恋するギフテッド   作:萌花千

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十四話

 彼女奪還作戦会議二日目。

 

 教室は林間学校前日ということでどこか浮いた空気が充満していたが、私達の周囲はそれに反して空気が重かった。

 今日の議題はデートにおける言動や気遣い。

 林間学校中にゆっくり話している時間はないだろうか、今のうちにできる限りの知識を詰め込む。

 そのために今は私がデート場面を過程し、マッシーがどのような行動や言動を取るかテスト中だ。

 

 今のところ点数は七割程度。

 基礎は掴まているが、応用が足りないという感じだ。 

 ヒロくんの紹介デート講座の成績と比べれば天と地の差だが、相手はヒロくんじゃなくて手練れの大学生。

 寝取られの事実(仮定)を聞かされていないから、マッシーはどこか疑問を覚えながらテストされている。

 加えて、私のデート術が必ずしもマッシーの彼女に当てはまらい可能性も指摘され、より一層空気はよくない。

 

 ヒロくんと私の呼吸があるように、マッシーと彼女にもローカルな呼吸がある。そのため、マッシーが浮いた発言をすれば返って変な空気になるのではないかと危惧している。

 昨日の電話を聞いた限りだと、引かれることはなさそうだけどマッシーはどこか納得いってない様子だ。

 

 そんな空気が一日中、私達の周りを立ち込めていた。

 

 

 

「大丈夫だと思うか?」

 

 帰宅後、私は家のソファに座っているヒロくんの膝に座り背中を預けていると、不意に問いかけられた。

 そんな抽象的な言葉が何を指しているのか私はすぐに理解できた。  

 

「……わかんない」

 

 本当は大丈夫だと言い切りたかったが、そうもいかない。

 準備時間は圧倒的に足りない。経験の差は一朝一夕には埋められない。

 ただ、それは逆もしかり。

 マッシーと彼女の一年も簡単に埋められる差じゃない。

 

 恋バナを聞く限り最近は停滞していたらしいから、彼女がコロッと持っていかれるのも理解できなくない。

 

「ヒロくんはどう思う?」

「俺も……わかんない。あいつから惚気は聞かされたけど実際に見たわけじゃないから。でも、大丈夫だと思う」

 

 思いの外強い言葉に私は小さく驚き、思わず聞いてしまう。 

 

「根拠は?」

 

 私が知らない何を知っているなら、教えてほしい。

 私が知らない考え方があったら伝授してほしい。

 それだけ未来の可能性は広がる。

 

 しかし、ヒロくんから返ってきた答えは私が予想もしていなかった言葉だった。

 

「結衣が手をかしたから。だから、大丈夫だよ」

「ーーッ」

 

 ホント、この人は私を口説くのが上手い。

 

「そっか、なら安心だ」

 

 私はヒロくんの胸にグイっと体重をかける。

 

「あ、でも、他の男と黙って通話したのはちょっといただけないな」

「あ、それはごめん」

 

 斜め上から顔を覗き込まれ、思わずキスしたくなるが耐える。

 

 他の男と通話するな。

 逆の立場を考えたら当たり前のこと。

 変な勘繰りをしちゃう。

 ほうれん草は大事。

 

 私は体を百八十度回転させ、ヒロくんと向き合う。

 

 数秒見つめ合って、私は微笑み軽くキスする。

 

「今日は帰って明日の準備しなきゃいけないんだけど……」

「いいじゃん。大丈夫だよ。九時までには返すから」

 

 雰囲気で察したのか、ヒロくんが困り顔をするが、私はお構いなし顔を両手で抑えた。

 時計はまだ六時前。

 九時に家につくように逆算してもまだ二時間ある。

 それにいざとなったら、全部私が新しく買えばいい。

 

 ヒロくんも逃げられないことを悟ったのか、それ以上何も言わずその手を私の体にそっと手で包み込んだ。

 

 甘く溶け合う夜を私達は堪能した。 

 

 

