恋するギフテッド   作:萌花千

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九話

 花火大会が終わり、夏休みも終わりを告げた。

 しかしそれでも暑い日が続いていると思った矢先、数日間雨が振り、止んだと思った気温が一気に下がった。

 薄い長袖をタンスを取り出すそんな、季節。

 

「志望高どうする?」

「どうしよっか」

 

 私達は昼休みの教室で言葉を交わしていた。

 

 ヒロくんとの契約には私と志望校を一緒とういうものが含まれている。

 そのため、ヒロくんが私にこの質問をしてくるのは必然だった。

 むしろ聞くのが少し遅いくらい。

 

「ヒロくんはさ、高校行ったらどうしたい?」

「どうしたいって……どういう意味??」

「いや、その……あれだよ、あれ」

 

 最近、私は変わった気がする。

 昔だったら何も気にせず発せた言葉を今では躊躇して、言えなくなった。

 恥ずかしいとか、照れくさいとか、そんな感情が最前列を占めて、論理的思考が二の次になった。

 実際にクラスメイトや、リスナーに言われる。特にリスナー。

 

 昔だったら躊躇しなかったのに、なんか可愛くなった

 女になった

 彼氏があんなイケメンなら仕方ない

 ガチ恋勢死亡定期

 あれが幼馴染とか二つの意味で羨ましい

 

「わかるでしょ?」

 

 声に出すのがこんなに難しいなんて……。

 

 ヒロくんは察したのか一瞬表情が変わった。

 

「俺は……延長希望。結衣と一緒にいたい」

「うん! 私も!」

 

 もやは私が高校に行く理由はヒロくんと一緒にいるためだ。

 勉強なんてどうでもいい。

 お金だって数億貯まってる。

 何かに依存する必要はない。

 

「ヒロくんの偏差値今どのくらいだっけ?」

 

 日頃から一緒に勉強してテストの結果も共有しているから本当は確認する必要なんてない。

 会話のきっかけとして言っただけだ。

 

 ただ、最近は二人っきりなるとスキンシップして勉強できてないけど。

 まあ、そこは一人の時間を調整すればいい。

 

「今は六十いかないくらい。数学とかは結構いいけど、暗記系がやっぱ苦手」

「じゃあ、中央東高校行かない?」

「中央東?」

「偏差値六十のところ。推薦入試で行こう」

「まじ?」

 

 ヒロくんの成績じゃあ一般で勝ち取るのは難しいけど、推薦なら十二分に狙える。

 理由は三つ。

 一つ。先生たちは私に負い目があり、ヒロくんと私が仲いいことを知ってる。そのためヒロくんの内申に悪い点をつけられない。ヒロくんの素行が特別悪いならまだしも、そんなことはない。これは前回の通信簿からわかっていること。  

 二つ。推薦推薦は自分の得意分野の教科を選べる。わざわざ苦手分野で戦う必要がない。

 三つ。面接は情報や思考力の戦場。普段から私と一緒にいるからヒロくんの考え方は中学生っぽくない。あと情報量も。余裕だ。

 

「まじ! ヒロくんなら絶対大丈夫だよ!」

 

 数秒を顎に手をあて、考えるヒロくん。

 

「てか、なんで中央東? 家から一時間くらいかからない?」

 

 偏差値六十ならもう少し近くに一個高校があるから、そのことを言ってるんだろう。

 

「中央東の方が校舎とか綺麗だし、遠い定期持ってた方が行動範囲が広がるから」

「定期とか関係ある? ……あっ! 俺か」

「そう」

 

 私はお金が腐るほどあるけどヒロくんはそんなことはない。

 ヒロくんに奢るのは全然いいけど、多分ヒロくんの方が嫌がる。

 

「確かにそれなら中央東の方がいいか……」

 

 言葉は納得してるのに、どこか気になるところがあるらしく難しい顔をしている。

 

「それ以外に何か中央東の魅力ってある?」

「推薦の志望動機考えてるなら、実際に見に行ってみる方がいいと思うよ。私が知ってる限りだとパンフとかネットの評判だけだし」

「そうだな。適当なタイミングで行ってみるか」

「うん。いこいこ! 私も時間あったら一緒に行くから」

「そういえば中央東って私立だよな?」

「そうだよ」

「親に確認だな」

 

 そんな日常会話のなかで安直に決まった高校に合格するためにヒロくんは勉強を始めた。

 私は先生とのさりげない会話でヒロくんで指定校推薦で中央東を受験することを伝えた。

 あとは先生たちが勝手にヒロくんの内申点を上げてくれる。

 

