衣食足りて礼節を知る。
まずは心安らかに過ごせるお家を作ろうね、というマスタード師匠の一声で、俺とカブさんはガルーラ探しに向かわされた。
なぜガルーラかといえば、頑丈で快適な巣を構えることに長けている種族だから──ということらしい。
世界には全ての家屋をガルーラが建てた街もあるんだとか。一概には信じ難い話だが、ちっさいルギアが人んちの窓にぶつかってくる世の中だし、そういうこともあるんだろう。いつか見てみたいもんだ。
「にしてもポケモンって凄いすよねえ」
隣を歩くカブさんを振り返る。
「家まで建てちゃうなんて。ヤバくないすか」
「そうだな」
脛まで隠れる草深い湿地を歩きながら、カブさんはぶっきらぼうに頷いた。
控えめに言っても歩きづらい土地だった。乾いた土などどこにもない、粘つく泥が一面に広がって、至るところに嫌な臭いのする沼も湧いている。
たぶん、毒ポケモンたちの住処なんだろう。
マスタードさんはここを清涼湿原と名づけていたが、どこに清涼感があるのかまるで分からなかった。
絶え間なく流れる汗を拭う。
無言で歩くと余計に疲労が溜まりそうで、カブさんに話を振ってみた。
「カブさんってガルーラ見たことあります?」
「ある」
「へー」
「……」
「……」
「……あー、えと、捕まえたことは?」
「ない」
「た……戦ったことは?」
「ある」
「…………」
「…………」
会話、終了。
いやあの、一言いいすか。
気 ま ず い っ て レ ベ ル じ ゃ ね え
もうね、一事が万事こんな調子。
無駄口を聞かず、ひたすら黙々と歩く姿はザ・仕事人って感じで渋いけどさあ。もっとこう、仲良くしようって姿勢があってもよくない?
せめて雑談くらいしようよ。足元ベッチャベチャグッチョグチョの湿地帯なんか進むだけで気が滅入るんだから。
どーも俺はこの人に好かれてないらしい。そんなに昨日の師匠への態度が気に食わなかったんだろうか。
ぐじゅ、とひときわ粘性の高い泥を踏んだところで、カブさんがふと足を止めた。
険しい眼差しで彼方を見はるかしている。
「どうしました?」
「…………群れがいる」
「群れ?」
俺も同じほうをじーっと眺めてみたが、特段変わったものは見つからない。せいぜい、岩の小山がある程度だ。
この湿地は島の中央に位置している。
北には不思議なキノコが群生する森が、西には水ポケモンたちが遊ぶ砂浜があり、南に下れば島の下部を網羅する洞窟に入ることが出来る。
この湿地さえ抜ければ島のどこにでも行ける訳だが、裏を返せば島中のポケモンとすれ違う危険地帯でもあるということだ。
────そういや出かける直前マスタードさんが、
「通る時には気をつけるんだよん。
この島には1度怒らせたら手のつけられないポケモンちゃんたちが大勢いるからねん」
とか言ってたな。
野生の中には気性の荒いものや縄張り意識の強いものもいる。群れがいるなら是非とも避けて通りたい。だけどどれだけ注視してみても、ただの岩しか見えなかった。
「あの、群れってどこに」
と言いさした俺を、震える大地が制止した。
岩山が轟音を立てて
最も大きく年古りたイワークが天を仰いで咆哮すると、若いイワークたちも轟き叫んだ。鼓膜を聾する爆音に両耳を塞いでしゃがみこむ。頭のうえの
岩蛇の群れはひとしきり叫び終わると、ゆっくりと向きを変えて移動しはじめた。
幸い、俺たちが向かうのとは逆方向である。
最後の1匹が見えなくなるまで見送ってから、俺は呆然と呟いた。
「すげー迫力…………あんなん初めて見た」
「…………僕もだ。凄かったね」
「え」
微かな呟きに顔を向けると、カブさんは既に踵を返していた。
────いま、聞き間違いじゃなければ、「僕もだ」って言ってたよな。
このひと、無愛想なだけで悪い人じゃないのかもしれない。ほんの少し、カブさんへの印象が上向くのを感じながら、慌てて後を追いかけた。
というわけで68話。
短くてすんません。
ガルーラは二足歩行だし母性愛の強いポケモンだしで、デカくて丈夫な巣を作るのが得意そうだな〜と熱にうかされながら思いついたネタです。
明日もすこし更新遅くなりそうですが頑張ります。
良ければ感想高評価おなしゃす!