減ってるんだろうな。
さっさと餌をやらんと噛まれるぞ」
大正解と言わんばかりにルギアが噛みついてくる。
「…………ああ、そう」
俺は深く項垂れた。
というわけで第4話。
レホールさん1度火がつくとやべー女ですけど頭のキレ具合はトップレベルだと思ってます。てかそうであれ。
作者がうれちい。
そろそろちびちゃんをどのボールに入れるか決めたいですね。
捕まえられるのか主人公。やれるのか主人公。
よければ感想評価おなしゃす。