ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第41話 大富豪との晩餐。

 

 

 

 

 無事デボンコーポレーションに化石を預けることができた俺は、ダイゴに夕飯をご一緒しませんかと誘われた。

 

「独りで食事というのも味気ないですし、ぜひ」

「い、いやあ俺ウルトラ貧乏なんで」

「お金なんて要りませんよ。僕の家で食べますから」

「Oh」

 

 世界的創業者の家でご相伴に与る。

 庶民代表の人間にはかなりハードルの高いイベントだ。

 大富豪の家ってどんなだ? って好奇心が半分。貧乏人が行っていいトコじゃねえだろと怖気るのが半分。

 実に複雑な気持ちである。

 

(けど、この機会逃したら一生入ることもないしな…………クッソ美味い飯出てくるだろうな…………)

 

 結局好奇心と空腹が勝って、お邪魔することに決めた。

 ナギも声をかけられていたが、夜空を飛びたいと言って帰ってしまった。

 うーん自由人。

 そういや学生の頃からフリーダムなやつだったな。

 

 カナズミはホウエン西部で最も栄えている街なだけあり、日が暮れても人でごった返している。街灯やネオン、店や家の照明に照らされ、どこもかしこも昼のように明るい。洞窟育ちのクチートには辛くないかと振り向けば、案の定、目をシパシパさせていた。

 

『なんて下品な光だ。

 陛下の高貴な輝きとは比べるべくもない』

 

 刺々しい声で毒づいている。たしかに、ディアンシーの輝きは人工的な光とは明らかに質が違った。いつまででも眺めていたくなるような、傍にいてほしくなるような優しい煌めきを宿していた。

 

 対して人間界の明かりは、ただただ目立つことしか考えてなくて、周りとの調和とか慈しむ心とかそういったものが微塵もない。クチートが忌み嫌うのもわかる気がした。

 

「んー、そしたら」

 

 膝を折り、両腕を広げた。クチートが目を眇める。

 

『なんのマネだ?』

「抱っこしてやろーかなって。俺の胸に顔埋めとけば眩しくないだろ?」

 

 本当に、親切心から出た言葉だった。

 トロピウスの背で支えたように、俺に出来ることをしてやろうと思っただけなんだ。

 

 クチートは「へえ?」と笑い含みに肩を竦め。

 次の瞬間、俺の喉首を大顎で挟みこんだ。

 皮膚に当たる牙の鋭さに背筋が粟立つ。

 あまりにも早い動きに、俺はまるで反応できなかった。

 

『────もう一度』

 

 ドスの効いた声でクチートが吐き捨てる。

 

『もう一度その巫山戯(フザケ)た提案をしてみろ。

 それが貴様の最期の台詞だ』

 

 みなぎる殺気にあてられて、俺は声もなく固まった。

 剣呑な空気に道行く大人たちが怯えた眼差しで通り過ぎていく。

 

『二度と、わたしを、非力な子供扱いするなよ。分かったらさっさと歩け』

「うス」

 

 俺は油の切れたブリキ人形のようにぎくしゃく回れ右をして、ダイゴの後ろを追いかけた。

 

 

 生まれて初めて、ポケモンが怖いと思った。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「お待たせしました。ここが僕の家です」

 

 そう言ってダイゴが示したのは、カナズミで最もデカい高層マンションだった。

 地上52階建てのてっぺんは首の限界まで見上げても霞んでいる。ロビーの調度品も豪華すぎて頭がクラクラした。

 

 天上人や。

 天上人の暮らしや。

 アカン。

 この人マジモンの金持ちやで。

 

 口のなか、エセコガネ弁で独りごつ。

 

 ロビー中のスタッフがダイゴに向かって一斉に頭を下げる。コンシェルジュの札をつけた壮年の男が足音もなく近づき、恭しく挨拶を述べた。

 

「お帰りなさいませ、ダイゴ様」

「ただいま。今日は友人を連れてきたんだ。食事の用意を頼むよ」

「かしこまりました。本日はどちらに?」

「月の間にしよう。見事な満月だから」

「左様でございますね。それでは、失礼致します」

 

 コンシェルジュに見送られ、ダイゴは真っ直ぐフロア奥のエレベーターに向かった。

 中に入って驚いた。そのエレベーターは開閉ボタンしかついていなかった。階数ボタンが存在しないのである。

 

