ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第67話 惑う者たち。

 

 

 

 

「さあてさて。腹が減ってはなんとやらってね。今夜はみんなでご飯を作ろうか。カブちんは火を起こして。アシタバちんは美味しそうなもの見つけてきてよ」

「わかりました」

「うっす」

 

 原生林の方に走る。頭の上に乗りっぱなしのルギア(レヴィアタン)(ココガラの姿)に命じた。

 

「色んな味のきのみ探すぞ! 

 とくに苦いのと辛いのと酸っぱそうなやつ!」

「げる!」

 

 食いしん坊の嗅覚というかレーダーの精度は凄まじくて、レヴィはあっちこっち飛び回り、ほんの短時間でどっさり獲ってきた。

 

「やるじゃん」

「げるん」

 

 レヴィが胸をそらした。

 お? ふふん、ってドヤ顔したなオメー。そういう生意気なやつは喉首こちょこちょの刑だおらっ。

 

「げるるるるぃっ」

 

 仰向けに倒れくすぐったそうに笑いだす。変身してるのもあるが、なんかどんどん伝説っぽさが薄れてくな。こいつほんとはルギアに激似なだけのタダの鳥では? 

 

「羽衣着せてるし、バトルに出すのもありかもな」

 

 戦わせたのはカブトプス(カブルー)を盗んだクソ野郎相手の時だけだけど、本当に楽しそうに暴れてた。

 もしもこいつも戦いたい、強くなりたいと考えてるなら、トレーナーとしてできる限り尊重してやりたいと思う。

 

「…………な、レヴィ。お前も、バトルに出たいか?」

「げるん?」

 

 レヴィは真ん丸の瞳をぱちぱちと瞬かせた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ほどよく乾いた枯れ枝を集め、火を熾す。

 あかあかと燃える焚き火の前に腰を下ろしたマスタードさんがにこにこしながら褒めてくださった。

 

「さすが手馴れてるねえ」

「旅する期間が長かったものですから」

 

 焚き火を作ることはもはや人生の一部のようなものだ。

 ホウエン中を巡った10代と、えいやと飛びこんだガラルで冒険した20代。もはや親元にいた時間より、家を離れている時間の方が長くなってしまった。振り返ってみれば矢のように素早く去っていったが、毎晩火を囲んで仲間たちと語らった大切な過去である。

 

 ガラルに移住してから10年後、30になると同時にジムリーダーの話が持ち上がった。

 一旦はよそものだからと断ったけれど、他でもないマスタードさんが強く推してくださっていると知り、ありがたくお受けすることにしたのだ。

 

 ジムリーダーになって最初の数年は楽しかった。勝利も敗北も困難も、全て糧にできていたと思う。

 

 なのに、負けることが増えた。

 別段怠けていたつもりはない。毎日欠かさずトレーニングし、チャレンジャーを捌く一方でライバル達の研究も重ねていた。それでも戦績は下降の一途を辿っていく。

 一時は次代のチャンピオンとまで持て囃してくれたマスメディアが、人格をも否定するような辛辣な記事を載せるようになるのに大して時間はかからなかった。

 

 そんな苦しい状況に、一筋の光明が差した。

 

 鋼の大将の異名を持つ友人がマスタードさんを降し、チャンピオンの座に輝いたのだ。

 

 祝福する傍らこう思わずにはおれなかった。

 

『鋼タイプの彼になら、僕でも勝てるかもしれない』────と。

 

 浅薄だ。そして傲慢だ。

 けれど、溺れるものが藁に縋るような必死さで、ただそれだけを支えに日々を生きた。

 鍛錬の時間を倍に増やし、来る日も来る日も炎タイプの可能性を模索した。

 

 火力をひたすら押しつけるゴリ押しの戦法から、鬼火や催眠術といった搦手を中心とする戦術に組み直すと、世間の評判は下がったものの勝ち星を掴める日が増えた。

 

 口さがない記者には「手段を選ばぬダーティプレイ」と叩かれたが、知ったことじゃなかった。

 

