恋するギフテッド   作:萌花千

5 / 18
四話

「私の言うことを聞かないからこんなことになるんだよ?」

 

 私は今ベッドへと倒された。

 ヒロくんは私に覆いかぶさっている。

 

 やってしまった……

 

 って顔をする彼に私は微笑む。

 

「ねぇ、さっきの話。期限は一週間だけど、なるべく早く答え出してね」

 

 ヒロくんの手を取り、自分の胸の上にゆっくりと置く。

 まだまだ発展途上だが、それでも十分だろう。

 

「……」

「そうれば、こういうことも沢山できるよ?」

 

 ピクリとヒロくんの手が反応する。

 

 手を開放するとヒロくんは無言で態勢を立て直し、そっぽを向いた。

 

 真赤になった耳を見て私は笑みをつくる。

 

「じゃあ、行こうか! どこ行く!?」

「その前にちょっとトイレ」

 

 そうやってヒロくんは部屋を出てった。

 

 私は自分の胸に手をおいて、張り裂けそうな心臓を落ち着かせる。

 

 少しして、ヒロくんの叫び声が家中に響き渡った。

 

 

 夕飯はファミレスへ行くことになった。

 値段を気にした結果だ。

 今の私にとっても千円も五千円も大差ないから気にしなくていいのに。

 

 ファミレスでご飯を食べていると見覚えのある顔を見つけた。

 名前は覚えていないが、女子から人気の男の子という記憶はある。

 同い年くらいの女の子とご飯を食べていた。

 おそらくデートだろう。

 

 話しかける理由もないので私はそっとしといた。

 ヒロくんは話しかけていたが。

 

 席へ戻ってきたヒロくんは終始無言だった。

 私が話を振ってもどこか上の空で曖昧な返事ばかりしていた。

 その要因が私にあるのだとすぐ気づいた。

 ヒロくんの視点がある一点に集中しているからだ。

 

 胸。

 ずっと私の胸ばかり見ている。

 

 凹凸なんてないから見ても面白くないだろうに。

 どうやら純血なヒロくんには刺激が強すぎたらしい。

 

 調子に乗りすぎたかな。

 少し反省。

 

 

 

「お、滝ガレが取り上げてる」

 

 ヒロくんとご飯を食べ終わり、自宅に帰宅した私はベッドの上でスマホを見ながらダラダラしていた。

 ツイッターをスクロールしていると某有名ペンギンニュースアカウントが私のことを取り上げていた。 

 

『ギフテッドの天才女子中学生、義務教育の重要性を唱えるニート達を論破してしまう』 

 

 ツイートには私の生放送の切り抜きが一緒に貼ってあり、また参考資料として私のインタヴュー記事と動画も一緒に貼ってあった。

 懐かしい動画。よくこんなものを見つけ来るね。

 

 リプライに「恐れ入ります」と送り、イイネしておいた。

 

 他のリプライを流し見する。

 肯定も否定も半々くらいだ。

 

 否定的な意見を中心的に見たが、私が納得するほどの理由を提示している人は一人くらいしかいなかった。

 その人は「学校は行った方がいいぞ! 恋ができないからな!」と簡潔に書いていた。

 リプには「たしかにww」「それなww」と賛同している人が多数いた。

 

 面白かったので『恋したいから学校行こうかな笑』と引用リツイートする。

 

 時刻を確認すると夜十時半すぎたった。

 お風呂に入ることを考えると急いだ方がいい。夜ふかしは美容と成長の天敵だ。

 

 スマホを閉じ、着替えを用意し私はお風呂へ向かう。

 途中、リビングを横目でチラッと見たが電気はついておらず、物音一つしない。

 当たり前だ。

 家には今、私一人しかない。

 お父さんもお母さんもまだ帰ってきてない。

 

 普段部屋に引きこもっているせいで、こうしたふとした瞬間に寂しさを感じる。

 何百回も見た光景だが、慣れない。慣れる気がしない。

 きっと私は私が思っている寂しがり屋なんだと思う。

 

「メンヘラの才能がある??」

 

