恋するギフテッド   作:萌花千

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十六話

 林間学校が終わった。

 荷物は重いけど、学校解散だったため私にはほぼ関係なかった。

 

 家近、万歳!

 

 何か、忘れているような気がする。

 まあ、忘れるようなことだからきっとどうでもいいことだ。

 

 しかし、こういう旅行から帰ってきた日でも全部自分で家事をやらなきゃいけないなんて……一人暮らしの弊害だ。

 ヒロくんも今日はこっちによらず自宅に真っ直ぐ帰った。

 

「全部が面倒くさい」

 

 夕飯とか洗濯物とか、片付けとか。

 

 体が動くうちに私は服を洗濯機に投げ込み、旅行グッズを片付ける。

 気分を無理やりあげるために歌を流し、大声で歌う。

 

 片付けが一通り終わると、私は携帯片手にベッドに飛び込んだ。

 ラインを開き、ヒロくんや咲きちゃんからメッセージが来てないから確認する。

 私、ヒロくん、マッシー、咲ちゃんの方の四人グループも見てみるが、稼働していない。

 

 私はヒロくんへ「無事帰れた?」と送り、グループの方には「一人暮らしだから片付けで軽く死ねる」と送った。

 

 ふと、フレンドが一人増えていることに気づいた。

 誰だ?

 名前はサウザンド・グランド。

 なんだ、このクソダサい名前。

 センスのかけらもない。

 

「……さては仙台くんだな」

 

 試しにメッセージを送ってみる。

 

『仙台くん?』

 

 すぐに既読がついた。

 

『なに??』

 

 どうやら私の詠みは間違っていなかったらしい。

 

『酔い止め薬ありがとう!!』

 

 とりあえず酔い止めのお礼だけ言っておく。副作用は強かったけどあれには助けられた。

 私は返信を待たずトーク画面を閉じる。

 

 ピコンと通知音がなる。

 ヒロくんからだ。

 

『今、家についたぁぁぁ!!』

 

 なんだ、そのテンション。

 

『お帰りぃぃぃぃ!!』

 

 グループの方も返信が来ていた。

 咲ちゃんからだ。

 

『お母さんがやってくれた!!』 

 

 咲ちゃんのピースの自撮り写真。後ろでは咲ちゃんのお母さんと思われる人物が、大きなバッグの中身を片付けていいる姿が映っている。

 

『ずるい』

 

 と返信し、私はラインを閉じる。

 

 

 パソコンを起動しようか悩んだけど、眠気に襲われたので私は素直に瞼を閉じた。

 

===

マッシーsaid

 

 林間学校から帰ってきた翌日。

 運命の日がやってきた。

 今日は俺の彼女、舞菜の誕生日だ。

 

 最近急に態度が冷たくなって船戸に相談したら「デートに誘え」と言われ指示されるがまま、気づけば今日に至る。

 船戸曰く、舞菜の心は俺から離れかけているらしく、早急に男らしさを見せる必要があるそうだ。

 

 よくわからないが、船戸が言うなら間違いないんだろう。

 なんてたって、ヒロをあそこまでにした人だ。

 ヒロの中学時代の写真を見て、俺は目を疑った。あんな芋みたいな男が目の前のイケメンと同一人物とはとてじゃないけど信じられなかった。

 

 一体何をしたらこんな別人が生まれるんだ……。

 

 

 財布に入っている船戸の名刺を見る。

 今夜行くレストランで会計を求められたらこれを出せと言われた。

 

 こんな紙切れにどんな価値があるのかわからないけど、大丈夫だろう。

 お小遣いも多めに持ってきた。

 

 深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 いつも同じデートのはずなのに、なんでこんなに緊張するんだ。

 

「ごめんなさい、待たせたわ」

 

 ふと、後ろから声をかけられた。

 ビクッと肩が跳ねる。

 

「お、おお!」

「なに緊張しているの? 行くわよ?」

 

 不思議そうな表情をすると舞菜は改札へ向かう。

 

 俺はその背中についていく。

 

 リードしろと言われていたのに、最初からこれだ。

 もうダメかもしれない。

 いや、切り替えろ。卑屈になったら負けだ。

 

 改札を通り抜け階段を降り、ホームへ向かう。

 

 休日だけあって人は多く、隣を歩くことは許されない。

 前を進む小さな背中を見て自分の不甲斐なさを感じる。

 

 だけどそれもホームに並んだら関係ない。

 

「コウくん、林間学校どうだった?」

 

 また先手を取られた。

 結衣に女の子は基本的に話を聞いてほしいものと言われていたのに。

 会話の主導権は女の子に持たせて、的確な同意とリアクションで話をさせるべきだと。

 

「楽しかったよ。なんかちょっと問題も起きたけど」

「そうなの? 何があったの?」

「クラスの男子が行きのバスで女子の寝顔を隠し撮りした」

「クズね」

「ただ、スマホを調べても写真は見つからなかったんだよ」

 

