ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第86話 ライモン・ミュージックホール

 

 

 

 

 因縁深きロケット団がイッシュにも魔の手を伸ばしている。そうと知ってはのんびりもしていられない。

 鼻息荒く協力を申し出たが、ギーマにするりといなされてしまった。

 

「この地方に潜り込んでいる人数も拠点の場所も分からないのに、何をする気だい?」

「うぐ」

「いまは"見"の時期だよ、Mr.アシタバ。ひとつでも多くの情報を集め、精査し、敵の弱点を見極める。

 拳を振り上げるのはそれからだろう?」

「……だな」

 

 正論である。俺はしおしおと座り直した。

 レンブが微笑し、俺の肩をぽんと叩いた。

 分厚い掌だった。

 

「だが、力を貸そうと言ってくれるのは有難い。人手は多い方がいいからな。

 時が来たら、お前には存分に働いてもらうぞ」

「──ああ! 俺に出来ることならなんでもする!」

 

 声に力を込めて請け負った。

 

 やつらが何を求めてイッシュに来たのか知らないがロクなことじゃないのは確かだ。

 無理やり進化させられたコイキングの姿はいつまでたっても脳みそにこびりついている。もう二度と、あんな苦しみを背負わされるポケモンが出ないようにしなければ。

 

「それじゃ、私たちは警察署に戻って情報提供をしてくるよ。──シキミ?」

「ん?」

 

 生搾りメロンジュースを美味そうに啜っていたシキミが目を上げる。

 

「君、どうせアシタバにひっついて回るんだろ」

「もちろん!」

 

 勿論なの? 

 俺ひとりで旅してぇんだけど。

 

「なら、連絡役(メッセンジャー)をお願いするよ。君たちが見知った情報は細大漏らさず教えてくれ。

 当然、こっちの情報もその都度伝えるから」

「ラジャーッ!」

 

 びし! とシキミが敬礼する。

 そのままギーマたちは支払いを済ませ、店を出ていってしまった。

 

「……この後どーすっかな」

 

 変な時間に甘いものを食べたせいで腹は減ってない。

 眠るには早すぎるが街を移動するには遅すぎる。

 

 するとシキミはにんまりして、勢いよく席を立った。

 

「んっふふふ。ならばこのわたくしがライモン1アツいスポットを紹介してしんぜよう!」

「また迷うんじゃねーだろな」

 

 ジト目で睨むとミス・方向音痴は笑って手を振った。

 

「んはは。今度はちゃーんと辿り着けるよ! 

 さっ、行くぞよアシタバ!

 目指すはライモン・ミュージックホール!」

「ミュージックホールぅ?」

 

 訝りながら少女について行く。

 背後でなにやら

「いい加減なんか頼んでくださいよお客さん!」

「やめろ店主止めてくれるな我らには使命がっ」

「使命もなにもあるかボケっ!」

 というやり取りが聞こえたが、俺には関係なさそうなのでスルーした。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ライモン・ミュージックホールはかつてカロス全土を支配したなんちゃら王の宮殿を模した建築物らしい。その絢爛ぶりは派手な建物が並ぶメインストリートのなかでも一際異彩を放っていた。

 

 ちょうど今日最後のミュージカルが始まるようで、正装した紳士淑女たちが列をなして入っていく。

 

 上流階級の社交場なのは誰の目にも明らかだ。

 

 だというのにシキミが普段着のまま入っていこうとするものだから、俺は慌てて引き留めた。

 こんな格好で入れて貰えるわけがない。

 

 しかしシキミは「だいじょぶだいじょぶ♡」と笑って取り合わなかった。

 

「だいじょばねって! 怒られるって!」

「んもー心配性だなアシタバ氏はー。

 へーきだよ、わたし関係者だし」

「嘘つけっ。なんの関係者だよ」

「んー、脚本家的な?」

「……え?」

「あ、すみませーん、関係者席ってまだ空いてます?」

「これはシキミ様、ようこそお越しくださいました。

 今宵はボックス席がひとつ空いてございます。

 どうぞこちらへ」

 

 副支配人らしき男が恭しい態度で案内に立つ。

 通されたのは馬蹄形の場内が一望できる特等席だった。

 

「それでは、ごゆるりと」

 

 上等なカーテンが閉ざされ、狭いながらも心地よい空間が生まれる。

 シキミは勝手知ったる様子でソファに腰かけた。

 

「ほらほら、アシタバくんも」

 

 ぽんぽんと隣を叩いている。

 俺はおっかなびっくりしながら尻を降ろした。

 うぅわ柔けぇ。なんだこのソファ、沼? 

 

「今日の演目はわたしが書いたんだなー。

 ぜひぜひ忌憚なき意見を聞かせてちょーだいね♡」

「お、おぉ」

「ほらほら、ポケモンちゃんたちにも見せたげて。

 ボックス席なら出してOKだから」

 

 言われるがままカブトプス(カブルー)たちのボールを開く。

 驚いたことに、粘液が滲みでるヌメラ(メルティ)のようなポケモンのための受け皿も用意されていた。

 

「もーすぐ始まるよん」

 

 シキミの言葉どおり、天井灯が暗くなっていく。

 すぐに鳴り始めた交響曲に、俺たちは一瞬で惹きつけられた。

 

 

 

 

 

 劇場を出て開口一番シキミが尋ねた。

 

「どーだった?」

 

 俺は目を真っ赤にしながら、「よかった」とだけ言った。それしか言えないぐらい、感極まっていた。

 

 題材は人間とポケモンの許されざる恋を描いた恋愛劇で、心から愛しあっていたふたりが世間の冷たい風を耐え抜き、数多の苦難の末ようやく結ばれるというストーリーである。

 

 名優揃いだったが、特に主役のゴチルゼルの演技力は凄かった。涙を流さずとも悲哀を魅せることができるのだと、俺は初めて知った。

 

「ポケモンはヒトに比べると感情表現が乏しいんだけど、あのゴチルちゃんはずば抜けた技倆であらゆる想いを表現できちゃうの。

 あの子を見た瞬間このストーリーがビビーン! と浮かんでねー。一晩で書きあげたんだ」

 

 俺は鼻声になりながら何度も頷いた。

 

「凄かった。ほんとに。観れてよかった」

「でっしょー!? ゴチルちゃん見つけてくれた監督に感謝だよー。私の世界観を体現できる役者がいるなんて思わなかったもんなー」

「他にもシキミが書いた舞台はあるのか? 見てみたい」

 

 くるくる踊るように話していたシキミの脚がピタリと止まった。

 

「そ、そんな感動した? 私の脚本(ホン)

「ああ。この舞台を見れただけでもイッシュに来た甲斐があったよ。連れてきてくれてありがとな」

「え、えへへぇ。ありがとう……。アシタバくん、褒める時はめっちゃストレートに言うんだね……」

 

 シキミの頬が上気する。

 こんなもんじゃまだまだ言い足りない。

 ようやく感情も落ち着いてきて、思いつく限りの賛辞を並べると、

 

「も、も、もうそのへんで!

 おなかいっぱいだからっ!」

 

 と茹でダコのように顔を赤くしながら叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 




というわけで86話。
実は売れっ子作家のシキミちゃん。脚本家としてだけでなく作家としても飛ぶ鳥を落とす勢いなんだとか。
本人は書きたいものを書きたいように書いてるだけ、だそうですが。

次はイッシュ2日目の朝です。
果たして何が起きるんでしょうか。

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