ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第92話 身の程知らず。

 

 

 

 

 シキミが予約したライモン・ミュージックホールの一室は、広さこそ然程でもないものの、調度類は一級の品ばかりが揃えられている豪奢な部屋だった。

 

 部屋の二方を重厚な壁が支え、一方は扉、残る一方がガラス窓である。その窓から舞台が見下ろせる。芝居は第二幕に差し掛かり、真実を追求する兄王と理想に固執する弟王の諍いが激化していくところだった。

 

 芝居好きのアマルス(ゴーシェナイト)が窓の中央に陣取り、かぶりつきで眺めている。腹の膨れたルギア(レヴィアタン)は眠り、カブトプス(カブルー)ヌメラ(メルティ)と戯れていた。

 どこを切り取っても平穏な光景である。

 

 ────四天王になる気は無いか。

 

 かけられた一言があまりに意外すぎ、俺は麻痺した頭でぼんやりとカブルーたちを見やっていた。

 

 四天王? 

 俺が? 

 

「はは。ちょっとそれは……ありえないっすね」

 

 アデクさんが小首を傾げる。

 

「有り得ない、とな。断る文句にしては興味深いの。なぜそう思う?」

「いやだって、俺の実力じゃとても務まりゃしませんよ。そういうのはもっと強いトレーナーがやるもんでしょ?」

「シキミの話では充分な力量があるということだが?」

 

 隣でシキミがうんうん頷いている。

 俺は「見込み違いです」と一刀両断した。

 

「彼女が買い被りすぎてるだけです。俺はかつて、ジムリーダー試験すら落ちた男ですよ。そりゃあの頃に比べりゃちったあ腕も上がったかもしれませんが、四天王が担える器じゃありません」

「そんなこと──!」

 

 言いさしたシキミをアデクさんが制した。

 その顔には、うっすらと笑みが浮かんでいる。

 

「消極的、なれど豪傑か。ふふふ」

 

 笑いはやがて部屋中を響かせる哄笑に変わった。呆気にとられる俺に、アデクさんが掌を打ち合わせる。

 

「よし分かった。アシタバよ、いまの話は忘れてくれ」

「……あ、は、はい!」

 

 俺は安堵した。

 よかった、すっと諦めてくれる人で。

 諦めの悪いシキミが「ちょっとアデクさあん!」とか取りついているが見なかったことにしよう。

 

 デザートも腹に収めて、いそいそとゴーシェたちの傍に行った。もうすぐ幕間の時間も終わり、第三幕が始まろうとしていた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 さて、所は変わり、ライモンシティの大通り。

 男が2人、道を挟んだ反対側から剣呑な目つきでミュージックホールを見据えていた。

 

 秋の夜長には驚くほど冷たい風が吹く。上着の前を掻き合せ、震えながら、目当ての人物が出てくるのを今か今かと待っていた。

 

「まだ出てきませんね、リーダー」

「そうだな、我が同志。同志13号が囚われてしまったいま、我らで成果を上げねばな」

「仰る通りです、リーダー」

 

 同志と呼ばれた青年が頷く。

 リーダーと呼ばれた中年が、忌々しげに唾を吐いた。

 

 苛立ちの原因は枚挙に暇がないが、なかでも昨日の事件は思い出すたび腸が煮えくり返る心地がする。

 

《ポケモン解放戦線》は数年前に発足した組織である。

 毎日聞こえてくるポケモンの虐待や乱獲事件に嫌気がさし、同志を募って結成した。

 主な活動は庶民の蒙を啓くための街頭演説と、愚かな人間から無垢なポケモンを逃がす解放運動である。

 

 この世には愚者があまりにも多い。ポケモンを無理やり捕え、ペットと称して自由を奪ったり、バトルと称して暴力を振るわせる者共で溢れかえっている。

 

 到底許せるものでは無い。

 なんとしても、この間違った世を正さねば。

 

 地道な活動を重ね、少しずつ輪を広げていった。

 まだまだ人数は少ないが、志を同じくする仲間がそばにいるだけで心強いものだ。

 しかし昨日、その尊き仲間が不当に逮捕された。少年からポケモンを強奪しようとしたかどで。

 

