ミナキは誠実な男なんだろう。心底申し訳なさそうな顔で土下座する様は、わざとらしさとか白々しさとかこれっぽっちもなくて、寧ろ疑われた俺の方が心苦しくなるほど真に迫るものがあった。
「────ま、ボールに入れずにそんな連れ歩き方をしてれば疑われるのも当然だ。
「ぐ」
そこを突かれると正論すぎてグウの音もでない。俺は吐息して、ミナキに手を差し伸べた。
「頭あげてくださいよ。あんまり長くやられたらいよいよ俺が悪者になる」
「…………ありがとう、君は優しいな」
ミナキが微笑み、立ち上がる。よく見れば整った顔立ちをしていた。こんな素っ頓狂な格好じゃなければ、女が放っとかないだろう。
「聞いていいか? なんでマントなんかつけてんのか」
「聞いてくれるか!」
マントの裾をぶわあっ! と広げ、ミナキは頬を上気させながら語りはじめた。
────長かったんで掻い摘んで説明すると、彼はホウオウ伝説に出てくる《甦りし三犬》を追っているという。
なかんずく、清流の使徒・スイクンを求めているらしい。いつか見えた時に失礼のないよう、常に正装しているのだそうだ。
正装にマントが付き物っていうお国もあるんだなあ。世界は広い。……え、ジョウト生まれジョウト育ち? またまたご冗談を。
おもわず遠い目をしているうちにもミナキの熱弁は続く。
「風に乗って世界中を旅しながら、汚濁に塗れた水源を浄化して廻っているのだ。なんと慈愛に満ちたポケモンだろう。ぜひとも逢ってみたいのだよ!」
「────で、もし逢えたら捕まえんの?」
「ああ!」
即答するミナキに、俺は何となく気持ちが塞ぐのを覚えた。
スイクンのその行動は無論俺も聞いたことがある。こちらは伝説ポケモンと違い、現代でも複数の目撃情報があるため、考古学では準伝説に分類される生命体だ。
ただ、やはり並のポケモンとは一線を画した力の持ち主だし、もしもトレーナーに囚われてしまったらスイクンの営みは途切れ、穢れた水は穢れたまま放置されてしまうだろう。そうなれば、数え切れないほどの生物に影響が及ぶ。自己満足で安易に捕獲するべきじゃあない。
そう言いさした俺だったが、続くミナキの台詞に心を奪われた。
彼はこう言った。
「捕獲して、私もスイクンの旅に同行させてもらうのだ。水が汚れるのは人間のせいだからね。せめて彼と共に苦労を分かち合いたい。そして、心から感謝を伝えたいのだ」
「……………………」
感謝と協力。
ミナキの言葉に、俺は胸をおさえた。
はじめて
『ポケモンと人は、支えあって生きているんだ。どちらかが一方を奴隷のように扱ったり、搾取してはいけないよ』
ミナキの言葉、というか信念は、まさにこのことではないか。
わかっているつもりだったお決まりの文句が、真実の重みを伴って俺の胸に落ちてきた。
それから抗うように、ついつまんない言葉を口走った。
「その
すくなくとも、俺は思えない。
俺みたいな人間に、そんな価値は無いからだ。
ミナキはきょとんとした後、すぐに朗らかに笑った。
「考えたことも無かった! キミは面白い視点の持ち主だな。だが、その答えはシンプルだぞ。釣り合わないと思うなら、釣り合う人間になれるよう努力すればいいだけじゃないか!」
「…………!」
あっけらかんとした物言いに、俺は肩の力が抜けるのを感じた。
このひとは、なんて簡単なことのように言うんだろう。
…………ああでも、もしかしたら。
本当に、簡単なことなのかもしれない。
────気がつくと。
「…………見つかるといいな」
俺は心からミナキを応援していた。
ミナキは晴がましい顔で頷いた。
ミナキと別れ、アカデミーに戻る道すがら、俺は黙然と考えに耽っていた。
ポケモンと人は共生関係にある。物心ついたときから何度も聞かされた話だ。
だが俺は、ポケモンを育てて戦わせているうちに、心のどこかで人間を上に置き、ポケモンを下に見てたのかもしれない。本心から対等と思っていなかった気がする。
だからこそ、特別なポケモンをボールに入れることに、ひいては責任をもって育てるということに、勝手に引け目を感じていたんじゃないだろうか。
その傲慢な思いこみを無くし、ひとりの人間と一体のポケモンとして、向き合う時間を設けなければいけない。
たぶん────いまが、その時なんだ。
「…………先輩」
研究室に戻ってからようやく口を開いた。すでに窓の外は暗闇に沈んでいる。
レホール先輩は何を言われるか完全に察している面持ちで俺を見やった。
「…………研究対象と、友情って成立すると思いますか」
掌のなかのフレンドボールを握り直すと、先輩は目尻を下げた。
「それは双方次第────だろう?」
「げる?」
からあげをぱくついていたルギアが目を上げ、俺とボールとを交互に見つめた。
静かに跪き、ルギアと視線を合わせる。
自分自身に言い聞かせるつもりで、ゆっくり喋った。
「……俺さ、お前のことまだ全然わかってないよ。なんでここに飛んできたのかもわかんないし、この先どうしたいのかも知らない。だけど、分かんないなら分かるまで付き合いたいんだ」
「…………」
「狭いリュックに入るのは今日でおしまい。友達になって、色んな景色を見て、色んなとこへいこう。いまはまだ、お前の友達として相応しくないかもしれないけど、頑張るから。一緒に歩みたいんだ。……どうかな?」
「…………」
脳内シミュレーションではもっと能弁だったのに、実際に話してみるともどかしいぐらい言葉が出てこなかった。
ルギアは長いあいだ無言だったが、不意に長い首を曲げ、顔を逸らした。
…………拒否、ということだろうか。
寂寥感が胸を襲う。だけど仕方ない。ルギアが決めたことなんだから。
ボールを持った手を引っ込めようとした、その時だった。
ルギアが1番大きなからあげを、そっと俺の手に載せた。
そして、交換と言わんばかりに、開閉スイッチを嘴で押した。小さな体が吸いこまれていく。
フレンドボールが小刻みに揺れて、その後、ぱちんと音がした。
「────捕獲成功。おめでとう、アシタバ」
レホール先輩の手がそっと肩に触れる。
俺は、鼻の奥がツンとするのを堪えながら震える声で礼を言い、唐揚げを頬張った。
今までで、1番美味い唐揚げだった。
というわけで第9話。
うじうじ卑下しまくってた主人公、とうとう捕獲しました。
フレボなのは①カブトプスと同じボールがよくて②ルギアと友達になりたいという気持ちの表れですが、なぜそんなオシャボを持ってたかはおいおい書いていければいいな。
よければ感想評価おなしゃす。