 それから私はヒロくんの邪魔をしないように授業を受けず保健室で勉強するようにした。

 先生の中ではまだ、私に指示してくる人がいる。

 もちろん、言葉遣いも丁寧だし、私が言い返せばその時間は何も言ってこない。だけど、一回一回言われるのはダルい。その雑音はヒロくんの邪魔になる可能性がある。

 

「船戸さんはヒロくんのこと本当に大好きなんだね」

「好きだよ。とっても」

 

 微笑むの保健の先生。

 事情を説明したら二つ返事で了承してくれた。

 

「どこが好きなの?」

「う〜ん、私を置いていかないところかな」

「置いていかないこと?」

「私はさ、みんなより凄いからさ、みんなができないことも普通にできる。だからみんな私の普通についていけなくなっちゃんだ。それで、気づいたら誰もいなくなってて。でも、ヒロくんは小学生の頃凄い頑張ってくれた。ちょっと喧嘩もしたけど、それでも私の無茶なお願いを必死で叶えてくれようとしいてくれるの。でもそれが叶わなくてもいいんだ。人にはできるできないがあるから。実際にヒロくんは殆ど叶えられてないし」

「そうなの?」

「うん。だけど、ヒロくんは諦めないんだ。頑張り続けるんだ。私が出したお題に出して一回は吟味して、一回は挑戦する。そこがとっても好き。私を一人で行かせようとしないその姿勢が」

 

 私はたまらなく好きなんだ。

 

 

 その日の夜、ヒロくんから一通のメッセージが届いた。

 

『親に聞いたらすんなりOKしてくれた。なんか逆に不気味だわ笑』

『良かったじゃん! これでヒロくんが指定校推薦取れたら一緒の高校に行けるね!』

 

 当たり前だ。

 交渉は既に成立している。

 私がなんの策も私立を提案すると思った、ヒロくん?

 

 まずは外堀を埋める。

 

 まあ、もう一個の交渉はあまり進んでないけど。

 そこは後々。

 

 私が中央東を選んだ本当の理由はリッチとかそんな単純な理由じゃない。

 中央東は共学と女子高が混在している。

 

 つまり、他の高校より女子比率が高い。

 それは逆説的に男子の比率が高いことになり、高校はいい男の争奪戦となる。

 そんな所にヒロくんが入学すれば確実にモテる。そして、そんな彼をものにしている私はーー。

 

「勝ち確とはまさにこのこと」

 

 ヒロくんが私との関係に飽きて他の女の子の所に行く可能性はあるが、その場合は取り返せば良い。

 私は誰もが羨む容姿と才能を持っているのだから。

 これは覆せない事実だ。

 

「さて、生放送でもしますか」

 

 

 携帯を閉じ、パソコンでOBSとyoutube起動する。

 

 youtubeの登録者数は三百万人を突破した。

 最高再生回数は一億回でショートの、「現金五十万のコンビニ払い」だ。

 歌動画も順調に再生回数を伸ばしている。三ヶ月前に投稿した動画が五百万回再生突破した。

 アルバムも順調に売れ行きを伸ばしていて、株式会社愛好は少しずつ成長している。

 モデルも最近はCM撮影やバラティ番組、ドラマの出演依頼も来ている。CMはだましもバラティやドラマは出演を断っている。

 理由は拘束時間が長いからだ。あと途上人物が多い撮影は暇な時間が多い。退屈すぎる。

 あと、芸能界は闇が深そうだからあまり関わりたくない。

 私はヒロくんだけから愛されたい。

 変なところに足を突っ込んでこの汚されるわけにはいかないんだ。

 

 生放送を一時間半ほどして眠りについた。

 

 

===

 

 その日はめずらしく仕事も学校もないオフの日だった。

 いつも学校帰りや仕事帰りに寄るジムに午前中に行き、かいた汗をシャワーで流したあとに不動産屋に出向いた。

 向かった不動産屋は地元でなく中央東高校の近くにある不動産屋だ。

 

 高校から一人暮らしをする予定だから今日はその物件を探しにきたのだ。

 高校徒歩十分圏内か、高校まで駅一個か二個の物件。

 

 間取りは最低二LDKだ。

 オートロックつきの警備が厳重なマンション。

 

 予算は月五十万ほど。

 

