ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第61話 予期せぬめぐり逢い。

 

 

 

 

 読者諸君はルミナスメイズの森を歩いた経験はあるだろうか。

 ここは世にも珍しい《光るキノコ(ルミナスキノコ)》が至る所に生えている。ほんの少し揺らしただけで幻想的な輝きを放つ性質があるため、電気がない昔は瓶に詰めてカンテラ代わりにしたらしい。

 生息するポケモンも、森林には珍しくフェアリータイプが多いからガラル童話の定番の舞台になっている。

 

「むかしむかし、ルミナスメイズの森の奥で〜」から始まる物語を、一篇くらいは聞いたことがあるだろう。

 

 ところが現実はおとぎ話ほど甘くない。あなたがこの森を抜けようと思ったら、やたら曲がりくねった道とそこかしこを塞ぐ大木、妖しい光に幻惑されて十歩と進まないうちに迷子になること請け合いだ。

 

「噂に違わぬ迷路っぷりだな、こりゃ」

 

 キノコを揺らして光源を確保しながら独りごちた。定期的にアマルス(ゴーシェナイト)に目印代わりの氷人形を作って貰わなけりゃ俺も即遭難者の仲間入りである。

 

「そんなとこに、よりによってダンデが入っていった、と」

 

 改めて口にすると心の底からうんざりした。

 東西南北も理解していない小僧がほっつき歩いていい場所じゃない。控えめに言って自殺行為だ。

 あいつは何を思ってこんなとこに潜り込んだんだろうか。つまらねえ理由なら引っぱたいてやる。

 

 奇跡的に森の向こうのアラベスクタウンに辿り着いてくれてれば話は早いんだが、そう都合よくいくまい。

 現実は非情だ。

 

ルギア(レヴィ)、なんか見つかったか?」

「んげぇ」

 

 ネイティに変化し、俺の頭の上で周囲を見渡していたレヴィが悲しそうに鳴いた。

 ただ見てるんじゃない、透視機能のあるミラクルアイを発動させての監視である。

 

 俺もさっき知ったんだが、どうも玉衣(たまごろも)で姿を変えている間は変身先の技をも使用出来るらしい。つまり、メタモンと同じことがやれるわけだ。

 つくづくチートすぎるアイテムである。

 気前よくくれたディアンシー女王に深く感謝した。

 

 腕時計を見る。現在の時刻は夕方6時45分。タイムリミットまで1時間もない。

 

「早く出てこいよ、クソっ」

 

 低く毒づいた時だった。

 横の茂みから飛び出してきた何かが勢いよく抱きついてきたのは。

 

 俺は腹の底から絶叫した。

 

「おわァァァアア!?」

「助けてくださァァアイ!」

 

 それが人間だと気づくのに2秒、男の子だと気づくのに3秒。都合5秒かかってダンデ以外にも迷子がいたと知った俺は、おもわず天を仰がずにはいられなかった。

 

「マジかよ。あと何人出てくんだ?」

「ワッツ?」

「あーいや、こっちの話。おまえ、どこのどちらさん?」

 

 少年は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をハンカチで拭うと、涙声で自己紹介した。

 

「ワタクシはセイボリーです。ラテラルジムジムリーダー・アイボリーの息子です」

 

 やけに綺麗な顔をした子供だった。ストレートの金髪にサファイア色の瞳はカロス名物のアンティークドールを彷彿とさせる。分厚い丸眼鏡をかけていて尚、彼の美しさは損なわれていなかった。

 

「ジムリーダーの坊ちゃんがなんでこんなところに? 

 ここの怖さはよく知ってるだろ」

「それは勿論ダンデを……あっ」

 

 セイボリーがパッと口を抑える。俺はすかさず肩を掴んだ。驚くほど華奢な躰をしていた。

 

「ダンデ!? いまダンデって言ったよな! お前もあいつを探しに来たのか?」

「へ……? あ、ああ、そうです!

