ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第82話 ヘドロウェーブ。

 

 

 

 

「ぶった斬れアイアントォ!」

 

 "新人潰しのジャックナイフ"とやらが繰り出してきたのは、メタリックボディの虫・アイアントだった。

 ジャキンジャキンと不吉な音を立てながら口吻の鋏を開閉させている。ジャッジに目顔で促され、俺も嫌々手持ちを繰り出した。

 

 瑠璃紺のミストボールが開き、ぬちゃべちょっと音を立ててヌメラ(メルティ)が着地する。

 客席が一瞬静まり返り、爆笑と嘲弄が巻き起こった。

 

「なんだあのチビ!」

「そんなんで戦えんのかよ!」

「ジャック! 優しくしてやれよ!」

「お前の斬れ味魅せてくれぇ!」

 

 口々に捲し立てる。普段とはまるで違う雰囲気にも、メルティは一切動じていない。それどころか、「私の実力が読めないなんてとんだ愚物ね」と言わんばかりに観客たちを睥睨していた。

 

 ううん生意気。そういうとこ好きだぜ。

 

 ジャックが腹を抱えて笑った。

 

「ハーッハッハァ! こりゃ初戦は頂きだなあ! アイアント! 出会い頭にぶちかませ!」

 

 刹那、鋼の蟻は白銀の弾丸となってメルティに急迫した。虫タイプの先制技・出会い頭をかましてきたのだ。

 しかしメルティは慌てず騒がず、その場から微動だにしなかった。

 

 ぬゅるりんっ。

 

 全身から滲みでる体液に塗れてアイアントが体勢を崩す。すかさず命じた。

 

「ヘドロウェーブっ!」

 

 黒と紫の入り混じった、なんとも形容しがたい色味の臭い泥がリング一面に広がっていく。かぶりつきで観ていた客たちが慌てて後ずさった。

 

「汚ねぇ!」

「くせえ!」

「あいつなんてもん撒きやがる!」

「バカヤロウが!」

 

 わあ非難轟々。

 

 俺は素知らぬ振りをしてコーナーポストのてっぺんに陣取った。ジャックも嫌そうな顔をしつつ、ちゃっかりロープに跨って難を逃れている。

 さすがは常連、この程度じゃ怯まないか。

 

 アイアントは引っ被ったヘドロをぶるぶると振り払った。毛筋ほどのダメージも入っていないがそれでいい。

 鋼タイプのポケモンに毒が効く筈もないし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ぱちぱちと2度指を鳴らす。隠れ潜むわがままお嬢様への合図だ。もう一度指を鳴らした瞬間、アイアントの背後の泥が盛り上がった。

 

「な!?」

 

 ジャックが気づく。だが遅い! 

 

「水の波動!」

 

 メルティが吐き出した水の奔流に押し流され、アイアントがリングから転落する。ジャッジが鋭い声を上げた。

 

場・外(リングアウト)ッ! 勝者・チャレンジャー!」

「なっ……んだとぉ……!」

 

 ジャックも観客もすぐには言葉がでなかった。メルティだけが楽しそうにヘドロの中を泳ぎ回っていた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「────へぇ」

 

 控え室のモニターで1戦目を観ていた男が愉快げに呟いた。

 

「ヘドロはヌメラが溶けて移動するための布石だったわけか……鈍足をカバーしつつ隠密の役割も果たすとは、ちょっと面白い使い方だね」

 

 若い青年である。顔の上半分を仮面で覆っているものの、端正な顔立ちであることは隠しきれていない。

 金のコインを指先で弄びながら、ヌメラとそのおやを好ましく見つめていた。

 

 傍らでダンベルを持ち上げていた男が問う。褐色の肌を流れる汗がきらりと光った。

 

「お前ならどう戦う?」

 

 青年は振り向きもせず答えた。

 

「正面からは当たらないかな。

 あのぬるぬるは厄介だから」

 

 コインを親指で弾く。美しい回転を描きながら飛ぶそれは、まっすぐ青年の手の甲に落ちた。

 

「どちら?」

「表だ」

「──流石だね。正解だよ」

 

 テーブルにぱちりと置く。表にピカチュウ、裏にドガースが刻まれたそのコインは、カントーのゲームコーナーで使われている代物である。数ヶ月前からイッシュでも目にする機会がどっと増えた。

 

 この地下闘技場では、現金の代わりにこのコインでやりとりされている。たとえ摘発が入ってもただのゲームだと言い逃れるためだろう。

 

「君はどう戦う?」

 

 質問を返すと、男はただ一言、

 

「正面突破だ」

 

 と答えた。

 青年はくすりと笑った。コイン同様、思った通りの結果だったからである。

 

 実際、この男ならあの程度の小細工など正面から捩じ伏せてしまうだろう。それだけの強さが彼にはある。

 

 モニターに目を戻す。ようやくリングの清掃が終わり、次戦の組み合わせが発表された。

 まだしばらくは小粒同士のバトルが続く。

 青年や男が呼ばれるのはもっと後────会場が十二分にあたたまってからだ。

 

「それまで勝ち残っててくれよ。無名のチャレンジャー」

 

 青年が妖しく微笑んだ。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 勝負が終わり、リングを降りると、シキミが頬を紅潮させながら飛びついてきた。

 

「凄い凄い! 鮮やかだったわ!」

「そーだろ」

 

 俺は渾身のドヤ顔を披露した。ヘドロウェーブからの溶けるコンボはマスタード師匠との修行中に思いついたものだ。とにかく足が遅いメルティの欠点をどうにかしたくて開発した技だが、上手くハマってくれてほっとした。

 

「あと3試合したらまたあなたの出番だそうよ。

 ジャッジに言われたけど、もうそのヌメラちゃんは出さないでくれって」

「まじか」

 

 毎試合リングをヘドロでドロドロにしてやろうと思ったのを見透かされたか? 

 

 じゃあ次は誰で出ようか……と考え始めた矢先、シキミが「んふふ」と笑った。

 

「なんだよ?」

「やっぱり私の目には狂いがなかったな〜って。

 あなた、とっても面白いわ!」

 

 至近距離でキラキラする笑顔を見せられて、おもわずドギマギした。

 

 ……こいつよく見りゃめちゃくちゃ可愛いじゃねーか。

 

 ああくそ、女子耐性が無さすぎて顔が熱くなる。

 それとなく距離を取った。

 

「次も勝ってね! きっとよ!」

「ん、まあ、努力するよ」

「? なんで目を逸らすの?」

「なんでもねえ」

「なんでもないことないでしょ!」

「なんでもねえって!」

 

 わあわあ騒いでたら観客たちに「うるせえ!」とポップコーン投げられました。

 キャラメル味でした。

 

 

 

 




というわけで82話。
師匠に鍛えられた成果が出てますね。
でも女子耐性無さすぎて童貞も出ちゃってます。可愛いね。

途中の男性2人は勿論ネームドですが即バレの予感しかしない。

よければ感想高評価おなしゃす!
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