ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第48話 神の片鱗。

 

 

 

 

 石の洞窟、その最深部。

 メレシー族と限られた者だけが入室できる石室に、ベビィメレシーたちと一体のカブトプスが座っていた。

 

 ベビィたちは3日前にやってきた闖入者にすっかり心を開いていた。

 自分たちより背が高く、恐ろしげな刃を持ってはいるけれど、優しい心根の持ち主であることがひと目で分かったからだ。

 

 メレシーたちが見つめると、カブトプスは穏やかな瞳で見返してくれた。

 

 メレシーたちが唄うと、カブトプスは鎌をこんこんと合わせてリズムをとってくれた。

 

 誰かが喧嘩をすると、すぐに仲裁に入ってくれた。彼に諭されると素直に謝ることができたし、すぐに仲直り出来た。

 

 ベビィたちはカブトプスと遊ぶのが大好きだった。

 ところが今日は近衛隊長がやってきたので、皆怯えてしまった。

 

 ベビィたちはちょっぴり近衛隊長が苦手だった。隊長は少しのことですぐ怒るからだ。

 

 けれどこの日はごく静かに入ってきて、ごく静かにカブトプスに語りかけた。

 

『今日デ3日目。約束ノ刻限ガ近ヅイテイル。覚テオルナ、モシモ貴様ノ飼イ主ガ戻ラナケレバ…………』

 

 カブトプスはこくりと頷いた。

 飼い主(アシタバ)が戻らなかった時。それは死を意味する。

 近衛隊長は押し黙り、しばらくして面を上げた。

 

『────ダガ、コノ数日デ貴様ガドウイウ者カ分カッタ。モシモ貴様ガ望ムナラ、我ガ一族ニ迎エテヤッテモ良イ』

 

 隊長らしからぬ温情に、しかしカブトプスは首を振った。

 

 近衛隊長はしゅんと項垂れた。近年珍しく気骨のある若者に、いつのまにか惚れていた。できることなら処刑などしたくない。だが陛下の命令には従わねばならぬ。

 

『デハ、短イ余生ヲ過ゴセ』

 

 カブトプスは黙って隊長の背中を見送った。

 

 ベビィたちが口々に尋ねる。

 

『余生ッテナニー?』

『食ベレルー?』

『美味シイー?』

 

 カブトプスは微笑み、鎌をこんこんと鳴らした。唄の合図だ。メレシーたちはわぁっと歓声を上げ、輪になって歌い踊った。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 波と波が聞いたことない音を立てながら、うねり、ぶつかりあい、世界を揺るがしている。

 水面に浮かんだ船なんか木っ端も同然で、ひっきりなしに上下に揺さぶられ、目の前に広がる黒いものが空なのか海なのかも判然としなかった。

 

「ぉおおおおおら!」

 

 ハギ船長が舵を切り、岩礁から危うく舳先を逃す。横波が船体にぶつかって思いきり傾いだ。

 

 ────転覆する! 

 

 指が白くなるほど船体にしがみつきながら、ぎゅっと目をつぶった。

 

「これしきで沈むかよォ!」

 

 エンジンを噴かす。三角波に乗りあげるようにして船が飛び、轟音を立てて着水した。

 

『あのニンゲン、イカれてるぞ!

 のこのこ着いてきたお前もな!』

「いまだけボールに入るか!?」

 

 提案を、クチートは一蹴した。

 

『貴様が沈んだら道連れだろうがバカが!』

 

 確かに。こんな状況だというのに、おもわず笑いがこみ上げた。

 

 まったくもってクチートの言うとおりだ。嵐と知りながら出航するイカレ船長に着いてきて、案の定命の危機に陥っている。逆の立場ならバカだアホだと散々に罵っているだろう。

 

 だけどあと少しでムロに着く。そうすれば全てチャラだ。はやくカブトプス(カブルー)に逢いたい。一緒に飯を食べたい。5歳のときに復元させてからこんなに離れたことは無かった。寂しいを通り越して、己の半身が無くなったような喪失感に心が潰れそうだ。

 

「待ってろよ、カブルー」

 

 ────瞬間。

 山のような高波が俺たちを呑みこんだ。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 メレシーたちは、急に立ち上がったカブトプスに驚き、わらわらと集まってきた。

 

『ドシタノー?』

『ドシター?』

『ダイジョブー?』

 

 カブトプスは天井を見上げ、硬直したまま動かない。

 そのとき、重低音が響いてきて、メレシーたちも天井に目を向けた。

 それは断続的に聞こえてくる。どぉん、どおんと、大きなものを叩きつけるような恐ろしい音だった。

 

『スゴイ音ー』

『アラシダッテー』

『アラシー』

『アラシー』

 

 メレシーたちが嵐の意味もわからずぴょんぴょん跳ねている。洞窟で生まれ、外の世界に出たことがないメレシーたちは、嵐がどんなものかまるで知らない。

 

 カブトプスの頬を、一筋の汗が伝った。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「がぼっ!」

 

 口の中に流れてきた塩辛いもののおかげで意識が戻った。

 気絶していたのはほんの一瞬らしい。暴れ回る海流のなかで、必死にばたつくクチートが見えた。懸命に手を伸ばす。何とか抱き寄せることができたのは奇跡だった。

 

