ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第63話 お仕置き。

 

 

 

 

 ラテラルジムの前では、ソニアとローズさん、それからカブトプス(カブルー)が待っていた。ダンデを認めたソニアが目に涙を浮かべて駆け寄ってくる。

 

「ダンデくんのバカバカ! どこいってたのよ!」

「ルミナスメイズだよ、ヤバチャゲットがジムチャレンジだって言うからさ」

「ジムチャレンジ……?」

 

 ソニアがぽかんと口を開けた。

 

「何言ってるの? ドーブルが描いた絵のモデルが誰か当てるのがジムチャレンジだったでしょう?」

「え?」

「え?」

 

 少年少女が首を傾げる。ポプラさんが低く呟いた。

 

「どうも、トレーナーによって違う課題が出されたようだね。それにしたってこの坊やに与えられたものは無理難題が過ぎると思うけど……どう考えるね、ローズ委員長」

 

 問いかけに、ローズさんが無表情に顎髭を撫でた。その横顔があまりに冷たくて、無関係の俺ですら肝が冷えた。

 

「────色々気になることはありますが、ここはひとつ、ジムリーダーに率直に訊ねるとしましょうか」

 

 微笑む顔も声も最初に出会った時と変わらない。

 しかし眼だけは、底知れぬ穴のように得体が知れない闇を宿していた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 中に入ると、いくらも経たずに唇を真一文字に引き結んだ女性が現れた。豪奢なドレスに身を包み、プラチナブロンドの髪を美しく結い上げていても、顔に浮かぶ緊張の色は隠しようがない。

 

「……こんばんは、委員長様。

 本日は何用でございまして?」

 

 口調こそ居丈高だが、声がところどころ震えている。セイボリーがおずおずと手を挙げた。

 

「あ、あの、母上…………?」

 

 母と呼ばれた女がくわっと目を剥いた。

 

「お黙り! 簡単な仕事も出来ない能なしが、軽々しく呼ばないで!」

「…………」

 

 セイボリーの眉がハの字に下がった。みるからに意気消沈している。あまりの剣幕にソニアが怯え、ダンデは怪訝な顔をした。ポプラさんとローズさんだけは、彼女の反応を予期していたかのように押し黙っている。

 

 女はフーっと息を吐いてから、硬い仕草で奥を示した。

 

「────応接室で主人が待っています。どうぞ」

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 通されたのは、応接室というより王宮のように荘厳で絢爛豪華な広間だった。

 

 扉からジムリーダーの座る椅子(これもまた玉座のように仰々しい)まで赤い絨毯が敷き詰められている。毛足が長すぎて足音1つ響かない。

 

 腰掛けていた壮年の男が、俺たちが入ってきたのを見てゆったりと立ち上がった。

 セイボリーが歳をとった姿、と言われてもしっくり来るぐらいよく似ている。

 実の父親であることは疑いようがない。

 

 彼がラテラルジム・ジムリーダーのアイボリーであった。

 

「これはこれは委員長殿。シュートシティから遠路はるばる大変でしたねえ」

 

 アイボリーが喋った瞬間、俺は反射的に嫌悪感を覚えた。ねちねちとした喋り方も然ることながら、相手を思いやる心など1ミリも持ち合わせていない傲慢さが滲み出ているからかもしれない。

 

 自分だけ腰掛けてから、ジムリーダー殿が「それで?」と指をひらめかせた。

 

「本日はどうされましたかな? 生憎もうジムを閉める時間なんですが」

「では単刀直入に申し上げましょう。こちらのジムがチャレンジャーに与える課題についてあなたの考えをお聞かせ願いたい」

「課題……?」

 

 アイボリーはわざとらしく眉をひそめた。

 

「ドーブルが描いた絵のモデルを当てさせるゲームに、なにか不都合でも?」

「それだけならば何も問題はありませんよ」

 

 ローズさんの笑みが深まる。

 しかし、出入口前で見せた無表情よりも凄みが漂っていた。

 

「何故かダンデくんには、ルミナスメイズでヤバチャを捕まえてくるようにと仰ったそうですね? 危険極まりない課題であるうえに、チャレンジ内容が挑戦者によって変わるのはレギュレーション違反ではありませんかな?」

「さて」

 

 アイボリーがくすりと笑った。人を小馬鹿にした笑い方だった。

 

「下々の者が勝手に設けた規律など知る由もないが、あえてお答えするならばそう…………手違いでしょうね」

「手違い?」

 

 聞き返したのはポプラさんだった。

 

「なら、この坊やにもイラストクイズを出す予定だったってことかね?」

「おお、その通りですよレディ・ポプラ。あなたはいつだって聡明で美しい」

 

 芝居がかった仕草で拍手してから、アイボリーは可哀想なものを見る目で部屋の隅に視線を走らせた。

 そこではセイボリーが細い肩を竦めて立っている。父親に見られていると気づき、上目遣いで見返した。

 

「あそこに居る私の愚息ですがね。いやお恥ずかしい話、ろくな超能力も使えない愚図でして。伝言なら出来るかと任せたのですが、全く見当違いの話を伝えたようですな」

「え……っ」

 

 セイボリーが目を見開いた。

 

「そんな、だって、父上……」

 

 アイボリーがじろりと睨めつける。

 およそ父親が息子に向けるものとは思えない、侮蔑と敵意に満ちた眼差しだった。

 

「なんだ? 言い訳なぞ聞きたくない」

「い、いえ。で、でも」

「でも? でも……なんだ? まさか貴様、私のせいにするつもりじゃあるまいな!」

「……………………」

 

 セイボリーは目に涙をいっぱい浮かべ、ぶるぶる震えながら頭を下げた。

 

