ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第54話 名前考えんのむっずいわ。

 

 

 

 

 姓名判断師の家はカイナ市場の奥、狭い路地の行き止まりに建っていた。

 大勢の人でごった返す表通りとはストリートを1本挟んだだけなのに、驚くほど喧騒が遠い。周囲に並ぶたくさんの民家からは、なぜか人の気配がしなかった。まるで精巧な作り物の街に迷い込んだみたいだ。

 

「この街で最も静かなところです。さあ、こちらへ」

 

 ゴッドファーザーと名乗った紳士が恭しくドアを開ける。おっかなびっくり中に入ると、嗅いだことのない香料が鼻をついた。

 甘いのにどこかスパイシーで、異国の料理を思わせる。

 

「何だこの匂い……」

「とある地方で入手した香辛料です。そこではつい最近、カレーなる料理が発明されましてね。きっと近いうちに爆発的な人気メニューとなることでしょう。

 さあさ、ソファにおかけください」

 

 断る理由も思いつかなくて、俺は真っ赤なカウチに浅く腰かけた。

 

 判断師の家は、一言でいえば奇妙でチグハグな場所だった。赤、緑、紫、茶色、様々な色味の家具がおかれ、およそ統一感というものがない。

 あちらこちらに子供向けの木製人形がぶらさがっているかと思えば、どでかい裸婦画が壁にかかっていたりする。家電製品はひとつも無く、分厚いハードカバーが至るところに置かれていた。

 極めつけは部屋の隅にあるビヨビヨ伸びた観葉植物だ。やけにねじくれながら育っているせいか、本来目を和ませるはずの緑が客を威圧する恐ろしげなインテリアになっていた。

 

 紳士は真正面ではなく、やや斜め向かいの椅子に腰掛けた。

 

「姓名判断の前に、すこしお話をしましょうか」

「はなし?」

「左様。なんとなれば、あなたがどういう人間で、どんな風にポケモンと触れ合うのかを知ったればこそ、相応しい名前が浮かび上がってくるからです」

「はあ…………」

 

 そういうもんなのかな。

 促されるままに、俺は思い出せる限り古い記憶から話し始めた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「────ふむ、なるほど」

 

 熱くて濃い紅茶の入ったカップをソーサーに戻し、判断師は鷹揚に頷いた。

 

 存外話しやすいひとだった。適切なタイミングで相槌を打ってくれ、こちらが話したい時は口を挟まず、言葉に詰まれば的確な質問をして続きを導いてくれた。

 気がつけば、俺は自分の半生をすっかり語り尽くしてしまっていた。

 

「その若さで色々とお辛いことも経験なさってきたようだ。それがあなたとポケモンをより強固に結びつける絆になっている。あなたがたを引き裂くことは何人たりとも出来ないでしょうね」

 

 紳士が優雅に拍手した。

 

「素晴らしい。実に素晴らしい関係です」

「ど、どーも」

 

 正面切って褒められるのはなんだかむず痒い。

 けど、悪い気はしなかった。

 

「さて。ではいよいよ本題に入りましょうか。あなたのちびすけさんを見せていただいても?」

「おっけーっす」

 

 腰のベルトからフレンドボールを外し、開閉ボタンを押す。ルギアに着せた如意(にょい)玉衣(たまごろも)は1度変身すると解除するまで変わりっぱなしらしく、ぺリッパーのままだった。

 

 腹いっぱいの雛鳥はすぴょすぴょ眠りこけている。ひっくり返り、腹を見せながら惰眠を貪る様は到底海の神には見えなかった。

 

 もすこし威厳をもって寝なさいよ。

 仮にも伝説なんだから。

 

「ふむ……これは難しい……どんなニックネームも合いそうだがしかし……むむむ」

 

 紳士はルギア(ヘソ天ぺリッパーの姿)の周りをぐるぐる回りながらぶつぶつ呟いていた。

 

 出された紅茶を1口味わう。こっちにも得体の知れない香料が入っていたが、最初は甘いのに後味がすっきりとしてかなり好みだった。嗅ぎなれてみれば、部屋中に漂う香りも悪くない。俺はすっかりリラックスした気持ちで、判断師の結論を待っていた。

 

 不意に彼の足が止まった。

 

「決まりましたよ!」

「おおっ」

 

 俺は思わず身を乗り出した。どんな名前をつけてくれるんだろうか? 

