恋するギフテッド   作:萌花千

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十話

 春休みが終わった。

 四月から私は中央東高校に入学する。

 偏差値六十の圏内トップクラスの私立の進学校であり、学校にしては珍しく共学と女子校と混在している学校だ。

 そのため共学クラスだけ見れば女子と男子の比率は五分五分だが、学校全体を見ると女子の比率は七割近くに昇る。

 

 男子は女子をお淑やかで慎ましい生き物だと勘違いしているが、実際には恋焦がれていて、イケメンを見ると秒で食い付く凶暴な肉食生物だ。

 ちなみに、女は穏やかと言っているやつに限ってブサイクだったりする。

 いわゆる自分がアプローチされないことに対して言い訳を作って正当化しているのだ。

 ……正当化なのか? まぁ、いいか。

 

 グループの構成に置いて多くの人は入学初期が大事だと思っている。しかし現代では入学する前からある程度グループができている。

 その理由の一つはSNSだ。

 ツイッターで入学者を集め、新入生グループを作りそこから個人にアプローチしてある程度の交友関係を図る。

 

 私も既に何十人ともラインの交換をした。

 インスタも交換した。

 

 インスタやラインのアイコンはヒロくんとのツーショットそのため、話すと一回は話題にあがる。

 彼氏持ちと彼氏と同高と言うと、羨ましがられる。

 私はすでに学年での上位の地位を確立しながら、他の女子への牽制をしている。

 

 これは私のだから手を出すな、と。

 

 

 実際に今日の入学式、遅刻したらいけないという理由で無理やりヒロくんを泊まらせ、私と同じシャンプーや石鹸を使わせた。

 登校する時にはおそろいの香水をつけ、私達は二人仲良く家を出た。

 

 本当だったら手も繋ぎたかったが、そこは高校に先手を打たれた。

 入学する前に会議室に正体され、担任の先生(予定)から言われた。

 

「その、船戸さんに恋人がいらっしゃることを私達は存じてます。申し訳ないんですが学校では風紀というものがあるので、初日からあまりそのスキンシップを控えていただけると、ありがたいのですが……。ですが、その代わりに三年間同じクラスであること確約させていただきますので……」

 

 先生の腰がとても低い。

 中学校での評判を聞いているのだろう。

 

 法律や校則といった原則なルールがあれば守るが、暗黙の了解に私は従わない。

 しかも校則はちゃんと根拠がなければ法律的な根拠を持てず、生徒を縛ることはできない。

 おそらく学校側は今の校則はオーソドックスなもので根拠ありきのものではないということがわかっているから、こういう出方をしているんだろう。

 優秀だ。

 

「登校と学校内では控えるので下校時は譲歩してもらうことはできませんか?」

「そ、それは……上と確認してみないとわからないです」

 

 

 そんな会話が会議室では繰り広げられていた。

 

 

 正直、突っぱねることもできる。

 だけど、高校側がそこまで考えているのに私は正直感心した。

 だから受け入れた。

 

 

 学校までの道、私達は並んで歩く。

 

「クラス一緒だといいな」

「それな。あっ! でもヒロくんは私がいるからって私にばっか頼るのはダメだからね! ちゃんと自分で友達をつくるように」

 

 人差し指をたてる、釘を刺す。

 

「あいよ。結衣もちゃんと友達つくれよ」

「面白そうな人がいればね。あ、そうだ。これうちの合鍵」

「……」

 

 財布から家の予備キーを一つ取り出す。

 ヒロくんが珍しく無言で驚いている。

 

「家に入る時はちゃんと一言言うように。返信は待たなくてよし。友達は入れるべからず」

「いいの?」

「いいの」

 

 少し鍵を見つめたあと、ヒロくんは鍵を受け取った。

 

 合鍵を持たせることでより家に出入りしやすくし、ゆくゆくは同棲の既成事実を目指す。

 気づいたら入り浸っているのが理想だ。

 

「ありがとう」

「いえいえ〜」

 

 私の同棲既成事実計画のことを知らないであろうヒロくんは笑顔でお礼を言ってくる。

 私も笑顔を返す。

 

