燦々と降り注ぐ太陽の眩しさに瞼を開けると、視界いっぱいに夏の青空が映って一気に目が覚めた。
とんでもなく爽快な景色だった。
この世のものとは思えなくて呆然と眺めやる。
あれ。
俺、いつの間にか死んでた?
数秒経って、ダイゴの家に泊まらせてもらったことを思い出した。高層マンションは空がめっちゃ近ぇんだなあと頭の悪い感想を抱きながら、ふかふか絨毯の上でうーんと背伸びする。
「あ、起きました?」
上下逆さまにダイゴの顔が映った。
イケメンは朝からイケメンだ。ちくしょう。
「ベッドに案内しようとしたら凄くよく眠っていたので、失礼ですけどそのままにさせて頂きました。腰とか痛くないですか?」
「いやーこんだけ分厚くてやーらかいカーペットなら布団と変わんね……ないですよ」
へらっと笑うと、対照的にダイゴが顔を曇らせた。
「あの、昨日から気になってたんですけど、なぜそんな話し方をなさるんです?」
「いやそりゃ……御曹司にナメた口きくわけにもいかねぇでしょ。今までが馴れ馴れしすぎたんですよ」
人間には分相応ってもんがありますから。
そう言うと、見目のいい青年は頬を強ばらせた。
「────するとあなたは、もう僕と対等な付き合いをする気はないということですか」
声色も硬い。どうやら怒らせたようだ。
俺は慌てて居住まいを正した。
「いや、付き合いとかはこれからも続けるつもりだし続けて欲しいですけど、流石に言葉遣いくらいは変えないと」
「僕はっ」
話を遮り、ダイゴが声を張り上げた。
2年の付き合いで初めてのことだった。
「僕はやっと、あなたと友達になれたと思ったんです! 友達同士で分相応とか言葉遣いとか、そんなの、そんなの気にしないでしょう!」
吊り上がった眦に涙が浮かんでいる。
「…………」
俺は黙って立ち上がると、俯くダイゴの肩をぽんと叩いた。
「…………悪い。お前の過去
転校に次ぐ転校で、流行りの遊びも知らず、仲間に入れて欲しくても遠くから眺めていることしかできなかった子供時代。
ダイゴは語らなかったが、きっと家が裕福になるほどに《金持ちの息子》というレッテルが独り歩きし、謂れない誹謗や陰口を叩かれることもあったろう。
ダイゴにとって俺は、そうした苦い記憶をやっと忘れさせてくれる存在になっていたのだ。なのに距離を置こうとすれば、そりゃあ不愉快だし不安にもなる。
こいつが求めてるのはへりくだった態度でも口調でもない。バカなことを言いながら笑い合える仲なんだ。
素直に頭を下げた。
「すまなかった。言葉遣いは前と同じで行くし、態度も直さねえ」
「わかってくれれば、いいです」
ず、と鼻を啜ったダイゴが面を上げる。もういつもの朗らかな笑顔が戻っていた。
「ご飯にしましょうか。クチートちゃんも待ちくたびれているみたいですし」
言われて振り向けば、クチートがジト目で俺のふくらはぎをぐりぐりしていた。痛い、痛いっす姉御。
朝食はスクランブルエッグとかトーストとか、さすがに俺でもわかるメニューばかりだったが、やはり美味さのレベルが違った。あとでルギアに食べさせるためにパンをいくつか失敬していると、ダイゴのポケギアに電話がかかって来た。
「先ほど化石の復元が終わったそうです。
直ぐに向かいますか?」
「もう終わったんか!」
仕事が早い。さすがはデボンだ。
手早くシャワーを浴びて、ついでに素っ裸のままルギアに飯を食わした。いつもと違う忙しない食事にげるげる文句を言われたが、パンをつっこんだら嬉しそうに咀嚼した。
美味いよなこのパン。でも明日からはまた閉店間際の半額惣菜唐揚げだぞ。舌をバカに戻しとけよ。
髪を乾かすのももどかしくて、濡れたまま直行した。
デボンコーポレーションの前に着くと、なんだか物々しい雰囲気に包まれていた。