 そして、長い激闘を制し、ファイナルトーナメントへの出場権を獲得した夜のこと。

 

 ローズさんがリーグ委員長に就任したという報せと、チャンピオンが逐電したというニュースが同時にガラルを席巻した。

 

 誰もチャンピオンが消えた理由を知らなかった。

 様々な憶測が飛び交い、特集が組まれ、何処の馬の骨とも知らないコメンテーターたちが訳知り顔で語りたがったけれど、結局本当のところは分からずじまいだった。

 

 僕は頭のなかが真っ白になった。

 彼を倒すために、対鋼に特化したチームを組んだのに。彼の好むスタイルや選ぶ技を、何度も何度も何度も何度もビデオで見てきたのに。

 

 僕たちは親友だと思っていた、のに。

 

 彼は霞のように姿を消した。

 そして、格闘王マスタードが再び王座に戻ってきたのである。

 

 その年、僕はトーナメントを初戦で敗退した。

 選ばれし強者のみが集うこのトーナメントで相手のポケモンを一体も倒せなかったトレーナーは史上初らしく、あらゆるメディアが嬉々として《歴史的大惨敗》と取り上げた。

 

 街をあげて応援してくれていたエンジンシティの人達に申し訳なくて、何日も家に引き籠った。

 

 例の通達が届いたのは半月後だ。

 

 新委員長の筆跡で、マイナーリーグへの移籍が記されていた。

 

 すなわち、降格である。

 

「…………っ!」

 

 手の中の枝が高い音を立ててへし折れた。

 

 手紙を読み進めたときの、口の中に苦いものが広がっていくようなひどい不快感は忘れようったって忘れられない。マスタードさんがこの島に誘って下さらなかったら、いまごろ自宅で舌を噛んで死んでいただろう。

 

 師匠の温情は、僕にとってまさしく救いであり、命綱だった。

 

 それだけに解せなかった。

 この方はなぜ、あんな物知らずの子供と組ませようとするのだろう。

 この地のチャンピオンも知らないような人間と修行して、僕に得るものがあるのだろうか。

 

 すると、マスタードさんにいきなり訊ねられた。

 

「なんでアシタバちんと一緒にさせたか分かんな〜い、って顔してるね?」

「は……! いや、その」

 

 図星だった。どぎまぎする僕にマスタードさんは莞爾と笑い、濃い緑茶を差し出してくださった。

 

「いいのいいの、隠さなくたって。カブちんならきっとそう思うだろうって読んでたからねん」

「は…………」

 

 顔が熱い。僕の浅慮などお見通しというわけか。

 

「いまここで答えを教えてあげてもいいんだけど、ちょうどいいや、カブちんへの宿題にしちゃおう」

「宿題?」

「そう」

 

 マスタードさんは僕の手から枝を取り上げると、焚き火に放った。

 

「なぜアシタバちんと組ませたか。

 ここで何を学び、どう生かすつもりなのか。

 島を出る日に、カブちんなりの答えを聞かせてちょ」

 

 僕が絶句していると、件の青年──アシタバくんが山盛りのきのみを抱えて戻ってきた。

 

 彼と僕とで作ったカレーはやけに水っぽく、そのくせ苦くて辛くて酸っぱくて食べられたものじゃなかったが、マスタードさんは平気な顔をして完食されていた。

 

 チャンピオンは胃袋までチャンピオンらしい。

 

 

 僕のほうは、なかなか喉を通らなかった。

 

 

 

 




というわけで67話。
二人の男が悩むの図。

マスタードさんの経歴って歴代で見ても珍しく、チャンピオン→引退→復活→また引退という流れを踏んでるんですよね。
現時点でのダンデはいちチャレンジャーに過ぎませんので、時系列はこの流れで言う「復活」のタイミングにあたります。

果たしてカブさんは宿題の答えを見つけられるんでしょーか。
よければ感想高評価おなしゃす!
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