第57話 1日目/目が合ったらポケモン勝負ってほぼカツアゲじゃね?
順を追って話そう。
コガネシティの空港からガラル行きのジャンボジェットに乗った俺は、エコノミーチケットにも関わらずなぜだかファーストクラスに通された。チケットを買う時に使ったツワブキ社長のカードが原因らしい。あのひとはJAL*1の大株主なんだそうな。
「こちらの手違いでエコノミーチケットを発行してしまったようで」とめちゃくちゃ偉そうな人が平身低頭に謝りながらベッドのある個室に案内してきた時は目眩がした。
自分の意思でエコノミーを選んだんですとはとても言えない空気だった。
ベッドて。
飛行機の中ぞ、ここ。
寝れんの? すごない?
腹を括って腰を下ろしてみたらまあ凄いのなんの。ふわっふわもっちもちのマットレスは一生眠っていたくなるほど柔らかく、俺の体を優しく包み込んでくれた。CAの人達は下にもおかぬサービスを与えてくれ、俺は一夜にして王様にでもなったのかと錯覚しかけた。
大企業の社長の権力、おそるべし。
ガラルまでのフライトは約7時間。見たかった映画でも観るか〜と転がったら秒で寝落ちし、起きたときにはもうシュート空港に着陸するところだった。
眠い目をこすりながらタラップを降り、ロビーでいくつかのチェックを経た俺は、いよいよガラルへの第1歩を踏み出した。腰のベルトからフレンドボールを外し、開閉スイッチを押す。飛び出した
「ここがシュート空港。でけーよなあ。ま、とりあえず街にでようぜ」
「ぎしゅ!」
ワクワクそわそわするカブルーを連れて2歩目を踏み出そうとしたところで、
「おにいさん、バトルしようぜ!」
と熱烈な勧誘を受けたのだった。
声をかけてきたのは10歳前後の、溌剌とした笑顔が印象的な男の子だった。右手には既にモンスターボールを握っており、こっちがイエスと言うのをいまかいまかと待っている。断られるかもしれないとは微塵も考えていない自信満々の眼差しに、俺は少し面食らった。
「……い、嫌ですけど?」
男の子はどんぐりみたいな瞳を、もっとまん丸にして驚いた。あんまり見開くから零れ落ちそうである。
「いや!? なんで!?」
「なんでって。気分じゃねーのよ」
「気分じゃ、ない……!?」
信じられないと言わんばかりに首を振っている。彼にとってバトルの気分じゃない時など有り得ないらしい。
諦めるかと思いきや、
「ど、どうすればバトルしたい気分になる?」
八の字眉で縋ってきた。
ええいやかましい。
こちとら観光したいんじゃ戦闘狂め。
「何したってならねーよ。
俺、もともとバトル好きじゃねーもん」
「嘘だ!」
断定された。嘘とはなんだ嘘とは。
初対面の人を嘘つき呼ばわりするもんじゃなくってよ。
ちびっ子が必死に言い募る。
「だっておかしいよ。そんなに強そうなポケモンを連れているのにバトルが好きじゃないなんて!
お兄さんもカブトプスも、すっごく強いでしょ?
いっぱい鍛えてきたんでしょ?
おれそういうの分かるんだ!」
「────」
ぴく、と頬が緩むのを慌てて押さえつける。ダメだダメだ、こんな口車に乗っちゃ。経験上こういうグイグイ来るタイプは自分が勝つまで「もっかい!」ってしつこいんだから。昔の俺がそーだったもん。
だいたい今日は忙しいんだ。とっとと格安ホテル見つけてランチ食べて観光プラン練らなきゃいけないんだよ。
こんなちびっ子にかかずらってる暇なんて無いんだ。
────そう、分かってはいた、のに。
「ねえ頼むよ、1回だけでいいからさ!」
「いーやーだーね。
「……!」
含みに気づいた少年がぱっと顔を輝かせる。
「おれはダンデ! ハロンタウンのダンデだ!
名乗ったぞ、さあ!」
俺は思わず吹き出した。
こいつ、押しが強いけど可愛いな。
「はいはいわかったよ。俺ぁアシタバだ。
んじゃまあ、1戦だけな」
おねだりに負けてとうとう快諾しちゃいました。
あーあ。俺も大概甘いね。
そこの読者諸君。チョロいとか言わないように。
「やった! バトルコートはあっちだよ!」
ダンデが喜び勇んで駆けていく。
ま、1戦だけならすぐ済むだろ。
俺とカブルーはのんびりした足取りで少年の後を追った。
ダンデが提案したのは2対2の
「今度のジムがダブルバトル専門なんだ。特訓しとかないと!」
そう意気込むダンデは既に手持ちを明らかにしている。眼光鋭いリザードと闘気溢れるオノンドがフィールドに仁王立ち、俺を睨みつけていた。
「ふむ」
顎に指を当て、考える。ダンデが現時点でいくつバッジを所持しているか知らないが、中々鍛えられたポケモンたちだった。立ち振る舞いに隙がない。子供とは思えないレベルにまで仕上げてきている。
(こりゃ本腰入れねーと足元掬われるな)
カブルーに目線を送ると、頼れる相棒は心得顔で頷いた。頷き返し、スノウボールを放り投げる。色違いのアマルスが凛々と着地した。
「カブルー!