「そういえばヒロくんは部活入るの?」

「いいや。今の所は入る予定はないかな。なんか高校の部活って遊びっていうよりガチのイメージがあるから。なんかやりにくそう

「自分で部活作るっていうのは?」

「考えてもなかったな。何か作りたい部活でもあるの??」

「察しが良くなったね、ヒロくん」

「それは百パーセント結衣のおかげだろうな。結衣がいなかったら今だに俺は非モテ男子をやっていたよ」

「そう褒めるでない」

「なんの部活をつくりたいんだ?」

「筋トレ部かな」

「……つまり、ジム?」

「そっ。引越したから前のジムは解約しちゃったし。新しい家の近くにはいいジムはないし。それなら学校で筋トレをすればいい! さすが私!」

「器具とかどうするんだ?」

「初期投資はもちろん私がする。だけどそのあとは部費を少しずつ器具代として私のところへ持っていくかな」

「元とれなそうだけど」

「別にいいよ。大した金額じゃないし」

「……さすが歌手」

 

 汗かいたらシャワー浴びたくなって、電車に乗って家に帰るより私の家に寄るようになるでしょ?

 

「ヒロくんは高校で何かやりたいこととかないの?」

「う〜ん、モテたい」

「は?」

「ごめんごめん! 冗談!」

「私という彼女に不満でも?」

「いいや、ないよ。不満なんて。結衣は最高の彼女だよ」

「……別に女の子引っ掛けて遊ぶのはいいけど、程々にね」

「チョロ」

「ーーッ!! この口か! 余計なことを言うのはこの口なのか!」

「やめて! 頬を引っ張らないで!!」

「ふん!」

 

「結衣は部活以外になにかやりたいことあるの?」

「ビジネス」

 

 頬をさすりながらの問に私は即答した。

 

「おお、いいね。なにやるの?」

「モテ女、モテ男のオンラインスクールをつくりたい。お互いに磨けば光るのに、磨く前に諦めてるのはもったいないからね」

「いいじゃん、実績もあるし」

 

 他人事のヒロくんに少しだけ語気を強める。

 

 

「ヒロくんは講師ね」

「給料は?」

「経費を引いたら殆どはいいよ。私が趣味でやる塾だし」

「学校じゃないのか」

「とりあえず、今計画しているのはその二つかな」

「……だから筋トレ部か」

「ん?」

「元々から塾を作るつもりで、筋トレ部はその一部。じゃあ、学校を使うつもりで」

「そうだよ」

「学校側が許可するか?」

「一応交渉するけど、無理そうだったらお金の力か、体鍛えるのは各自の判断って感じかな」

「色々考えてるんだな」

 

 ごめん。そこは何も考えてませんでした。

 

 ただ、教室に作る予定のジムに部外者は入れたくないかな。不審者が紛れ込んでも気づかなそうだし、私が卒業した後が面倒だし。

 

 それに同世代以外の視線にさらされるのは抵抗ある。

 前のジム通ってた時に薄着のせいでどうしても視線を集めちゃって、すごくやりずらかった。

 男の方も本能で目が吸い寄せられてるんだろうけど、だからって許容できない。

 

 そんな会話をしていたら学校についた。

 下駄箱の前にホワイトボードが出されており、そこにクラスと下駄箱の組ごとの位置が記されていた。

 

 既に人だかりができており、身長の低い私には殆ど見えない。

 

「俺が見てくるよ」

 

 人の間々から背伸びしていると、ヒロくんが背伸びを静止するように頭をポンポンと優しく叩くと、笑いながら人混みの中へ入っていった。

 

 新入生の中でヒロくんは決して身長が頭一つ抜けて高い分けではないが、普段から筋トレしているため体が大きく見える。

 

 少しするとヒロくんが戻ってきた。

 

「一組。しかも同じクラス」

「お、ラッキーじゃん。普段の行いの賜物だね!」

 

 同じクラスは学校側から確約されている。

 それでも目の当たりにした事実は嬉しい。

 

「結衣は21番」

 

 下駄箱へ進むとそれぞれ番号が書かれたシールが貼ってあった。

 どうやら出席番号と関連してるらしい。

 中学の時は名前シールが貼ってあったのでちょっと新鮮だ。

 あと扉がついているのも。

 中学ではむき出しだったから、この個室感はちょっと豪華に感じる。

 

 新品の上靴に履き替え、踵に違和感を覚えながら私たちは階段を昇る。

 一年生の教室は最上階だ。

 

「なんか高校見学で一度登ったはずなのに、別の場所に感じるな」

「わかる。なんか風景っていうか景観が違うよね」

 

