ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第8話 ひっでぇ言いがかりを受けました。

 

 

 

 

 俺と先輩で技便覧(スキルハンドブック)をひたすら捲ってみたところ、どうやらあの光弾はウェザーボールらしいと察しがついた。説明文を読み上げる。

 

「特殊なエネルギー弾を放つ。周囲の天候によって性質を変える技なり。…………えーと先輩いまの天気って」

「晴れでも雨でも雪でもないな」

「んじゃ、ノーマルタイプのままっすよね…………それでこの威力かよ」

 

 哀れな的を眺めやる。高密度の岩塊はボロボロに崩れ、見る影もない。

 

 うん。よし。

 

 ルギアの前にしゃがみこんだ。

 

「ちび」

「げる?」

ウェザボ(あの技)禁止」

「げぇ!?」

 

 ルギアは露骨に嫌そうな顔をした。なぜそんなことを言われねばならんのかと、ちっちゃい足をぱたぱたさせて抗議してくる。まあトレーナーでもない人間に言われる筋合いないよな。その気持ちはわかる。

 だが、もしもルギアがアレを不用意にぶっぱなし、人に当てたりしたら、俺の人生が終わってしまう。それだけは絶対に阻止しなければ。

 だから俺は、断腸の思いで提案した。

 

「ちゃんと我慢できたら毎日からあげ喰わせてやるけど?」

「げるーっ!」

 

 ルギアは双翼(もろて)をあげて喜んだ。交渉成立。

 嬉しいか。よかったな。お陰でこっちは3食水ともやし生活突入だよ。

 

「いいのか?」

「背に腹は代えられませんよ。あんなもん街中でぶっぱなされるよりは余程マシだ。そろそろアカデミーに戻りますか」

「そうだな」

 

 ゴミを纏め、適当なビニール袋に押しこんだ。拾い忘れたものがないか入念にチェックする。ちなみにジョウト地方はポイ捨てにめちゃくちゃ厳しいところなので、読者諸君が旅行に来るときは気をつけるように。

 

 ルギアにリュックに入ってもらい、背負おうとしたその時。

 突然朗々たる声が響き渡った。

 

「待ちたまえそこの君! 君はもしや、近頃ウワサのポケモン泥棒ではないかね?」

「…………あ?」

 

 振り向くと、森から出てくる人影と目が合った。

 妙な格好をした男だった。

 歳の頃はおよそ俺と同じくらい、派手な紫スーツに蝶ネクタイを付け、何の為のものなのかまるで分からない白マントを羽織っている。俺がポケモン泥棒なら、ソイツは場違いな大道芸人にしか見えなかった。

 

「男ミナキ、目の前の悪を見逃しはせん! 正々堂々勝負しろ! 私が勝ったらそのポケモンを逃がすんだ!」

 

 ミナキと名乗った男は真面目くさった顔つきでこちらにモンスターボールを突きつけている。完全に俺を泥棒と思いこんでる眼差しだった。事情を説明する余裕も隙を見て逃げる機会も────ありそうにない。

 

 俺は深い溜息をついてミナキに向き直った。

 カブトプス(カブルー)へ目配せする。意を汲んだ相棒が小さく頷き、俺とミナキの間に立った。

 

「……1vs1だ。それ以外は受け付けねえ。いいな」

「望むところだ!」

 

 ミナキは言って、自信満々にボールを振りかぶった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 出てきたのは赤と白の巨大ボール──マルマインだった。危ういところでバランスを取りながら俺たちを睨みつけてくる。

 

 カブルーがぐっと腰を落とした。タイプ相性はこちらの圧倒的不利だが、それだけで勝敗が決まるわけでもないのがポケモンバトルだ。

 

 いつの間にか審判のポジションについていたレホール先輩が片手を挙げた。

 

「1vs1のポケモンバトル、時間無制限の一本勝負……はじめっ」

 

 鋭い手刀が振り下ろされる。と同時にミナキが命令した。

 

「先手必勝だ! マルマイン、スパーク!」

「アクアジェット!」

 

 電撃を纏った体当たり。当たれば致命傷確実の技をカブルーはなんなく躱した。背中の排出孔から水を射出し、その勢いに乗ったのである。あっさり敵の背後を取った。

 

「なに!?」

 

 ミナキの動揺に乗じてすかさず命じる。

 

「ストーンエッジ!」

 

 地面から隆起した岩柱がマルマインを直撃した。紅白ボールが天高く打ち上げられる。柱を駆け上がりながら、カブルーの鎌が肉薄した! 

 ミナキが切羽詰まった声をあげる。

 

「まずいっ。マルマイン、10万……っ」

「遅い!」

 

 相手の指示が届くより早く。

 カブルーの辻斬りが、マルマインの急所を斬り裂いていた。

 

 2体が地面に降りてくる。構えるカブルーに対し、マルマインはぴくりとも動かない。数秒待ってから、レホール先輩が告げた。

 

「マルマイン気絶。よって勝者、アシタバ!」

「よし!」

 

 俺は小さく拳を握った。バトルなんて随分久しぶりだったが、腕は鈍っていないようだ。カブルーも嬉しそうに目を細めている。今日は赤字覚悟のパーティーだ。

 

「く…………っ。悪党に敗れるとは…………っ」

 

 膝からくずおれるミナキに近寄る。はっと身を硬くする男に、俺は学生証を突きつけた。

 読み進めるうち、ミナキの怒りが困惑に変わっていく。

 

「…………キキョウアカデミーの、生徒……?」

「おうよ」

 

 俺は顎をしゃくった。

 

「あいつは研究対象で、捕獲できねえからああやって運搬してんだ。……で? 何か言うことは?」

 

 凄みを効かせると、ミナキはふっと唇を弛め────

とても鮮やかに土下座した。

 

 

「泥棒と言ってすみませんでしたっ!!」

 

 

 後ろで、レホール先輩がげらげら笑っていた。

 

 

 




というわけで第8話。
出してみたかったネームドキャラ2人目、ミナキくん。
そろそろバトル描写も入れたかったので戦わせてみました。

冒頭のハンドブックというのは世の中の大体のポケモン技を網羅した手帳です。ポケモン図鑑を持たない人はこういうアナログな資料を持ち歩いているのが普通ということで。

感想評価くださる方、本当にありがとうございます。
めちゃくちゃ励みになってます。

よければ今後とも感想評価おなしゃす。
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