私、船戸結衣には幼馴染がいる。
名前は斎藤宏。小学校低学年の時まで「ヒロくん」と呼んでいた。
私と斎藤くんはとても仲が良かった。
「ヒロくん一緒にアソボー」
「うん!」
家が隣同士だったためヒロくんと私は毎日のように一緒に遊んだ。
「結衣ちゃんはヒロくんのことが大好きなのね!」
「うん! 将来はヒロくんと結婚するの!」
ヒロくんのお母さんに宣言した記憶はもう霞むほど古く、そういった事実があったとういう認識しかない。
「結衣ちゃん、おばさんと一緒にお風呂入りましょ〜」
「は〜い! ヒロくん、いこ!」
私の両親が繁忙期で深夜に帰宅していた時には、よくヒロくんの家に泊めてもらった。
ヒロくんのお母さんは専業主婦でずっと家にいるため、お母さんによく私の面倒を頼まれていた。当時の私はお母さんよりヒロくんと一緒にいる方が断然
楽しかったので寂しいなんて感情は到底湧いてこなかった。
「ユイちゃんアソボー!」
「アソボー!」
幼稚園に入園したあとも私とヒロくんの関係が変わることはなく、いつも二人で遊んでいた。
「大好きな人の名前を書く」というイベントがあったが、みんなが「おかあさん」「おとうさん」と書いているなか、私とヒロくんはお互いの名前を書いて先生の口角をあげていた。
そんなベッタリだった私達は基本的に二人一組で扱われていた。
幼稚園で行われたお泊り会では、一部の子が親と離れ離れになり夜泣きするイベントが発生したが、斎藤くんは親ではなく私の名前を呼んでいた。その事実をあとで聞いて「カワイイ」という単語が頭に浮かんだ。
今思えば私の母性はこのときに目覚めていたんだと思う。
そんな感じで私達は卒園し、小学校に入学した。
小学校にあがると新しいものだけで私は胸を踊らせた。しかしヒロくんは私とことなり、いつも何かに怯えるように私の後ろを歩いていた。
ヒロくんが後ろを歩くのは今に始まったことではないので、私は気にせず前を向き続けた。
テストが行われた。
簡単だった。
私は満点を取った。
先生が「おめでとう」と言った。
隣の席の子が「うそ!」と目を見開いた。
クラスの子が「すごい!」と褒めてくれた。
運動会が行われた。
私は出場種目すべてで一位をとった。
先生が、、友達が、、クラスの子が、、みんなが私を褒める。
褒められると私の心は何かで満たされた。
もっと褒められたい。
どうしたら褒めてくれる?
どうしたら驚いた顔をしてくれる?
みんな新しいことに目を輝かせる。
みんな凄いことに目を奪われる。
なら、新しいことを凄いことをやろう。
私は多趣味になった。
お母さんとお父さんは最近忙しくてずっと家にいない。なので斎藤くんが私の最初の観客だ。みんなの前で失敗しないために斎藤くんに見てもらう。
「ユイちゃんスゴい!! ぼくにも教えて!」
今回は最近上級生の間ではやっているペン回しなるものをヒロくんに披露した。
ヒロくんは目を輝かせ私に「もう一回! もう一回!」と迫る。私はその何度も披露する。
「いいよ。まずはこうやってペンを持って、で、指でこうやって回す。簡単でしょ?」
私の真似をするがヒロくんのペンはまわらず床に落ちる。
「違う違う。そうじゃない。こうやって、こう」
もう一回やって見せるが、ヒロくんのペンは回らず床に落ちる。
「どんくさいな〜」
ヒロくんができないのは珍しくない。
むしろいつもこんなものだ。
できるようになったものの方が少ない。
一輪車くらいだろうか。
なので今日も私は根気よくヒロくんに教える。
私が根気よく教えても彼ができるようになった試しはないが。
しかし、それでも健気に頑張る彼の姿はカワイイし格好いい。
小学校四年生になった。
ヒロくんとの国交は絶たれ、私は一人で帰る日が続いていた。
別に喧嘩したわけじゃない。
クラスの男子にヒロくんが茶化され、私と一緒にいることを拒むようになったからだ。
そんなの気にしなければいいのに。
なんだか裏切られた気分だ。
凄く悲しい。
「ただいまー」
