恋するギフテッド   作:萌花千

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十七話

 ヒロに言われたことを思い出す。

 

 行為中は相手のことを想うこと。自分が満足するための行為をしないこと。

 相手がただ喜ぶことをすること。

 

 俺はそれを実践した。

 舞菜が気持ちよくなるように。

 その一心で教えてもらったテクニックを駆使した。

 

 駆使したら舞菜がちょっとおかしくなった。

 

 どうしよ、これ。

 

 ベッドの上でビクビクと痙攣している。

 最初は「キモチイイ」って言っていてしばらくしたら「ダメダメダメ!」と言い始めて、そのあとには「もう無理! ごめんなさい! もう無理!!」と悲鳴のような声をあげて、最後は呂律が回ってなくて何言っているのかわからなかった。

 

 

 ふと船戸に言われたことを思い出した。

 

 上手くいったら彼女さんが懺悔をしてくるから、どんなことを伝えられてもまずは怒らずに許すこと。

 絶対怒っちゃダメだからね! で、最後に「次はないから」って言うこと。これで大丈夫。もし、その後も同じことが起こったら、もうそういう性格なんだと割り切ること。

 怒っても意味ないから。

 

 これは上手くいったんだろうか。

 わからない。

 

 不安だ。

 

 

 しばらくしたら舞菜は復活した。

 だけど、歩くと生まれたての子羊みたいに足をピクピクさせていた。

 

「大丈夫か?」

「あなたのせいよ」

 

 睨まれた。

 

 

 歩けそうにないので今日はそのまま泊まっていくことにした。

 親には友達の家に泊まると伝える。

 

「あなた本当に初めてなの? 私、快感で壊れるかと思ったのだけれど」

「ヒロに教えてもらったことをその通りやっただけなんだけどな」

「ヒロって船戸さんの彼氏なのよね」

「そうだよ」

「船戸さんが教え込んだのかしら。恐ろしいわ」

 

 二人、半裸でベッドに寝ながら話す。

 なんだろうか。シたせいか、どこか近くなった気がする。心の距離?が。

 

 俺はちょっと消化不良だけど、舞菜が満足したならそれでいい。

 

 と思っていたら会話の途中で急にーー

「あら、元気じゃない。今度は私がシてあげるわ」

 

 と言われ、搾り取られた。

 腰が持っていかれるほど気持ち良かった。

 

 

 

 

 それから少しして船戸が言った通り、舞菜は話し始めた。

 どうして冷たくなったのか。

 

「実は歓迎会で大学生に、付き合ってるのにまだ一回も手を出されたことないの? それ、絶対嫌われてるって。本当に好きだったらすぐに手出すから。多分嫌いだけど別れ話を出すと面倒なことになるから言ってないだけだと思う、って言われて、それでちょっと冷たくしたの。ごめんなさい」

 

 その言葉に安堵した。

 正直なんでそれで冷たくしたのかよくわからないけど、嫌われてはいなかった。

 今はそれだけでいい。舞菜は俺のことを嫌いなんてなってなかった。

 

 強引にデートに誘われたり、シてくれたらのがたまらなく嬉しかったとも言われた。

 

 嬉しすぎてもう一回戦した。

 

 

===

 

 深夜、マッシーからメッセージが届いた。

 

『仲直りできた。ありがとう! 冷たくなったの、大学生に俺が舞菜のことが好きじゃないって言われたからだって』

 

「日付が変わる前に送ってくるとか、生々しいよ。てか」

 

 寝取られじゃなかったの?? 

 あれ? おかしいな。絶対寝取られだと思ったのに。不安を煽られただけって、もしかして汚れてるのは大学生じゃなくて私の心だった?

 

『仲直りできて良かったね! 今度、彼女紹介してね!!』

 

「まあ、脱童貞と脱処女おめでとうってことで」

 

===

 

「生徒会選挙が来週あるから、立候補したい人は今週の水曜までに立候補届けを出しておくこと。紙は職員室の前にあります」

 

 休み明けの朝のHR。

 眠気で意識が飛びそうだった私はその言葉で覚醒した。

 

 なんか面白そう!!

