ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第70話 過去と角笛。

 

 

 

 

 あたたかい紅茶を飲み、甘いビスケットを頬張るうちに、少しずつ落ち着きを取り戻したカブさんは、ぽつりぽつりと昔の話を語ってくれた。

 

 幼い頃にテレビで見たカントーリーグ戦で、カツラというトレーナーが織り成す炎技に魅せられたこと。

 家で飼っていたガーディを相棒に、炎タイプを極めると決めたこと。

 ロコンとコータスを引き連れてあちこちを旅したこと。

 新たな土地で新たな仲間──ヤクデやヤトウモリとともに、鍛錬に明け暮れたこと。

 夢に見るほど焦がれたジムリーダーに就任し、輝かしい日々を過ごしたこと。

 

 そこまで話すと、急にカブさんの口が重くなった。

 とうとう、彼が最も言いたくない事柄にぶち当たったらしい。俺は急かさず、ただ待った。

 

 太陽の角度がすこし傾いた頃。

 カブさんが口を開いた。

 

「────いきなり、勝てなくなったんだ」

 

 低く呟くその声は、いまにも消え入りそうだった。

 

 

 ひとつのタイプのみを扱うジムリーダーは、えてして対策を打たれやすい。ましてカブさんの元にたどり着くトレーナーはバッジを2つゲットして、波に乗っている頃合だ。伸び代も勢いも充分にある。

 昔は捌けていたはずのその波に、ある時期から飲まれることが増えたという。

 

「いままで使っていた作戦や戦術は軒並み役に立たなくなった。力で押そうにも更なる力を持って封じられる。鬼火や催眠術を多用すれば、卑怯者だと謗られた。

 …………正直、八方塞がりだったのさ」

 

 それでもしがみついた。自分からジムリーダーの座を手放す真似は、どうしてもできなかった。

 鋼のチャンピオンを倒せば、悪い評判も不運もすべて覆せる。それだけを頼りに頑張ってきたのに、ある日チャンピオンは消えてしまった。

 

「消えた?」

 

 俺は眉をひそめた。チャンピオンほどの実力を持つ人物が、そんな無責任な振る舞いをするだろうか。

 カブさんはゆるゆるかぶりを振った。

 

「彼がなぜ、どこに行ったのかは誰にも分からない。いまとなってはどうでもいいことだ。

 …………そして僕はトーナメントを敗退して、マイナーに移籍した」

 

 ガラル特有の二軍制度は、残酷なまでの格差を孕んでいる。マイナーリーグのジムは挑戦者を募ることも許されず、運営のための補助も出ない。ただ、ジムリーダーという肩書きを与えられるだけ。再びメジャーに上がるためには、メジャーのジムリーダー6人以上から推薦を受けるか、厳しい昇格試験をパスする必要があるという。

 

「僕はその試験に1度落ちた。次も落ちればもう昇格は絶望的だ。だからマスタードさんに弟子入りして、根本から叩き直して貰うことにしたんだよ」

「──次の試験はいつなんすか?」

「一月後だ」

 

 カブさんが、己の二の腕をぎゅうっと握りしめた。

 

「だから僕には時間が無いんだ。

 さっさと捕まえて帰らなきゃ」

 

 その目は険しく、思い詰めた光を湛えている。

 

「…………そっか。辛かったですね。カブさん」

 

 俺が肯うと、カブさんの目が一瞬大きく開き、微かに潤んだ。

 

 ビスケットの残りを咀嚼し、手早く荷物を片付ける。まだ足はダルいがだいぶ回復した。陽がある内に探索に戻るべきだろう。

 

 彼の事情と気持ちを知ったからには、なるべく早く戻してあげたかった。

 

「行きましょっか。話してくれてありがとうございます、カブさん」

「…………いや。こちらこそ聞いてくれてありがとう。怒鳴って済まなかった」

 

 カブさんは言って、残ったお茶を飲み干した。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「この森も半分くらいは探したはずだ。もう半分を探索するか、別のエリアに行くべきか…………」

「それなんすけど、俺、ちっと便利なグッズ持ってるのおもいだしまして。使ってみてもいいすか?」

「グッズ?」

「これなんすけど」

 

 リュックから黒い角笛を取り出すと、カブさんが首を傾げた。

 

「これはなんだい? 角……に見えるけど」

「こいつを吹くと、まわりのポケモンたちが近寄ってくるんです。吹いてガルーラが来ればよし、来なかったら移動してまた試すって方法でどうかなって」

「ポケモンが……向こうから?

 …………俄には信じがたいが、やってみよう」

「あざっす。じゃ早速」

 

 角笛の先端を口に当て、息を吹きこんだ。

 ぽへー、となんとも気の抜ける音が響き渡る。

 いくらも間を置かず、そこいら中からポケモンたちが集まってきた。

 

「キャタピーエモンガタマゲタケモロバレルクワガノンケンホロウデンチュラ。ガルーラは……居ないっすね。

 うし、もう少し進みましょう」

「あ、ああ」

 

 カブさんは目をまん丸くして辺りを見渡した。

 

「すごいな、本当にやってきたぞ。一体その笛は……?」

「ちっと、知り合いに貰ったんです」

 

 慈愛に溢れる輝く女王の姿が脳裏に閃く。彼女はまだ、元気でいるだろうか。

 

「北と西、どっちから攻めます?」

「──北に行こう。あちらには確か大きな洞窟があったはずだ」

「りょーかい!」

 

 俺たちは小走りで北に向かった。

 これがあるなら、きっと見つかる。

 期待が背を押し、足取りはぐっと軽かった。

 

 

 

 

 歩いては吹き、吹いては歩いてを繰り返すうちに、辺りはすっかり暗くなってきた。

 森はすでに遥か後ろに遠ざかっている。洞窟は黒々とした口を開け、いかにも恐ろしげに佇んでいた。

 

「慣らしの洞穴だ。これより先は灼熱の砂漠しかない辺境だよ」

「そんなら、か弱い子供を抱えたガルーラが奥の方にいるとは考えづらいっすね。まず入口で吹いてみましょうか」

 

 角笛を構え、息を吸いこんだその時。

 洞窟中を震わせる爆音が轟き、熱風が俺たちを弾き飛ばした。

 

「ぐあっ」

「うぐっ」

 

 入口前の野原に叩きつけられる。

 頭の上で寝ていたルギア(レヴィアタン)(ココガラの姿)がころころ転がり落ちてきた。

 寝起きでパニくる雛を宥めすかす。

 

「な、んだ今の……っ」

 

 耳の奥がわんわん揺れて気持ち悪い。

 大型ポケモンの鳴き声?

 いや違う。

 あれは明らかに、()()()だった。

 

 自爆や大爆発を覚えるポケモンはいくつかいるが、野生が放つとは考えにくい。

 だとすれば、誰かが強力な技をぶっぱなしたことになる。持ち主のマスタードさんに許可も得ず立ち入り、傍若無人な振る舞いをする輩がいるならば捨ててはおけない。

 

「密猟者かも。行こう、カブさん!」

「ああ!」

 

 俺たちは相棒の入ったボールを片手に、洞穴へと踏み入った。

 

 

 

 




というわけで70話。
少しずつ歩み寄っていく2人。

そろそろバトルが書きたいので次回はバトルしまくる予定。
良ければ感想高評価おなしゃす!
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