試合は次々に消化されていった。
なんでもありと謳っているとおり、地上ではお目にかかれないような反則技のオンパレードで、こういっちゃなんだが観てる分にはかなり面白かった。
ポケモンが相手選手を狙うのなんか序の口で、負けたトレーナーが相手に殴りかかる場面もあった。
毎度のことらしくジャッジも止めやしない。
いい歳こいた男たちが顔面青あざ血だらけにしながら争う様に、会場は大盛り上がりだった。
シキミも怖がってたのは最初だけ。今では周りのおっさんたちと一緒になってヤジを飛ばしている始末である。
順応力高いなあんた。
そんなこんなで、あっという間に俺の2戦目が回ってきた。リングに上がるとジャッジが怖い目で睨んでくる。
分かってるよ、もう
今度の相手は女だった。
チューイングガムをくちゃくちゃさせながら使い古したバットを肩に担いでいる。擦り切れたジャージと履き潰したサンダルが、妙に似合っていた。
観客席から一際野太い声援が飛ぶ。
「アリーナーっ!
そんなヒョロガキボコボコにしちまえーっ!」
身長2メートルはありそうな巨漢の応援に、アリーナと呼ばれた女が不敵に笑った。
「おうよ。
場違いなお坊ちゃんなんか粉々にしてやらあ!」
ブン、とバットを振り回し、先端を俺に突きつけた。
ホームラン宣言のポーズである。
「先に言っとくが、待ったや降参は認めねえからな」
「なるほど」
ジャッジが片手を挙げる。
「双方、ポケモンをリングに」
アリーナはスーパーボールを、俺はフレンドボールを放った。赤い毛並みのヒヒダルマとワシボンに変化した
「ハッ。まぁたそんなチビかよ」
「げぅる!」
バカにすんな! と言いたげにレヴィが羽ばたいた。
落ち着け落ち着け。あんな安い挑発にのるな。
「あれか?
チビな奴はチビっちゃいポケモンを使いたがるのか」
「────ははは。面白いことを仰る」
俺はあくまで紳士的に微笑み。
「レヴィ」
振り向いたレヴィに親指を下げて見せた。
手加減しなくていいぞ。
この世の全てを吹っ飛ばしてやれ。
「レディ────ファイッ!」
号令直後、ヒヒダルマの全身が炎に包まれた。
自傷覚悟のフレアドライブか。狭いリングで使われたら逃げ場は無い。初手で撃ってくるあたり、この技1本で勝ち上がってきたんだろう。
燃え盛る炎は本能的な恐怖と興奮を呼び起こす。客席のボルテージは加速度的にあがっていった。
…………だが。
「ぬるいな」
「げる」
呟きにレヴィが同意する。
ヨロイ島で1ヶ月ともに修行した炎使いを思い出す。
彼の炎はもっとデカくて、熱かった。
「丸焦げにしろ! フレアドライブ!」
火焔の塊が迫る。ギリギリまで引きつけてから命じた。
マスタード師匠の技レコードで身につけた新技だ!
「暴、風!」
ヒヒダルマが、観客数十人と一緒にブッ飛んでいった。
「…………」
「…………」
控え室で観戦していた2人は、無言のまま真顔で見つめあった。
「リングが崩壊したぞ」
「そうだね」
どちらも呆然としている。
地下闘技場の潜入捜査を始めて半月、多種多様な戦いぶりを見てきたが、まさかこんなことが起こるとは。
リングは半分以上が吹き飛んで原型を留めなくなっていた。ヒヒダルマとその使い手は部屋の片隅で仲良く気絶し、ついでに巻き添えを食らった観客もまとめて気を失っている。さしもの荒くれたちも野次るどころではなく、チャレンジャーを遠巻きに見やっていた。
奇跡的にあの大風から難を逃れたジャッジがチャレンジャーに詰め寄っている。
音声までは届かないが、多分「加減しろバカ!」とか言ってるんだろう。
「────作戦変更、かな」
青年が立ち上がると、男もダンベルを置いた。
「ここでの興行は今日でお終いだろう。トンズラされる前に主催者の身柄を確保した方が良さそうだ。
もうすこし違法賭博の証拠を集めたかったが、なに、いままで集めた写真や動画でも充分だろうさ」
「わかった。俺は出口を固めておく」
「助かる────ん?」
そのとき、ふと青年があるものに気づいた。
無名のチャレンジャーに駆け寄る少女の後ろ姿が、知り合いのそれに似すぎてやしないか?
頭の上で揺れるやたら大きなリボンで確信する。
「こんなとこで何をやってるんだい、シキミ嬢……!」
青年は天を仰ぎ、嘆息した。
というわけで83話。
アシタバくん、リングを吹き飛ばすの巻。
伝説ポケモンのパワーで暴風使ったらそらそうなるよ。
よければ感想高評価おなしゃす!