ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第60話 探したけれど見つからない。

 

 

 

 

 ソニアと名乗る少女と一緒に、ラテラル中を走り回った。

 

「ダンデくーん! どこー!?」

「ダンデェエエエ! 失格になるぞ馬鹿野郎ぉおおお!」

 

 町民たちが季節外れの雪だるまを見るような目で振り返る。気持ちは分かるよ。必死こいた人間が2人、声を限りに叫びつつ走り回ってんだから。そら見るわな。

 

 けど事態は思ってた以上に逼迫していた。

 

 ガラルのジム挑戦システムは他地方と随分異なり、「○○番目のジムを○月○日までにクリアすること」という期限が設けられているらしい。期限内であれば何度でも挑めるが、1日でも過ぎると即失格となってしまう。

 そしてあの方向音痴バトルジャンキーは、フラフラフラフラ彷徨い歩いていたせいで今日がラテラルジムの締切日なのだった。

 

「失格になったらもう二度とジムに挑戦できねえの?」

 

 ソニアは細い首を横に振った。

 

「ううん。来年また推薦状を書いてもらえれば挑めます。……でも、過去失格になってしまったトレーナーを推薦してくれる人は少ないんです」

「まじかよ」

 

 もどかしさに奥歯を噛み締めた。

 

 この《推薦システム》も他に類を見ない制度である。

 人品骨柄、トレーナーとしての素質、ガラル中を旅できるだけの能力と体力があるかを見極め、しかるべき地位にある人が推薦状を書いて初めてジムへのチャレンジが許されるという。ローズさんがリーグ委員長に就任してから設けた新ルールだとソニアが教えてくれた。

 

 病気で脱落などのやむにやまれぬ事情であればまだしも、期日を守れないようなトレーナーを再び推薦してくれる人がいるかはかなり怪しいものがあった。

 

 とにかくダンデを見つけなければ。

 あいつの強さなら、戦わせさえすれば勝てるんだ。

 

 しかしあらゆる路地、屋上、地下を捜しても迷子(すっとこどっこい)の姿は発見できなかった。

 

「まじでどこ行ったんだよ……!

 もう捜してないとこねぇぞ……!」

 

 滴る汗を乱暴に拭うと、ふとソニアが町の向こうを見やった。

 

「────もしかして」

「心当たりがあんのか?」

 

 ソニアは怯えた顔をして、遠くの木立を指さした。

 得体の知れない淡く光るキノコが入口に生えているせいで、彼方が尚のこと暗く見える。

 

「あそこの森に行ったのかも…………」

「なら、急がなきゃな。もうすぐ完全に日が暮れる。夜の森は危険だ」

 

 だが、ソニアの足取りは鈍かった。焦慮を覆い隠すほどの恐怖が幼い顔にへばりついている。

 

「だめだよアシタバさん。あそこはルミナスメイズの森、もしも迷ったら二度と生きては戻れないんだよ!」

 

 少女の怯えは本物だった。テレビから流れる怪談を怖がるような程度の低いものではない、心底から森を畏れていた。

 

「…………なら、ソニアは待っていてくれ。

 俺が捜しにいくよ」

 

 フレンドボールのスイッチを押し、カブトプス(カブルー)を呼び出した。

 

「俺の相棒、カブルーだ。何があってもコイツが護ってくれる。カブルー、ソニアを頼んだぞ」

「ぎしゅ」

 

 カブルーが頼もしい顔で頷いた。

 

「で、でもそれじゃアシタバさんが!」

「へーいーき。発掘現場にゃ入り組んだトンネルだらけのとこもあっからな。方向感覚には自信あんだぜ」

 

 引き留めようとするソニアから身を躱し、森へと走った。

 

 ジムが閉まる夜8時まで残り2時間。

 

「全力で探すぜ、ゴーシェ、レヴィ!」

「りう!」

「げるるっ!」

 

 ボールから出たアマルス(ゴーシェナイト)ルギア(レヴィアタン)が勇ましく鳴いた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 物心ついた時から落ちこぼれと呼ばれていました。

 一族に連なる者ならば誰もが当たり前に使える超能力を、ほとんど授からなかったためです。簡単な物体浮遊しか出来ないと知った時の、父の怒りと母の落胆は凄まじいものでした。

 

『どうしてこんなことも出来ないの』

『我が家の面汚しめ』

 

 毎日そう罵られました。

 どれほど記憶を遡っても、母が優しく抱いてくれたことも、父が褒めてくれたこともありません。彼らの眼差しは魂まで凍えるかと思うほど冷たいものでした。

 

 そんな父母から使命を託されました。

 今日ジムにやってくるチャレンジャーを森に誘き出せというものでした。

 

『あの子供は憎きローズの秘蔵の子。期限切れで失格となれば推薦したあの男の経歴に傷がつく』

『それを次のリーグ総会で槍玉にあげれば、委員長の座から追い落とすこともできますわね』

 

 両親の話はあまり意味が掴めませんでしたが、ともかくも指示を遂行すればいいことはわかりました。

 

『おまかせください。きっと立派にやり遂げてみせます』

 

 そう言うと、母はにっこり笑ってくれました。

 

『頼みましたよ。これぐらいなら貴方でも出来ますね?』

 

 父も頬を綻ばせました。

 

『偶には役に立ってくれよ』

 

 ワタクシは胸に手を当て自信満々に応えました。

 

『はい! 吉報をおまちください、父上、母上!』

 

 ────そうしてワタクシは、意気揚々と選手控え室に向かったのです。

 

 

 標的はダンデという選手でした。

 リザードとオノンドに食事を摂らせています。

 ワタクシは咳払いをしてダンデに近づき、こう言いました。

 

『もしもしダンデ選手。あなたへの試験内容をお伝えしますよ。ルミナスメイズでヤバチャを捕まえてくること、だそうです』

『そうか! わかった!』

 

 ダンデは疑いもせず、のこのことワタクシについてきました。

 

 ルミナスメイズの森はいつ入っても薄暗く、不可思議な気配に満ちています。発光するルミナスキノコを揺らして明かりを強くしなければ、すぐに自分がいるところも分からなくなるような天然の迷路なのです。

 

『ではヤバチャを捕まえ次第戻ってきてください。タイムオーバー イズ ゲームオーバーですよ!』

『わかった!』

 

 ダンデはあっさり頷いて、茂みを掻き分け奥へ奥へと歩いていきました。

 愚かな少年です。そんな無造作に進んでは、すぐに出口がわからなくなってしまうでしょうに。

 

 ほくそ笑みながら踵を返した時、ワタクシははたと気づきました。

 

『…………ワタクシ、どちらから来たのでしょう』

 

 なんということでしょうか。

 ダンデを案内するのに夢中になって、自分も迷子になっていたのです。

 

 掌にじっとりと汗が滲みます。

 

 ケセケセと笑うベロバーが、まるでワタクシを嘲笑っているようでした。

 

 

 

 




というわけで60話。
次回ルミナスメイズに突入します。
ここ最近の森ダンジョンでは唯一迷うエリアです。
ヤバチャの真作色違い粘ったなあ……何の成果も得られませんでしたが。

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