 まさか……。

 心の中で笑いながら私はお風呂場へ足を踏み入れる。

 

 頭と体を同時に洗い、トリートメンを浸透させる。

 お風呂を出たあとはパックをし、美容液、乳液、化粧水を控えめに塗る。

 若い私はまだ乾燥とは無縁だ。なのでやりすぎは逆効果になる。

 

 最後は髪をドライヤーで乾かす。

 これが一番時間がかかる。

 

 ちょーめんどい

 

 ダルすぎて何度も切ろうか考えたが、長ければそれだけ髪型のレパートリーが増える。

 レパートリーがあればカワイイの可能性は無限大だ。

 だから、切らない。

 

 気づけば日付が変わる手前。

 私は布団に入り、今日を終えた。

 

 

 翌日、朝起きて一番に携帯を確認する。

 時刻は七時半。

 ヒロくんからラインが一通届いている。

 

『今日、学校くんの?』

 

 短く簡潔な質問だ。

 その素っ気ない態度は矯正した方がいい、と私は未来を想像して思う。 

 

 

 行くべきか……。

 悩む……。

 

 先生方に理不尽な怒りをぶつけられるのは必然だ。

 言い負かすことは簡単だろうけど、きっと意味ないだろうし、これ以上脅しのネタを取る必要もない。

 だけど学校に行けばヒロくんがいる。 

 久々に仲良くお話ができるかもしれない。

 それは、とても魅力的だ。

 しかし、頭が悪い大人の対応をするのは同じくらい面倒だ。

 

「考えるの面倒だからサイコロ使お」

 

 私は机の引き出しからサイコロを取り出す。

 奇数だったら行く。偶数だっら行かない。

 

 サイコロを投げる。

 木製の机の上、甲高い衝撃音を数度鳴らしサイコロは動きをとめた。

 三。

 

「じゃあ、行きますか」

 

 ラインを一通入れる。

 

 今は七時五十分。既読は多分つかないだろう。

 

 

 私は制服に着替え、空っぽのカバンを片手に家を出た。

 時間に間に合うかどうか微妙な時間だが、私はいつもと変わらない足取りで学校に向かった。

 

 十分ほどすると学校の正門が見えてきた。

 人だかりができている。

 制服ではなく、手にはカメラとマイクが握られている。

 記者だ。

 

 しかしちょうど帰るとこらしくその顔は学校の方を向いていない。

 私は無関係を装い、校舎へ進んだ。

 

 廊下にはすでに人の姿はなく、教室から話し声がちらほら聞こえるだけだ。

 時折、すれ違う先生に挨拶をする。

 その反応はいつもとなんら変わりない。

 多くの先生は今回の出来事を起こした生徒の顔を把握していないらしい。

 そんな現状に違和感を覚えながら私は教室へ向かった。

 

「あ、論破嬢だ」

 

 あ?

 

 肌寒い季節。

 閉まっている扉を開けると誰かが声を発した。

 声により視線が私のところへ一斉に集まる。

 

「おはよう、論破嬢!」

「論破嬢の出勤だ」

 

 男子が次々に口にする。

 

「学校行く意味ないのに、なんで来たの!」

 

 そんなからかう声を笑顔で一蹴する。

 

 狼狽える男子共に女子は冷たい視線を送る。

 

 相手するのも面倒なので、私はそのまま自分の席に腰掛けた。

 周囲に座る男子が「やべぇ! 論破される!」とダルい絡みをしてくる。

 

 きっと彼は論破の意味も使い方も知らないんだろう。

 論理のろの字もわからない人間と話しても意味はない。

 労力の無駄だ。

 話し合いとは言葉が通じるからこそ、成り立つものである。

 

 その後、教室に入ってきた担任の先生は通常運行でHRを始めた。

 なにか言ってくると思ったが、特に動きはなかった。

 

 

「退屈だ……」

 

 わかっていたが、授業は非常に退屈である。

 大学生を軽く超える学力を持つ私にとって中学の勉強は何も得るものがない。

 強いて言うなら、教師の知識レベルと授業レベルがわかることくらいだ。

 

 五十分もずっと座らせられるのも拷問だ。

 

