ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第69話 急がば回れ。

 

 

 

 

 清涼湿原を歩き続けてはや1時間。

 だんだん湿った泥が減ってきて確かな感触が足裏に感じられるようになってきた。湿原を抜け始めている証拠だ。

 

 前方にはやけにすくすく育った木立が見えている。マスタード師匠が《集中の森》と名づけた森林地帯だろう。

 

 …………湿原と言いこの森と言い、あのひとのネーミングセンスはなんなんだろうか。集中っておよそ地名に使う言葉じゃなくね? 

 

「あそこらへん、ガルーラ居そうじゃないっすか?」

 

 森を指さすと、カブさんが小さく頷いた。

 

「同感だ」

「んじゃ、森に入る前にひと休憩いれましょうよ。泥だらけでヘトヘトだ」

 

 太陽が燦々と降り注ぐ野原を示す。腰を下ろしリュックの中を探ると、おやつタイムだと察したルギア(レヴィアタン)(ココガラの姿)が頭の上で嬉しそうに鳴いた。

 

 ところがカブさんは座りもせず休憩を拒絶した。

 さっきイワークたちの群れを見た時とは打って変わった硬い声色だった。

 

「休憩は要らない。このまま行こう」

「えっ」

「げっ?」

 

 俺とレヴィは硬直した。

 休まない? マジで? 

 俺は愛想笑いを浮かべて首を振った。

 

「い、いやいや。10分15分休むだけですって。あの森は見るからに深そうだし、ヘロヘロの状態で行ってもしんどいだけですよ? カブさんだって疲れてるでしょ? 出かけた時より息が上がってるじゃないですか」

 

 しかしカブさんは頑なに、必要ないの一点張りで譲ろうとしなかった。言葉を尽くして説得してみたが暖簾に腕押し糠に釘状態である。

 しばらく押し問答が続き、結局こっちが根負けした。

 

「…………わかりました。いきましょ」

「ああ」

 

 渋々立ち上がると、カブさんはさっさと先を行ってしまった。

 

「げるぅ……」

 

 物欲しそうにレヴィが鳴いた。ポケットにしまっていたヒメリの実を喰わせてやる。一瞬でご機嫌になった雛鳥に苦笑しつつ、重い足を引きずるように森に向かった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 集中の森に入った時、まず目に飛び込んできたのは尋常でない色をしたキノコだった。どぎついネオンピンクに輝き、一抱えほどもある太さのキノコがそこかしこに生えている。啄もうとするレヴィを慌てて引き離した。

 

「やめろっ、見るからにヤバい感じするだろがっ」

「げぅるう?」

「イケると思うよ? じゃねーよイケなかったらどーすんだよ」

「げぇ」

「吐けばいーじゃんじゃねえこのバカ」

 

 わちゃわちゃ騒いでいるとカブさんから凄い圧を感じた。はいすみませんガルーラ探します。

 

 とはいうものの、はてガルーラの痕跡とはどんなものなんだろうか。俺は首を傾げた。

 

 ガキの頃、遠足でセキチクのサファリゾーンに行ったことがある。ケンタロスやらサイドンやらミニリュウやら、図鑑でしか見た事のないポケモンのオンパレードに俺たちは興奮しっぱなしだったが、ガルーラだけは影も形も見えなかったのだ。ガイドは「何日も通いつめても足跡すら拝めない人もいる」ぐらいレアな存在だと言っていた。

 

 え、それ探せって鬼すぎん? 

 それとも野生ならわんさか出てくるとか? 

 

 頼むからそうであってくれと祈りつつ虱潰しに歩き回るが、出てくるのは虫や鳥ポケばっかりで、ガルーラみたいな大型ポケモンの気配はちっとも見当たらなかった。

 

「ここには居ないのかもしれない。先に進もう」

 

 急ぐカブさんの顔にも疲労の色が濃い。俺は流石にたまらなくなってその場にへたりこんだ。

 

「無理! もームリっす! 休憩しなきゃ死んじまう!

 休みましょカブさん!」

「アシタバくん」

 

 カブさんの目つきが険しくなった。

 

「さっさとしてくれないか。君の駄々に構っている余裕はないんだ」

「駄々って、なんすかその言い方。必要な提案ってやつでしょーよ! 別に師匠も期限なんて決めてないんだから時間はたっぷりあるじゃないすか」

「時間なんかないよ!」

 

 唐突な怒声に、森がしんと静まり返った。

 

「僕は1分でも1秒でも早くガルーラを捕まえて道場に帰らなきゃならないんだ! マスタードさんの教えを乞うために長期休暇の申請まで出してる! 君のペースに合わせてちんたらしてたらいつまで経っても帰れやしない!」

「…………っ! お言葉ですけどねえ」

 

 勢いよく立ち上がり、正面から睨みつけた。

 さすがにその言い分には腹が立つ。

 

「俺だってなにも怠けてるわけじゃない。やるべきことはやってるでしょうが! だけどムリに続けたって身がもたないから休もうって言ってるだけですよ。何をそんなに焦ってんですか!」

「…………っ!」

 

 カブさんがギリリと奥歯を噛み締めた。俺を睨む瞳に、怒りだけじゃない複雑な色が見え隠れして、俺ははっと息を飲んだ。

 

 この目には見覚えがある。ホウエンはムロの砂浜で、俺を問いつめたときのクチートの眼差しにそっくりだった。

 

『私には無いんだよ! そんな時間も、猶予も!』

 

 彼女も怒っていた。そして、それ以上の焦りと哀しみを抱えていた。

 

 さらに昔の記憶が甦る。父さんと母さんをいきなり喪い、泣きたい気持ちを振り払うようにジムリーダー試験の勉強をしていた俺は毎日焦っていた。寝ても醒めても居心地が悪くて、四六時中追われているように心が落ち着かなかったものだ。きっと、目の前のカブさんみたいな顔をしていただろう。

 

 ────ああ、なるほど。

 あの頃慰めようとしてくれたマツバは、こんな気持ちだったんだな。

 

「…………カブさん」

 

 大きく深呼吸してから、俺はなるべく穏やかな声で話しかけた。

 

「俺は、一時的にではあるけれどあなたのパートナーです。敵じゃない。だから、あなたがムチャをするのを見捨ててはおけません。話せる範囲でいいから話してくれませんか。あなたがどうして、そんなに追い詰められた顔をしてるのか」

 

「────」

 

 カブさんの瞳が揺れた。何か言おうとして、掠れた吐息だけが唇から漏れていく。

 

 俺はシートを広げ、その端に腰を落ち着けた。ビスケット様の携行食を取り出し、ひとつひとつ並べていく。

 

「出がけに師匠が持たしてくれたんです。甘いの辛いのしょっぱいの、いろんな味をね。少なくとも昨日のクソマズカレーよりかは美味いですよ。お茶のパックも色々あります。紅茶に緑茶、コーヒー粉末も」

 

 レヴィが俺の頭から下りて、カブさんの足元にちょんちょんと飛び跳ねていった。

 

「げるる」

 

 休もう、と囀る小鳥に、とうとうカブさんは降参してリュックを下ろした。

 

「……お湯は僕が沸かすよ」

「あざっす」

 

 俺は素直に微笑んだ。

 

 

 

 

 




というわけで69話。
自分の欲しい結果が得られない時、努力が実らなかった時、どうしようもなく焦るし虚無な気持ちに襲われますよね。
はたして主人公はカブさんの心に刺さったトゲを抜けるでしょうか。

おかげさまで作者は快方に向かっております。
心配してくださった方々ありがとうございます!

よければ感想高評価おなしゃす!
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