 目をつぶり、ただ息をひそめた。クチートの小さな手が俺の背に回される。

 上下左右、あらゆる方向から水が殴りつけてくる。今自分がどんな姿勢でいるのかも分からない。泳ぐなんて考えることすら出来なかった。

 

 息が苦しい。

 口の端から泡が漏れる。

 だめだ、まだダメだ。耐えろ、耐えるんだ。

 生きて辿り着かなきゃ。

 カブルーが俺を待ってるんだ。

 

 だけど神様は残酷だった。

 海はちっとも静まらなくて、揉みくちゃにされながら底の方に引きずられていく。慌てて手足を動かしてももう遅い。胸が急に苦しくなって、沢山息を吐いてしまった。

 

 腕の中のクチートから力が抜けていく。

 全身が痺れたように動かない。

 

 ああ、ちくしょう。

 終わりか。今度こそ。

 ごめん、ごめんな。

 

 諦めかけたそのとき。

 暴力的な渦潮の端に白いものが閃き、身体にかかる圧力が消えた。

 

 轟々と流れる水も冷たさも遮断する、あたたかくて大きな泡が、俺たちを包みこんでいた。

 

「な、んだこれ」

 

 おそるおそる触れてみる。

 ぐにぐにして、どこまでも伸びるほど柔らかいのに破ける気配がない。

 

 突然、泡の外で高らかに歌声が響き渡り、俺は目を丸くした。それはあまりに聞き慣れた声だった。

 

「げぅる────ぅ」

 

「…………っ!」

 

 この、鳴き方は。

 

「お前なのか、ちびすけ!」

 

 ぎゅんぎゅん泳いでいた白いものが泡の前でぴたりと止まる。やっぱりそれはボールの中に居るはずのルギアだった。荒れ狂う水流の中、ニコニコ顔で俺たちを覗きこんでいる。さながら水族館で魚を見つめる人間のように。

 

 安堵が胸を充たす。

 よかった。

 まだ終わりじゃない。

 こいつに助けてもらえば、間に合うはずだ。

 

「ちびすけ! たす……っ」

 

 ふと、ゴジカ先生の言葉が甦る。

 

『これは奇跡ではなく呪い』

『いつか代償を払うことになる』

 

 あれは、神通力に限った話なのか? 

 それとも、ルギアに助けてもらうことが即ち呪いなのか? 

 

(────例え、そうだとしても!)

 

 拳を握りしめ、叫ぶ。

 考えている暇はない。

 呪いたきゃいくらでも呪え。

 俺は、カブルーに逢いたいんだ! 

 

 

「助けてくれ、ルギア!」

 

 

 ルギアは、任せろと言わんばかりに猛り鳴いた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 石の洞窟にはいくつか清水が湧いている箇所がある。洞窟に生息するポケモンたちの貴重な飲水に使われるから、どんな野生もここで暴れたりはしない。

 ただ、地震などで湧き口が塞がってしまわないよう、メレシー部隊が定期的に巡回していた。

 

 ベビィメレシーたちを集めている石室に、いちばん大きな水場がある。見回りに来たメレシーが、ある異変に気づいた。

 

 水面に気泡が立っているのだ。

 誰かがここで泳いでいるのか? 不届きな! 

 メレシーはぷんぷん怒りながら仲間を呼んだ。

 

 大勢で水場を囲む。ここが神聖な場所であると分からせてやらねばなるまい。

 

 捕虜のカブトプスも隊列に加わった。隙のない構えで刃を光らせている。

 

 気泡が増えた。まもなく出てくる。

 リーダーが殺気立った声を上げた。

 

『来ルゾ! 油断スルナ!』

 

 そのセリフを待っていたかのように、気泡が瞬く間に膨れ上がり、水柱を突き上げた! 

 

どぱぁあぁああん! 

 

『オワーッ!』

『水ダーッ!』

『怖イヨーッ!』

 

 メレシーたちがパニックに陥る。もとより戦闘が苦手な種族の彼らは、すこしでも不利な要素があるとすぐに混乱してしまうのだ。リーダーとて例外ではない。全員揃って逃げ出した。

 

 カブトプスだけが、降りしきる水飛沫を浴びながらじっと睨み据えていた。

 

 水底から1人の人間が這い上がってくる。小脇にクチートを抱え、反対側に雛のルギアを抱きながら、岸辺にべちゃりと跪いた。

 

 頭から爪先まで濡れそぼり、ぜいぜいと喘ぐ様は、さながら幽鬼の如しである。

 だがその幽鬼こそ、カブトプスが求めていた人物だった。構えを解き、崩れ落ちそうになる身体を抱きとめる。

 

 人間が言った。か細くも、確かな声色で。

 

 

「ただいま、カブルー」

「……ぎしゅっ」

 

 

 ふたりは、力いっぱい抱きしめあった。

 

 

 

 

 




というわけで第48話。
ようやく再会です!
いやー長かった長かった。

クチートちゃんは気絶してるだけですのでご安心ください。
ルギアちゃん今回も頑張ってくれました。
ほな唐揚げあげようね。

よければ感想高評価おなしゃす!
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