ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第90話 バトルサブウェイ⑶

 

 

 

 1度コツを掴んだアマルス(ゴーシェナイト)の活躍は目覚しく、俺たちは快進撃を続け、遂に7人目に到達した。

 

 マルチトレインの速度は時速180キロに達し、さしものシキミも吊り革を強く握りしめている。

 

 さて1周目最後の相手は誰かと構えていると、車輛の奥で2つの人影がお辞儀した。

 

「ようこそお越しくださいました! 

 鉄道員のノボリとクダリと申します!」

 

 馬鹿でかい声を響かせながらノボリが自己紹介する。俺はあっと目を丸くした。

 

 彼らは改札口でチャレンジャーたちを案内していたスタッフだった。隣のそっくりな青年──おそらく彼の言うクダリだろう──が小さく微笑んだ。

 

「あのね、僕たちホントはもっと後の出番なの。

 3周目最後の関門(21人目)に出てくる予定だったんだけど、君たちに早く逢いたくて出てきちゃった」

「そうなんです。すぐにでも戦いたくなりまして、順番を変えていただきました」

 

 言いつつボールを握っている。さすが双子、全く同時に同じフォームで投擲した。

 

「お願いします、ギギギアル!」

「楽しもうね、デンチュラ!」

 

「「目指すは勝利! 出発進行!」」

 

 掛け声に合わせ、それぞれのポケモンたちが勇ましい声を上げる。負けじと、俺とシキミも手持ちを繰り出した。

 

「デンチュラが厄介だな」

「そうだね。先に潰していこう」

 

 唇を動かさず、ごく小声でやり取りする。バトルサブウェイで勝ったり負けたりするうちに、自然と身についた技術だった。

 

「ゴーシェ、冷凍ビーム!」

「フワライド、鬼火!」

 

 極寒の光線と身を蝕む炎がデンチュラに迫る。帯電する蜘蛛はギリギリまで引きつけてから、突如天井に飛び上がり、俺たちの攻撃をやり過ごした。

 どういう原理か、天井にぴたりと張りついて離れない。

 

「やるわね……!

 ならこれはどう? シャドーボールっ!」

 

 漆黒の球がデンチュラとギギギアル両方を襲う。

 ノボリが朗々と命じた。

 

「ギアソーサーを放ちなさい!」

 

 ギギギアルの躰が高速回転し、2つの歯車を解き放った。複雑な軌道を描きながら、見事シャドーボールを叩き落としていく。

 

 俺は感嘆した。四天王の候補に選ばれるシキミの実力は本物だ。例えば俺と彼女が戦ったとして、勝ち目はかなり薄いだろう。それだけの差が俺達にはある。

 

 なのにノボリたちは、なんなく躱し、あるいは迎撃してみせた。彼らもまた尋常なトレーナーではない証である。

 

 脳みそが目まぐるしく動く。

 考えろ考えろ考えろ。

 どうすれば攻撃を当てられる? 

 

「────よし」

 

 あまり褒められた手じゃないが、これしかない。

 

「シキミ」

 

 手短に俺の考えを伝えると、シキミはぽかんとしてから噴き出した。

 

「んはっ! やっぱりアシタバくんて他とは違うわね!」

「やれそうか?」

「あったりまえでしょダーリン♡」

「ダーリンはやめろ」

 

 腰に着けたミストボールがガタガタするんじゃ。

 

 相手に向き直る。ちょうどデンチュラがエレキボールを撃つ寸前だった。声を張り上げ、ゴーシェに命じる。

 

「ハイパーボイス!」

 

 ゴーシェが腹の底から大音声を発した。あまりの大声に全ての窓ガラスが震動し、デンチュラの技が中断される。

 特性フリーズスキンが発動し、車輛全体に氷の膜が形成された。

 

 車内の温度が一気に下がる。

 寒さに弱い虫ポケモンのデンチュラは特にダメージを受けたようで、天井から落ちてきた。

 

(ビンゴだ!)

