ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第5話 こそこそ遺跡に参ります。

 

 

 

 

 俺も先輩も空腹なので、外に食べに行くことにした。

 

「人目につくところは歩かんほうがいいな」

 

「っすね。考古学科(ウチ)の連中にバレたらマズい」

 

 俺は苦い顔で頷いた。

 一般人ならば、先程のジョーイのようにちびすけの姿を見ても正体に気づくことはないだろう。

 よしんばルギアという名前を聞いたことがあったとしても、実際の姿とは結びつくまい。

 

 ところが俺たちの在籍する考古学科というところは、綴じられてからウン百年も経つような埃臭い一次資料を熟読する変人の巣窟なので、このちび太郎を見られたら一目瞭然(即バレ)確実である。

 ゆえに、何を置いても校内では隠し通さねばならない。

 

 マップアプリを起動した。

 アカデミーが開発した生徒と教員だけが使える代物で、発掘作業の場所や日程が分かる優れものだ。

 それによると、今日のアルフの遺跡の発掘は休止日らしい。ナイスタイミンッ! 

 

 アカデミーはキキョウシティの南の外れに建っているから、少し森を歩くだけで遺跡に出られる。

 ちびルギアに首を引っ込めてもらい、リュックを閉めた。ほんの短時間だし窒息せんだろう。たぶん。

 

「コンビニで弁当買って遺跡で食いましょうや。

 アルフなら誰も居ないっしょ」

 

「それは構わんが」

 

 レホール先輩が眉をひそめた。

 

「そもそも貴様はなぜ鞄に押し込めているんだ。

 捕獲すればいいだろう。

 ボールに入れれば誰の目にもつかんじゃないか」

 

「…………まぁ、そりゃそーなんですけどね」

 

 先輩の発言は一理どころか百理ある。

 というか誰でもそう言うだろう。

 だが俺はどうにも気が進まなかった。

 

 伝説のポケモンはただのポケモンじゃない。

 世界中を震え上がらせる力を持ち、歴史すら変えうる存在なのだ。

 ホウエンのグラードン・カイオーガがいい例である。

 

 そんな生き物を俺ごときが捕獲するというのは、例えるならプロ野球選手の練習相手に幼稚園児を宛てがうようなものじゃないか? 

 

 全く不釣り合いだし、無礼だ。

 害悪とすら思う。

 

 そう答えると、学内一の美女は肩を竦めた。

 

「薄々思っていたが、貴様はやけに自己評価が低いな」

 

「────そんなことない。適切ですよ」

 

 俺は自嘲の笑みを浮かべた。

 

 そう。俺の自己評価は至極正しい。

 俺と2つしか違わないのに、並みいる大人を叩き伏せてジムリーダーに就任したアイツに較べれば、俺なんか…………。

 

 湿った気分を振り払うように努めて明るく笑った。

 

「いやー! それより腹減ったっすね!

 行きましょうよ、先輩」

 

「……そうだな」

 

 幸い、レホール先輩は何も追求しないでいてくれた。

 それがすごく、ありがたかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 読み通り、アルフには誰もいなかった。

 遺跡の陰に腰を下ろし、弁当を広げる。

 レホール先輩はパスタ、俺はからあげ弁当、おチビさんは──何を食べるかわからんので適当に鳥ポケ用のフーズを用意した。

 

 リュックから全身を出してやると、ルギアは首を振って羽ばたいた。

 ああ窮屈だったと言いたげな仕草に苦笑する。

 地面に撒いたフーズの匂いを嗅ぎ、何度か嘴でつついてから、おもむろにひと口齧った。

 

 よしよし。食えないことはなさそうだな。

 

「んじゃ俺も。いただきま〜……」

 

「げるる」

 

「…………なんだよ」

 

 口に運びかけてた箸を止め、ルギアを見下ろした。

 奴の視線が俺のからあげにじっと注がれている。

 めちゃくちゃ活き活きした瞳だ。

 

 こいつ。

 まさか。

 

「喰いたいのか? …………肉」

 

「げぅるっ」

 

 ルギアは喜色満面、その通りっ! と翼を広げた。

 俺は目を剥いて弁当を抱えこんだ。

 

「ざけんなバカヤロ! 俺の貴重なタンパク源だぞ!?

 お前なんぞに喰わせられるかっ。

 そのへんの虫でも喰ってろチビ!」

 

「ぎゃっ!?」

 

 まさか断られるとは思ってもみなかったらしい。

 ルギアは信じられないものを見る目で俺を見つめ、口をあんぐりさせた。

 

 知らん知らん。無視無視。

 俺はゆっくりからあげを頬張った。

 溢れ出る肉汁、バリバリの衣。程よい胡椒。

 ああっ、最高!

 咀嚼するたびに幸せが込み上げるぅっ! 

 

()……っ()ぇ!」

 

 涙を浮かべて飲み込んだ、その時。

 

「う〜……ぎゃるるるるぅ!」

 

 怒り狂ったルギアがえぐい角度で俺を啄き回した。

 こんなチビでもさすが伝説、その膂力はかなり強い。

 しかも脇腹や腿裏といった柔い部分を的確に抉ってくるので死ぬほど痛かった。

 

 そして俺は、やってしまった。

 まだ舐めてもいない唐揚げを落としてしまったのだ。

 

「しま……っ!」

 

 拾おうと伸ばした手よりも速く、畜生の嘴が掠め盗った。

 

 ぱくっ。

 もぐもぐ。

 ごっくん。

 

「げるっ」

 

 うまっ、とでも言いたげに。

 ルギアが嚥下するその貌に、俺の堪忍袋の緒が切れた。

 

「てっっっめぇやりやがったなこのやろ!

 人間様舐めんなよこっち来いゴラァ!」

 

「ぎゃーっ! ぎゃっぎゃっ!」

 

 弁当を放り出し人間vs小鳥の全力大乱闘を開始する。

 

 こいつは知らないのだ。

 貧乏学生の日常において、肉料理がどれだけ珍しくありがたいか! 

 食の恨みは末代まで、この怨み晴らさでおくべきか! 

 かくて、決して負けられない戦いのゴングが鳴った! 

 

 

 

 

 ────一方その頃。

 やや離れたところで優雅にパスタを食べていたレホール先輩は、

 

「お似合いだと思うがなあ、私は」

 

 と、呆れた口調で呟いていた。

 

 

 

 

 




というわけで第5話。
主人公の内面を少しばかりお見せしました。
実際ポケモンって何食べるんだろ。

次回、ちびすけの調査その1。
よければ感想評価おなしゃす。
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