ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第59話 ラテラルタウン。

 

 

 

 

 ラテラルタウン。

 険しい岩山に挟まれ、1年を通して乾いた風が吹く町である。雨はほとんど降らず、あらゆる建物や建築物が干して固めた土で造られている。ラテラルの日干し煉瓦はどこよりも固く頑丈だ。

 西外れにはかつて栄華を極めた王族の遺跡が聳え、町民を静かに見守っている。

 初めてここを訪れる方は、ぜひとも「掘り出し物市」を覗くといい。思いもよらないお宝が、あなたと出逢うのを待っている────

(ガラルのタウンガイド・ラテラルの章より)

 

 

 そこまで読んで、誌面から顔を上げた。

 目の前にはラテラル名物のひとつ、「王の壁画」がそそり立っている。

 

 分厚い土壁に描かれた極彩色の紋様が何を表しているのか、まわりの観光客たちが楽しげに語りあっていた。

 

 一方、俺はと言えば。

 上から下まで視線を走らせ、全体を眺め回し。

 

「いや、ただのヘタクソな落描きじゃね?」

 

 あまりにも率直な感想を口走っていた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 読者諸君に申し上げると、俺は芸術が分からん。

 さっぱり分からん。

 精巧な彫刻や細密画をみて「すげぇなあ」とは思うが、じゃあそれのどこが凄いのか、なぜ凄いのかは全く言語化できない。抽象画や印象画になるともうお手上げで、「俺でもかけそう」ぐらいしか感想が出てこないのだ。

 たぶんそこらの5歳児のほうがマシなことを言えると思う。

 

 そんなんだからこの壁画の良さが分からないんだよ、と言われればぐうの音も出ないんだが。

 それでも言わしてくれ。

 

 これ────マジで酷くねえ? 

 

 まずこの……花? っぽいやつ。モチーフはなんだよ。タンポポなのかコスモスなのか、それとも全然違う花なのか? 花弁も茎も葉も輪郭がぐっっちゃぐちゃで何一つはっきりしねえ! おまけに色使いも最悪だ。適当に出した絵の具をベタベタ塗りましたみたいな、技巧も何もあったもんじゃない筆さばきである。

 

 なに、王様はそこらへんの子供に好き放題描かせたの? これでプロの芸術家に任せたとか言ったら正気を疑うわ。それともこれが当時の流行だったのか。

 

 …………いや。

 どう考えても有り得ない。

 

 俺は眉間を揉んだ。

 

 そもそも、壁画とはなにか。

 人類最古の芸術であり、伝承である。とくに、恐ろしい厄災に誰がどう立ち向かい、どんな結末を迎えたか描き記したものが多い。

(まれにめでたい事柄を描いた壁画もあるがここでは割愛しよう)

 

 そんなものを何故描くのか。

 後世の人間に遍く伝えるためである。

 その災いが人の起こしたものならば、二度と同じ轍を踏まないために。その災いが天の気まぐれで起きたならば、決して忘れない為に。当時の人々の悲哀や奮闘を、想像すら出来ぬ未来まで繋げるために描かれるのが壁画なのである。だからこそ尊ばれ、保護されなければならないのだ。

 

 翻ってこれはどうだ。

 

 過去に対する敬意も、未来に贈る誠意も何一つ見いだせない。歴史に対する侮辱とすら思う。

 

 これを壁画だの遺跡だの呼ぶことは、考古学徒として断固許せなかった。

 

「パンフで推されてんのが掘り出し物市な時点で察するべきだったな〜……」

 

 俺は心底がっかりしながら、町に続く長い階段を降りていった。

 

 最後の一段を降りると、スタジアムからユニフォーム姿の少女が走ってきた。熟れた蜜柑色の髪を揺らしながらあちこち見回している。何かを探しているらしい。

 

「どした? 探しもん? 手伝うぜ」

 

 助け舟を出すと、少女はほとんど泣きそうな声で叫んだ。

 

「い、い、いないんです! どこにも! 

 もうすぐ出番なのに! わた、わたし、ちゃんとここで待っててって言ったのに!」

「お、おん?」

 

 なるほど分からん。

 俺は涙ぐむ彼女を片手で制し、スノウボールのスイッチを押した。回復して元気いっぱいのアマルス(ゴーシェナイト)が飛び出してくる。

 

「ゴーシェ、粉雪。やさしくな」

 

 アマルスは頷き、ふーっと細く息を吐いて粉雪を散らした。乾燥地帯に一瞬咲いた氷の花が少女の意識を逸らす。機を逃さず、ゆっくり話しかけてみた。

 

「落ち着いて。俺でよければ力になるぞ。

 誰かを探してるんだな?」

 

 少女がこっくりする。重ねて訊ねた。

 

「探し物はポケモン? 人間?」

「人間の男の子です」

「髪の色は?」

「む、紫です」

「肌は白い? 日焼けしてる?」

「してます。いっつも動き回ってるから……」

「おっけ。歳は? 君と同じくらいかな?」

「はい」

 

 短くて簡単な一問一答を繰り返すうちに、かなり落ち着きを取り戻したらしい。

 少女は満面に憂いを湛えながら俯いた。

 

「彼、じっとしてることが苦手なんです。

 思い立つと動かずにはいられないみたいで。

 でも凄い方向音痴だから、毎回とんでもないところに行っちゃって……」

 

 ────ん? 

 紫髪。褐色肌。方向音痴。

 

 あれ? 

 おや? 

 

 頬を引きつらせながら、ダメ押しの質問を投げてみた。

 

「ええと、もしかして、君の探してる人ってダから始まってデで終わったりしない?」

 

 しないよね。

 そうだと言って。

 

 けれど神様は残酷だ。

 少女が喜色を浮かべ、ぱちんと両手を打ち合わせた。

 

「そうです! ダンデくん! もうすぐジムリーダー戦なのに、控え室から消えたんです!

 どこにいるか知りませんか?」

 

 やっぱりかあ。

 そっかあ。

 

 俺は微笑んだ後、膝から崩れ落ち、頭を掻きむしった。

 

 

「何しとるんじゃあのアホはぁ!」

 

 

 こだまが山間に反響し、虚しく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで59話。
主人公ぶちギレ回。
実際考古学者やガラルの歴史を学ぶ人達はあの壁画をどう思ってたんだろうか。

一方そのころ、ダンデくん居なくなってしまいました。
どこ行ったのカナー?
出てきた女の子の正体は秒でバレそうですね笑

作者、ポケカの大型大会に出場するため明日の更新が遅れるかもしれません。
良ければ感想高評価おなしゃす!
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