 

「って、ことでヒロくん。私会長やるから副会長やってよ」

「え? やだ」

「なんで!?」

「そんな軽いノリで言ってくるんだよ。生徒会とか面倒だし、人前で話すとか絶対無理」

 

 断固たる拒否。

 そういえばヒロくんは目立つのが嫌いだった。

 私に連れ回される時にそんなことは言わないので忘れてた。

 

「え〜。ケチ」

「ケチで結構!」

 

 腕を組み、フンと顔をそっぽ向ける。

 食い下がってもダメそうだ。

 

「なん? 結衣何話してるん?」

 

 石川くんが後ろからわざと私の肩を手でかすめる。

 

 堂々と触られるより、その変に微妙なラインをつく方がキモいからやめろ。

 

「ん、別に〜。石川くんには関係のないことだよ〜?」

「んだよ〜。教えてくれてもいいじゃん」

「石川はキモいって話をしてたんだよ」

「お前には聞いてねぇから」

 

 ヒロくんが牽制するが効果はいまいち。

 

 ていうか、石川くん。君、隠し撮り事件があったのによく平気で話し掛けられるね。凄いよ。

 

「てか、お前結衣に話し掛けて貰えるからって調子のんなよ」

 

 石川くんが私の肩に手を置く。

 私は力を入れてはたく。

 

「ッ!」

 

 苦笑いする石川くんに私は笑みを向ける。

 

 女の前でやたらとマウント取ろうとするの、キモ。

 

 

「あ、俺用事あるの思い出したわ」

 

 捨て台詞を吐くと石川くんは仙台くんに絡みに行った。

 

 安堵の息を吐く。

 

「なんで何も言わないの?」

 

 唐突な質問だった。

 質問を投げかけたのはもちろん、ヒロくん。

 その顔は疑問、疑念、不安、色々な感情が混ざっているように見える。

 

 

 ヒロくんの言いたいことはすぐ理解できた。

 

 石川くんに対してどうして何も言い返さないのか。

 もっと辛辣に対応すれば石川くんはちょっかいをかけてくるのをやめるかもしれない。

 逆に言えば、何も言わないから日々エスカレートして行くんじゃないか。

 

「言わないんじゃなくて、なんか言えない」

「なんで? 中学の時はちょっかい掛けられるとトラみたいに威嚇してたじゃん」

 

 トラっって、私は猛獣か何かですか?

 

「……」

 

 だけど、、確かにその通りだ。

 思い出せばあの手のやからは何人もいた。

 そいつらを辛辣な言葉で追い返すのは殆ど日常で、慣れたものだった。

 

 しかし今の私はどうだ?

 石川に何をされても言い返さない。やり返さない。

 なんで?

 

「わかんない。学校が楽しいから、かな? この空気を壊したくないって思ったのか、それとも単純に得体のしれない生物に恐怖しているのかも」

 

 冗談交じりに言う。

 

 本当にわからない、

 大人になった、なんて簡単な答えじゃないし。

 そもそも黙って耐えるのが大人だとは思わない。

 

「結衣、お前。怖いんじゃないのか?」

「石川くんが? そんなわけないじゃん」

 

 疑う声に私は笑って返す。

 実際に今、私は石川くんの手をはらって見せた。

 陰陽師だったらプロ級だ。

 

「私が男に対してビビるなんて天地がひっくり返らないとないね!」

「……じゃあ次絡まれた時はちゃんと拒否れよ。じゃないと俺が動くからな」

「アイアイサー。善処します!」

「逃げ道を作るんじゃない」

 

 ピシっと敬礼すると柔らかい声色でツッコミが入った。

 

 ヒロくんは優しい。

 普通、恋人が他の男にちょっかいかけられていたら、止めに入る。

 だけど石川くんに対しては恋人と明かしたあとの方が絡みがだるくなるから、明かさないことにしている。そのせいでヒロくんは表立って動けない。

 それはきっと凄くストレスなんだと思う。実際に絡まれている私よりよっぽど。

 

 それに文句一つ言わず耐えているヒロくんはとっても優しいのだ。

 

「あ、副会長になってくれたらーー」

「ヤダ」

「ケチンボ!」 

 

 やっぱ全然優しくない!!

