ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第79話 食事の裏に潜む影。

 

 

 

 

 シキミに連れてこられたのは《ウィッシュ・ダイナー》という看板を掲げた小さな店だった。

 カウンター席が5脚と、4人がけソファの席が3つ。

 テーブルには煙草を押しつけたような焦げ目がこびりつき、座面の綿も飛び出したりして、お世辞にも綺麗とは言いがたい。

 

 俺は胡乱な眼差しで少女を見やった。

 

「……ここがヒウンいちのレストラン?」

「そうよ? 飲食店の良さは見た目じゃなくて味でしょ! ここのパンケーキセット美味しいんだから! というわけでパンケーキセット2つね! ソファに座るわ!」

「はいな」

 

 背の丸いばあちゃんが奥へひっこむ。シキミは慣れた手つきでカウンター向こうのコーヒーメーカーからポットを取るとカップになみなみ注いだ。

 俺は特にやることもないので出口に1番近いソファに腰かける。

 

「ミルクとお砂糖は?」

「2つずつ」

「甘党ね」

「コーヒーは甘けりゃ甘いほど旨いだろ」

「同感だわ」

 

 シキミは頷き、ミルクピッチャーとスティックシュガーを握って戻ってきた。その数、およそ20本。

 

「……多くね?」

「まさか1杯に全部ぶちこんだりはしないわよ。ここはコーヒーのお代わり無料なの」

「なるほど」

 

 そしてシキミは一気に4本のシュガーをカップに流しこんだ。いや多いって。糖尿になるぞ。

 

 甘ったるいコーヒー(もはやコーヒーではない)を実に美味そうに飲んでから、小説家殿は「で?」とカップを置いた。

 

「あなたはどこから来たの?」

「なんでそんなに俺が気になるんだよ」

「そうねえ。強いて言うなら……クリエイターの勘ってやつかな」

 

 上目遣いにこちらを見る目が鋭い光を帯びる。

 

「あなたには()()()()()。一目見た瞬間ビビっときたのよね。まさに天啓ってやつ? わたしの読みって結構当たるのよね。そういう直感があった相手は絶対ふつうじゃないのよ。なんで分かるんだって聞かれても困るんだけど、言っちゃえばほら、創作におけるふとした閃き(インスピレーション)みたいなものかな。一目惚れってきっとこんな感じなんでしょうね、わたしには経験ないけど!

 そうそう、ギーマくんに初めて会った時もビビっときたんだっけ。知ってる? ギーマくん」

「知らん」

「凄腕のギャンブラーよ、カードもスロットも何もかも当てちゃうの。あんまり儲けるものだからイッシュ中の賭場で出禁になってるらしいわ」

「なんでそんなのと知り合いなんだ?」

「ん? んふふ、それはねえ」

 

 ちょうどシキミが答えようとしたタイミングで婆ちゃんが料理を運んできた。

 

「はい、おまちどう」

 

 いい匂いが鼻腔をくすぐる。

 目の前に置かれた丸いプレートにはほかほかのパンケーキとカリカリに焼いたベーコン、完璧な半熟の目玉焼き、ドレッシングたっぷりのレタスとトマトがのっていた。

 

「シイちゃん、こっちはお友達?」

 

 シキミの前にも同じプレートを出しながら婆ちゃんが訊くと、シキミは笑顔で首を振った。

 

「ううん、知らない人よ! さっき会ったばかりなの!」

「そうかぇ。仲良くなあ」

 

 婆ちゃんは特にツッコむこともなく、ほたほたと戻って行った。それで良いのかばあちゃん。

 

 なにはともあれひと口頬張ると、なるほど確かに美味かった。慌ててポケモン用の食事も注文する。

 俺だけ飯を食ったと知れたらルギア(レヴィ)に何されるか分かったもんじゃない。

 

 幸いそんなに待つことなく出てきたし、他に客もいなかったから、全員呼び出すことにした。

 レヴィにはあらかじめワシボンになるよう指示してあるから、シキミに正体がバレる心配もないだろう。

 

 俺の手持ちを見た彼女は両目を輝かせ、黄色い声をあげた。

 

「ああん素敵! どの子も見たことないわ!

 なんて名前の子達なの?」

 

 ひとりひとり簡単に紹介する。カブトプス(カブルー)アマルス(ゴーシェ)は行儀よく会釈したが、レヴィは食事に夢中で聞いちゃいないし、ヌメラ(メルティ)はシキミを睨むわ唸るわで大変だった。

 

「やめろって。いきなし威嚇すんなや」

「ぬぅううう」

「あはは、かーわいい! アシタバくんを取られちゃうんじゃないかって心配なんだ! だーいじょーぶ、わたし男の子には興味無いから」

「……ぬん」

 

 それならまあよかろう、と警戒を解いて飯を食べ始めた。

 

「男子に興味ないなら俺の話なんてどーでもいいだろ?」

「何言ってるの」

 

 2杯目のコーヒーを注ぎながらシキミは意味深な笑みを浮かべた。

 

「そんじょそこらの男子には食指が動かないって意味よ。あなたみたいにミステリアスな人ならなんでも知りたいし、教えて欲しいわ」

「ぬめめめめ!」

 

 シキミの指が俺の手の甲をちょんとつつくと、ヌメラが物凄い剣幕で詰め寄った。ヒトの言葉が話せたなら「この泥棒猫!」ぐらい叫びそうなテンションである。店中ぬめぬめにされては敵わないので早々にボールに仕舞った。

 

「悪いな。ちとクセが強いポケモンで」

「うちにも嫉妬深い子がいるから分かるわ。慣れるまでが大変だけど、慣れると愛おしくて堪らなくなるわよ」

 

 シキミがウインクし、俺は「慣れたかねぇよ」と嘆息した。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 アシタバとシキミのやり取りを、窓の外から見ている2人組がいた。

 地味な服に身を包み、周囲に溶けこもうとしながらも、目つきの険しさは隠しようがない。

 片割れの若い男が耳打ちした。

 

「見てくださいリーダー。

 あの男、食事中のポケモンをボールに入れましたよ」

 

 囁かれた中年の男が苦々しく頷く。

 

「見ていたとも我が同志。あんなに小さいポケモンが大声で泣き叫んでいた。きっと普段からろくに食べさせてもらっていないんだろう。あれぞまさしく虐待の現場だ」

「仰る通りですリーダー。なんと嘆かわしい。一刻も早く"救出"するべきでは?」

「もっともだ我が同志。人員を集めろ。

 彼奴を監視し、尾行するのだ」

「承知しました、リーダー」

 

 若い男がどこかに電話をかけ始める。

 中年が低く呟いた。

 

「絶対に逃がしはせんぞ……。

 ヒトとポケモンは離れて暮らすべきなのだ……!」

 

 

 

 




というわけで79話。
シキミちゃんはきっと好きなものを話す時にマシンガントークするタイプ。そして大の甘党と見た。

ヌメラの名前お披露目シーン入れるの忘れました。
わァ……ァ……。

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