ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第58話 未来とエネルギー。

 

 

 

 

 ポケモンセンターで治療を受けている間、昼飯に何を食おうかじっくり考えようと思っていた俺は、興奮冷めやらぬダンデに付き纏われてパンフを読む暇もなかった。

 

「アシタバは本当に強いな! おれのリザードがワンパンされるとは思わなかった!」

「そーだろ」

「とくに2度目のアクアブレイク! 水流の激しさも突進の勢いも素晴らしかった!」

「どーも」

「アシタバは毎日どういう訓練をしてるんだ? ランニング? 筋トレ? おれもそろそろダンベルを買おうかと思ってるんだけど最初は何キロがいいと思う!?」

「5キロでいーんじゃねえの。てかお前ここポケセンだから静かn」

「アシタバはあのポケモンたちとどこで出逢ったんだ!? 他にも持ってるか? 仲間にしたいポケモンとか居る? おれはいるぜ! まずヒトツキだろ、サイホーンだろ、他にもえーっと」

 

 

うるせぇえええ! 

 

 

 こいつずっとうるせえ! なに? 黙ることないの? 10歳男児ってこんなもん? 昔の俺でも流石にここまでひどくなかったぞ! 

 

 手の中のパンフを握りつぶし、怒鳴りつけてやろうと振り向いたときだった。

 

「そこに居るのはもしや、ダンデくんかな?」

 

 身なりのいい紳士が、淡い微笑みを浮かべながら近づいてきた。ダンデが「あ!」と声を上げる。

 

「ローズさん、こんにちは!」

「はいこんにちは。今日も元気そうですね」

 

 ローズと呼ばれた男が俺を一瞥する。なんとなく会釈すると、小さく頷かれた。

 

 その仕草を見て直感する。このひと、たぶんツワブキさんと同じタイプの人だ。大勢の人間を従え、命令することに慣れきった風格のようなものが漂っている。

 

 そんな男とこのチビッ子にどういう接点が……?

 訝る俺をよそに2人の会話が進んでいく。

 

「ところでダンデくん、どうしてここに? 

 君は4つめのバッジを手にするため、ラテラルタウンに向かっていたはずでは?」

「ここがラテラルじゃないんですか?」

 

 ダンデの言葉にローズさんがくすくす笑った。

 

「ここはシュートシティですよ。ラテラルとは大分離れてますねえ」

「えー!」

 

 ダンデが飛び上がるほど驚いた。ていうかお前ガラル民じゃねえのかよ。なんで土地勘ねえんだ。

 呆れつつ、壁にかけてあるマップを見上げる。

 ええと、ラテラルタウンは、と。

 

「全然別方向じゃねえか!」

 

 思わずデカい声が出た。南北に長いガラルのほぼ最北端に位置するシュートと、真西のラテラルとでは間違う方が難しい。

 

「そうなんです。彼の方向感覚にはいつもびっくりさせられますよ」

「ほんとびっくりだよ。なにお前、地図読めねえの?」

 

 ダンデがむっと頬をふくらませた。

 そういうところは年相応である。

 

「しっけいな! 読んでるぞ! ただいっつも違うとこに行っちゃうだけだ!」

「なお悪いわっ!

 ていうかそれ結局読めてねぇじゃねえか!」

 

 睨みあう俺とダンデの間に、間延びした呼出音が流れた。

 

『アシタバさん、ダンデさん、ポケモンの回復が終わりました。カウンターまでお越しください』

 

「ほらほら、呼ばれましたよ。取りに行かないと」

「むー」

 

 言い足りなさそうなダンデだったが、俺の前にフレンドボールとスノウボールが置かれると、もう怒りを忘れたように興味津々に覗きこんできた。

 

「なんだそのボール!? 見たことない!」

「そりゃそうだろ。爺ちゃんと俺しか作れねーんだから」

「ぼ、ボールを作れるのか!? 凄いな!」

「まーな!」

 

 ふふんと胸を張る。

 こいつやっぱ可愛いな。変なとこガンコだけど。

 ローズさんがぱんぱんと手を叩いた。

 

「こらこらダンデくん。タクシーを呼んであげますから早くラテラルに行かないと。ジムチャレンジを期限切れで失格になりたくないでしょう?」

「はーい」

 

 名残惜しそうに唇を尖らせるダンデの背をぽんと押し、外に連れだしていく。

 扱いが手馴れているあたり、ふたりの付き合いは長いんだろうか。

 それとも彼が上手(うわて)なだけか? 