 ヒロに協力して、石川の携帯を取り上げたけど写真は見つからなかった。

 ヒロは青い顔をしていたけど、結局どうなったんだ。グループで話した感じだと、気にしている様子はなかったし。

 

「そう、そうれは不思議ね」

 

 舞菜は顎に手を当て考える仕草をする。

 

「写真を撮ったのは確かなのよね?」

「いや。シャッター音が響いて、その男がヤベって言っただけだから、証拠はない」

「状況証拠だけなのね。コウくんはどう考える? あなたの意見を聞かせて欲しいわ」

 

 どう考えてるって……。

 

「そいつが写真を撮ったのはほぼ間違いないと思う。指摘された時の動揺っぷりから。ただ、スマホから写真が見つからなかったのも事実。だから謎なんだよな」

「なら、証拠隠滅のために写真を消したという線もあるね」

「証拠隠滅するために保存してある写真全部消すか? しかも消去フォルダの方も」

 

 舞菜は顎に手を当てる。

 

「……わからないわ。ごめんなさい。役にたてなくて」

「いやいや、別に。そういえば舞菜の方はどうだったんだよ。新入生歓迎会」

「どうって……この間な話した通りよ? 酔った大学生の対応が面倒すぎて二度と行かないと心に誓ったわ。ああ、それと。私、野球部マネージャー辞めることにしたわ」

「えっ!? なんで!?」

 

 予想外の言葉に思わず聞き返す。

 

「マネージャーを続ける意味がないと思ったからよ」

 

 それ以上深く聞けなかった。

 

 意味。

 それはなんの意味だ。

 俺の趣味に合わせる意味か。

 わからない。

 

「そうなんだ。部活、別に入るのか?」

「いいえ。入らないわ。だからしばらくは……暇よ」

「そうか……」

 

 それ以上、何を言えばいいのかわからなかった。

 無言になって数秒。電車が来た。

 電車の中で、会話はなかった。

 

 水族館についてからも、どこかぎこちない会話。

 いつもどんな風に会話してたっけ。

 思い出せない。

 

「美味そうな魚ね」

「そうだな」

 

 何か、何か言わなきゃ。

 

「ちょ、チョウチンアンコウってどんな味するんだろうな」

「……確かに食べたことないわね」

 

 ダメだ。

 これ以上口を開くとまた訳の分からないこといいそうだ。

 なんだチョウチンアンコの味って。

 目の前に魚がいるわけでもないのに。

 

 

 その後もろくに会話をせずに、俺たちは水族館を見終えた。

 その足のまま、俺は次の目的地へ向かう。

 

 場所はここから歩いて十五分ほどにあるレストラン。

 

 

 時刻は十八時半前だろうか。

 既にお店の前には行列ができている。

 

「……あなたが選んだの?」

 

 俺の視線から目的の場所を察したのか、舞菜が聞いてきた。

 

「ああ」

 

 本当は船戸さんが選んだレストランだけど、デート中に他の女の子の名前を口に出すのは厳禁。

 俺でも知ってる基本だ。

 

「…………そう」

 

 どこか疑う視線。

 バレた? 

 

 しかしそれ以上舞菜は何も言わない。

 

 俺は長蛇の列の先頭に行く。

 

「六時半に予約した島田です」

「島田様ですよね。少々お待ち下さい」

 

 店員が店の奥へと消えていく。

 横に並んでいるのは全員大人で俺たちのような学生カップルは見当たらない。

 大人たちが驚いた表情で見てくる。

 

 なんだ。

 やっぱり場違いなのか。

 怖い。

 

「島田様、お待たさせいたしました。どうぞ、こちらへ」

 

 俺たちは奥の個室へ案内された。

 

 暖色系のライトが見せを照らしとても静かで落ち着いた雰囲気が、学生が来るところではないと表している。

 

 舞菜もちょっと緊張しているようで、表情がどこか固い。

 

「お料理が出てくるまで少々お待ちください」 

 

 深いお辞儀をすると店員は姿を消した。

 

「いい雰囲気ね。落ち着いていて。あなたが選んだとは思えないほどに」

 

 舞菜が微笑む。

 閉鎖された空間で外の緊張から隔絶されたせいか、とても柔らかい笑みだった。

 てか、普段の俺ってそんなにセンス悪いのか?