 

 

 ===

 

 生徒会長の立候補届けを出しにいったら、泉先生と鉢合わせした。

 

「あら! 船戸さん生徒会長やるの?」

 

 とても嬉しそうな顔をされた。

 クラスに生徒会長がいたら担任はなんか優遇されるのだろうか。

 それとも生徒の育成実績にでも入るのか。

 まあ、どちらにしても私には関係ないことだ。

 

「はい」  

「そうなのね。応援しているわ。再来週、選挙があって全校生徒の前で公約を演説することになるから考えとくのよ」

「わかりました」

 

 泉先生は上機嫌な様子で廊下を歩いてった。

 

 公約か。

 政治家が言っている嘘の塊。

 ちなみにこれは日本特有で海外の政治家は違う。特にアメリカ。某トランプさんはメキシコとの国境に一部だが本当に壁を作ってしまった。

 

「適当に聞いてみよ」

 

 学生が何を求めているか、それは学生のみ知る。

 私は職員室と同じ階にある三年生の教室へ向かい、簡単に何を必要としているのか聞いてみた。

 

「学力と時間」

 

 満場一致でみんな同じ答えだった。

 

「はぁ〜努力しないと成績があがらないなんて大変なんですね!」

 

 笑顔を向けたら睨み返された。

 コワイ。

 

 続いて二年生の教室へ向かう。

 

「休み」

「彼女」

「お金」

 

 おかしいな。

 質問の意図ちゃんと伝わってる?

 学校に求めてるものだよ?

 バカなの?

 

 最後に一年生の教室へ向かう。

 ちなみに私のクラスはスキップした。

 

「週一の英単語のテストなくしてほしい」

「あと漢字テスト!」

「教室一階にしてほしい」

「担任変えてほしい」

 

 一年生が一番まともだ。

 

 あっ、女子学部忘れてた。

 

 中央東は学校にしては珍しく、共学と女子校が混在している。

 女子校、通称女子学部はそもそも塔が違うので滅多に足を踏み入れない。

 それこそ全校集会で見かけるくらいだ。

 ただ、彼女らが学校に求めることなんてーー。

 

「化粧オッケーにしてほしい」

「スカートの長さでとやかく言うな」

「男ほしい。男支給して。イケメン高身長の」

 

 予想通り。

 

 女だけの空間なんてこんなもんだ。

 

 男の目にさらされなくなったことで猿とかした彼女たちを遠い目で見ながら教室へ戻った。

 

 

 高校の生徒会選挙で勝つのは極めて簡単だ。

 いい演説をするとかそんなことじゃない。ただ、単純にクラス一つ一つに顔を出し、挨拶回りをする。

 これだけでみんな私に親近感を覚え、私を選ぶ傾向になる。

 実際の選挙でも行われている行為で、ネットが浸透した社会で今だに選挙カーや街頭演説をしているのもそれだけ効果が大きいから。

 

 始まる前から勝負の結果は決まっているのだ。

 ワハハ。

 

 私は選挙が始まるまでの数日で全てのクラスを周り、顔を覚えてもらえるよう努めた。

 

 公約も「時代にあったテスト内容の改善」「若者の恋愛草食化の対策」「女子用制服ズボンの販売」などを適当に並べた。

 先生たちは揃って苦い顔をしていた。

 

 安心してください。実現させるのは最後の女子のズボンだけなので!

 

 そもそもなんで女子の制服はスカートなの?

 カワイイし夏は涼しいからいいよ?

 でもね、冬はとっても寒いの。

 スカートの下から風がスースー入ってきて、いくら上半固めても下半身がガラガラだから意味ないの。

 

 そんな意気込みで生徒会選挙を私は乗り切った。

 結果は後日廊下に張り出された。

 

 

「我が軍は圧勝ではないか! ワハハハ!」 

 

 結果を前に私は仁王立ちし高らかに笑う。

 七割近くの票を私が独占した。

 支持率七十パーセントとか、ロシアかな?

