恋するギフテッド   作:萌花千

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十三話

 夜、マッシーから一通のメッセージが届いた。

 

『今から通話できない? 相談がある』

 

 挨拶の次の文が相談メッセージとは。

 随分と関係性が飛んだように見えるし、実際に飛んでいる。

 私とマッシーとの関係は入学式の前にちょっと話したのと、今日。実質二回しか話していない。

 二回しか話していない割にみんな、フレンドリーだ。もちろん、それは私がフレンドリーというのもあるんだと思う。

 それにしても、だ。

 ヒロくんが裏で何かやってくれたんだろうか。

 もしヒロくんが裏で私が孤立するのを防ぐために色々してくれていたら、嬉しすぎる。

 

 ただ、逆にこういう相談はシップドアにされたものではないか、と悩む。

 youtubeで時々お悩み相談会を開くことがある。マッシーがそれを見て、軽い気持ちで相談したのかもしれない。

 端的な文ということを考えると、そんなことはないんだろうけど。

 それに相談内容は予想がつく。

 

 おそらく学校で朝石川くんに邪魔されて言えなかったこと。

 メッセージじゃなくて通話したいってことは、多分長話になる。

 

 時刻を見て余裕があることを確認し、私は返信する。

 

『いいよ』

 

 メッセージを返し、電話が掛かってくるのを待つこと少し。

 ライン電話が鳴った。

 スマホでなくPCの方で応答する。

 

「ヤッホー。どうしたの相談って?」

 

 明るい声を意識する。

 変に空気が重たくなるのは嫌いだ。

 

「……今日の朝話したこと覚えてる?」

 

 数秒の謎の無言のあとその口が開いた。

 

「彼女と喧嘩したやつね」

 

 思った通りだ。

 

「それで? なんで喧嘩したの?」

 

 彼女と仲直りすることで大事なことは男の方が折れることだ。

 男の方が先に謝れば、女の子の方も必ず謝ってくる。

 じゃあ、なんで女の子は先に謝らないのかって?

 それは、彼氏が本当に自分のことを大切に思っているかの確認作業。

 

 私のこと好き?

 手放したくない?

 なら、先に謝れるよね。

 

 だからって彼氏側は闇雲に謝っちゃいけない。

 ちゃんと自分のどの行動で彼女が傷ついたのか、調べなきゃいけない。

 これを間違えると「私のことわかってくれない。わからないのは私のことを一番に考えてないからだ」というとんでも理論の思考に陥って大変なことになる。

 

「それが、わかんないんだよ」

 

 心底困った声を出された。

 

 マッシーには思い当たる節はないと。

 喧嘩したのに、わからないっていうのも不思議だ。

 

 ということは喧嘩の要因は表面上にないってことだろう。

 彼女側が急にマッシーに対して当たり強くなった。もしくは冷たくなった。

 

「彼女は怒ってるの?」

「いや、怒ってるっていうよりは、反応が冷たいって感じ」

 

 なるほど。

 

「今まで喧嘩した時はどっちだった?」

「今までは結構、怒ってガツガツ言ってきたからわかったんだけど、今回は全然……」

 

 へぇ〜。

 今までは怒りを吐き出していたのに、今回は吐き出してない。

 つまるところ、マッシーに直接的な非がないか、彼女が呆れるほどの何かを無意識にやらかしたか。

 

「マッシー、彼女との交際履歴教えてよ」

「交際履歴?」

 

 ごめんね、造語使って。

 

「そ。いつから付き合って、何したとか。デートはどこ行ってるとか」

「わかった」

 

 こういう時、普通男は恥ずかしかって渋るんだけど、マッシーはあっさり話した。

 

 嫌いじゃないよ。そういうの。

 

 彼女は一個上の先輩で現在は別の高校に通っている。

 出会いは野球部のマネージャーで、先輩が卒業する時に告白した。

 その後、この間の付き合って一年記念日までは全然普通だ。

 態度に変化があったのは、入学してから少し。

 

 野球部の新入生歓迎会があっと翌日かららしい。

 

 もしかして……。

 

「ねぇ、マッシー、エッチはした?」

「…………してない」

 

 数秒間沈黙が流れ、少しきまずくなった空気のなか、声が絞り出された。

 

 これは、寝取られたな。

 

 彼女さんは高二。

 そろそろ周りが処女を卒業しめて、少し焦ってた。

 だけど、マッシーに直接それを言うことはできなかった。

 で、多分、このあいだの歓迎会で同級生か先輩に誘われてーー。

 

 脱処女のために寝たら思いの外、よくて心も持ってかれた。

 

 多分、そんなところだろう。

 しかし、解せぬ。

 もしかしてーー。

 

