「海底洞窟にはどうやって行くんですか?」
「そら潜るのよ」
「生身で?」
「おう!」
わあ朗らかな返事だ。
おう! じゃねえのよ。
俺がネイティみたいな眼を向けると、アデクさんは豪快に笑い飛ばした。
「がはははは! 冗談だ! ここらの海は深いでな、素潜りなんぞしたら耳が詰まってしまうわ!」
「常人はそれじゃ済まねえンですよ」
この人の冗談ビミョーに分かりにくいんだよな……。
呆れつつ、どうするつもりなのか見ていると、アデクさんが高らかに指笛を鳴らした。
海原を、鳥の鳴き声にも似た音が響き渡っていく。
暫くは何も起こらなかった。
「…………あの」
「しっ。来おったぞ」
目配せされ、海の一点に目を転じた。
最初は小さな影だった。
みるみる大きくなっていく。
俺が咄嗟に身構えるのと、
海よりも青い膚。
数多の傷が刻まれた甲羅。
片目が白く濁っているのは、長い年月で視力を喪ったのだろう。
「アバゴーラだ。海底洞窟の守り主よ」
年振りた亀が、低い声でごうと鳴いた。
イッシュのとある街に、蔦に覆われた雑居ビルがある。雨風に晒され、いかにも寂れた風情のそれは、街のただ中にあるというのに誰も目を向けたりしない。
目立たない。
それこそ、購入にあたってアデクが求めた条件だった。
「…………ふう」
ビルの一室で、数十枚に及ぶ調査資料に目を通し終えたギーマは、目頭を揉みながらソファに背を預けた。
ここは対ロケット団のための捜査拠点だ。
奴らの存在を知ってから、アデクはイッシュのあちこちにこの手のビルを求め、捜査に必要な機材や資材を運び入れた。
各拠点の場所を知っているのは四天王候補の3人と、ごく限られた人間のみである。
アデク達はこの数ヶ月、あらゆる手を尽くして捜査してきたが、やつらはまるでシビルドンのように掴みどころがない。しっぽを掴んでもするりと逃げられ、あるいは切り捨てて行方を晦ましてしまう。
そしてまた何食わぬ顔で"商売"を再開するのだ。
ライモンシティの地下で広げられていた賭場も、捕まえられたのはロケット団のロの字も知らぬ木っ端ばかり。
せめて幹部クラスの人間を捕まえたいものだが……
「思い通りにいかないからこそこの世は面白いけどねえ」
書類を纏めてくれていたズルズキンが心配そうな面持ちでギーマを見やる。喧嘩っ早い性格だが、仲間思いなポケモンなのだ。
何度目かの溜息をついた時、電話のベルが鳴った。
きっかり3コール待ってから受話器を取る。
「────はい、ギーマ」
『手がかりはあったか』
挨拶もなく尋ねるやり口に、ギーマはうっすら微笑んだ。単純明快、そこが好ましい。
「残念ながらなにも。そちらは?」
『…………得たというか、得るというか』
「? どういうことだい、レンブ」
『…………。明確な情報は
だが、もうすぐ手に入る見込み、ということだ』
思わず受話器を見つめる。
彼にしては随分歯切れが悪いし、いまいち要点を掴めない。こちらが戸惑うのを察したのだろう、レンブは数秒の間を置いて、ゆっくりと答えた。
『…………占って、貰うんだ』
「……占い?」
ギーマの目がすっと細くなる。
レンブは口早に説明した。
『彼女の占いは恐ろしいほど当たるらしい。ロケット団の現在地も次の目的も、手に取るようにわかると言うんだ。俺も信じている訳では無いが、金はかからないというし、なにか手がかりでも掴めればいいと思ってな』
「料金も貰わないで、なぜ占ってくれるんだい?」
『シキミの知り合いらしくてな。
友人価格でいいと言ってくれた』
「…………」
ギーマはギャンブルを好む。
賭けと聞けばどんな媒体、どんな手法でもやってみずには居られない。
しかし、運に身を委ねることと、怪しいものに依存することは天と地ほどの開きがある。
そんなギーマにとって占い師とは、誰にでも当てはまることを適当に話す胡散臭い輩でしかなかった。
「なんて人だい? その占い手は」
必要ならば、身元を洗う必要があるやもしれない。
彼らの
レンブが言った。
『カトレア。常連曰く、夢見る占い師だそうだ』
というわけで94話。
今日もギリギリ更新です。なんとか間に合ってよかった。
さて、みんな大好きカトレアちゃん登場(名前だけ)。
早く出したかったので予定を早めちゃいました。
良ければ感想高評価おなしゃす!