 ヒロくんを駅まで見送ったあと、私は家に帰りyoutubeで生放送をした。

 歌手やモデルとなり多くのメディアに取り上げられることなったため、顔はもちろん、学校もバレている。

 そのため本来は隠す必要ないが、それでも変に意識されないため私は、仕事の関係で明日から土曜日までは生放送をできないと伝えた。

 仕事で生放送ができなくなるのは珍しいことじゃない。そのためかリスナーも在り来たりな反応を見せた。

 

 お仕事頑張ってとか、寂しいとか、仕事サボれとか。

 

「じゃあ、お疲れ〜。また来週〜」

 

 笑顔で挨拶し、私は生放送を終え、そのまま深い眠りに入った。

 

 

 

 林間学校の行き先は群馬だか、山梨だが、とにかく山だった。

 目的は日本の豊かな自然や自立を知るというものだったが、実際にはお友達作ろう合宿だ。

 自立を促すのに旅館に滞在するなんてボケなのだろうか?

 ツッコミ待ちか?

 

 はじめの挨拶を聞いて私はそんなことを考えていた。

 

「じゃあ、バスに乗車してくださ〜い」

 

 先生の号令とともに生徒が動き始める。

 

 荷物を運転手に預け、私は中へ進む。

 私の席は中腹で通路側で隣には咲ちゃんが座っている。

 

 前には石川くんと仙台くん。

 後ろにはヒロくんとマッシーだ。

 

 石川くんは出発する前から仙台くんをいじっていた。

 

 笑ってごまかす仙台くん。ちゃんと言い返せばいいのに。不思議だ。

 

 それからバス内のレクリエーションでカラオケが行われた。

 当然、私が指定された。

 バスガイドのお姉さんも悪ノリしてきた。

 

 ということで、三十路や失恋や結婚願望ソングばっか歌ってやった。

 途中から意図に気づいたのか、鬼の形相で睨まれた。

 

 十曲ほど歌ったところで、石川くんが歌いたいと行ったのでマイクを渡した。

 私は暇つぶしに、しおりを読むことにした。

 

「結衣ちゃん、大丈夫?」

 

 そして酔った。

 

「ダメ……死ぬ」

 

 山を登っているせいかバスは頻繁に曲がり、揺れまくる。

 

 咲ちゃんが席を交換してくれたが、窓外を見ても一向に収まらない。

 吐き気が先程から定期的に訪れ寒気がする。

 

「誰か酔い止め持ってない?」

「なに、どうした?」

「先生、結衣ちゃん酔ったみたいです」

 

 少しすると咲ちゃんが酔い止めをくれた。

 誰が持っていたかわからないけど、感謝する。

 オエエ。

 

「マジ、やばい。軽く死ねる」

 

 酔い止め、全然効かない。

 

 窓を開け、その空気を入れることでなんとか延命しているが、そう長くは持たなそうだ。

 私の手には既にビニール袋が握られている。

 

「結衣ちゃん、顔がゾンビみたいになってる」

 

 もう、言い返す気力もない。

 

「ふ、ふふふ、船戸さん、これ」

 

 と前の席に座る仙台くんが小さな箱を差し出した。

 

「そ、その市販のやつよりも強いやつ。ぼ、僕も酔いやすいから」

 

 死んでいる私に変わって咲ちゃんが受け取り、箱から錠剤を取り出す。

 

「結衣ちゃん、水飲める?」

 

 飲めない。

 今、飲んだら間違いなく逆流する。

 

 私は頭を固定した状態で携帯を取り出し、待受を一瞬見る。

 

 ヒロくん、私に力をかしてくれ!