 すぐさま警察署に赴き、理を説いた。

 彼女がしたことは強奪ではない。清浄なる世界を作るための誉れ高き使命なのだと。

 

 だが蒙昧なジュンサーは聞く耳を持たず、半笑いで応対した。それ以上喚くようなら公務執行妨害にするぞと言われ、やむなく引き下がらざるを得なかった。

 

 悔しかった。

 我らの崇高な理念を理解しようとしない愚物どもが蔓延っていることが、虫唾が走るほど憤ろしい。

 

 せめて、昨日ヌメラを虐めていた小僧に鉄槌を喰らわせてやらねば、怒りで臓腑がおかしくなりそうだった。

 

 同志のおかげでホテルからこのホールに入っていったのは確認済みだ。出口さえ見張っていれば、いずれ捕まえられる算段である。

 

 ────と、横の同志が弾んだ声を上げた。

 

「あっ、見てくださいリーダー! 

 あの女、小僧と一緒にいた娘では!?」

「…………!」

 

 まさしくその通りであった。

 あいにく目当ての小僧は居ないようだが、あの娘をひっ捕らえれば連絡先も得られよう。

 

 娘はホールから離れ、薄暗い一角へと歩いていく。

 ますます好都合だ。

 

 リーダーが駆けだし、同志が後を追う。娘は急ぐ素振りもなかったので、すぐに追いついた。

 

「そこの女! 待て!」

 

 同志が呼びかけると、娘はぴたりと立ち止まった。

 

「……なあに? オジサンたち」

「貴様、ヌメラを虐待していた男と一緒にいたな!

 奴の名と電話番号を教えてもらおう!」

「はぁ?」

 

 娘が片眉を跳ねあげる。

 

「ヌメラを虐待? 何言ってんの? アシタバくんがそんなことするわけないじゃん! バッカじゃない!?」

「ば、バカだとっ」

「大体誰よアンタたち。人を女呼ばわりした挙句名乗りもしないとか何様!? 

 ジョーシキってもんがないわね!?」

「な、ぐっ」

 

 同志の顔がみるみる紅潮していく。

 

「う、うるさい! いいから聞かれたことに答えろ!

 年下の癖に生意気な!」

「論破されたら人格否定? とこっとんダサいわね。

 …………ん?」

 

 娘はそこでふと、顔をリーダーに向け、腕に着けている赤い腕章に目を落とし、「ああ」と呟いた。

 

「なるほど、ポケモン解放戦線とかいう人達か。じゃあその物言いも納得だわ」

 

 言うや、おもむろにポケットからボールを取り出す。

 現れたポケモンに、男たちは後ずさった。

 

 棺桶のようなボディ。

 赤くギラつく2つの目。

 どこまでも伸びるおぞましき双腕。

 

 およそ、年端も行かぬ娘が操るには相応しくない恐ろしいポケモンだった。

 

「な、なんだそいつは……っ」

 

 娘は答えなかった。

 凄みのある笑顔を貼り付けるばかりである。

 

「いやー助かったわあ。アシタバくんは勧誘蹴っちゃうし、アデクさんはあっさり諦めるし。ちょーどムシャクシャしてたとこだったのよねえ。

 アンタ達が来てくれてほぉおんとよかった」

 

 棺桶の長い手が、一瞬にして男たちを捕らえた。必死に振りほどこうとしても、まるで霞を掴むがごとく頼りない手応えしか返ってこない。

 

「ま、ほとんど八つ当たりみたいなもんだけど…………。

 二度と彼にちょっかいかけられないようにオシオキしてあげる♡」

 

 

 

 

 男たちの悲鳴は、ふつりと消えた。

 

 

 

 

 

 




というわけで92話。
アデクさんは結構色んな人を勧誘してるので、断られれば案外あっさり引きます。でも絶対任せたい人にはかなりしつこかったりするとか。
ギーマくんにはかなり長い期間アタックしたようです。
そして1度断られても2度3度勧誘することがある模様。
果たしてアシタバはどうなることやら。

ラストのシキミ嬢が書きたくて2日目の話書いてました。
お気に召していただければ幸いです。
良ければ感想高評価おなしゃす!
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