「あ、お兄さんまた乗ってきたですー?」
「今回もわたしたちのしょうりは確定ですー」
幼稚園児のマキとミキがくすくす笑いながら俺を見つめてきた。
こ、こんにゃろうども……。
シキミが憤る俺の腰の辺りをぽんと叩く。
「あの子たちにわからせてやろ、アシタバくん」
「────おう」
そうだ、落ち着け。
挑発に乗っているヒマはない。
俺はふーっと細い息を吐き出して、スノウボールを見下ろした。
振動を味方につける。
リズムを掴む。
シキミが与えてくれた助言を反芻し、ボール越しに囁きかけた。
「もう一度頑張ってみようぜ、
応諾してくれる仲間に心から感謝して、ゴーシェを呼び出した。雪より白く美しい膚を光らせ、車両の床を踏みしめている。
シキミもフワライドを繰り出したところで、電車が動き始めた。
ゴーシェの傍らに膝をつく。
「ゴーシェ。慣れない環境は辛いだろうが、言っちまえばずっと同じリズムで揺れてるだけだ。必要以上に恐れる必要はねえ。技を出すタイミングは俺が指示する。お前はただ、このリズムを楽しんでみろ」
「りう……?」
「感じるだろ? タタン、タタンって揺れるのを。
この振動にノっちまうのさ」
「────!」
合点のいったらしいゴーシェが力強く頷いた。
幼稚園児たちに向き直ると、彼女らはポケモンも出さず、こっちが話し終わるのを待っていてくれた。
「待たせてすまん! ありがとな。やろうか」
「いえいえですー」
「幼稚園でもお話をじゃましてはいけませんっておそわりますからー」
行儀のいい子達だ。
俺は苦笑し、彼女らの準備が終わるのを待った。
「頑張ってくださいプラスルー」
「勝利をつかみますよマイナンー」
プラスルとマイナンが着地する。
マルチトレインは既に時速70キロに達しているが、プラスルたちは大地にでも立っているように揺るがない。
一方ゴーシェのほうはまだリズムを掴みかねているのか、右に左に首を傾げていた。
「それじゃ」
「バトル」
「「スタートですー」」
プラスルの電撃が生き物のようにくねりながら突進する。向かう先は電気が弱点のフワライドだ。
マイナンが背後で手助けしているうえに、特性"プラス"と"マイナス"の力が重なった電撃破は恐るべき破壊力と化している。いかに特防の高いフワライドといえどこの一撃を凌ぐのは難しいはずだ。
しかし、シキミの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
「シャドーボールっ!」
凝縮された闇の力が球形を成し、電撃破を真っ向から迎え撃つ。一瞬拮抗した後、大きな音を立てて爆発した!
マキとミキが目を丸くする。
「すごーい」
「消されちゃったー」
「なら、もっと強い力を使わないとだねー」
「これならどーかなー?」
今度はプラスルが後ろに下がり、マイナンが前に踏み出した。2体とも瞼を閉じ、全身から燐光を放ち始める。
「あれは……」
「充電だね。次の電気技はシャドボじゃ消せないかも。
どうする、アシタバくん」
俺は黙ってゴーシェを見やった。小さな雪龍が振り返る。透き通った瞳には、確信に満ちた輝きが宿っていた。
────覚えたか! リズム!
「いけるんだな」
「りう!」
「よぉしかますぞ!
シキミ、すまんけど躱すか護るかしてくれるか!」
「おっけ! こっちは心配いらないよ!」
「さんきゅ! ゴーシェ!」
2本の指を電気ネズミたちに突きつける。
ゴーシェのヒレが小刻みに震えた。
「プラスルー」
「マイナンー」
「「放電ですー」」
少女たちが命じる。しかし大放電がこちらに届くより先に、ゴーシェの技が展開した!
「ミラーコート!」
薄氷のように透き通った魔法の盾が電撃を跳ね返す。
技を出した当人達に降り注ぎ、プラスルたちは手痛いダメージを負った。
しかし電気タイプは無論電気に耐性がある。気絶させるには至らない。即座に反撃しようとしたプラスルだったが、前のめりになっていたせいで
「ゴーストダイブ!」
死角から強かに打ち据えられ、プラスルが気絶する。怯んだマイナンに向けて追撃を命じた。
「冷凍ビーム!」
折悪しくカーブに差し掛かっていたが、完璧にリズムを掴んだゴーシェの凍てつく光線は狙い誤たず命中した!
マイナンも気絶し、マキとミキとの試合は俺たちの勝利で幕を閉じた。
「あー、やられちゃったー」
「負けるのは久々ですー」
「お兄ちゃんに鍛えてもらおー」
「そーしましょー」
幼女2人が分別臭い態度でうんうん頷きあっている。聞けば彼女たちには年の離れた兄がいて、綿密なデータ分析に基づいた理論的戦法を得意としているらしい。
「ぶんせきどーり! が口癖なんですー」
「とっても強くて、いまは寒いちほーで修行してますー」
「もしどこかでお会いしたら妹たちが会いたがってたと伝えてくださいー」
「それではー」
ぺこり、と最後まで行儀よく2人は降りていった。
再び電車が動き出す。先程よりも速度が上がった。
「次の車輛に移るよ、アシタバくん」
「おう! よく頑張ってくれたな、ゴーシェ。
かっこよかったぜ!」
「りう」
ゴーシェは嬉しそうに擦り寄ってきた。腰のミストボールが悋気に震えたが、指先で軽く叩くと静まった。
近頃はうちの姫様も感情のコントロールが上手くなっていて有難い。
「もう1戦、やれそうか?」
「りう!」
「うし! 楽しんでいくぞ!」
俺とシキミは威風堂々貫通扉をくぐり抜け、次のステージへと歩を進めた。
というわけで89話。
ぎ、ぎりぎり今日中に投稿できた……!
貫通扉というのは連結部の扉のことだそうです。作者も調べて知りました。
マキミキの兄はもちろんあの人です。理不尽な強さで有名ですね。
次でバトルサブウェイ編終わらせるつもりです。
よければ感想高評価おなしゃす!