 紳士はくるくるステッキを回し、ビシィッ! とポーズをキメると、高らかに叫んだ。

 

 

「古代カロス語で深き海を意味するルシー! 豊かな星を意味するギーア! 2つをくっつけて……そう!

ルギアでは如何かな?」

 

 

「ぶぅ」

 

 

 俺はそりゃもう盛大に、飲んでた紅茶を噴き出した。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 理由は言えないけどとにかくその名前はNGということを土下座に近い姿勢で告げると、判断師は戸惑いつつも別案を出してくれた。

 

「それでは、この子はとても天真爛漫な性格のようですから、"テンマ"というのはいかがでしょうか?」

「ふーむ」

「他にも、美しい羽の色に見立てて"しろがね"ですとか」

「ふんふん」

「あとは、海の象徴たる"ウシオ"や"ツナミ"というのもありますね」

「ううん」

 

 どれもこれも捨てがたい。

 悩むうちに頭が痛くなってきて、もういっそからあげとかでいいんじゃないかなと思い始めてきた。こいつの好物だし。試しに提案したら「とてもユニークですね」と生ぬるい笑顔で微笑まれた。つまりダメってことか。いいアイデアだと思ったんだが。

 

 手近にあった本を何気なく手に取ると、海に纏わる伝説が書かれた書物だった。流し読みしていた目が、とある名前に吸い寄せられる。

 

 それは遥か古に、世界中の海で力を振るった魔獣の名であった。嵐を起こし、大渦を作って人々を恐怖に陥れたという描写がルギアと被る。

 けれど、ただ怖いだけの存在ではなかったようで、別の地方では豊漁の象徴として崇められていたとも書いてあった。

 

「あの、これ」

 

 考えるより早く判断師に見せていた。思案に暮れていた紳士の眉がぱあっと開かれる。

 

「この名前を授けたいのですね?」

「そう……ですね。なんかピンと来て」

「素晴らしい。名づけのときはそうした直感が何よりも大事なんです」

 

 判断師がうんうんと頷いた。

 

「その魔獣は特に古代イッシュで恐れられていたようですが、カロスでは母なる海の化身と呼ばれ多くの民に愛されていたと言われています。相反するイメージを抱く不思議な怪物────なるほど、あなたのぺリッパーくんにピッタリですね。ちなみに、イッシュ読みとカロス読みで音が異なりますが、いかがされますかな?」

 

 それぞれの読み方を教えてもらい、カロス読みの方を選んだ。これまた特に根拠はなく、直感である。

 

 判断師は満足げに首肯し、朗々と宣言した。

 

 

「決まりました! 本日ただいまより、ぺリッパーくんの名前はレヴィアタンとなりました! 

 どうぞレヴィアタンくんと末永くお幸せに!」

 

「よろしくな、レヴィ」

 

 

 眠れるルギアが「んげぇ」と寝言を吐いた。

 

 

 




というわけで54話。
感想で提案頂いた名前をそのまんま拝借しました。
今回よりちびすけあらためレヴィアタンとなります。
略称はレヴィです。

ルギアは元々の名前が完成されすぎてて中々思いつかず四苦八苦しました。
第1候補はしろがねでしたが、カタカナで統一したかったので却下に。
名前つけるの難しいヨー。

今後ともネタに詰まったら皆さんの感想からばんばんアイデアいただきます!

よければ感想高評価おなしゃす!
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