 なんにせよ、これでようやくおサラバだ。広いガラル地方でもう会うこともあるまい。

 

 そう思っていたのだが。

 くるりと振り向いたローズさんが、にっこり笑ってこう言った。

 

「あなたも一緒にどうぞ。旅は道連れといいますからね」

「…………ウス」

 

 あくまで穏やかな口ぶりだが、有無を言わせぬ圧があり、俺は従うほかなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 生まれて初めて乗るアーマーガアタクシーはすこし狭いけれど案外快適で、行き過ぎる風景が殊の外美しかった。

 

「この景色をガラルの人はいつでも見れるんですか……! 羨ましいなあ。ここにいる間は毎日でも乗りたいくらいですよ!」

 

 向かいに座る紳士が破顔した。

 

「嬉しいですねえ。そこまで言って頂けると航空網を整えた甲斐がありました」

 

 何気なく聞こえた言葉に真顔になった。

 航空網を? 整える? 

 

「…………あの、つかぬことをお伺いしますが、何をされてらっしゃる方なんですかね?」

「私ですか? 大したことはしてませんよ。会社を興したり投資したり、ガラルのインフラを整備したり。それだけです」

「Oh」

 

 それはつまり、めちゃくちゃすごい人ということなのでは。絶対凡人の俺がこんな距離感で話していいお方じゃないだろ。

 

 ローズさんは硬直する俺から視線を逸らし、雄大なガラルを見やった。

 

「私はね。もっともっとここを豊かにしたいんです。

 そうしてその豊かさが、千年でも二千年でも続くようにしたい…………。

 だから、ダンデくんにはとても期待しているんですよ」

「────?」

 

 俺は眉をひそめた。件の少年はタクシーに乗って早々、俺の膝枕ですやすや寝息を立てている。急に電池が切れたように眠る姿はまるで赤ん坊だ。

 こんな子供が、彼の話となんの関わりがあるんだろうか。俺の疑問を察したらしいローズさんがふと目元を緩めた。

 

「ダンデくんと戦ったようですね。どうでしたか?」

 

 俺は即答した。

 

「強かったです」

「ふむ?」

「今回はギリギリ勝てましたが、次は分かりません。

 いや、正直いってこっちが負ける確率の方が遥かに高いでしょうね」

 

 本心だった。

 まさかあのタイミングで気合い玉を撃たれるとは想像もしていなかった。恥を忍んで言えば、リザードが気合い玉を覚えることすら知らなかったのである。

 もしもオノンドがカブトプス(カブルー)の体力をほんの少しでも削っていたら、あの場を制したのはリザードの方だったろう。

 

 オノンドも逞しかった。まさかドラゴンクロー1発でアマルス(ゴーシェ)が沈められるとは。岩タイプの頑健さを叩きのめす膂力には恐怖すら覚える。

 

 なにより恐ろしいのは、どちらもまだ最終進化に達していないことだ。

 進化すればリザードは大空を自由に舞う翼を、オノンドは強力な尻尾と刃を得る。そうなればダンデの強さは飛躍的な進歩を遂げるだろう。

 

「────まあでも」

 

 唇が笑みの形を作る。

 笑おうと思ったわけじゃないが、どうしても、胸が沸き立つのを止められなかった。

 

「俺たちが今のままなら、って話ですけどね。

 こっちだって伸び代は十二分にある。おめおめと負けるつもりはありませんよ」

「そう、それですよ」

 

 ローズさんがぱちんと指を鳴らした。

 

「それ……と言いますと?」

「ダンデくんと相対した者はみな、彼の持つ輝きにあてられます。彼のようになりたいと焦がれ、彼を超えたいと願う。それこそが、ダンデくんの持つパワーであり、ガラル全土を盛り上げるエネルギーたりうるのです」

 

 ローズさんの声が熱を帯びる。

 俺に対して語るというより、もはや演説のような口ぶりだった。

 

「豊かであるためには、人とモノの両方がなくてはなりません。モノは人工的に生み出せても、人を呼びこむのは中々に難しい。しかし、ダンデくんがチャンピオンになった暁には、彼に惹かれた人々がガラルに集うでしょう。

 そうなれば、この地方は未来永劫栄えていけます!」

 

 俺はしばらく二の句も継げなかった。

 話のスケールがデカすぎて言うべき言葉が見つからない。ローズさんの熱意に、ただただ圧倒された。

 

 空気を割ったのはアーマーガアを操る運転手だった。

 

「間もなくラテラルに着きますぜぇ!

 シートベルトをしっかり着けてくださいよお!」

 

 声を限りに叫んでいる。いつの間にか、眼下に街が広がっていた。

 

「この地方で最も古い町です。王族が遺したといわれる遺跡が町外れにありますよ」

「遺跡…………!」

 

 その二文字に、心が浮き立つのを覚えた。

 

 

 

 

 

 




というわけで58話。
ほぼ会話だけの回でしたね。

この時のローズさんは今ほどお腹が出ていません。むしろスマートな体型です。ダンデがチャンプになって以降みるみる太っていったとか。

よければ感想高評価おなしゃす!
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