 

 一瞬、晴れ気分になり、私は錠剤を取り、無理やり飲み込んだ。

 えづきなりそうになったが、無理やり抑え込む。

 

 ヒロくんの前で吐くわけにはいかない。

 これは乙女のプライドだ。

 

 プライドを守ったことにより力を使い切った私は、しばらく死んだ。

 

「おお、凄い!」

 

 十分ほどして、気分が良くなった。

 さっきまでの気持ち悪さが嘘みたいな。

 

「仙台くん、ありがとう!!」

 

 お礼を言うと仙台くんは壊れたラジオみたい何か行った。

 聞き返そうとしたら横に座っている石川くんが「お前、キモすぎ」と絡んでいた。

 

 うんうん、キモいね。

 でも悪い子じゃないよ。

 

 仙台くんは、なんだろう。

 肌とか丸メガネとか、オカッパヘアとか色々相まって、容姿がぶっ飛んでる。非モテ男子第一位だ。

 悪い子じゃないんだけどね。

 

「うっ! なんか急に眠たくなってきた」

 

 凄い眠気だ。

 徹夜した朝みたいな眠たさ。

 

「ああ、それ酔い止めの副作用だと思う。箱に書いてあった」

 

 瞼が重い。

 

「ごめん、咲ちゃん。着いたら起こして」

 

 私はそういい、意識を手放した。

 直前に咲ちゃんが私の頭を自分の肩に移動させていた。

 

===

 

「本当に寝ちゃった。あと十分くらいでつくのに。てか、寝顔メッチャカワイイッ!」

 

 前から藤宮の声が聞こえる。

 そうだろ、結衣の寝顔は無防備でカワイイだろ。

 

 俺は無意識にスマホを手にし、写真フォルダを開き結衣の寝顔写真を眺めていた。

 

「最高にカワイイ彼女だな」

「人のスマホを覗き込むのはエチケット違反だぞ」

「悪い悪い」

 

 マッシーがスマホを横目で見ていた。

 隣だから視界に入って、気になるのはしょうがい。

 だから、それ以上は文句を言わない。

 不用意に開いた俺も悪い。それにマッシーだったら別に見られてもそんな問題ない。

 

「いいだろ、マッシー」 

「いいな。これ、どこの写真」

 

 写真を見せびらかすと、マッシーが指差す。

 

「どれ?」

「これ」

「ああ、それ。ディズニーホテル。俺と結衣の家族でいった時のやつだね。だから、映ってないけど親もいる」

 

 卒業旅行の写真だ。

 宿泊費は結衣のお母さんが出したらしい。

 いつも結衣の面倒を見てくれているお礼ということで。

 

「羨ましい。俺もディズニーとか行きてぇ」

「そういえばマッシーの彼女、俺見たことないんだけど。見せてよ」

「いいよ、ただマッシーは止めてくれ。なんか、違和感ある」

「コウくん?」

「殴るぞ。幸太郎」

「ここで呼び方変えろとか、俺の方が違和感あるわ」

「知らん」

 

 マッシーあらため、幸太郎。

 

 幸太郎から一枚の写真が送らてくる。

 ツーショットが送られて来るのかと思ったら、シングル写真が送られてきた。

 背中中腹まで伸びた黒髪。

 

「めっちゃ美人じゃん」

 

 予想の百倍可愛かった。

 結衣がカワイイ系の最上位だとしたら幸太郎の彼女は美人系の最上位だ。

 

 落とせる気がしない。

 

「よくこんな美人落とせたな」

「それは俺も思う。中学の時からなんか美人過ぎて話し掛けづらかったし。むしろ避けてたし」

 

 謙遜とかじゃなくて本気で言っている様子に俄然興味が湧いた。

 

「土曜日のデート上手くいったら、惚気話よろしく」

「……」

 

 笑いながら断れるかと思ったら、まさかの無言。

 

「どうした?」

「いや……」

 

 なんとも言えない表情だ。

 

「不安か?」

「そりゃぁ、……勿論」

 

 まぁ、そうだよな。

 結衣は幸太郎に寝取られの事は教えてないって言ってたけど、それでも彼女が冷たくなった事実に変わりはない。

 

「船戸さんもお前も言ったように、俺がこんな美人の彼女と釣り合うわけがないし……そう考えると今までが遊びだったんじゃないかって……不安になる」

「大丈夫だろ。遊びで一年も年下の男付き合う女はいないから」

 

 結衣いわくそんなことはないらしいけど、この際事実なんてどうでもいいからな。

 