 もちろんそうですとも!」

「そうか……!」

 

 俺は安堵した。ということは、ジムリーダーもダンデが居なくなったことは知っているのだ。わざわざ息子を捜索に出すくらいなのだから、さぞ気のいい人なんだろう。多少時間が過ぎても大目に見て貰えるかもしれない。

 

 希望的観測に過ぎないが、多少なりとも心が軽くなった。

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。一緒に探そうぜ」

「ほあっ!? い、いや、ワタクシは、ああでも、探しに来たと言った手前……」

 

 セイボリーはなにやらブツブツ呟いたあと、にっこり笑った。

 

「ええ。共に行きましょう。

 2人ならすぐ見つけられますとも!」

 

 そう言う少年の頬はぴくぴく引き攣っている気がした。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「ヤバチャはどこだろうな、リザード」

「がる」

 

 リザードは短く吠えた。たぶん、分からないと答えたんだと思う。ヒトカゲの頃から真面目なやつだった。

 

 ここは面白い森だった。

()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんかが代わる代わるやってきて、おれとリザードを見物していくのだ。

 襲うつもりは微塵もないらしく、これだけ多くの野生と出会っているのにバトルになることは1回もなかった。

 

「なあ、ヤバチャって何処にいるか知らないか?」

 

 試しに聞いてみたけれど、みんな首をふるばかりだった。仲間の位置は言えないということなのか。

 それとも、もうこの森には居ないんだろうか? 

 

「でもジムチャレンジのお題になるならいるはずだよなぁ」

「がる」

 

 相棒が同感だと言わんばかりに頷いた。片手間にキノコを揺らし、明るくしてくれている。

 

 彼は本当に気の利くやつで、俺が先を行こうとするとシャツの裾を引っ張って、そっちは今来た道だと教えてくれたりする。

 

 次はどっちに行こうかと悩んでいると、不意にリザードの目つきが険しくなり、臨戦態勢をとった。相棒が見ている方を振り返る。遠くの茂みが不自然に揺れていた。

 

「────!」

 

 やる気のある野生のおでましか。

 アイコンタクトを交わし、メタルクローの準備をさせた。得意の炎技は森が火事になるから使えないが、近接戦闘に持ちこんで一撃で倒せばいい。

 

 気配が近づいてくる。

 がさ、がさがさ、がささっ。

 

 リザードがますます腰を低くし、脚に力を溜め────不意に構えを解いた。

 

「リザード?」

「…………賢い子だね。こちらに敵意がないのを見抜いたようだ」

 

 そう言って茂みから現れたのは、森には不釣り合いなワンピースドレスを着たおばあさんだった。傘を杖がわりにしていながら、威厳に満ち溢れている。

 

「森のポケモンたちがやけに騒いでいるから何事かと思えば。坊や、こんな時間に何をしてるんだい?」

「ヤバチャを探してます。ジムチャレンジの一環で。おばあさん、何処にいるか知りませんか?」

「ジムチャレンジ?」

 

 婦人が訝しげに眉をひそめた。

 

「…………ヤバチャは確かにいるけれどね。彼らは深夜にならないと出てこない。真っ当な大人なら絶対に与えない課題だよ。そのチャレンジ、ちょっとおかしいねえ。隣町のよしみだ、ジムまでついて行ってあげようかね」

「帰り道が分かるんですか?」

「当たり前さね」

 

 老媼はくすくす笑った。

 

「ここはアタシの庭だよ、坊や」

 

 傘をくるりと回し、上品な足取りで歩き始めた。

 横に並びながら名を名乗る。

 

「おれはダンデ。ハロンタウンのダンデです」

「ダンデ。良い名だね。アタシはポプラだよ。気軽にポプラ姉さんとお呼び」

「わかった、ポプラ姉さん!」

「いい子だ。ちょっとばかしピンクが足りないけどね」

「ピンク?」

「がる?」

 

 おれとリザードは同時に首を傾げた。

 

 

 

 




というわけで61話。
主人公とダンデがそれぞれネームドと邂逅しました。

セイボリーくん奇天烈な言動でつい忘れがちですが剣盾でもトップクラスの容姿してるんですよね。なかなか好みです。
そしてみんな大好きポプラさん。ダンデとはジム以前に絡みがあったらいいなと妄想してたので会わせてみました。

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