 

「うるさい」

 

 ビシッ!と頭頂部にチョップが入った。

 

「痛い! 何するのヒロくん! 酷いや、酷いや! 一般生徒が何様!?」

 

 頭を両手で押さえて、抗議の目線を送る。

 

「私は生徒会長だよ? 会長だよ。会長! 会社で言ったらとっても偉いんだよ!?」

「なんで知能指数そんな下がってんの……」

 

 大層困惑した表情に私は笑いながら答える。

 

「昨日寝てないから! youtube見てたら朝だった」

「ちゃんと寝ろよ」

「大丈夫、授業中にちゃんと寝るから!」

 

 心配するヒロくんに私は親指をたてる。

 

「ドヤ顔で言うなっての」

 

 はたかれた。

 痛い。

 

 

 休み時間が終わったあと、私は開始のチャイムと同時に専用の枕に顔を押し付けて寝た。

 前髪が崩れる可能性があるけど、それはもうしょうがない。

 

 授業中寝ていて先生は私のことを起こさない。

 私が働いているのと、学力と性格、そういったことを考慮し放置という方針をとっている。

 起こされる時はグループワークくらいだ。

 

 ということで私は今日もきょうとて睡眠に勤しむ。

 

 

「結衣ちゃん、起きて! お昼だよ! ご飯の時間だよ!」

 

 咲ちゃんに起こされたのは四時間目が終わってすぐのこと。

 クラスにお弁当の独特な匂いが充満していた。 

 

「ん、起きる」

 

 私は目をこすりながら立ち上がる。

 

「ほら、行くよ」

 

 咲ちゃんが私の手を取り引っ張る。 

 寝起きで意識がはっきりしないなか、私は外側からの力に従い足を動かす。

 

「斎藤くんたちが席とってくれてるから早く」

「ん」

 

 

 食堂につくまでに私の意識は完全に覚醒した。

 

 奥へ進むといつものソファー席をヒロくんとマッシーがとっていてくれた。

 テーブルの上には二つの弁当と一つの定食。四つの水が入ったコップが置いてある。

 

「ありがと」

 

 どうやらヒロくんが既に私の代理でご飯を買ってくれたらしい。

 今日はトンカツ定食。

 美味しそう。

 

 財布から五百円玉を取り出しヒロくんに渡す。

 

「ん」

 

 短い返事。

 受け取った五百円玉をヒロくんは自分の財布にしまう。

 黒一色の折りたたみ式の財布は私が誕生日にあげたものだ。

 

「じゃあ、揃ったことだし食べようか!」

 

 いつもの咲ちゃんの言葉を聞いて私達は箸を手にした。

 

 

 

「そうだ。放課後、私生徒会あるから先に帰ってていいよ」

 

 カツを一切れ、ご飯を一口入れて味を舌で楽しんでいる時に思い出した。

 放課後先生に呼び出されていたことに。

 

「もう仕事あるの?」

「多分引き継ぎだと思う」

 

 私の返答に咲ちゃんは微妙な反応をする。

 

「仕事状態の共有すること。次の人が円滑に仕事を進められるようにするためにやるもん」

「あ〜ね」

 

 ヒロくんの説明に咲ちゃんが理解の声を漏らす。 

 

「そもそも生徒会ってどんな仕事してんの?」

「わかんない」

「わかんないのに立候補したのかよ……」

 

 マッシーが顔を引きつかせる。

 

「大きな仕事は文化祭とか体育祭の運営や準備だと思う。だけど、それ意外は知らないかな」

 

 高校に入学してからまだ二ヶ月も経ってない。

 加えて私は仕事の関係で出席している総数は他の一年より少ない。

 だから生徒会がなにか日常的に活動していても知らないのはしょうがないことだ。

 

 ただ、私と違って毎日学校に行ってるマッシーが生徒会の仕事を認知していないということは、日常的な活動はしてないんだと思う。

 そもそも生徒会は名前だけど、先生の都合がいい使いっ走り。私はそう認識している。

 

「ふ〜ん」

「じゃあ、なんで引き継ぎが必要なの? 仕事してないならいらなくない?」

 

 咲ちゃんの言葉に雷が落ちたような衝撃に襲われた。

 ヒロくんとマッシーが。

 

「確かに」

「それは、そうだな」

「いや、別に日常的な活動してなくても引き継ぎくらいするから」

 

 唸る男二人に冷静にツッコむ。

 

「仕事ないなら、仕事はないですよ。あるとしたらこういう場合ですよって」

「へ〜」

 

 興味なさげ!

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