「逆に考えろよ。この美人がお前の彼女なんだぞ。それは、つまりこの子が惚れるくらいの魅力がお前にはあるってことだぞ?」

「そうだけどさ……」

 

 否定から入る幸太郎の姿に俺は結衣が昔言っていたことを思い出した。

 

 卑屈になっちゃいけない。

 どんなに不安だろうが、男は女の前では自信満々の振りをしなきゃいけない。

 それでもし失敗したら笑ってごまかすんじゃなくて素直に謝ること。

 謝ったら相手が元気つけくれる。そしたらすぐに立ち直る。

 そうやって弱い部分を見せて母性をくすぐる。さらに再度臆せず挑戦して、男らしさを見せる。

 そうつまりーー

 

「卑屈になったら負けだ。自信を持て。持たなくても持ったフリをしろ」

「ーーッ!」

「結衣によく言われた。自信と余裕が一番の魅力だって。だから、大丈夫だよ」

「……全然意味わかんねぇよ。だけど、ありがと」

 

 言ってる俺も実際意味わからん。

 だけど、幸太郎はどこかスッキリした顔をしている。

 

 

 パシャッ!

 

「やべっ!」

 

 唐突なカメラ音がバス内響いた。

 

「えっ!? 誰、今写真撮ったの!?」

「なになに!? 今のシャッター音!?」

 

 クラスの女子たちが騒ぎ始める。

 

 クラスの女子は気づいていないっぽいが、今確かに声がした。

 石川の声だ。

 

「石川くん、今結衣ちゃんの寝顔撮ったでしょ!!」 

 

 藤宮が声を大きくして指摘する。

 

「いやいや、撮ってねぇから! 証拠でもあんのかよ!」

「えっ!? なに!? 石川、船戸さんの寝顔盗撮したの!? サイテー!!」

 

 石川の声を潰すように別の女子が声を上げる。

 

「石川キモ!」

「盗撮はキモすぎ」

「犯罪者じゃん!」

「うるせーぞ!」

 

 女子からの口撃に石川が笑いながら反論するが、表情は焦っている。

 

 てか、人の彼女の寝顔隠し撮りとかありえないんだが。

 神経疑うわ。

 

「じゃあお前、携帯見せろよ」

 

 先生が動く気配がないのを確認して、俺を口を出す。

 

 思ったより、ずっと低い声がでた。

 空気が数度下がったのを感じた。

 

 石川を口撃していた女子たちの口が一斉に閉じた。

 

「は、はあ? なんでお前に携帯見せなきゃなんねーんだよ! プライバシーの侵害だから! 俺が撮った証拠でもあんのかよ!」

「そういうのいいから、見せろよ」

「よくないから! てか、何切れてんの? ヤバすぎなんだけどぉ?」

「ん? なにぃ? ついたぁ??」

 

 重い空気に似合わない声。

 

 俺はーー。

 

 

===

 

「ん〜? なに? ついた〜?」

 

 周囲の騒がしい声で起きた。

 まだ、眠い。

 

「ま、まだだよ!」

 

 結衣ちゃんがなんかテンパってる。

 なんで?

 

「あとどのくらい??」

「う〜んーー」

「もう着くわよ。石川くんはあとで話があるわ」

 

 泉先生が教えてくれた。

 

「石川くん? なんかやったの?」

「い、いやいや! なんもなかったよ! ホントッ、なんもなかった!」

 

 うんうん、なんかやらかしたんだね。

 眠いし、石川くんだし、どうでもいいや。

 

「そっか、そっか。なんもなかったんならいいや」

 

 私は大きく蹴伸びする。

 それにしてもーー。

 

「なんで、みんな静かなの? 帰りのバスなの?」

 

 誰一人話していない異様な空間。

 

「いや、ちょっと、みんなで無言ゲームやってたの!!」

 

 うんうん、なんかあったのね。

 石川くんがなんかやらかして、先生に怒られたのかな? 

