ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第62話 ヒトもモノもひょんなことから見つかるもんで。

 

 

 

 

 迷子の少年・セイボリーは、暗い森の中やっと人に出逢えたのが嬉しくて仕方ないらしく、俺のシャツを掴んだまま後ろを歩いていた。恐怖を紛らすためかひっきりなしに喋っているが、ちょっとでも物音がするたびにしゃっくりみたいな音を立てて会話が途切れるため、しょっちゅう宥めてやらなきゃならなかった。

 

「お前地元民だろ? この森歩いたことねえの?」

「こ、ここは普段立ち入り禁止なんですよ。アラベスクに行きたい者はタクシーを使うのが普通です」

「立ち入り禁止ぃ? なのにダンデの野郎ずかずか入っていきやがったのか!」

 

 俺は憤慨した。ジム戦を控えている身でなんて迂闊な。掟を破ったかどで失格にでもなったらどうする気だ! 

 またむかっ腹が立ってきた俺は、ふと視界を横切る影を見た気がして足を止めた。

 

 セイボリーが不安そうな声で囁いてくる。

 

「ど、どうしたんです? 立ち止まる理由などナッシングでしょう? 早く先に行きましょうよ」

「いや、いまなんか居た気がして」

「ま、またまたぁ」

 

 悪い冗談はノーセンキューですよ。

 そう言う顔はすっかり青ざめ、歯がカタカタ震えていた。

 

「…………念の為ポケモン出しとけ」

「は、は、はいっ」

 

 セイボリーがわななく手でモンスターボールを開いた。ピンクの体に黄色い頭のポケモンが、ぼけーっとしたツラで地面に横たわる。

 

「やぁん」

「…………ヤドン?」

 

 俺の知ってるヤドンと少しばかり色味が違う。まぬけな風情はそっくりなんだが。

 

ガラル(こちら)のヤドンです。ワタクシのパートナーですよ」

「やぁん」

 

 腹ばいのままにっこり微笑まれた。愛嬌はあるね。戦えるようには見えないが。

 しげしげと見つめるアマルス(ゴーシェナイト)が鼻先でちょいっとつつくと、ころんと仰向けに転がった。面白がったルギア(レヴィアタン)(ネイティの姿)が続けてつつくと、ころんころんと転がっていく。そのまま茂みに突っ込んで、入れ替わるように大柄なポケモンが現れた。

 

 真っ黒い体毛をぐねぐねさせながら、鋭い牙で威嚇してくる。セイボリーが情けない悲鳴をあげた。

 

「お、オーロンゲっ!」

 

 オーロンゲは胡乱な眼差しで俺たちを睨むと、無造作に距離を詰めてきた。ゴーシェが立ち塞がり、凛々しい顔で吠える。あわや一触即発になりかけた空気を、気だるげな声が打ち破った。

 

「やめなよオーロ。その人たちは敵じゃない」

 

 木の後ろから現れた少年が手を振ると、オーロンゲは大人しく身を引いた。

 

 男にしては長い髪の毛を黒と白のツートンカラーに染めた、随分アバンギャルドな子供だった。内臓が2、3個足りないんじゃないかと思われるほど細い体でゆらりと立っている様は、恐ろしく儚げである。

 

「すいませんね。森を突っ切ろうとしたら話し声が聞こえたもんだから、密猟者かなんかかと」

 

 その言に、セイボリーが非難がましい目を向けた。自分とさして変わらない歳の子供に怯えた気恥しさで頬を赤く染めている。

 

「こ、ここは許可のない者の立ち入りは禁じられていますよ! ワタクシのお父様に言いつけますからねっ」

「…………」

 

 少年は眠そうに目を瞬きながら、あるものを取りだした。指の間に挟まれたそれがラテラルジムのエスパーバッジだと気づき、セイボリーの背が強ばった。

 

「そ、それは……っ」

「このとおり、()()()は得てますんで。それじゃ」

 

 少年が踵を返す。

 そのまま消えるかと思いきや、「……あー」と言いながら振り向いた。

 

「余計なお世話ですけどね。身内の威を借りる真似、ダサいからやめたほうがいいですよ」

「…………っ!!」

 

 セイボリーが真っ赤な顔で口をパクパクさせ、拳を固く握りしめた。言いたいことがありすぎて喉につっかえているらしい。少年はそんなセイボリーに構うことなくさっさと行ってしまった。

 

「な、な……っ! なんなんですあの無礼者は!