 最上階に上がると廊下にチラホラ生徒がいて、二人組や三人組で話している。

 

「一番手前だ。ラッキー」

 

 階段を上がってすぐ左手にある教室の標識を見て、教室の扉を開ける。

 中は暖かく暖房が掛かっていた。

 扉の音を聞いても誰かの首が動くことはなく、みんな静かに携帯やパンフレットを見ている。

 

「さぁ、私の机はどこだ?」

 

 教卓の上に載せられた座席表を見ると出席番号と名前が記載されていた。

 

「結衣、ど真ん中じゃん」

「ヒロくん、私の隣じゃん」

 

 横五列の縦六列の構図で私は見事に教室の真ん中でヒロくんは私の左隣。

 学校側が気を使ってくれたのだろうか? わからない。別にそこまでしてくれなくてもいいのだけれど。

 

 カバンをおろし、一息ついきたい  

 

「さて、お話と洒落込みたいところだけ、私はこのあと用があるため離席するね」

「どこ行くの?」

「職員室。新入生代表の挨拶の件で先生とお話があるの」

「新入生代表ってことはやっぱり結衣が主席なのか」

「じゃあ、ヒロくんは友達作っておくこと。できなかったら罰ゲームね!」

 

 去り際に手を振り、私は職員室に向かった。

 

 

 職員室に入ると扉を開ける前から忙しい空気が漂っていた。

 廊下を行き来する沢山の教員。

 中で何か話している先生たち。

 服装もきっちりしている。

 

 私はノックをしてから扉を開け要件を口にした。

 すると一番魔導がの島に座っている先生が立ち上がり、手招きをしてきた。

 

「船戸結衣さんね」

 

 一度あったことのある先生だ。

 入学式の前、会議室で腰が低かったのを覚えている。

 

「私は担任の泉。よろしくね」

 

 先生の方は覚えていないのか、初対面の反応だ。

 

「よろしくお願いします」

「船戸さん、主席入学おめでとう。あなたがダントツだったわ」

「いえいえ」

「これ、新入生の代表の挨拶の原稿ね」

 

 封筒?を手渡された。

 この紙を包む紙の名前を私は知らない。

 

「体育館に入ったらみんなと列に並ぶんじゃなくて体育館の右端に来て。そのあとは生徒会の子たちが誘導してくれるわ」

「はい」

「何か質問とかある?」

「新入生代表の挨拶って原稿通り読まなきゃダメですか?」

「別に大丈夫だけど……。自分で原稿用意してきたの?」

「いいえ。ただ、私カンペとか読むの苦手なので」

「カンペって……」

「変なスピーチじゃないなら大丈夫よ」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 私は退屈が嫌いだ。

 だから、こういった儀式も嫌いだ。

 非常につまらない。つまらなすぎてすぐに眠たくなってしまう。

 なら、面白くするしかあるまい。

 

 適当なことを話して、場の緊張を和ませる。

 別に笑いを取りに行く必要なんてない。そもそも私に笑いを取るようなスピーチはできない。

 ただ、思ったことを淡々と言えばいい。

 

 職員室を後にし、私は教室へまっすぐ戻った。

 

 外の空気を遮断している扉を開けると、出ていった時より人の数が増えており話声がチラホラ聞こえる。

 声の中にはヒロくんの声も混じっており、視線を向けると一人の男子と話していた。

 坊主頭。

 察するに野球部に入ることが決まっているのだろう。

 

 しかし、不思議だ。

 彼はなんで私の椅子に座っているんだろうか?

 ヒロくんも楽しそうに話して、注意する気配ないし。

 仕方ない。

 ここはちょっと遊ぶか。

 

「おい、糞坊主。そこは私の席だぞ?」

「あ、ワリィ! てっ!? 今の声どこから出した!?」

 

 男にも勝らないドスのきいた声に少年は振り向きながら立ち上がると、とても驚いた顔を見せてくれた。

 愉快。愉快。

 こんな美少女からあんな声が出るとは思うまい。

 

 女の子は男子がいると地声より少し高めの声を出す。

 そのせいで男子は女子の音域を勘違いしていることが多い。

 特に私は歌を歌って鍛えているので、人よりかなり音域が広い。

 

「おかえり」

「ただまー」

「えっ? 知り合い? 同中?」

「そうだよ。ヒロくんこの人は?」

「さっき友達になった野球部」

「………いや、名前を聞いてるんだけど」

「名前なんて言うの?」

「なんで知らないの!?」

 

 ヒロくんが真顔で聞くものだから思わずツッコミを入れてしまった。

 てか、なんで名前知らないのにあんな親しそうに話してたの?