「絵でも描くか」

 

 授業をしている先生を脳内写真で保存し、鉛筆一本で絵を書き始める。

 授業中に起き終えるのが目標だ。

 

 一時間もあれば余裕だと思うかもしれないが、プロの絵師が一枚の絵を描くのに一ヶ月ほどかかる。

 これはこだわりの度合いにもよるが、いわゆる絵はそんな単純ではないのだ。

 ただ、私はプロの絵師ではない。絵にそんなこだわりはない。中途半端な絵なら五分ほどでかける。

 だがそれでは時間を潰せないのだ。

 授業時間一杯で書き上げられるようにクオリティを調整しなければいけない。

 

 じゃないと書き終えないと先生に絵を渡すことができないのだ。

 

 因みにこれはプレゼントではない。ただ単純にゴミを押し付けているだけだ。

 

 と、丁度終了のチャイムが鳴った。

 

「先生、これどうぞ」

 

 英語担当の若い女性教師に私は絵を渡す。

 

「ありがとう! 船戸さん絵も上手なのね!」

「いえいえ。そうだ、先生。さっきの文法のところなんですけどーー」

 

 絵を渡した次いでに私は先生の説明の分かりづらさと退屈さを教える。

 名前は覚えていないから、英語先生と仮名しよう。

 英語先生は他の先生に比べてとても頭が柔らかく、柔軟な対応ができる先生だ。

 

 英語力は全然足りていないが、私に「教えて」と言ってくるほど向上心がある。

 私は年齢差別をしない人が好きだ。

 だから英語先生には好感が持てる。

 少し前にTOEICの勉強も見てあげたし、名前を覚えていないことに罪悪感を感じるほどだ。

 

「ありがとう、助かるわ船戸さん!」

「いえいえ」

「あ、そうだ。ちょっと耳貸して」

「すぐ返してくださいね」

 

 口では冗談をいいながらも、英語先生の笑顔に隠れた真剣な眼差しに私は耳を近づける。

 

「次の数学の授業、桜井先生が体調不良で急遽、教頭先生に変わったの」

 

 じゃあ、自習かな?

 ラッキーだ。

 

「だから、気をつけてね。何かあったら声を上げるのよ。次、私隣の教室で授業だから」

 

 教頭先生のあのヤバさはどうやら先生の間では有名らしい。

 つまるところ、私が登校してきたことを知った教頭先生が嫌がらせしに来るということだ。

 

 英語先生、なんていい人だ。

 若くて立場が弱いため、止めることはできないんだろうけど、こうして私を気遣う辺りとても好感が持てる。

 

 それに比べて教頭先生……。

 嫌がらせするのに授業時間を使うとは。

 他の生徒のことも考えろよ。

 

「先生、結婚に困ったら私に相談してください! 必ず先生に見合う相手を見つけてみせます!」

「えっ!? どいうこと!?」

 

 グッと拳を握りしめる私に英語先生は困惑した様子で教室をあとにした。

 

 

 さて、早急に対策をしなければ。

 残り休み時間はおよそ五分。

 私はすぐさま行動に移す。

 

「ねぇ、ちょっといい」

「お、論破嬢じゃん! 論破しにきたか!?」

 

 私は陽キャグループに声をかける。

 

 ダル絡みが嫌いであんまり好きではないが、何かをする時には肝が座っていて頼りになる。

 

「頼み事があるの」

 

 私はこれから起こるであろうことを説明し以下の三つを頼んだ。

 

 一つ、教室にカメラを仕掛けること。

 二つ、先生が手を出したらすぐさま他の先生を呼ぶこと。

 三つ、先生が私を他の教室へ連れて行ったら自分たち、もしくは他の先生を用いて確認しに行くこと。

 

「でも、もし本当に手をあげたら先生呼ぶんじゃなくて、俺らが動いた方がはやくね?」

 

 私の話を一通り聞いあと、一人の男子が言った。

 野球部で日々体を鍛えているから、おそらく力関係には多少の自信があるんだろう。

 