 下調べせずに意気込んで来たもの、どうやら私が思っていたより家賃は安く、私の条件なら場合によっては十万以下に抑えられるらしい。

 

「はへぇ〜」

「あの〜失礼ですが、お客様は〜学生さんに見えるのですが……」

 

 私の見た目や不動産に対しての知識のなさに店員が心配になったのか、腰を低くして聞いてきた。

 

「ああ、そうですね。来年から高校生です。ただ同時にプロの歌手やモデルとして活動しています」

 

 と、私は名刺を渡す。

 

「ああ! これは大変失礼致しました! そうなんですね、でしたら防犯や防音がしっかりしている環境がよろしいですよね!」

「そうですね。やっぱりファンとかに来られるのが一番迷惑ですから」

 

 なぜ防音?

 

「でしたらこちらの物件がおすすめですよ」

 

 そう言われて提示されたいくつかの物件を見て、一つの物件に決めた。

 

 三LDKでオートロック付き。

 マンションの一階の部屋。

 駅まで十分。

 高校までは徒歩十五分。

 家賃は月十八万。

 

「では、こちらでお願いします」

「部屋の内見はしなくてもよろしいのですか?」

「大丈夫です。思っていたのと違ったら引っ越せばいいですし、もし不良物件だったとしても、被害を被るの私ではなくそちらですしね。そちらだってわかって私にこういった物件を紹介したんじゃないですか? 商売はイメージですらね」

 

 答えると担当者が引き使った顔で乾いた笑い声を出した。

 

「それに住めば都ともいいますし。本日はありがとうございました」

「こちらこそ、当店をご利用いただきありがとうございました」

 

 

 ここで豆知識を一つ。

 家を買う時に駅の近くを選ぶのは実は日本特有だったりする。

 駅が近く移動手段があるという理由もあるが、他にも駅の近くは栄えているという理由がある。

 実は駅近くが栄えているのには理由がある。

 小林一三という人物を知っているかい?

 彼は何もないところに路線を通し、その周辺に娯楽施設や買い物施設をつくり、無理やり路線を使わせるようにしたんだ。それを他の会社が真似して今に至る。

 

 

 不動産会社を跡にした私はそのままその足で化粧品売り場に行った。

 パックや乳液、化粧水などの残量が怪しくなってきたから買い足しだ。

 

 その後は一人暮らしで必要になるであろう家具を流し見し、家に帰った。

 

 

 

 時は経ち、受験シーズンがやってきた。

 ヒロくんは推薦入試で中央東に行き、合格を見事勝ち取ってきた。

 私は一般入試で全問正解をして家に帰った。

 なんで全問正解だとわかるかって? 自己採点の結果だよ!

 

 合格祝を二人でし、私達は一夜を過ごした。

 事後報告だから簡潔な言い方をしているが、色々あった。

 色々。

 

 それからヒロくんに引っ越すことを伝えたり、同棲を誘ったり、荷物を新居に移動させたりととても忙しかった。

 

 因みに同棲は断られた。

 悲しいけど、仕方ない。

 

 家賃や校則やら、今のヒロくんにとっては強い拘束言葉が沢山ある。

 

 一夜を過ごしてからヒロくんは獣になった。

 仕方ない。

 若いんだから。

 

 

 入学までの数ヶ月。ほぼ毎日相手をして、ヒロくんはようやくヒトに戻った。

 おかえり。

 

 といっても欲がなくなったわけじゃない。

 ただ、節度と理性を取り戻しただけだ。

 

 ヒトに戻ったヒロくんはより一層大人びた雰囲気になった。

 なんか、歴戦猛者のオスだ。

 カッコイイ。

 

 

 家を出ていき、新居に出発日。

 ヒロくんはわざわざ見送りに来てくれた。

 

 別に県外や海外に出ていくというわけでもないのに。

 

「向こうついたら連絡しろよ」

「うん。次合う時のは入学式だね!」

 

 最近、毎日お互いの家に入り浸っていたため、この一週間は長く感じるんだと思う。

 だけど世の中には電話とか色々あるから別に寂しくはないだろう。

 

「じゃあ、いって来るまであります!」

 

 ピッと敬礼をする。

 

「ああ、いってら」

 

 軽くキスをされ、私は新居に向かった。

 家具のセッティングや荷物の運搬で既に慣れてているはずの道だが、今日はとても新鮮で初めて通るような感じがした。

 

 それから電車に揺られること一時間ほどで新居につき、私は玄関の写真付きのメッセージを送った。

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