「その飲み会って大学生もいたりする?」

「えっ? なんでわかったの? あいつが通っているところってエスカレーター式でーー」

 

 大学生に食われたな。

 

「マッシー、彼女の写真見せてよ」

 

 すぐに写真が送られてきた。

 ツーショットかと思ったら、シングルの写真。

 背中まで伸びた長い黒髪。

 大きな目、小さい口。綺麗な肌。

 

 清楚系の美人さん。

 

 確定だ。

 大学生に寝取られた。

 

 これは……分が悪いな。

 

 

 同じ高校生なら全然どうにかなるけど、大学生ってなるとそうもいかない。

 大学生はオシャレができる。

 時間もお金も沢山ある。

 

 それに高校生から見たら圧倒的に「大人」だ。

 行動範囲も広がり、落ち着きが生まれ大人びる。

 

 しかも寝取った相手は多分、相当女慣れしているイケメンハイスペック。

 

 マッシーの彼女は超美人だ。

 今までも沢山の男に言い寄られたことだろう。

 しかし、それを全て断ってきた。

 マッシーがいるから。

 なのに陥落した。

 

 しかも処女で痛いはずなのに。

 相手は手練れだ。

 

「マッシー、事態はマッシーが思っているより緊迫だよ」

「そうなの?」

「とりあえず、すぐさまデートの予定を取り付けよう」

 

 マッシーの彼女が別れを切り出さないのは、おそらく罪悪感から。

 それが残ってるうちに手をうたないと汚れた大学生に奪われる。

 

「それなら今週の土曜があいつの誕生日だから、昼に出かける予定」

「夜は?」

「いや、なんか夜は高校の友達に祝ってもらうって」

 

 絶対、男だ!!

 彼氏より女友達優先する女なんていないよ!

 

「いいや、ダメだ! いい? 絶対夜! 絶対夜デート!」

「いや、でもーー」

「でもじゃない! 夜! 彼女になんと言われようと夜に行くの!」

「わ、わかった」

「今から電話しろ!」

「いや、でもーー」

「知るか! はよ、電話しろ! どうせ、インスタでしょ? ライン通話そのままにして。もし、切ったらマッシーの元に一生彼女は戻ってこないからね」

「は、はい」

 

 少し怯えた声をされた。

 そんなに怖かった?

 

 マッシーが電話をする。

 数コールで彼女がでた。

 

 声もとっても美人だった。

 なぞの敗北感。

 

 マッシーの彼女は思ったりドライで、マッシーから心が離れているのは明らかだった。

 だから、当然マッシーの提案も乗り気じゃなかった。

 

 言葉を言い回し、夜デートの提案を断る。

 友達とか門限とか家族とか。

 

 劣勢なマッシーに私は電話越しに勝利への道を示す。

 

 女の子は特別扱いされるのを喜ぶ。

 君だけ。君と一緒に。君が必要。君といたい。

 

 特にドッ直球の要求言葉に弱い。

 自分の存在を全肯定してくれるからだ。

 

 と、私は知っている知識を使ってマッシーの彼女を口説き落とした。

 

「もう、もうわかった! コウくんがそこまで言うなら仕方ないな〜!」

 

 と、最後はネコ撫声を出していた。

 

 電話を切り、マッシーは深い安堵のため息をつく。

 

「安心している暇はないぞ、コウくん」

「やめろ」

 

 思ったより低い声で言われた。

 怖い。

 

「とりあえず、明日はデートの作戦会議だからね!」

 

 気づけば日付は変わっており、私は電話を切った。

 

 

 翌日の放課後、ヒロくんとマッシーと私の三人でファミレス入った。

 なぜか石川くんが当たり前のようについてきていたので、追い返した。

 

「結衣に相談して良かったろ?」

 

 案内された席につくと隣座っているヒロくんが向かいに座っているマッシーにドヤ顔で言う。

 

「お前の彼女、怖いすぎ」

 

 どうやらヒロくんはマッシーに私達の関係性について話し済みらしい。

 

 相談くらしてほしかったんだけど……今はいいや。

 

「で、結衣の考えは?」

「相手は強大だからね。高校生のデートをしても意味がない」

「つまり?」

「大人のデートをする。今日が火曜で木曜日からは林間学校が始まるから、時間は本当にない」

 

 あと一日でどうするか。 

 

「まずは服装。次にデートコース。最後にーー」

「最後に?」

「それはあとで言う」

 

 私はとりあえず相談料として、パフェをご馳走してもらう。

 それをパクパクと食べ、数分で完食する。

 

 チョコとバニラにイチゴなど、当分は私の脳を活性化させる。

 

「ごちそうさま。じゃあ、行こう」

「相談料が千五百円……高い」

 

 マッシーが会計時にポロッとこぼした言葉にヒロくんが反応する。

 

