ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第87話 2日目/ギアステーション。

 

 

 

 

 次の日。

 窓から差しこむ朝日とアマルス(ゴーシェナイト)の鳴き声で目覚めた俺は、瞼をしょぼしょぼさせながら起き上がった。

 

 聞き分けのいいゴーシェが勝手にボールから出ているのは珍しい。

 よくよく聞いてみると、声には節がついていた。

 ────歌っている。

 しかもそのメロディは、昨日観たミュージカルのクライマックスでかかったラブソングだった。

 

「1度聴いただけなのにもう覚えたんか。やるじゃん」

「りうっ!」

 

 褒めると、ゴーシェは誇らしげに返事をした。

 

 枕元に置いたポケギアを見る。着信が3件とメールが5件届いていた。連絡してくるのはもっぱらゼミの先輩ばかりだったから、すわ学校で何かあったかと慌ててメールボックスを開くと、差出人はすべてシキミだった。

 

「おどかすなや」

 

 拍子抜けしながら1通ずつ確認していく。

 

 1通目

『おはよー!』

 2通目

『起きてる?』

 3通目

『おーい』

 4通目

『今日はバトルサブウェイ行こうよ!』

 5通目

『お腹空いた〜』

 

「いや暇人かあいつ」

 

 この程度の用件なら1通にまとめて欲しい。

 というか朝6時から連投すんな、怖いから。

 

 俺は溜息をついてバスルームに向かった。

 とりあえず、シャワーを浴びよう。

 

 シャワーから出るとさらに7件メールが来てた。

 だから怖いって。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「あ、やっときた!」

 

 ホテルロビーのベンチに座っていたシキミがぴょこんと立ち上がった。

 

「んもー待ちくたびれたよダーリン♡」

 

 俺の肩にしなだれかかってくる。

 朝からやたらテンションが高いと思ったら、目の下にクマが浮いていた。

 

 こいつ、さては寝てないな? 

 

 指摘すると、シキミはくるりくるりとおどけて回った。

 

「あー、バレたかー。いやあ、アシタバくんがめっちゃ褒めちぎってくれたお陰で創作意欲がドバドバ湧いちゃってさー、一晩で3本書き上げちった」

 

 ぶい! とピースサインを掲げている。

 シキミの言はなんとなく理解出来た。

 発掘中に意外な化石なんかを発見すると、アドレナリンがぶわーっと分泌されることがある。

 多分今の彼女もそういう状態なんだろう。

 

「無理すんなよ」

「えへへぃ。ありがとっ!」

 

 元気な返事だ。空元気だけど。

 

 

 

 そのまま俺たちはギア・ステーションに直行した。今度は俺が先を歩いたので、迷わず辿り着くことができた。

 

 朝8時というのに、既に挑戦者らしきトレーナーがちらほら集まっている。

 駅員が2人、ものすごくテキパキと捌いていた。

 

「はい、シングルバトル希望でございますね! それでは改札を通って左手のホームよりご乗車ください!」

「ダブルバトル? ポケモンは4匹までだけどOK?

 うん、それなら大丈夫、行ってらっしゃい!」

 

 2人ともかなり若かった。俺と同い年か、下手したら年下なんじゃないだろうか。

 しかも髪色から顔貌にいたるまで驚くほどそっくりである。双子らしい。

 

 片割れが振り向き、俺とシキミをまじまじと眺めてきた。ずっと浮かべている微笑みが少し怖い。

 

「挑戦する?」

「え、あ、はい」

「そしたら君たちはマルチトレインだね。いちばん奥のホームへどうぞ」

 

 促されるまま受付をくぐった。

 歩きながら首を傾げる。

 

「俺マルチバトルってやったことないんだけど」

「私も! どんなルールだっけ?」

 

 おい四天王見習い。いいのかそんなんで。

 

 ホームに設置されている案内図を黙読する。あー、2人組同士で戦うアレか。あんま公式戦で採用されるルールじゃないから忘れてたな。

 

「レギュレーションは道具あり・交代あり・トレーナーによる回復禁止・技は4つまで、か。7戦を1周とし、3周でゴールね。使用ポケモンは……ひとり2体!? まじかよ」

 

 負けたら最初からやり直しってことは、21回連続で勝ち続けなきゃならないわけか。

 1体はカブトプス(カブルー)で確定として、さて後続をどうしよう。悩む俺の腰元で、ボールがカタカタ震えた。白いボールと瑠璃紺のボールが激しく主張している。

 

 おれたちを出せってか。

 

 揺れるボールを2個握って途方に暮れていると、シキミが横から覗きこんできた。

 

「おっやる気満々だね〜! 

 そしたらもう、この子達に託すっきゃないよ!」

「……だよなあ」

 

 俺は苦笑し、ボール越しによろしくなと囁いた。

 揺れがピタリと止まる。

 ルギア(レヴィ)がうんでもすんでもないのはまだ眠ってるからだろう。鳥のくせに、朝にはすこぶる弱いのだ。

 

「シキミは何で行くんだ?」

「わたしはこの子と……この子かな」

 

 そう言って見せられた2体はめちゃくちゃ鍛えられたゴーストポケモンたちだった。

 内心舌を巻く。

 昨日からすっとこどっこいなところばかり見せられてきたが、やっぱり四天王に選ばれる人間はレベルが違う。

 

(足を引っ張らねえようにしねえとな)

 

 緊張に顔が引き締まる。

 そのとき、アナウンスが流れた。

 

『────間もなく、マルチトレインが到着致します。

 ご乗車になるお客様は白線の内側に下がってお待ちください……』

 

 風を唸らせホームに電車が到着する。

 一見ごく普通の車両に見えるが、バトルサブウェイの名が示す通りこの中でバトルするらしい。

 まったくイッシュ人は考えることがぶっ飛んでんな! 

 

「うし! 行くか!」

「おー!」

 

 俺たちは、意気揚々と乗りこんだ。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ギアステーション改札口。

 挑戦者達を捌いていた駅員が細く息を吐いた。

 ようやく最初の全員を希望のホームに案内し終えた。

 毎朝のことながら、この瞬間はいつもほっとする。

 

「ふう。何とか朝のラッシュは終わりましたね。

 そちらはどうです?」

「ボクの方も終わったよ」

 

 片割れは頷き、しかし落ち着かなげに何度も足を踏み替えていた。

 

「……? どうしました?」

「ん?」

「ソワソワしていますよ」

「アハ。バレた」

 

 朗らかな笑みが浮かぶ。

 

「あのね、さっき凄く強そうな2人組がいたの。マルチに案内したけど、彼らなら多分ゴールまで行くよ」

「ほう!」

 

 先に声をかけた方の瞳が、キラリと光った。

 

 近頃はシングルやダブルばかりが盛況で、マルチに挑戦してくれるトレーナーは少ない。

 もしも本当にゴールまで来てくれるなら、久しぶりに2人で戦うことが出来る。

 

「是非とも最後まで勝ち抜いて頂きたいですね、クダリ」

「そうだね、ノボリ」

 

 双子の鉄道員は双眸を爛々とさせながら、全く同時にマルチトレインのホームを見やった。

 

 

 

 




というわけで87話。
この時のノボクダさんたちはまだサブウェイマスターではございません。
いち鉄道員です。
しかしすでに頭角を現しはじめており、常連のあいだで一目置かれているんだとか。

シキミちゃんはなんのポケモンを使ってくるんでしょーか。

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