今まで学校帰りに家にヒロくんの家に直接お邪魔していたため、家に直帰するに違和感があった。
静かな家。物音一つしない広い空間はなんだか不気味で気味が悪い。
ヒロくんの家を訪ねてもヒロくんのお母さんはパートでいなく、ヒロくんも学校帰りにそのまま男友達と公園で遊んでいるために数時間は帰ってこない。
帰ってきたところでヒロくんは私とは遊んでくれない。
ヒロくん中心で過ごしてきた私の日常はガラリと変わった。
「……」
とても長い放課後の時間をどう潰そうか考えた結果、私はお父さんのパソコンを使うことにした。
パソコンを起動し、youtubeを開く。
そして適当に動画を見漁る。
最近見たなかで面白かったのは「のばまん」とか「足の裏から人間になる」だ。
どっちとも個性的で非常に面白い。
ゲーム実況をしている「のばまん」さんは街づくりゲームなどをよくしていて、一般人が思いつかないような斜め上のことをしているサイコパスだ。
「足裏」さんは美容系のチャンネルでスキンケアなどの参考に見ている。化粧上手すぎて、開いた口が塞がらないこともしばしば。
youtubeと共同生活が続いて一週間が過ぎたころ、私動画を上げることにした。
見ていたら動画を投稿したくなったのと、見るのに飽きてきたからだ。
あと、お金がほしい。
youtubeには私と同い年で動画を出している人は沢山いたけど、一人で出している子はいない。
なぜかわからないけど、私はそこに需要があるのではないかと思った。
「歌ってみた、だそう」
歌は好きだ。
聞いていると心が落ち着くし、少しだけ寂しさを紛らわせることができる。
それに歌なら編集はほぼ必要ないし、カメラと音楽さえあればできる。
私はテーブルにおいてあるタブレットを手に取り、録画アプリを入れ早速動画を投稿した。チャンネル名はシップドア。
初投稿から三ヶ月が過ぎたころ、私は自分の動画のコメント欄を見ながらニヤニヤしていた。
登録者数二万人。
動画本数100。
小学生というバフがかかっているため、私の動画多いに評価され、注目を集めた。
動画をとにかく投稿したのも良かった。数があれば誰かの目に引っかかりやすくなる。母数が増えれば私の登録者数も自ずと増えていく。
youtubeはいい。
高評価と肯定的なコメントが私の心を満たしてくれる。
私はスゴイ。
私は特別。
みんなが認めてくれる。
登録者数が10万人を突破したのは中学生になってすぐのことだった。
収益化によりお金もそれなりの額が定期的に入るようになり、私は小金持ちになった。
名前もそこそこ売れていて、時々他の歌い手さんからコラボ申請がくるくらいだ。全て断ってるけど。
なんやかんや、お金がいい感じにたまったので機材を一新することに私はした。
まずはパソコンだ。
今まではお父さんのパソコンを使っていたけれど、ゲームをするのに性能が足りないのと、自室でパソコンをしたいので、新しいのを買う。
生放送でリスナーに聞いたらBTOが安いと言われた。
BTOは簡単に言うと自作パソコンのこと。
しかし素人がBTOをやるのは金の無駄らしいので、メルカリをおすすめされた。
メルカリでは自作PCが沢山売ってあり、オーダーメイドもできるらしい。
「メルカリで気をつけることは詐欺ね。了解!」
生放送でリスナーと一緒に買うパソコンを吟味する。
中にはメルカリは保証がないからやめとけ、絶対詐欺に合う! など反対する人もいた。
「まぁ、そうなった時は新しくまた買うよ!」
コメント欄が数秒止まってビビる。
CPU Ryzen9
RAM 64g
GPU 4090
SSD 1T
HDD 2T
電源 850w
約50万円
「おお、やっべ〜!!」
あまりの金額に手が震える。
コメント欄も「中学生の買い物じゃない笑」「成金ですわ〜」と狂喜乱舞している。
しかしここで問題が発生。
「やべぇ。私クレカない。コンビニ払いしかない」
コメント欄が「あ」に覆い尽くされた。
筆者は実際にコンビニ払いで十万にして店員の顔を引き攣らせたことがあります。
クレカって便利ですね。