「いいや、格安だ」

 

 言い切られたのが気に食わったのか、少し睨む、

 

「ほら、行くよ」

 

 最初の目的地、服屋へ向かう。

 

 そこは私のいきつけの服屋で撮影時の衣装などいろいろ、仕事で着る服を買っているお店だ。

 値段もかなり高く、一着数万、場合によって数十万する。

 間違いなく高校生が行く服屋ではない。

 

 店内の大人びた雰囲気で客もマダムやべっぴんさんばかりだ。

 

 ヒロくんは私に引っ張れれて慣れているから、いつも通りだけど、マッシーは店内をキョロキョロと見回し落ち着きがない。

 

「あの、すいません。この子にデートの勝負服見繕ってください」

 

 店内の巡回していた店員に声をかける。

 

「その当店はちょっと値段ががあれで、お客様にはちょっと合わないかもしれませんが……」

「そういうのいいんで。店長はいないんですが?」

 

 店長のセンスが一番いいから、本当だったら店長にやってもらいたいんだけど姿が見当たらない。

 いつもならすぐ飛び出してくるのに。

 

「いえ、そのお客様がよくてもですねーー」

「船戸様、申し訳ありません」

 

 と、男性店員の後ろからひとりの男が声を出した。

 見覚えのある顔。

 副店長だ。

 

「彼は新人でして。 して、今日はどのようなご要件でしょうか?」

 

 副店長は新人を後ろへおいやると、引きつった笑顔で聞いてくる。

 

「この子にデートの勝負服を。時間がないので今用意できるもので最高なものお願いします」 

「かしこまりました。ではお客様こちらへ」

 

 困惑して、動かないマッシーの背中をヒロくんが押す。

 

「行ってら」

 

 副店長につれられて、店の奥へと来ていったマッシー。

 

「いくらになると思う?」

「う〜ん」

 

 私と問にヒロくんが唸る。

 ヒロくんの服を買った時は時間も使ったから、百万くらいだっただろうか。

 

 お会計の時、石像になったのを思い出し笑みが溢れる。

 月で数千万稼ぐ私にとって百万なんて、百円と対してかわらない。

 月五千円お小遣いを貰っていて百円の買い物を躊躇するか? 答えはノーだ。

 

「五十万くらい?」

「何かける?」

「う〜ん、じゃあ林間学校の間、何でも一つ言うこと聞くよ」

「みんなの前で公開キスでも?」

「いいよ。結衣は?」

「じゃあ、私も同じで」

「俺、青姦一回して見たかったんだよね」

「ふ〜ん、エッチじゃん」

 

 ニヤケ面で脇腹を小突くとヒロくんがちょっと恥ずかしそうな顔をする。

 

 それからしばらくするとマッシーが戻ってきた。

 ジャケットを来て、格好良くなっていた。

 坊主頭のくせにかなり落ち着いた雰囲気で大人びている。

 

 ヒロくんも隣で称賛の声を漏らしている。

 

 ファッション素人の私には何がどのように作用してこういう風に見えるのかわからない。

 

「いくらですか?」

「全部で四十九万ですね」

「おしい」

「よ、四十九万??」

「カードで」

「かしこまりました」

 

 金魚みたいに口をパクパクさせているマッシーを気にせず私は会計する。

 

 会計を済ませている間に、別の店員にマッシーは再度奥へ連れていかれ、戻ってきた時には制服姿になっていた。

 その顔はどこかやつれていた。

 

 その後、買った服を片手に私達は水族館へ向かった。

 私が先頭を歩き、後ろではヒロくんがマッシーをあやしている。

 

 大方私の金銭感覚について言っているんだろう。

 ごめんね。

 私も金銭感覚なんて変わんないだろって思ってたんだけど……。

 物欲は恐ろしいね。

 

 

 電車に揺られること数十分。

 目的の水族館についた。

 

 日が傾き、閉館時間が近い。

 

「ほら、いくよ!」

 

 ちんたら歩いている男子二人を先導し、私はチケットをその場で三枚買う。

 

「いい? マッシー。 大事なのは余裕だから!」

 

 先程から一向に落ち着きがないマッシーを指差す。

 

 指をさされたマッシーはヒロくんに助けの視線を送る。

 

「そんな情けない顔しないの!」

 

 実際のデートでこんな顔されたら、母性がくすぐられるか、一瞬で冷める。

 私なら絶対母性をくすぐられる。ヒロくんのみっともないところは散々見てる。

 今更、そんなことじゃ何も思わない。

 

「さぁ、行くよ!」

 

 急ぎ足で水族館を回る。

 

 平日のそれも閉館間際というのもあって客の姿は殆ど見当たらない。

 貸し切りだ。

 

 ジンベイザメやペンギン、透明なクラゲなど、一通り見て回った。

 