 どうでもいいや。

 

「そっかそっか、楽しそうじゃん」

 

 

 変な空気のまま目的地にたどり着いた私達は運転手から荷物を受け取り、木造の大きな建物へ向かった。

 

 中へ入ると大きな部屋が左右に別れて二つあり、左が男子で右が女子と言われた。

 荷物を置いたあとはハイキングをするらしく、集合が掛かった。

 

 

 山登りとか、勘弁してくれ。

 

 そんな心の声をそっとしまい、私達は再びバスに乗車した。

 

 山にはコースがあり各チェックポイントでスタンプを押すものだった。

 班ごとの行動が言い渡され、私達は四人で山を登り始めた。

 

 下山し、宿に戻った時には足が棒になっていた。

 夕飯は平凡なカレーだったけど、凄く美味しかった。

 

 その後、クラスごと男女別で風呂に入った。

 

 私の慎ましやかな胸を見て、みんなが「船戸さん笑」と嘲笑してきた。

 そこを大砲を持っている咲ちゃんに慰められて、私は惨めな思いに襲われた。

 

 いいんじゃ! ヒロくんは小さい方が好きって言ってるから!!

 貧乳はステイタスだ! 希少価値だ!

  

 言い訳をすればするほど敗北感を味わうという負のスパイナルに私は入っていた。

 そんな様子を見て、みんながイジるものだから私は逃げるように部屋を出てヒロくんに泣きつきに広間に向かった。

 

「ふ、ふふふ、船戸さん!」

 

 と、当然背後から声をかけられた。

 

「仙台くん? どうしたの?」

「は、ははは、話しがあるんだ!」

 

 凄い緊張している仙台くん。

 と、その後ろからニヤニヤ見ている石川くんと複数の男子。

 

 あーね。

 告白ですね。

 中学生かよ。

 

「いや、いいよ。話はわかってるか。私、用があるからまた今度ね」

 

 フッて変な空気になるのが面倒だから私は速攻で笑顔を向け手を振って逃げた。

 どうせ、嘘告だ。

 仙台くん可哀想に。

 哀れなり。

 

「ま、待って! まだ、その、話がある」

 

 最後には羽虫は羽音並の声量に。

 

 無視しても良かったんだけど、呼び止めるからには大事が話があるのだろうと、私は振り返った。

 

「ん? なに?」

「実は行きのバスでーー」

 

 それは大事な話だった。

 想像もいていなかったおおごとな話。

 

 仙台くんの口から発せられた出来事に耳を疑った。

 

 鳥肌が立ち、体温が数度下がる。

 

「それ……ホント、なの?」

 

 仙台くんが作り話をする必要はない。

 しかし確認せずにはいられなかった。

 

「うん。ぼ、僕は、注意したんだけどーー」

 

 石川くんが仙台くんの言葉なんて聴くはずもなく、彼は私の寝顔を隠し撮りしたらしい。

 しかも先生はそれに対して注意も何もいてないと言う。

 泉先生はまともな先生だと思っていたんだけど……。

 

「教えてくれてありがとう。じゃあね」 

 

 キモ。

 キモキモ。

 キモすぎる。

 

 人の寝顔、しかも女の子の寝顔を隠し撮りするなんて信じらんない。

 

 私は自分の両腕を掴む。

 

 ただ、もっと信じらんないのはヒロくんがそんなことがあったのに何もしていないことだ。

 なんで?

 おかしくない?

 普通、彼女隠し撮りされたら携帯無理やりに奪ってでも削除するでしょ。

 

 私はまっすぐヒロくんのところへ向かった。

 

 お土産コーナーを物色しているヒロくんを見つけ、私は彼を人気のないところに呼びつける。

 

「どうした?」

「あのさ、」

 

 いつも違う雰囲気に気づいたのか、心配するヒロくん。私は彼の目をまっすぐ見る。

 

「行きのバスの中で、石川くんが私の寝顔隠し撮りしたのって本当?」

「ーーッ」

 

 バツが悪そうな顔をする。

 

「ほんとう、なんだ。写真はどうなったの? ちゃんと削除したの?」

「……わからない」

 

 歪んだ顔から絞り出された声に怒りが湧いた。

 

「わかんないって……なんで? なんで確認してくれないの? おかしくない?」

 

 私の彼氏でしょ?