「わ、ワタクシが間違っておりました……。

 ぜ、ぜんぶ、ワタクシのせいです…………。

 もうしわけ、ありませんでした…………」

 

 応接室がしんと静まり返る。

 誰も二の句を継げずにいた。

 ややあって、アイボリーが口を開いた。

 

「────ふん。まあ、そういうことですな」

 

 息子にだけ頭を下げさせてから、男は不快げに鼻を鳴らした。

 

「ダンデくんとやら、もう今日の仕事は終わったんだが、特別にバトルをしてあげよう。先にバトルコートで待っていてくれたまえ」

「わ、わかった」

 

 ダンデは心配そうにセイボリーを見やってから部屋を出ていった。ソニアとポプラも後に続く。

 

 ローズさんが静かな声で言った。

 

「…………それが、あなたの()()ということなのですね」

 

 アイボリーはそれには取り合わず、うるさそうに手を振った。

 

「すまないが息子と話がある。部外者は出ていって貰いましょうか」

「────そうしましょう。アシタバくん」

「…………はい」

 

 扉が閉まる瞬間まで、セイボリーは頭をあげなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 全員が退室したあと。

 父親は机の中から鞭を取り出し、軽く素振りをしていた。空気を裂く鋭い音に恍惚とした表情を浮かべている。

 

「やはり鞭はいい。

 高貴なる者()に相応しい仕置きの道具だ。

 お前もそう思うだろう、セイボリー」

 

 呼ばれたセイボリーがガタガタ震えながら小さな声で返事をした。

 おもむろに服を脱ぎ、跪く。

 背中には先日付けられたらしい傷跡が数条の赤い筋となって残っていた。

 

「なあセイボリー。馬鹿を躾けるのに最も効果的なものはなんだと思う?」

「……い、痛み、です」

「その通りだ。お前は今日、とんでもない失態を犯したな?」

「は、い」

「自分が何をやったか言ってみろ」

 

 セイボリーはわななく声で、己の罪状を1つずつ述べていった。

 

 ダンデを森に置いて来ることに失敗したこと。

 それを速やかに報告しなかったこと。

 ローズどころかポプラにまでダンデを葬ろうとしたことが露見しかけたこと。

 

 父親は嘆息した。

 

「全くもって忌々しいことだ。なぜ私の血を受け継いでいながらそんなにも愚かでいられるんだ? 

 いっそ不貞の子であれば納得できるものを。

 つくづくお前は生きてるだけで私の神経を逆撫でする存在だな?」

 

 セイボリーは何も言わない。必死に嗚咽を噛み殺しながら頬を濡らしていた。

 

「罪の数だけ叩いてやる。謝罪と感謝を忘れるな」

 

 大きく振りかぶり、1打目を浴びせようとした腕が不意に硬直した。

 

「────!?」

 

 アイボリーは瞠目した。どれほど目を凝らしても周囲には何もいない。なのに彼の手は、()()()()()()()()()()()()()()微動だにしないのだ。

 

 あーあ。

 もう少し泳がせるつもりだったんだが。

 

「卑劣な罠を仕掛けるだけじゃ飽き足らず、罪をぜんぶ息子に被せてあまつさえ虐待しようとするとはな」

 

 虚空から響く声に、アイボリーの血の気が引いた。

 

「な、なんだ。誰なんだ!?」

 

 レヴィが神秘(しんぴ)布陣(まもり)を解く。

 いきなり現れた俺たちを見て、アイボリーは声も出せないほど驚いていた。

 

「へえ?」

 

 俺は片眉をあげて笑った。

 

「エスパータイプの専門家のくせに、この程度も見抜けないんだな。お前の方がよっぽど愚図だろ」

「な……な……!」

 

 アイボリーの唇が震えた。

 お前呼ばわりに愚図と罵られたことが余程堪えたらしい。 

 

 腰のゴージャスボールにアイボリーの手が伸びる。しかしレヴィの念力がボールを弾き飛ばした。

 

「ぐ!」

「抵抗するってんならこっちにも考えがあるぜ、オッサン」

 

 俺は見せびらかすようにポケギアを振った。

 画面には、録音中の文字が点滅している。

 

「ここにあんたの息子の告白が録音してある。ひとりのチャレンジャーをジムリーダーが殺そうとしたことがわかる発言だ。これが世間に流れたら、さてアンタはどうなるだろうな?」

「…………!」

 

 アイボリーは口をパクパクさせた後、がっくりと項垂れて、なんでも言う通りにすると誓った。

 

「んじゃ、まずは息子の怪我を治せ。綺麗にだ。

 それからバトルコートに来い」

「…………わかった」

 

 上裸のセイボリーがおずおずとこっちを振り返る。

 俺はしゃがみこむと、そっと肩を抱いた。

 痛ましいほどに細く、か弱い。一体何年、こんな扱いを受けてきたんだろう。

 

「よくいままで耐え抜いたな。お前は愚図でも馬鹿でもない。立派なやつだよ」

「…………」

 

 セイボリーの両目から涙が零れ落ちる。

 俺は自分の上着を着せ、セイボリーが落ち着くまで頭を撫でた。

 

 

 

 数十分後。

 ダンデは圧倒的なパワーでアイボリーを捩じ伏せ、エスパーバッジを手に入れた。

 

 

 

 




というわけで63話。

オリキャラやしどんだけクソ野郎に描いてもええやろィヤッフー!の気持ちで書いたらほんとに嫌な奴になって草。
最初の段階ではアシタバくんにフルボッコにさせる予定でしたが、さすがに子供の前で親をボコるのはアカンということでこういう展開に落ち着きました。
物足りねえ過激派の皆様は脳内でお好きなようにとっちめてください。
ちなみに作者は氷漬けにする予定です。

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