「本番はなるべくゆっくり回るんだぞ」

「おう」

「で、なるべく人気がなくて薄暗い場所にーー」

 

 後ろではヒロくんがマッシーにデートのレクチャーをしている。

 

 ヒロくんの知識は私が仕込んだもの。きっとアドバイスに間違いはない。

 

 水族館を一周した私はイタリアンレストランに向かう。

 そこは薄暗く、デートスポットとして人気だ。ただ値段がちょっとはるため、記念日や何か特別な日に使うカップルや夫婦が多い。

 部屋も殆どが個室で他の客の目を気にする必要がないのも、人気の理由の一つ。

 

 私もヒロくんと何回か行った。

 店長が私のファンで頼めば少しくらい融通を利かしてくれるだろう。

 

「頭が壊れそう」

 

 レストランの入り口。

 店の外観から漂う雰囲気に死んだ目をするマッシーを無理やり押し込み、私たちは夕飯を頂いた。

 

 コース料理を一通り食べ、帰路につくときマッシーは虚ろな目で何かぶつぶつ呟いていた。

 

「じゃあ、あとはヒロくんに任せるよ」

「え?」

 

 私の突然の人任せ発言にマッシーが口を開く。

 

「おう。結衣はどうする? 待ってる?」

「いや、今日は先に帰るよ」

「わかった。気をつけて帰れよ」

「うん。じゃあね」

 

 私は手を振り、駅に向かって歩く。

 

 

===

 

 結衣に後を任された俺は、その背中が見えなくなるまで見送った。

 

 もうすっかり夜だから、不安だ。

 花火大会みたいなことが起こらないかとても、不安だ。

 だけど、それと同じくらいマッシーのことが心配でもある。

 

 彼女を寝取られた。

 結衣の話によると寝取ったのはイケメンの大学生。

 同情する。

 

 もし、俺が中学のままの非モテだったらきっと結衣取り戻せる自信なんてなかったけど、今はそんなことはない。

 俺は女の子を知っているし、誰よりも結衣を知ってる自信がある。

 

「さて、保健の授業だ」

「なに? キモいぞ、お前」

「うっせ。とりあえずラブホ行くぞ」

「はっ、はぁ!? なんでお前とラブホなんて行かなきゃいけないんだ!? お、俺がヤラれないぞ!!」

「違うわ! 部屋借りるまでの流れを確認するだけだ!」

 

 自分の尻を抑えるマッシーに俺は慌てて訂正する。

 

「なんだよ……。ビビらせんなよ」

「マヌケじゃん」

「てか、お前船戸さんとそこまでいってんの? 高校入ってまだ一ヶ月も経ってないんだけど? 早くない?」

「まあ、俺の方はともかく結衣はませてたしな」

 

 当たり前の疑問に俺は答える。

 

「十五歳の誕生日に、プレゼント私、って半裸の結衣がいて」

「すげぇな」

「当時の俺もビビったよ。部屋呼ばれたから行ってみたら、それで。まあ、ダメだと思ったけど性欲には勝てなかったよ」

「やべーな」

 

 その時のことを思い出す。

 俺の家で誕生日パーティーをやって、プレゼントで香水とか化粧品一式貰った。

 パーティーが終わり結衣が家に帰ってから少し、電話がかかってきた。

『一個誕プレ渡すの忘れたから部屋に取り来て』

 それだけ言うと、電話は一方的に切られた。

 今思い返すと、その時の声は震えてた。

 

 それで部屋に行くと、半裸の結衣が自分に紐巻いててーー

『プレゼントは私。美味しいよ?』

 なんて言うもんだから、理性とか色々ぶっ壊れた。

 

「ヒロも彼女がぶっ飛んでて大変だな」

「言い方。でも、大変のは間違いないな」

「だろ?」

「結衣はいつも新しくて凄いから、ちょっとでも立ち止まるすぐ置いてかれる。結衣を一人にしないために俺は走り続けなきゃいけない」

 

 夜空を見ると沢山の星が見える。

 

「…………カッコよ」

「だろ?」

  

 ちょっと誂う声色に俺も笑いながら返す。

 

 

 俺はマッシーと近くのラブホに行き、システムを教える。

 その後にセックスのテクニックと手順、エチケットを教えた。

 最初は恥ずかしそうに聞いていたマッシーも、話していくうちに真剣になっていった。

 中学が言うような表面的なものじゃなくて、ちゃんと経験と実践に基づいた細かい事柄に、それの重要さがわかったのだ。

 

「マッシーの場合はことがことだから、とりあえず自分は後回しでとにかく彼女のことだけおもいやれ」

「わかった」

 

 こうしてマッシー彼女奪還作戦会議、一日目は過ぎた。

 

 

  

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