「成人男性の力を軽く見るのは危ないから、ダメ。それに君たちが怪我したらどうするの? 私一人だったら先生も力加減を間違えないと思うけど、急に三人に背後から襲われたら、力加減ができないかもしれない」

「でもそしたら船戸が……」

「私なら大丈夫」

 

 教頭先生だって馬鹿じゃない。

 生徒の目の前でいたいけな女子生徒をぶん殴ったりはしないはずだ。

 

「じゃあ、よろしくね」

 

 開始二分前の予鈴がなる。

 私は自分スマホをロッカーの上へ隠れるように設置する。

 反対側にも陽キャ男子がスマホを設置する。

 

 後ろの席の男子が不思議そうに私達を見ていた。

 目があい、微笑むと目をそらされた。

 

 授業開始を知らせる鐘がなった。

 私は席につき、先生が来るまで絵を描いて時間を潰した。

 

 それから数分して、教室の扉が開いた。

 中途半端に剥げた頭が照明を反射する。

 教頭先生だ。

 

 入ってくるなに先生は教室の窓側最前列に座る私のところまでわざわざ足を進め、私をパット見ると描いている絵を取り上げクシャクシャと丸めた。

 捨てるのかと思いきや、それを私の机にポイッと投げた。

 

「桜井先生が体調不良のため、私が授業をします」

 

 その発言に一部の女子が先生を気遣う声を出す。

 教頭先生はそれを適当にあしらう。

 

 そうして授業がスタートした。

 どういう授業をするのかと好奇心で五分ほど聞いていたが、面白みのかけらもない授業で私は絵を描き始めた。

 

 きっと、大人しく授業を聞いて穏便に済ませることもできるのだろう。

 ただ、それは理論的に可能というだけの話だ。私にはできない。

 

「おい船戸、遊んでないで授業聞け」

 

 と、考えながら絵を描いていたら机の上においてあるものが私の視界から消えた。

 はたき落とされたのだ。

 

 シャーペンの芯、折れてそう。

 

 教室内の緊張が高まったのを感じる。

 眠りについてた生徒も空気を感じ取ったのか顔をあげた。

 

 私も首をあげ、先生の顔を見る。

 

「なぜ、ですか?」

 

 私の返しに、さらに緊張が高まる。

 話し声が消え、音が教室から消えた。

 

「それが当たり前だからだ」

「…………当たり前とは誰の?」

 

 言葉の意味が理解できず、数秒考えた。

 

「学校のだ」

 

 なるほど。簡単な論理だ。

 当たり前だから、普通だから。だから従う必要がある。とんだ偏見だ。

 

「お断りします。学校とは教育レベルを均一化するために存在しており、私はすでに中学レベルは修学して終えています。なら、私が授業を聞く意味はない。どうぞ、静かにしていますでの、続けてください」

「いいや、すでに迷惑をかけているだろ」

「はい?」

「この時間だ。お前が余計なことをするから、こうしてみんなの時間がどんどん奪われてるんだぞ。お前は責任とれんのか。もう二分も授業を止めてる。お前はみんなから六十分時間を奪ったんだぞ」

 

 …………六十分? いま、二分って言わなかった??

 どういうこと?

 

 先生をずっと見上げるのも疲れるので私は立ち上がる。

 

「えっ? 授業を止めたのは先生ですよね? 私が授業を妨害したわけじゃないですよね? それに六十分ってどこから出てきた数字ですか? みんなでカップ麺作れば一秒足らずでできるんですか?」

「言い訳をするんじゃない! お前が余計なことをするから俺が注意する必要ができてきたんだ。お前が原因だろ!」

「授業妨害しているわけではないので、気にせず授業を進めればよいのでは? 大学の講義はそうでありませんでしたか? 寝ている生徒をいちいち先生が注意したりしいませんよ」

「ここは中学だ! 話をすり替えるんじゃない!」

「別にすり替えてませんが。先生が話を理解できていないだけなのでは?」

「……っ!! いいか、学校っていうのはお前みたいな礼儀もないやつをしつけるためにもあるんだぞ!!」

「叫ばなくても聞こますが」

「舐めた口聞いてんじゃねぇ!!」

 