 ちょっと凹むんだが。

 

「どうして今日はそんな畏まった服を来ているのかと思っていたのだけれど……なるほど。このお店なら納得だわ。私も気合を入れてきたかいがあるわね」

「カワイイ笑顔が見れて俺も満足だよ」

「……っ」 

 

 崩れた笑顔に肩の荷が下がる。

 

「そういえば部活意味ないって言ってたけど、なにかあったの?」

「そのままの意味よ。中学の時には……マネージャーを続ける理由があったのだけれど、高校でマージャーを一年間やってみて、特にやる意味を見つけられなかった。私が通っている高校にはーー」

 

 と、舞菜が一度咳払いする。

 

「とにかく、続ける理由がなくなっただけのことよ。そんなに気にしなくても大丈夫だから」

 

 微笑みを向けられた。

 

「そういうあなたはいいの? 入部してそうそう部活休んで私と遊んで」

「いや、全然よくない。来週先輩にしごかれる」

 

 監督は入部したてだからか笑顔で了承してくれた。だけど先輩たちには鬼の形相で睨まれた。

 休み明け絶対にダッシュさせられる。あ、考えたら怖くなってきた。

 

 舞菜はそんな俺の顔を見て再度微笑んだ。

 

 

 

 それから少しすして、ご飯が運ばれてきた。

 船戸がコースで予約したため、頼まなくても自動でご飯が運ばれてくる。

 

 前菜でハムとサラミの盛り合わせ。

 次にトマトスープ煮込み。

 メインでカルボナーラ。

 最後にデザートでバニラアイス。

 

 食べ始めれば一瞬だった。

 料理は美味しいけど、全体的に量が足りていない。

 

 だけど追加で注文することもできないので、大人しく飲み物で腹を膨らます。

 

「そういえば、あなたの学校ってシップドアが通っているのよね?」

「ん? そうだよ。同じクラスだよ」

「それは……驚きね。どんな子?」

「どんな子って言われてもなぁ〜」

 

 思ったより凄い子供っぽくて、彼氏大好きで、大人しいって感じだな。

 中学の時の暴行事件を見た時はもっと性格が悪いのかと思ったけど、実際に話してみれば、普通の女の子って感じだ。

 石川に嫌がらせされた時も百倍ぐらいでやり返すのかと思ったら、大人しく耐えてるし。

 

「youtubeで見るよりもずっと優しくて子供っぽいかな」

「子供っぽい?」

「普通の女の子って感じ」

「そうなのね」

「ああ。彼氏大好きって感じだし」

「彼氏いるの?」

「ああ。メッチャイケメンだよ。写真見る?」

「ええ、是非」

 

 ポケットからスマホを取り出し、林間学校一日目の時に四人で撮った写真を見せる。

 

「ほら」

「あら、本当ね。とても格好いいわわね」

 

 事実だけど、ちょっと傷つく。

 

「あら、でも隣にそれ以上格好いい人がいるじゃない。私はこっちの方が好みよ」

 

 あれ? 写真に男三人映ってたっけ? 

 

「って、それ、俺だよ。俺。目の前にいるんだけど??」

「あら、本当だわ! あまりにも別人すぎてわからなかったわ」

「おい、わざとだろ。服装は違くて顔は変わってないからな」

「あら、よく見ればあなたね。ごめんなさい」

「あら、あら、言うなって。神様?」

「あら、知らなかった?」

「神様、俺にヒロと同じ容姿恵んで」

 

 俺の言葉に一瞬、舞菜の表情が消える。

 次には小さくため息を吐いて、立ち上がり細い手がテーブルを超えて俺の顔を包む。

 

「バカね。私にとってはあなたが一番格好いいわよ」

 

 真っ直ぐこっちを見る瞳。

 率直な言葉。

 

 ニッコリと笑うキレイな表情に思わず顔を逸らそうとする。

 しかし顔が舞菜の両手に包み込まれているせいで、動かない。

 

「好きよ」

 

 唇が優しく舞菜のそれに触れた。

 

 別に初めてのキスじゃない。

 今まで何回もしてきた。

 

 だけど舞菜からしてきたのはこれが初めてで、こんなに顔が熱くなるのも初めてだ。

 

「俺も好きだよ」

 

 盛り上がった感情を返すように今度は俺からキスをした。

 

 

 

 甘い空気が室内に漂う中、俺たちは会計を済ませに受付に向かった。

 提示された数万円にさっきとは違う意味で心臓がバクバクとなり、震えた手で船戸の名刺を渡すと、彼女が言った通り料金はゼロになった。

 

 店を出たあと、その事実に二人で笑いながら街中をあるく。

 

 

 

「少し休憩しない?」

 

 水曜日に通った道を思い出しながら歩くこと十分ほど。

 最難関の場所が視界に入ってきた。

 

 落ち着いて、声色を変えないことを意識して言葉を放った。

 

 俺の視線につられ舞菜がその建物、ラブホを見る。

 繋いでいる手の力がギュっと強くなるのを感じた。

 

「え、ええ。そうね。す、少し疲れものね」

 

 そっぽを向きながら少し歩くペースが早くなる。

 足は真っ直ぐそこへ向いていた。

 

 練習したようにタッチパネルを操作し、俺たちへ奥へ進んだ。

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