 全くもってアリ・エーヌ! 全力虫酸がランニング!」

「まあまあ落ち着けよ。語彙が面白いことになってんぞ」

「これが落ち着いていられますか!

 あいつはワタクシを侮辱したんですよっ!

 今度会ったらタダじゃおきません!」

「そうかい? なかなかピンクで面白い子じゃないか。

 一度じっくり話してみたいねえ」

「強そうなオーロンゲだったな!」

「かなり鍛えられてたよなあ。ありゃ相当…………ん?」

 

 いま、知らん声と知ってる声が混じってなかったか? 

 片眉をあげて振り向けば、魔女みてえな婆さんと笑顔のダンデが立っていた。

 

「ようアシタバ! さっきぶりだな!」

 

 そんな風にほざくもんだから、俺もニコニコしながら近づいて。

 

「ようじゃねえこのクソガキャぁ!」

 

 脳天に思いっきりゲンコツを喰らわしてやりました。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 最後の挑戦者を退け、壁の時計に目を走らせる。

 7時を半分回っても、ダンデとかいう憎き子供が戻ったという報せはない。

 

 ゴージャスボールを磨きながらほくそ笑んだ。

 

 己の推薦したトレーナーが行方不明になったと知ったら、新任の委員長殿はどんな顔をするだろうか。

 いつも浮かべているあの薄気味悪い微笑みが崩れるところはぜひ見ておきたい。

 きっとしばらく、いい酒の肴になるだろう。

 

「この私をマイナーリーグになど落とそうとするからだ、愚か者め」

 

 歴史を学ばぬ人間はどうしようもなく浅薄だ。誇り高き我が一族がどれだけガラルに貢献してきたか知ろうともしないのだから。

 

 このところ、少々敗けがこんでいるからなんだというのか。多少挑戦者にキツく言ったくらいで、ジムリーダーとしての素質に欠けているなどと、思い違いも甚だしい。

 

 世の連中は須らく、王の血統に連なる私に拝謁できることに畏れと喜びを抱くべきなのだ。その姿勢が見えない者に灸を据えてやるのは上位者の義務であろう。

 

 2つ目のボールに手をかけたとき、妻が慌てて駆け込んできた。彼女がなにか言おうとするより早く、品のない振る舞いを一喝する。

 

「何事だ騒々しい。もっと落ち着いて行動したまえ!」

「そんなことを言ってる場合じゃなくてよ、あなた」

 

 妻はすっかり青ざめ、頬が引き攣っている。青灰色の瞳だけがギラギラ光っていた。

 

「あの子供が帰ってきましたわ。ローズと、おまけにポプラの婆さんを連れて。ジムチャレンジに犯罪の疑いがあると言ってきているんですのよ……!」

「なん、だと」

 

 私の手から、ゴージャスボールが転がり落ちた。

 

 

 

 

 




というわけで62話。
セイボリーの家庭は彼のリーグカードからしか窺い知ることができませんが、まあ多分「良い人達」ではないのかなーと思ってます。
選別思想バリバリなタイプ。
元々ガラルのモデルとなったイギリスが身分差別の強いお国柄なんでこういう輩もいるやろなあ。

途中の少年はもちろんあの人です。ポケカで少年時代が描かれた時あまりに可愛すぎて買い占めそうになりました。
剣盾で最も好きなキャラです。

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