 

「島田幸太郎。よろしく」

「俺は斎藤宏」

「私は船戸結衣。よろしくね。男子って名前知らなくても仲良くなれるんだ。不思議な生き物だね」

「いや別に仲良くなるのに名前いらないっしょ」

「女の子は名乗らないと仲良くなれないの? 武士?」

「違うでござる」

「武士じゃん」

「拙者、初対面の人に名乗るのは互いに抜刀しないためで候」

「名乗らないと斬られるのか」

 

 あだ名の付け方で上下関係とか決まるからね。

 

「面白そうな会話してんじゃん! 俺も混ぜてくんね?」 

 

 と、私の席に両手をつけて一人の男子が会話に混ざり込んできた。

 坊主ではない。ツーブロ男子だ。

 

「誰?」

「石川太一でござる! サッカー部入部希望! 中学の時は関東まで行ったことがある!」

 

 あ、この人私の苦手なタイプかも。

 

「へぇ〜そうなんだ。凄いね!」

 

 私が両手を揃えて褒めるとニヤけ面をする。

 

「おう、そうだよ。うちの中学って県大会止まりだったんだけど、俺らの代が強くてレギューラー全員一年みたいなことがあって、それで気づいたら関東よ!」

「やば」

「バケモンじゃん」

「だから俺が抜けたあとはまじ心配なんだよな〜。引退試合の時も二年生に五点差つけて勝ちゃったし」

「すごい強かったんだね」

 

 くそどうでもいい。

 

「野球部はどうだった?」

「……ん? ああ、うち? うちの中学は凄い弱かったな〜」

 

 石川くんの質問されてから一秒ほどして、自分に聞かれたことに気づいた島田くんが慌てて答える。

 

「そうなの?」

 

 高校でも野球を続けるくらいだから島田くんは中学でも強かったのかと思ってた。

 意外だ。

 単純に野球が好きなのかな?

 

「県どころか地区大会で毎回負けてた」

「まじか。なんか見た目的に野球上手そうなのに」

 

 ヒロくん。それ、坊主だからだよ。

 野球部が野球上手そうに見えるのは当たり前だよ。

 

「それじゃあ、野球部全員そうだろ! アハハ! バカじゃん」

「あっ! そっか! そうじゃん!」 

 

 石川くんのツッコミにヒロくんが続けて笑う。

 

 ヒロくん、頭空っぽで話すのやめようね。

 

「お前はなんか部活やってたの?」

「俺? いいや、帰宅部だよ。運動あんま好きじゃないし」

「やっぱり? なんかそういう雰囲気あるわ」

 

 そうなの!?

 毎日ジム行ってるのに?? 

 私の家にあるダンベル持ち上げて遊んでるくせに?

 運動好きじゃないのか……。

 

 てか、雰囲気ってなに? 

 私には全くわからないんですが。

 

「そっちは? 名前教えて?」

 

 石川くんが視線を向けてくる。

 

「船戸結衣。私も部活はやってなかったかな。学校事態もあまり好きじゃなかったし」

 

 ふと、中学時代を振り返る。

 いい思い出は殆どない。

 先生に恫喝されたり、暴行受けたり。クラスメイトにはハブられたし。

 良かったことはヒロくんと仲直りできたことくらい。

 

「あ、わかる! 俺も学校好きじゃなかったわ! 先生とかちょっと授業中話してるだけ注意してきたりとか、そのくせ授業はすごいつまんないし、テストは難しいし。理不尽すぎるわ。結衣もそんな感じでしょ?」

 

 うんうん、全然違うし、距離の詰め方エグいわ。

 

「まあ、そんな感じかな」

「わかるわ。俺も勉強チョー苦手だった」

 

 そうだね、ヒロくん。

 私が教えても全然テストの点数上がんなかったもんね。

 でも、頑張った思うよ。苦手なもので上位数パーセントに入ってるんだから。

 

「お前まじで勉強苦手そうな顔してるもんな。授業ついていけなそう」

「そうなったら俺が教えるよ」

「島田くん、勉強得意なの?」

 

 ここでまた意外な発言。

 思わず聞いていしまった。

 

「自分の長所であげるくらいには、かな?」

「へぇ〜。文武両道目指してるんだ。凄いね!」

 

 高校の野球部って強さ関係ないしに、厳しいって聞くから大変だろうに。

 

「勉強も運動もダメそうな結衣には絶対ムリだな!」

「そうだね〜」

 

 笑う石川くんを適当に流す。

 

 君は人をけなすことでしか笑いがとれないのか?