 彼女盗撮されてるのになんで何もしないの??

 

「先生何もしてくれなかったんでしょ?」

「えっ?」

 

 呆気に取られた顔をされた。

 

「いや、バス降りたあとに石川のこと呼び出してた」

 

 は?

 情報が違うんだけど。

 

「私が聞いた情報とは違うんだけど……間違いない?」

「間違いない。ただ、それ以上のことはわからない。ごめん」

 

 なんで仙台くんはその事実を私に知らせなかった? いや、そんなことはどうでもいい。

 

「先生の所に行こう」

 

 私はヒロくんの手をひき、先生を探しに行く。

 ロービーでくつろいでいる先生に聞きまわっていると、場所はすぐに分かった。

 先生用の寝室にいるらしい。

 

 私は急用があるといい、他の先生に呼びに行ってもらった。

 

 数分して先生が現れ、私達は個室に招待された。

 

「先生、石川くんが隠し撮りした件なんですが」

 

 私がそういうと先生は目を見開き、ヒロくんの方を向く。

 ヒロくんは首を左右に振る。

 

「誰から聞いたの?」

「仙台くんが教えてくれました」

「そう」

 

 どうせ、面倒事を私に教えたと思っているんだろう。

 

「仙台くんはどうでもいいんです。私にとって今重要なのは隠し撮りされた写真です」

 

 私の写真なんてインターネットにいくらでも転がっているから、それを勝手に保存するくらいならどうぞって感じだが、プライベートのしかも隠し撮りは話が違う。

 たとえ私が有名人だったとしても許されることじゃない。

 

「それが……写真なかったのよ」

 

 先生が困り顔をする。

 

「え?」

「スマホを確認したけど、船戸さんの写真は見当たらなかったわ。シャッター音は確実にしたから、何らかの写真は撮ったと思うんだけど、該当する日時の写真もなかったから消したんだと思うわ。証拠がなきゃこっちも何も言えないのよ。最近は世間が厳しくて」

「ーーッ!」

 

 言い返そうとしたが、感情を吐き出す前に頭で理解してしまった。

 証拠がない人間を有罪にはできない。

 

「だから、その、ごめんなさい。ただ、写真は消去されているから、そこは心配しないで」

 

 撮られた事実がたまらなく耐え難いが、しかし写真がないんなら詰めようがない。

 いや、待てよ。

 

「先生、消去フォルダは確認しましたか?」

「消去フォルダ?」

 

 鸚鵡返し。

 それが確認していないことをものがっていた。

 

 ヒロくんと顔を見合わせる。

 

「消去フォルダっていうのは、自分が削除した写真を確認できるところです。そこでちゃんと削除しないと写真はいくらでも戻すことができます」

「じゃあーー」

「はい。間違いなく再保存しています」

 

 ヒロくんの説明に先生の顔が歪む。

 

「今から石川くんのところ行ってきます!」

 

 私が立ち上がると、ヒロくん手を握られ静止させられる。

 

「いや男子部屋の方に逃げられたら意味がない。先生も警戒されてるから、多分呼び出しがかかった時点で写真をネットにアップして内部ストレージから削除する可能性がある」

「じゃあ、どうするの?」

 

 語気を強める。

 

「俺が、どうにかする。任せろ」

 

 その自信溢れた目を私は数秒見続ける。

 

「そんな睨むなって、大丈夫だから」

 

 頭をポンポンと叩かれる。

 これをやれば私が折れると思ってるのか、ヒロくんは。

 甘く見過ぎだ。

 

「じゃあ頼むよ。いい、結果報告待ってるから」

「斎藤くん、暴力はいけませんからね」

「わかってますって」

 

 石川くんの携帯を再度チェックすることが決定され、私達は部屋を後にした。

 

 

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