「リザード、オノンド! 気合い入れるぞ!」
4体のポケモンが咆哮をあげる。
戦いの火蓋を切ったのはリザードだった。
「火炎放射!」
灼熱の火焔がアマルスに迫る。すかさずカブルーが割って入り、水柱を噴き上げた。炎と水が衝突し、もうもうと立ち篭める水蒸気の影からオノンドが躍り出、右手を大きく振りかぶる。ドラゴンクローか。そうはさせないっ!
「凍える風!」
ゴーシェが冷たい息吹を吹き散らした。蒸気が瞬く間に凍って、殴りかかろうとしたオノンドに強烈なダメージを与える。寒さに弱いドラゴンが苦しそうに身悶えた。
「っ! 大丈夫か、オノンドっ!
リザード、助けてやれ! にほんばれ!」
リザードが天を仰ぎ、炎の塊を打ち上げた。炎はフィールドの上空に広がり、強い陽射しとなって降り注ぐ。
冷気が霧消し、ゴーシェは眩しそうに目を伏せた。その機を逃さずオノンドが肉薄する。
────くそっ、復活が想定より早い!
「ヴォオオッ!」
「りうう!?」
今度のドラゴンクローは直撃し、ゴーシェの急所を打ち据えた。化石から復元して間もない体には相当な威力だったらしく、がっくりとくずおれる。
もちろん、それをただ見ているカブルーではない。
最初にゴーシェが倒れ、次にオノンドが気絶すると、俺もダンデも即座にボールに戻した。
フィールドには、無傷の相棒たちだけが残された。
リザードに油断なく構えさせながらダンデが笑う。
歳に似合わぬ好戦的な笑みだった。
「ほらやっぱり。強いじゃないか」
「弱いとは言ってねーだろーが」
カブルーが右の刃を突き出し、左の刃を背後に引いた。そのまま深く腰を落とす。しばらくして、ゆら、ゆらりと揺れだした。俺とカブルーが編み出した、独自の剣の舞である。はじめはとびきりスローモーだが、少しずつ速くなっていく。そしていきなり相手に斬りかかるのだ。緩急の付けどころはカブルーに任せているが、あまりにキレが良すぎるので初見の相手はまず躱せない。何十人と戦ってきたが、対応できたのはマツバくらいのものだった。
さて、ダンデは2人目の攻略者となるか。
指を鳴らし、鋭く命じた。
「アクアブレイク!」
全身から水を噴き出し、激流を纏ったカブルーが突進する。攻撃力を極限まで高めて放つ水系物理技、炎タイプのリザードじゃたとえ体力満タンでも受けきれまい!
勝利を確信しかけた次の瞬間、絶句した。
リザードの大きく開いた口から発射されたエネルギー弾が、カブルーが最も苦手とする光を帯びていたからだ。
「気合い玉!」
格闘タイプ最大火力の特殊技。
それをまさか、リザードが覚えられるなんて。
光弾と水流がぶつかり合う。両者は全く拮抗し、凄まじい重低音を立てて爆発した!
「ぐ……!」
爆風に瞼を閉じる。タイプ不一致とはいえ、カブルーの弱点を見事に突いた一撃だった。
(やられた、か……!?)
土煙に影が映る。1つは倒れ、1つは立っていた。
ダンデが戦況を見極めようと目を凝らした瞬間、先んじて叫んだ。
「
地に倒れていた影が動き、立っていた方を力いっぱい弾き飛ばす!
ダンデが息を飲んだ。彼は、傍らに倒れ伏すものを見るまでもなく、勝敗の行方を悟った。
徐々に土煙が晴れたフィールドには、殻が破れて一回り小さくなったカブルーが息も絶え絶えに立っていた。
対するリザードはダンデの横で完全に目を回している。しばらくは起きあがれないだろう。
「俺の勝ち、だな」
「…………!」
ダンデが首肯した。
悔しさと興奮に、双眸を爛々と光らせながら。
というわけで57話。またの名をガラル編第1話。
ダンデくんとのバチバチバトル回でした。
技4つ以上書かないようにすげー気を配った結果アマルスとオノンドが一芸マンに。ご、ごめんよ……。
二次創作で技4つ縛りで書いてる人達ほんと尊敬します。
今回、カブルーの特性「砕ける鎧」が気合い玉で発動してます。
本来物理技を受けないと発動しない特性なのですが、拙作では物理特殊関係なく技を受けたら砕けるということでどうか1つ。
バトルは難しいですが書いてて楽しい。
よければ感想高評価おなしゃす!