 

「船戸さんは勉強苦手なの?」

「船戸でいいよ。それかフナッシーでも」

「フナッシーって」

 

 笑う島田くんに私は続ける。

 

「なんか自分で興味持ったことを調べるのは好きなんだけど、学校の勉強とかはスッゴイ嫌い」

「意外だわ。なんか勉強できるイメージがあるから」

 

 ごめんね。勉強はできるよ。でも嫌いなんだよ。学校の授業とか。

 

「まぁ、私も困ったらマッシーにお世話になるから! その時はよろしく!」

「マッシーって……」

「よかったじゃん、マッシー」

「じゃあ、お前は斎藤だからトッシーか?」

「いや、それはちょっと……」

 

 私立の高校は先生によって問題が大きく変わる。

 そのため場合によっては私が解けないような問題が出される可能性がある。いや、ないだろうけど。

 念の為だ。

 私がわからない問題をヒロくんが解けるとは思えないし。

 その時は仲良くマッシー先生のお世話になろう。

 

 てか、そこの男子二人。私のネーミングに文句があるなら聞こうかじゃないか!

 

「結衣は俺が教えてやるよ! 俺、こう見えてもメッチャ勉強得意だから」

「そうなの? じゃあ、もしかしたらお願いするかも」

「おお、任せとけ!」

 

 そんな時は一生来ないから安心して。

 

「マッシーは野球部入るのは確定事項なの? 迷うよしなし?」

「ないね。高校あがっても野球続けることのは決めてたし」

「過酷な運命に身を置いてるんだね」

「高校の部活なんだけど?」

 

 マッシーを筋トレ部に入れるのは無理そうだな。

 諦めよ。

 

「結衣、部活サッカー部のマネージャーやろうぜ」

「え〜。いいよ、面倒そうだし」

「そんなことないって! 絶対楽しいって!」

「いやいや、そんなことあるし」

「からの〜?」

「はいパス」

 

 私は視線でヒロくんに押し付ける。

 

「えっ!? 俺!? マネージャーなら//」

 

「ブーッ! アハハハ!! なんでヒロくんーーアハハハ!!」

 

 乙女みたいな恥じらう顔をするヒロくんに私は大笑いした。

 

「お腹イタイ!! アハハ!! マネージャーなら// ってなにそれ!! アハハハ!! ヤバい、息できない!!」

 

 途中、石川くんが私の背中をさすってきたのでそれを強く弾く。

 

「あーやばい! 久々に笑ったかも!」

 

 ようやく落ち着くとみんな目を見開いて驚いていた。

 げめんね。ちょっとはしたなかったね。

 

 相当大きい声で笑ってたらしく、クラスの視線が私に集まってた。

 

「これは、これは。声が大きくてすみません。エヘヘ」

 

 頭をペコペコ下げておく。

 

「船戸さんって結構豪快に笑うんだね」

「こら! そんな引き気味言わないで!」

 

 マッシーの引きつった表情に私は怒る。

 

「女の子は普段から仮面をしているのです! だから仮面の内側はちょっと見えちゃった時はスルーするのがマナーだから!」

「つまり、豪快な笑いについては触れていけないと」

「そうそう」

「どんなに品性がなさそうな笑い方でも黙って置くのがマナーだと」

「うん、怒るよ?」

「アハハ、ごめん、ごめん」

 

 いじりは行き過ぎると本気でウザがられるから注意だよ、マッシー。

 

「マッシーは彼女とかいないの? 女の子の扱い方教わらなかった? だからモテないんだよ?」

「グハッ!」

 

 大げさに心臓を抑えるマッシー。

 可哀想に。

 

「それな。マッシーまじモテなそう。俺は中学の時彼女いたから、そのへんは大丈夫!」

 

 と、石川くんが鼻を高くする。

 

