ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第97話 当たって砕けろ。

 

 

 

 

 この世に生を享けて五十余年。

 世界中を冒険し、数えきれぬほど大勢の人と出逢い、そして別れてきた。

 そんじょそこらの大人よりは、経験豊富だという自負がある。

 

 だが、そんな自信は根底から揺らいでしまった。

 己の経験など、しょせん常識の範疇で構築されたちっぽけなものに過ぎないと分かってしまったからだ。

 

 いったい、不老不死になってしまった人間になんと声をかければよいのだろう。

 虚ろな眼差しでこちらを見あげてくる青年を、どう慰めればいい? 

 

 ────結局。

 

「最初から、話を聞かせてくれ」

 

 そう言うことしか出来なかった。

 それしか言えない自分が、歯がゆかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 アシタバは茫然自失といった面持ちで、それでもぽつりぽつりと語り始めた。

 

 ある日突然、寮のベランダに鳥が舞い込んできたこと。

 それが伝説のポケモン・ルギアだと気づいたこと。

 アカデミーの先輩と一緒に生態を調べたが、捗々(はかばか)しい成果は得られなかったこと。

 ホウエン、ガラル、イッシュの3地方を旅したこと。

 旅の途上で2度ばかり、ルギアの神通力を浴びたこと。

 そしてつい先程、壁の古代文字に触れて意識を失った時、始祖と名乗る存在に半神半人の身となっていることを明かされたらしい。

 幼きルギアが使命を全うできるよう、教え導く役割を負わされたという。

 

 短くはない話を語り終えたとき、アシタバの腰のボールが割れ、アマルスとヌメラが飛び出してきた。2匹とも不安げな顔をしている。いつにない空気に心配になったらしい。ヌメラなどは、貴様がアシタバを虐めたのじゃあるまいな、といわんばかりの剣呑な目つきで睨んできた。

 

 苦笑し、手ぶりで敵ではないことを示す。

 その後しばらく、口を噤んだ。

 

「────全ての」

「え?」

 

 呟きに、アシタバが面を上げる。

 

「全ての始祖と、声はそう言ったのだな?」

「……はい」

「ふむ。儂は神話には疎いんだが、ひょっとすると声の主はアルセウスじゃないかの」

 

 アシタバは小さく頷く。

 

「俺もそう思います」

「よな」

 

 並外れたパワーを持つ伝説ポケモンの中でも、アルセウスは別格の位置にある。なにしろ、この世の全てを作りたもうた存在なのだ。それを差し置いて始祖と名乗るポケモンがいるとは考えにくい。

 

「でも、それが分かったところで……」

 

 しおしおと項垂れるアシタバに、儂は待ったをかけた。

 

「────いや! 諦めるのはまだ早いぞアシタバ!」

「え」

 

 まさに天啓とも言うべき鮮やかさで素晴らしいアイデアが閃いたのだ。

 考えてみればこんなに単純な策もない。なぜもっと早く思いつかなかったのだろう。

 儂は膝を折り、ずいっと顔を近づけた。

 

「相手が分かったということはだ、すなわち直に話をつけることが出来るということではないか!」

「えっ、は、話って、あ、相手は神ですよ!?」

「構わん! 神だろうと人だろうと、まずは話してみるのよ! くよくよ悩んでも後ろ向きな考えに取り憑かれるばかりだ、そうだろう? いきなりそんな重い荷を背負わせてくれるなと、正面切ってぶちまけろ!

 ふざけるなと罵ってやれ!」

 

 アシタバはぽかんと口を開けていたが、やがてくつくつ笑いだした。

 

「あ、アデクさん……っ。くくっ、ま、マジかよ……!」

「大マジよ!」

 

 ふん! と胸をそらすと、アシタバは笑って天を仰いだ。ひとしきり笑ったあと、ふうと息を吐く。

 その顔は、ずいぶん血色が良くなっていた。

 

「あー……まあ、当たって砕けろって言いますもんね。

 やるだけやってみるのもアリかあ」

 

 周りに集まっている手持ちの顔や頭を、順番に撫ぜていく。ヌメラ、アマルス、ワシボン、そしてカブトプス。

 儂はふと気になって尋ねてみた。

 

「そういえば、ルギアはまだボールの中か?」

「ああ、いえ、ここに居ますよ。

 ルギア(レヴィ)、変身を解いてくれ」

「げるっ」

 

 ワシボンが鳴き、光の繭に包まれる。

 再び姿を現した時、薄桃色の羽衣を纏った伝説の雛がそこに居た。

 

「なんと……!」

「ホウエンで出逢ったディアンシーから授かったものなんです。なんでも思い描いた姿になれるんで、基本的にはその地方の鳥になってもらってます」

「ほお、そんな神器が……! 素晴らしいの……!」

 

 おもわず手を伸ばしたが、ルギアは決して触らせようとしなかった。警戒心の強い性質らしい。それがアシタバには頭の上で休むほど心を許しているのだから、よほど深い絆を紡いでいることが窺えた。

 

(アルセウスがルギアを託す気持ちも分からなくはないの)

 

 とはいえ、彼に課せられた運命はあまりに残酷すぎる。

 大人として、見過ごしには出来なかった。

 

「それじゃ、海の上に戻ろうかの。

 いかに儂とて神と話したことはないでな、どこでどうすればいいか見当もつかん」

「あ、と、それなんですが」

「うん?」

「もうすこし、この神殿を見て回ってもいいですか?

 次はいつ来れるか分かりませんし、それに……」

「それに?」

「ニンゲンじゃなくなったせいか、俺、なんとなくここの文字が読めるみたいで」

「──なんじゃと!?」

 

 儂の叫びが、神殿中に木霊した。

 

 

 

 

 




というわけで97話。
みんな感想欄で邪神としか呼ばないのくっそ笑いました。

実はこの話、あと3話で一旦終わります。
2部構成にすることにしました。
当初の予定よりも大幅に構想が膨らんで、このまま進めると際限なく続いちゃいそうだからです。
100話を第1部のラストとし、ひと区切りつけてから近日中に第2部を開始する予定です。

話が膨らみに膨らんで作者もこの先どうなるか全然予想ができません。ただオチのシーンは思いついてるので、そこまでの道筋をちゃんと描けるよう頑張ります。

よければ感想高評価おなしゃす!
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