「何考えてんだ」
「リングが幾らすると思ってんだ」
「超えちゃいけないライン考えろよ」
「何人殺す気だバカタレ」
代わる代わる矢継ぎ早に罵ってくる。絵に描いたようなガン切れに、俺は唇を尖らせた。
「あんだよー。何でもありって言ってたじゃんよー」
「「限度があんだろ限度が!」」
綺麗にハモって怒鳴られた。
じゃあ予め『リングを吹っ飛ばしてはいけません』って言っとけや!
アングラの限度なんかわかんねーよチクショウ!
面倒くさくなってもう一度暴風を撃ったろうかと考えていたら、横から静かな声がかけられた。
「────まあ確かに、やり過ぎは否めないね」
その声に、青筋を浮かべていた司会者の顔がぱあっと輝いた。
「ギャンブラー! ああよく来てくれた」
現れたのは、顔の上半分に仮面をつけた細身の青年だった。指の背の上で器用にコインを弄んでいる。
「…………!」
俺はそっと腰のボールに手を伸ばした。
こいつ、できる。
リングの上で戦った有象無象とは比べ物にならないプレッシャーに、汗が滲んだ。
司会者が拝むように懇願する。
「この糞ガキをぶっ殺してくれ!
リングをめちゃくちゃにしやがったんだ」
「見てたよ。物凄い攻撃だったね?
よく鍛えられたいいワシボンだ」
最後の言葉は俺に向かって発せられていた。
「……どーも」と小さく答えると、青年の口元がふっと緩んだ。
「是非とも手合わせを願いたいところだけれど、悲しいかな、先に済ますべき仕事があってね」
形のいい指がキン、とコインを弾く。自然とみんなの目がコインに吸い寄せられた瞬間、青年の背後から飛び出した影が司会者を押し倒した。
「ぐへえっ!?」
「り、リーダーっ!?」
ジャッジが目を剥いた。影の正体は大型の猫系四足獣、レパルダスだった。それが司会者に馬乗りになって、牙をのぞかせながら唸っているのだ。
「ああ、抵抗はよしたほうがいい。彼女はとっても気まぐれで、気に食わない相手には容赦しないんだ。
喉笛を噛み千切られたくなかったら大人しくしているほうが身のためだよ」
ぎゃあぎゃあ騒いでいた司会者がぴたりと口を噤んだ。それがこけ脅しではないことを悟ったらしい。
代わりにジャッジが喚き立てた。
「な、なにしてんだギャンブラー! 狂ったのか!?
いままでどれだけ稼がせてやったと……!」
「確かにこの半月で懐はかなり潤ったね。そういう意味での恩は確かにある。────でも」
青年が仮面に手をかける。
青白い美貌があらわになった。
「
「ギーマくん!」
「…………えっ」
シキミが口にした名前に、俺はぽかんと目を丸くした。
ギーマの手際はとても鮮やかで、司会者やジャッジを始めとする運営側と、戦士と呼ばれる参加者たちをあっという間に縛り上げてしまった。
主に違法賭博と暴行の罪で突き出すらしい。
「凄いすごい!
ギーマくん、いつの間にこんなお仕事してたの?」
ぴょんこぴょんこ跳ねて驚くシキミに、ギーマは軽く肩を竦めた。
「ひと月ほど前からだよ。ずいぶん隠れんぼが上手い連中でね、潜り込めたのは10日ぐらい前かな。戦士として戦いつつ違法行為の証拠固めをしてたら……君たちが現れたってわけだ」
ぴ、と人差し指で指され、気まずくなって目を逸らした。
多分、というか確実に、俺たちは彼の仕事の邪魔をしたんじゃなかろうか。
「気にしなくていいよ。
そろそろ司法に突き出そうと思ってたから」
「すんません」
心を読まれたかのごとくドンピシャのタイミングで補足され、ますます居た堪れない気持ちになった。
「……なあ、次期四天王ってどういう意味だ?」
シキミに耳打ちする。
俺が住んでいるジョウトもカントーも、ずっと同じメンバーが四天王として君臨しており、代替わりというのは聞いたことがない。
シキミは朗らかに説明してくれた。
「イッシュってエンタメ好きな人たちが多い地方だって言ったでしょ? 裏を返すと、真面目な試合を求められるポケモンリーグはあんまり人気がないのよね。だからいままでアデクさんて人が1人でチャレンジャーたちの相手をしてたんだけど、さすがに負担が大きくなってきたから四天王を設けることになったの。わたしとギーマくん、それからレンブさんがその候補者なのよ。
いわば四天王見習いってところね」
「四天王見習い」
地下で迷子になって泣きべそをかく女が?
人は見た目じゃわからんものだと思っていると、筋骨隆々の男が苦々しい顔でやってきた。
シキミが「レンブさん!」とにこやかに手を振る。
男──レンブは油断ない瞳で俺に会釈してからシキミを見やった。
「シキミか。怪我はないか?」
「全然! レンブさんも潜入捜査してたんだね!」
「まあな。お前はなんでこんなところに?」
「えへへ、迷っちゃったの」
「ああ」
短く吐息する。その顔から察するに、シキミの迷子癖は今に始まったことじゃないらしい。
その情報、2時間前に欲しかったな……。
「ボスは見つかったかい?」
ギーマの問いにレンブは首を振った。
「逃げられた。
真っ先に奴の元に駆けつけたんだがもぬけの殻だった」
「流石は小悪党、逃げ足が早い。
仕方ないから残党だけでも引き渡すとしようか。
その後でお茶でも頂こう」
ギーマの目が俺を捉えた。
「よければ君もぜひ同席してくれたまえ」
「…………うす」
断る口実も思いつかず、俺は小さく頷いた。
というわけで84話。
四天王見習いはもちろん拙作での独自設定です。
イッシュ四天王はほぼ全員が若手なので、ひょっとすると四天王を設けてない時期もあったんじゃないかと思いこういう設定にしてみました。
今日は更新遅くなって申し訳ない。
よければ感想高評価おなしゃす!