ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第53話 姓名判断師。

 

 

 

 

 魚雷亭。

 カイナシティの大通りに店舗を構える飲食店である。安い・美味い・早いはもちろん、量も常識外れなほど多いために、わざわざ遠方から訪れる客がいるほどの人気店だ。

 

 イチオシはなんといってもミックスフライ丼である。旬の魚と貝に海老をふんだんに使ったフライがこれでもかと載っており、海で働く男たちがこぞって注文していく。

 

「ミックスフライ丼3つと、海鮮粥ひとつ!」

 

 座敷に通され、満面の笑みでオーダーすると、店主と女将が「あいよお!」と勇ましく返事した。

 

 さほど待つこともなく、うずたかく積まれたフライ丼がどんどんどん! と並べられた。粥は土鍋ごと提供される豪快っぷりである。

 

「いただきまーす!」

「ぎしゅ」

「げるる!」

「りう!」

 

 四者四様に挨拶して最初のひと口を掻きこめば、あまりの美味さに箸が止まらなくなった。

 サクサクの衣、ぷりっぷりの身、濃い味の奥に確かな旨みが隠れている秘伝のタレ。米の炊き具合も絶妙で、やわすぎず硬すぎず、強烈なフライを引き立てる甘みが堪らない。美味いものに目がないルギア(ぺリッパーの姿)が物も言わず夢中で食べているのを見て、俺はこの店を教えてくれたハギ船長に心から感謝した。

 

「いい食べっぷりだねえ!」

 

 女将が破顔した。

 

「いやもうここほんと美味いっす。来てよかった!」

「そう言ってもらえりゃ飯屋冥利に尽きるってもんさ。お兄さんどこから来たの?」

「ジョウトです」

「ジョウト! それまた遠いとこから来たね。あたし、新婚旅行がエンジュの寺参りだったんだよ。ちょうど紅葉の時期でねえ、街まるごと美しくて、世の中にゃこんなとこがあるのかと驚いたもんさ」

「秋のエンジュは最高ですからね」

 

 アジフライを頬張りながら相槌をうつ。

 ポケモンたちを見ると、カブトプス(カブルー)は時々新入りの様子を観察しながらゆっくり食べ進め、半分ほど食い終わっていた。好きなものほど後で食べる性分は今日も発揮されており、特大エビフライ3本が丸々手つかずで残っている。

 

 新入りのアマルス(ゴーシェナイト)は凍える風で熱々の粥をさましながら美味そうに啜っていた。復元したての化石ポケモンは固形物をうまく咀嚼できないことがあるので粥をオーダーしてみたが気に入ったらしい。粥なら俺でも作れるので、寮に帰ったら振舞ってやろう。

 

 そしてルギアはといえば。

 

「んげるる…………」

 

 いの一番に食い終わったくせに、物欲しそうな瞳で俺たち──正確には俺たちのご飯を見つめていた。

 

「げーる」

 

 いそいそと近づいてきて、ぽすっとテーブルに顎を乗せてきた。なんだその上目遣い。やらんぞ。やらんからな。

 

「そっちの子はまだ満腹じゃないみたいだね? どうする? 追加で注文するかい?」

「いやあ、やめときますよ。美味いモンばっか覚えられても困っちまう」

「そしたらここで働きゃいいさ! お兄さんのバトルは見応えあったよ! うちの新しい看板メニューにしてもいいくらいだ」

 

 海老を揚げていた店主が横から口を挟んできた。

 

「まったくだ。あんたのアマルス、いい動きしてたぜ!」

「りゅ?」

 

 呼ばれたと思ったアマルスがぴょこんと顔を上げる。

 

「いいバトルだったってよ」

「りぃ♪」

 

 幼い雪竜は嬉しそうに鳴いた。

 実際アマルスの強さは想定外だった。せいぜい1つか2つぐらいしか技を覚えていないかと思いきや、4つも披露してみせたのである。

 

「凍える風でザングース(ザンギちゃん)の足を鈍らせ、エコーボイスで削り、原始の力で逃げ場を塞いだ後、放電で〆る。いやまったく、連携の鮮やかなことといったら!」

「うちのポケモンはかなりバトル慣れしてるつもりでいたんだが、完敗だ! たまげたよ」

「いやあ、どーもどーも」

 

 俺はペコペコと頭を下げた。

 まさかタイプ違いの技を出せるとは思わなくて、電気が迸ったとき相手以上に驚いたのはここだけの話である。

 多彩な技を操れる点も大したもんだが、もっと驚いたのは順応の早さだ。一言二言俺の指示を聞いただけでスルスルと飲みこむのには舌を巻いた。

 このポテンシャルの高さ。さすがは王の末裔である。

 

「今日は顔合わせのつもりだったけど、とっとと戦闘訓練を始めてもいいかもなあ」

「げるるる」

「ちがう。フライをあげるとは言ってない。そもそもお前の話はしてな、やめろ、顔を近付けるな、やめろって!」

 

 執拗に俺の丼を狙うルギアに、カブルーが大事に残しておいた自分の海老フライを渡そうとするもんだからそっちも叱った。あんまり甘やかすな! こいつにはそろそろ我慢を覚えさせる頃だから! 

 

「やめろちびすけっ、てめっ!」

「ちびすけ……ですか」

 

 かつん、と杖を高らかに鳴らされて、思わず俺たちが振り向くと、やけに高級そうな燕尾服に身を包んだ紳士が帽子をちょこんと持ち上げた。

 

「突然失礼。あなたのポケモンがあまりに生き生きしているものですから、ついついお傍によって見てみたくなりまして。ああ、わたくしこういう者でございます」

 

 紳士は胸元から名刺入れを取り出し、1枚の名刺を差し出した。わざわざ金の箔押しがされた手の込んだデザインである。

 

 名刺には、

 

姓名判断師 GOD☆Father

 

 と記されていた。

 

「ご、ごっどふぁーざー…………?」

「左様」

 

 紳士が上品に微笑んだ。

 

「わたくし、あらゆるポケモンにベリィナイスなネームを贈ることに無上の喜びを感じるホウエン一の姓名判断師でございます。どうかあなたのぺリッパーに、お名前を贈らせてはいただけませんかな?」

 

「……げる?」

 

 ちゃっかり俺のオニオンフライをパクったルギアが無垢な瞳で小首を傾げた。

 

 てめえ覚えとけよこのやろう。

 

 

 

 




というわけで53話。
みんなでまったりご飯回。
新入りのバトル描写楽しみにしてた方はすみませぬ。

9話で捕まえてからここまでちびすけと呼んできましたが、せっかくならニックネームを授けたい。でもいまさら自発的に変えるのもなーということで姓名判断士に来て頂きました。カイナシティだしネ!
子供の頃プレイしてて「せーめーはんだんしって何」と困惑した思い出。

さあどんな名前にしようかな。
よければ感想高評価おなしゃす!
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