ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第64話 大人として。

 

 

 

 

 ジム戦後。

 ラテラルタウンのポケモンセンターで手持ちを回復してもらっているダンデに背後から呼びかけた。

 

「ダンデ」

「ん?」

 

 俺は腰を直角に折り曲げて、深く深く頭を下げた。

 

「殴ってすまなかった」

 

 てっきり方向音痴のくせにフラフラ出歩いていたのかと思っていたが、まさかあんな危険な罠にハメられていたとは。ポプラさんが見つけてくれたから良かったものの、そうでなければ今頃遭難者リストのトップに名を連ねていたかもしれない。

 アイボリーと話しているときも、ジムバトルを観戦していたときも、何も悪いことをしていないダンデを殴ってしまったことがずっと気がかりだったのだ。

 

「痛かったろ。ごめんな」

 

 ダンデはからっとした顔で笑った。

 含むところなどまるでない、太陽のように明るい笑みだった。

 

「なんだそんなこと! いいよ! おれが迷子になりやすいのは事実だしさ。ソニアから聞いたよ。いっぱい探し回ってくれたんだろ? こっちこそありがとう!」

「……ん」

 

 ダンデが差し出してきた拳に、俺の拳を軽く合わせた。

 いいやつだな、やっぱり。

 二言三言話すだけで心がふわっと軽くなる。

 きっとこいつは、歳を重ねるほどに大勢から愛されるチャンピオンになるだろう。

 

 そのとき、ちょうどジョーイさんがボールを運んできた。どこかに電話をかけていたローズさんとポプラさんも戻ってくる。

 

 ソニアとダンデが話し始めたのを幸いに、俺はそっとローズさんに近づいて、ポケギアの録音データをコピーしたメモリーチップを差し出した。

 

「これは?」

「ラテラルのジムリーダーと息子の会話記録です。どう使うかはお任せします」

 

 子供たちに聞こえないよう囁き交わす。

 ローズさんがじっと俺の目を見つめた。俺もまっすぐ見つめ返す。

 

 あのクソ親父はきっと、これまでにも散々悪質な行いに手を染めてきたに違いない。セイボリーへの言動でそれと知れる。たぶんローズさんだって薄々勘づいてはいたはずだが、確たる証拠が掴めなくて何も処罰できなかったんじゃないだろうか。

 

 だが、いくらなんでも今回の件は一線を超えていた。この音声データを然るべき機関に届ければ、ほぼ確実に夫婦ともどもお縄につくだろう。

 ガラルは今日着いたばかりの土地だけれど、あんな輩をのさばらせておくことは1トレーナーとして我慢ならなかった。

 

 ローズさんは黙ってチップを受け取ると、しっかり掌の中に握りこんだ。

 

「合法的な手段で手に入れたデータではなさそうですが────ありがたく使わせていただきます」

 

 鋭い。俺は内心舌を巻いた。

 あまりこの人とは長く居ない方がよさそうだ。こっちの隠したいこと、言いたくないことがどんどんバレていきそうな予感がする。

 

 やや強引に話題を変えた。

 

「…………あの、もしよかったら、そのデータを使う時はあらかじめセイボリーを保護してやってくれませんか。あいつはただ親に命令されてやっただけですから」

「そこらへんは抜かりないよ」

 

 ポプラさんが微笑んだ。

 

「古い友人が近頃島を買ってね。そこに連れていって貰うよう頼んでおいたよ。豊かな自然でゆっくりすれば、いずれあの子の傷も癒えるだろうさ」

「ありがとうございます」

 

 なら安心だ。俺はほっと安堵の息を吐いた。

 その日はなんだかどっと疲れて、ベッドに入った瞬間泥のように眠った。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 とあるバーに二人の男女が座っている。

 どちらも度数の高い酒でグラスを満たしているが、あまり減ってはいないようだった。

 

「やれやれ。随分色々あった晩だったね」

「ええ、本当に。

 今夜はあなたがいてくれて助かりましたよ」

「あたしは何もしちゃいないさ。

 動いたのはあの子だろう? ええと…………」

「アシタバくん、ですね」

「そう、アシタバだ。あの子はいいね。気骨がある。

 頭も悪くない。ちょいとピンクが足りないが」

「あの若さにしては清濁併せ呑むタイプですしねえ。

 ぜひ部下に欲しいところですが」

「いくらあんたの誘いでもそれには乗らないだろうね。

 あの子の瞳は世界を見たくてウズウズしてる。

 アンタにも覚えがあるだろう?」

「────さて」

 

 男は伏し目がちに笑った。

 自嘲と傷心が仄かにブレンドされた、苦い笑みだった。

 

「あのぐらいの年頃には、もう会社を立ち上げておりましたしねえ。近頃は責任の無い立場で居られた時代が思い出せなくなりつつありますよ」

「…………」

「どれほど金を稼げても、過去ばかりはどうしようもない。逃れたくても、拭いたくても、後ろをピッタリ着いてくる。時々、無性に叫びたくなりますよ。意味のない言葉を、大声で、ね」

「叫んだっていいんだよ」

 

 女が言った。厳しくも優しい眼差しで。

 

「叫べるうちに叫べばいい。

 そうやって押し殺し続けていたら、ほんとうに言いたいことも分からなくなっちまうよ」

「…………ご忠告、痛み入ります」

 

 男は、視線から逃れるように礼を述べた。

 グラスの中の氷が、冷たい音を立てて揺れた。

 

 

 

 




というわけで64話。
後始末回なのでちょい短め。

自分で書いといてなんなんですが何も悪くないダンデくんぶん殴ったの後味悪くて謝りたくてしゃーなかったです。許してくれてよかった。さすが未来のチャンピオン。

みなさんはDLCプレイしてますか? 私は新キャラたちがどいつもこいつもスケベすぎて寝不足です。なんだあのホクロ。なんだあの服。スケベすぎんだろ!

よければ感想高評価おなしゃす!
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