ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第73話 x日目/道場完成。

 

 

 

 

 1週間もするとガルーラたちはすっかり元気になり、腹の袋に縮こまっていた子どもたちも野原を駆け回れるようになった。

 

 ふたたびヨロイ島に飛び、道場づくりを手伝って欲しいことを打ち明けると、彼女たちは快く引き受けてくれた。

 なんとたった2日で、百畳ほどもある立派な道場を完成させたのである。

 

 ポケモンのちからってすげー! 

 

「ありがとう、本当にありがとう!」

「みんなたち、ありがとうねぇ」

「きみたちの協力に心から感謝します」

 

 三者三様頭を下げる。そのうちの1頭、最後まで捕獲されることを渋った長が、ずいと前に出た。

 鋭い目で俺を睨みながら片手を差し出してくる。

 

「がる」

「……?」

 

 受け取れ、ということだろうか。

 おそるおそる両手を伸ばすと、ぬちゃぬちゃしたものを渡された。丸くてぶよぶよしててほんのり温かい。

 それは恐ろしく小柄なヌメラだった。

 

「うおぁヌメラ!? なんでヌメラ!?」

「おほ〜こりゃまた珍しいねえ」

 

 マスタード師匠が感嘆の声を上げた。

 

「ガルーラちゃんてば博愛主義で、野生の子どもとか雛を保護することがよくあるんだよねん。あの洞窟にはたしかヌメラちゃんたちも棲息してたから、ロケット団に追われた時一緒に助けたのかもしれないねえ」

 

 俺はチビを抱っこしたまま、呆然と立ち尽くした。

 

「く、くれんの? 俺に」

 

 ガルーラが首肯する。

 いやあの、俺、ドラゴン育てたことないんですけど。

 ヌメラが安心しきった表情で胸に頬を擦り寄せてきた。

 あっ粘液がっあっあっ。

 

 カブさんがヌメラを覗きこみ、顔をくしゃくしゃにして笑った。

 

「わあ〜、可愛いなあ」

 

 いや可愛いよ? めちゃくちゃ可愛い。

 でも服ビッチャビチャなんだわ! 

 えっこれ洗濯で落ちる? 大丈夫? このシャツ結構お気に入りなんですが。

 

「ほらほらアシタバちん、ガルーラちゃんたちにお礼言わないと」

 

 ガルーラたちに謝礼のきのみ(山盛り)を贈ると、彼女らは器用に腹の袋に詰めこんで、ぞろぞろ帰り始めた。

 

 見送るマスタード師匠が言う。

 

「ガルーラちゃんが人間にポケモンを託すって滅多にないことだよん。ロケット団にあんな目にあって尚、君を信頼してくれたことは、忘れちゃいけないからね」

「────うす」

 

 先頭を歩く長は振り向きもしない。

 たぶん、もう二度と逢うことはないだろう。

 俺はヌメラを片手に抱いたまま、彼女たちが見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 

 その後すぐ洗濯した。シャツは生き返らなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「よっこらせ、と」

 

 シャツを泣く泣く捨てたあと。

 上裸のまま地べたに腰を下ろし、目の前の生き物を見つめた。

 

 薄紫の触角。

 ボタンみたいにつぶらな瞳。

 全身から滴るよく分からん粘液。

 

 ヌメラ。

 龍のなかでも最弱と謳われる種族である。

 

 ポケモンからポケモンを託されるのはこれで2度目だが、まさかドラゴンタイプとは。

 

「師匠、ドラゴン育てたことってあります?」

「あるんだけどねえ」

 

 ぽん、とボールからジャラランガを呼び出す。

 全身の鱗を震わせ雄々しく吠える姿はまさに拳龍と呼ぶに相応しい。

 

「この子はガチガチの武闘派で、ドラゴンというより格闘家として育てたようなもんだから、参考にはならないと思うんだよねえ」

 

 ハの字眉でカブさんを見やると、非常に申し訳なさそうに首を振られた。

 

「ごめん、僕はドラゴンの育成経験はなくて……」

「おぉん」

 

 詰んだ。

 ただでさえ育成困難といわれる種族をノーヒントで育てろってか。

 

 当人はこっちの事情など露知らず、口をもにょもにょさせて大きな欠伸をかましていた。

 

「んぬぁあああ」

「気楽そうでいいねお前は」

 

 さてどうする。

 知り合い全員の顔を思い浮かべても、ドラゴンに詳しい奴なんて────

 

「…………あ」

 

 いる、かもしんない。

 俺はポケギアを取り出すと、連絡帳のタ行を開いた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ポケギアで誰かと話し始めたアシタバくんを置いて、走りこみに行くことにした。

 昇格試験まで3週間を切っている。時間は有効に使わなければ。

 

 ランニング前の準備運動をしていると、マスタードさんがにこにこしながら僕を眺めているのに気づいた。

 

「変わったね、カブちん」

「は……」

 

 僕は困惑した。

 特段、練習メニューは増やしても減らしてもいないのだが、一見して分かるほど筋肉がついたのだろうか。

 

「変わりましたか」

「うん。とってもね。最近自分の顔を見たかい?」

「か、顔ですか? いいえ……」

 

 そう言うと、マスタードさんが自身の眦を指さした。

 

「まずね、目が輝いてる。まるでジムリーダーになりたての頃のように、とってもイキイキしてるよん。

 ここに来たばかりのカブちんはとにかく頑張ることばっかり考えて、自分のことも手持ちのことも見えてなかった。余裕がなくて、ものすごーくピリピリしてたんだよね。いまはカブちんもカブちんのポケモンちゃんたちものびのびしてる。なにかきっかけがあったのかな?」

「────それは、彼のおかげですね」

 

 僕はアシタバくんのほうを見やった。

 

「この1週間、ガルーラたちがよくなるまで、僕たちはずっと一緒にいました。ランニングやストレッチをするときも、手合わせするときも、食事や眠る時まで。

 そのあいだ、お互いについて沢山語り合ったんです」

 

 意外なことに、彼は聞き上手な青年だった。こちらが喋りたいときは好きなだけ語らせてくれ、静かに居たい時は彼も黙っていてくれた。彼が頷き、相槌をうってくれるごとに、自分のなかのぽっかり空いた穴が少しずつ埋まっていくのを感じることができた。

 

 それで気づいたことがある。

 

「僕はきっと、誰かに縋りたかったんです。頑張りを認めてくれ、結果が出ない無力感をわかってくれる人が欲しかった。なのにちっぽけなプライドが邪魔して、素直に打ち明けることができなかったんです。

 アシタバくんが、その垣根を取り払ってくれた。

 ほんとうに、心から感謝しています」

 

 マスタードさんは嬉しそうに何度も頷いた。

 

「────それが分かったのなら、カブちんの行く手を阻むものはもう何も無いね。

 きっと次の試験はらくらく受かっちゃうよん」

「ありがとうございます。そうあれるよう、精進します」

 

 2人でアシタバくんの方に目を向ける。

 背中を伝って頭に登ったヌメラが先に居たココガラと喧嘩して、髪の毛をぼさぼさのぬめぬめにしていた。

 

「やめんかおのれら!」

 

 アシタバくんの叫びに、僕たちは声を上げて笑った。

 

 

 

 

 




というわけで73話。
なんやかんやで手持ちが増えました。
たまにはまっとうな捕獲シーンも描きたいなあ。

カブさんのわだかまりがとけましたね。
きっとこのカブさんは本編同様キラキラした眼差しをしてることでしょう。

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