「このエレベーター、ボタン足りなくないスか?」

「直通ですから」

「ちょくつう」

 

 ダイゴが扉を閉めると、すーっと上昇しはじめた。動作の滑らかさにビビる。

 クチートがパタパタ足踏みして、

 

『床は動いていないのになんだか移動している気がする』

 

 と不思議がっていた。

 

 扉が開くと、そこは別世界だった。

 ふわふわの絨毯に床から天井まで続く窓ガラス。部屋全体が丸い造りなので、マンションの一室というよりも星空のドームに居るような錯覚を味わった。

 

「月の間です。寝転がって月を眺めることができる、僕のいちばん好きな部屋なんですよ」

「……ほあ…………」

 

 俺はもう、馬鹿みたいに口をぽかーんとさせることしか出来なかった。

 せめて何か気の利いた言葉でも言いたいんだが、悲しいかな、ポンコツな脳みそは「すげー」しか思い浮かばない。

 

「すんげぇ」

 

 あ、出ちゃった。

 

 いやほんと、もうそれしか言えねえのよ。

 

 ソファひとつテーブルひとつ取っても庶民には手の届かない額なんだろうが、シックなデザインで統一され、けばけばしさは一切感じない。

 あるべきところにあるべきものが収まっているような、ある種の気持ちよさすら漂っている。

 

 改めて、ダイゴという男の経済力を実感した。

 

 夕餉も素晴らしかった。

 何かの野菜をなんとかしたやつとか、聞いたこともない魚をどーにかしたやつとか、瑞々しすぎて宝石みたいにピカピカの果物とか、俺がいままでステーキと呼んでたものが茶色い雑巾にしか思えないレベルの肉厚で柔らかい肉とか。最後はデザートチーズの盛り合わせだったんだが、これまた美味ぇのなんの。最高級のチーズって舌の上で蕩けるんだぜ、知ってた? 

 

 クチートも流石にこの美味さは仏頂面をキープできなかったようで、瞳をキラキラさせながら口いっぱいに頬張っていた。

 

 で、腹いっぱい食ったあとは部屋の真ん中に寝転がって満天の星と月を眺めた。

 

「天国じゃん…………」

 

 最of高。

 もうなんにも要りません。

 俺ここの子になるわ。

 

「満足いただけました?」

「やー、満足満足。大満足です。マジ感謝ですわ」

 

 両手を合わせて拝むとダイゴは破顔した。

 

「よかった。実は友達を招待するの初めてだったんです。子供の頃は転校してばかりでしたから」

 

 ダイゴの父・ツワブキ=ムクゲ氏は祖父から受け継いだ会社を大きくするため、世界中で辣腕を振るっていたという。

 彼は必ず一人息子のダイゴを同行させたため、幼い頃からあっちこっち連れ回されたそうだ。

 やっと腰を据えて商売をするようになったのがここ数年のことらしい。

 

「早い時は3日くらいで別の学校(スクール)に移ったりしたんですよね。だからどうしても人の輪に馴染めなくて。僕が石に興味を持つようになったのは、どこに行っても在るからかも知れません。石は雄弁ですが、ウソをついたり意地悪をしたりしませんしね」

「なるほどなあ」

 

 俺はしみじみと相槌を打った。

 こっちはヤマブキ学院に入ってからず──っと同じメンツに囲まれてうんざりしてた口だから、ダイゴの悩みが解るとは言えない。

 ただ、どうしようもない寂しさを抱えながら、人付き合いではない別のものに熱中していたというのが親近感を催した。俺の場合、それがカブトプス(カブルー)の世話だったわけだ。

 

 ふと感傷的になる。

 カブルーは元気だろうか。

 ディアンシーのことだ、まさかカブルーに酷いことはしないと思うが、こんなに長い時間離れたことがないのでどうにも落ち着かない。

 

「復元、上手くいってるといいですねえ」

「安心してください。我が社の技術は世界一です」

 

 たしかに、天下のデボンなら滅多なこともないか。

 そのまま俺たちは、遥か遠くに見える星空をぼんやり眺めながら、取り留めのない話にうち興じた。

 

 

 

 




というわけで41話。
ダイゴさんとまったりだらだら過ごすの図。
残り2日だけど大丈夫か!?

クチートさんクソほど塩対応ですが、そもそも彼女の中でアシタバくんは悪質な盗っ人でしかないのでさもありなん。
主人公にはなんとか巻き返してほしいところ。

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