「そうなんだ」

「斎藤はまじ彼女とかいなそうだよな。なんか雰囲気暗いからモテなそう」

 

 ヒロくん視線を送ってくる。

 私は首を小さく横に振った。

 

 こいつに喋ったら面倒くさそうだ。

 マッシーがそのアイコンタクトに気づく。

 私は微笑んでごまかす。

 顔をそらされた。

 

 マッシーには機会があったら話そう。

 

「石川くんは今彼女いないの?」

「いないよ!」

 

 なんでそんな嬉しそうな顔をするんだ。

 

「なんで別れたの?」

「いや、なんか向こうが凄く重くて。毎日電話しととか、メッセージしろとか。それで無理かな〜ってなった」

 

 それ重いの!?

 

 私は慌ててヒロくんの方を向く。

 ヒロくんは気まずそうに顔を逸した。

 

 おい!!

 

 マッシーがまた私を見ている。

 私は微笑んで誤魔化した。

 

 

 き、気をつけよう。

 

 

 愛が重いのは別れる要因にしっかりとなる。

 石川くんの基準が男子の基準だとは思わないけど、心配だ。

 

「結衣は毎日電話とかしたいの?」

「毎日っていうか、時間がある時はしたいかな〜」

 

 歌手とかモデルとかで忙しいから、時間がある時に声を聞いて再チャージしないと足りなくなる。

 

「それ、毎日じゃね?」

「そうだね、毎日だ」

 

 ヒロくんの声を聞くと、安心するし、頑張ろうってなる。

 

「そうだ。丁度いいしライン交換しようぜ」 

 

 石川くんの声でみんな携帯を取り出し、ラインを交換する。

 

「そうえいばクラスのグループってあるんかな?」

「私は認知してないな〜」

「俺も」

「じゃあ、俺が作るよ!」

 

 ヒロくんの疑問に私とマッシーが答えると石川くんが名乗り出た。

 

「あるよ! 招待するかライン教えて!!」

 

 背後から明るい声が聞こえた。

 

 振り向くと一人の女の子がいた。

 

「私、藤宮咲! よろしくね!」

「じゃあ咲ちゃんだね。咲ちゃんよろしくね。私は船戸結衣」

「結衣ちゃんよろしく! てか、メッセで話してた結衣ちゃんだよね!?」

「そうそう、その結衣ちゃん! なんかネッ友とリアルであった感覚だ」

 

 藤宮咲、アカウント名はサキサキ。

 ツイッターの中央東の新入生枠で知り合った子で、既にラインもインスタも交換している。

 なんかよくわからないけど、やたらと馬が合う子だ。

 

「二人共知り合いってまじ? 俺、石川太一、よろしく!」

「石川? あっ……うん、よろしくね。石川くん」

 

 一瞬引きつった顔を見せた咲ちゃん。

 何かあったのだろうか?

 

「島田幸太郎、フナッシーにマッシーって呼ばれてるからマッシーって呼んで」

「斎藤宏。フナッシーにマッシーっ呼ばれてるヤツからトッシーって呼ばれてるから、よろしく」

「フナッシーがトッシーでトッシーが、マッシー??」

「面倒だから男一と男二でいいんじゃない??」

 

 困惑している咲ちゃんに助言をすると「うん、わかった!」と笑顔で返し、本当にラインの名前を男一と男二に変更してた。

 やべぇ。

 

「グループ、招待しといたよ!」

 

 咲ちゃんの言葉に私達はそれぞれお礼をいい、グループに入った。

 人数は十五人ほど。

 入っているのは思った通り殆どが女子だった。

 男子っぽいアイコンをしているのは今入った男子三人くらいだ。

 

 ちなみに、私とヒロくんはツーショット写真からアイコンを変えている。

 私は誕生にヒロくんから貰った名前入りのドックタグをアイコンにしている。

 

 なんでドックタグかと言うと、当時ヒロくんがその手のゲームにハマっていたからだ。

 

 ヒロくんは水族館デートの時に撮ったジンベイザメの写真をアイコンにしている。

 

 トップ画は私はドームのステージから撮った写真で、ヒロくんは私がライブしている時の写真だ。

 

 恥ずかしいから変えてほしいんだけど、いくら言っても変えてくれない。

 相当気に入っているっぽい。

 

 

 クラスラインに入ったところで先生が教室に入ってきた。

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