 

 俺はほくそ笑んだ。

 形ある攻撃は全ていなされてしまうなら、形のない攻撃を出せばいい!

 それはゴーシェの最も得意とするところ、さしものノボリたちもこれを消すことは出来ないだろう。

 

「わあ、凄い声。たしかにそれを防ぐのは難しい。

 でも、僕たちも同じことができるんだよね」

 

 デンチュラの双眸がゴーシェを睨む。

 全身の毛がぶわりと逆立った。

 

「蟲のさざめき!」

「うぎっ!?」

 

 何万匹もの蟲が大合唱しているような不快な音色に、背筋がぞくぞく粟立った。

 ゴーシェも長い首を竦めている。

 

「ぐ……っ、掻き消せ、ハイパーボイス!」

「させませんよ! 嫌な音!」

 

 今度はノボリのギギギアルが、黒板を爪で引っ掻くような音を撒き散らす。

 異なる2つの音攻撃に、ゴーシェが苦悶の声を上げた。

 

 音楽が大好きな彼にとって、この音波攻撃は気持ち悪いだけでなく心身に相当なダメージを負っているだろう。両耳をがっちり塞ぎながら、俺は心の中で何度も詫びた。

 

(ごめん、ごめんなゴーシェ。

 だけどこれで……シキミが活きる!

 

 2体ともゴーシェを狙う機会を待っていた! 

 

 刹那。

 人知れず隠遁し続けていたフワライドがノボリの影から這い出て、ギギギアルの歯車をがっきと掴み、影の世界に引きずり込んだ! 

 

「なっ!?」

 

 ノボリが瞠目する。嫌な音が減り、彼らのコンビネーションに隙が生まれた! 酷い音色を聞かされ怒りに燃えるゴーシェが大きく息を吸う。

 

「お返しにキッツイの浴びせてやれ」

 

 金色のヒレを震わせて、特大のハイパーボイスがデンチュラをぶちのめした。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「本当に、お強うございました」

 

 気絶したギギギアルをボールにしまいながらノボリが言う。哀れな歯車ポケモンは影の中でさんざんタコ殴りにされたらしく、酷く怯えた顔つきをしていた。

 

「うん。順番を変えてもらった甲斐があったね」

 

 デンチュラを戻したクダリが嬉しそうに相槌を打った。

 

「まさか、アマルスを囮にして不意打ちを仕掛けてくるとは思わなかった! とってもいい策戦!

 どっちが思いついたの?」

「はーい、彼でーす」

 

 シキミが俺を指さすと、ノボリとクダリがずいっと迫ってきた。背丈がデカすぎてちょっと怖い。

 

「失礼ですが、お名前は?」

「あ、アシタバ」

「アシタバさんですか」

「アシタバくんだね」

 

 2対の瞳が俺を見据える。

 その眼差しには、もう一度戦いたいという強い意志が明々と燃えていた。

 

 トレインは徐々に速度を緩め、最初に乗ったホームで停車した。ノボリいわく、チャレンジャーには一時休憩が認められているとのことなので、俺達も降りることにする。

 

「ではお二方、またのご乗車をお待ちしております」

 

 直角に腰を曲げる2人に見送られ、ギアステーションを後にした。

 地上に出た途端、昼の太陽の眩しさに目を覆った。

 

「まっぶっ!?」

「ずーっと地下に潜ってたもんねえ」

 

 笑うシキミも目をしょぼしょぼさせている。完徹の彼女には尚更キツかろう。

 

「いったんホテル帰って休もうぜ……」

「さんせーい」

 

 俺たちはフラフラしながらも、確かな満足感を胸にホテルに戻り、泥のように眠った。

 

 

 

 

 




というわけで90話。
説明し忘れていましたが、拙作のバトルサブウェイではノーマルランクのマルチトレインのスタッフはポケモンを1体のみ繰り出して戦います。
スーパーランクに上がって初めてポケモンを2体持つことを許されます。
チャレンジャーに対する救済措置ですね。

これにてバトルサブウェイは終わりです。
よければ感想高評価おなしゃす!
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