従業員たちが十数人ばかり、時折首を伸ばして会社のほうを窺うようにしながら不安げに顔を見合せている。誰も中に入ろうとしない。
不審に思ったダイゴが1番近くにいた男性社員に声をかけた。
「どうしました? 何かあったんですか?」
「え、あっ、ダイゴ様っ!? そ、それが、ロケット団が中に立てこもってるんです!」
「「ロケット団が!?」」
俺とダイゴの声がハモった。
ロケット団は抵抗する警備員を瞬く間に気絶させると、開発部門のエリアを占拠し、研究員たちを人質に取っているという。
いま外に出ている社員は運良く逃げ出すことが出来たか、遅れて出社した者たちらしい。
「奴らの要求は分かりますか?」
男はぶんぶん首を振った。恐ろしくて恐ろしくて、逃げるだけで精一杯だったという。
「ロケット団員は数は多くないんですが、どんなおっかないことでも平気ですると聞きますから…………」
面目ないと落ちこむ社員を、ダイゴが歳に似合わぬ鷹揚さで慰めた。
「あなた方が無事に逃げれてよかった。
「だ、ダイゴ様ぁ」
社員たちが縋るようにダイゴを取り巻く。
慕われてんなあ。
「警察には連絡を?」
「勿論しました。ですが今日はカナズミのあちこちで事件が多発しているらしくて、人数を向かわせるのに時間がかかると…………」
「厄介だな」
ダイゴが鋭い目つきで立派な建物を睨みつける。
横からクチートが小声で訊ねてきた。
『ろけっとだんとかいう奴らは何者だ?』
「平たく言えば悪党だ。ポケモンを奪ったり攫ったり、儲けるためならなんでもやる極悪集団さ」
丁度新聞を持っている社員がいたので見せてもらう。昨今では毎日のようにロケット団のニュースがのるから、どこかに写真でもないかと思ったらビンゴだった。銀行強盗の現場を捉えた画像を見て、クチートが顔を険しくする。
『…………こいつら、我らの棲家に何度か来たことがあるぞ。メレシー族の生む宝石を狙ってた。
ひとり残らず叩きのめしてやったがな』
「ワァオ」
『それよりもゴーシェナイト様が危ない。
なんとかしろ、ニンゲン』
クチートの心配は正しい。色違いのアマルスなんて格好の餌食だ。復元したてで弱っている躰では、ろくな抵抗も出来ないだろう。
クソ野郎どもがデボンコーポレーションに立てこもる目的はさっぱり分からんが、拐われる前に確保しなければ。
「────仕方ねえ。ダイゴ、突入しよう」
俺の提案にダイゴは目を見開き、すぐに好戦的な顔で笑った。
「そうですね。僕たちなら、ロケット団くらい制圧できるでしょう」
狼狽えたのはダイゴに事情を説明していた男性社員だ。まさか次期社長殿にそんな危険なことはさせられないとしつこく食い下がっていたが、社員を助けるのが上司の役目ですと諭され、渋々引き下がった。
「どうかくれぐれも気をつけてくださいよ? あなたに何かあったら私がクビになります」
「大丈夫です。無茶はしません。アシタバさん、裏口から入りますよ。着いてきてください!」
「りょーかいっ!」
社員たちに見送られながら、俺たちは駆け出した。
ダイゴの姿が見えなくなってから、男はぶつくさ文句を言った。
「まあったく冗談じゃないぜ、せっかく社長が居ない日を狙って計画立てたってのによ…………なあんでボンボンが来るかねえ」
「課長? どうしたんです?」
「ん? ああいや、なんでもないよ。ダイゴ様が無事に戻られるよう祈ってたのさ。君も祈っていたまえ」
髪を撫でつけ、課長と呼ばれた男は意味ありげに笑った。
というわけで42話。
ダイゴくん距離を置かれて拗ねるの図。
特別扱いされまくったからこそフラットな関係を望む人間が性癖だったりします。
そして再び現れたロケット団。
ちゃっちゃと解決しないとマズいぞアシタバくん。
よければ感想高評価おなしゃす!