 ドンッと胸をどつかれた。

 パイク机が激しくどかされる独特な音が教室に響く。

 

 椅子のおかげで転ばなくてすんだが、後ろの人の机の上が大変なことになっている。

 筆箱が落ち、中身が散らばる。

 

「あ、ごめん」

「う、ううん」

 

 私はしゃがみ、落ちたペンや消しゴムなどを拾う。

 酷く怯えた表情を見せるクラスメイトを安心させるために笑顔を見せる。

 

「船戸、お前は別室で説教だ! ついてこい!!」

 

 だから怒鳴るなって。

 

 私は教頭を無視して、ペンを拾い続ける。

 にしてもボールペン多い。

 緑とかいったいいつ使うんだ。

 

 直後。

 ぐっと二の腕を力強く引っ張られた。

 私は尻もちをついて引きづられる。

 

 まずっ!

 

 脳内でJアラートが鳴り響く。

 

「イタッ! イタタタッ!! ちょっ! なにするんですか!?」

 

 すぐさま立ち上がり、私は踏ん張る。

 

「いいから黙ってこい!! 大人を舐めるのをいい加減しろ!!」

 

 教室がザワつく。

 

「流石にやばくない?」

「止めた方が……」

「先生呼んできた方が……」

 

 

 しかし力勝負で勝てるわけがなく私の体はバランスを崩し、転がる。

 転んだことで運良く、教頭の力が緩み、一瞬開放される。

 すぐさま立ち上がり逃げようとするが、ガクンと頭が後ろへ引っ張られる。

 

 髪の毛を掴まれた。

 

「イタタタッ!! 離して!!」

 

 ギュッと掴まれ、頭皮が引っ張れる。

 頭が痛みに襲われるなか咄嗟に教室の扉に腕をかけ、抵抗する。

 

 教室から連れ出されることを予想していなかったわけじゃない。

 しかしいざ、その場面に陥ると私の頭の中は恐怖の一色に染まった。

 

 殺される、なんてことはありえないのに頭の中には底見えぬ恐怖で一杯になる。

 すがるようにクラスメイトを見るが、目をそらされた。

 

 私はそのまま廊下へ引きずり出された。

 

「大人を舐めやがって!」

 

 私は逃げたい一心で手に爪を立てる。

 

 直後、髪の毛が開放される。

 

 今しかない!

 

 急いで教室に逃げよとするが、またも腕を捕まられる。

 しかし今を逃せば確実に空き教室に連れ、殴られる。

 

 足にあるだけの力を入れる。

 直後、パッと腕を離された。

 

 前に進もうとした力は行き場を失い、私は廊下と教室にある窓に頭から突っ込んだ。

 

 ヤバっ!

 

 咄嗟に腕を前に出すが間に合わない。

 視界は雲ガラスで埋め尽くされた。

 

 パリィィィン。

 

 甲高い音と同時に腹を軸に体が中に浮かび、一回転する。

 視界がグルりと回転したかと思えばお尻と足に何かが当たり、激しく倒れる音がした。

 

 イッタァァ……。

 

 全身に痛みが走る。

 

 続いて額に違和感を覚えた。

 だけど、体が動かない。

 

 なにか周囲が騒がしいが、声が正確に聞き取れない。

 が、少しして意識が鮮明に戻り、体が動くようになった。

 

「船戸さん! 大丈夫!? 保険の先生呼んで!! 誰かハンカチかティッシュもってない!?」

 

 目を開けて少し、ぼやけている視界が段々とはっきりと映り英語先生が慌てているのがわかった。

 しかし、おかしい。右と左で色合いが違う。

 なんで?

 

「先生、メッチャ痛いです。……アハハ。やっぱ学校なんて来るべきじゃなかったかな」 

「まだ動かない方が……」

「お気遣いなく!」

 

 壁に寄りかかりながら立ち上がる。

 体は痛い。

 鈍痛が響く。

 だけどそれだけだ。

 

 額をこすると、ダラっと気持ちの悪い感触を感じた。

 

「うわ」

 

 血だ。

 出血量が多いらしく擦った手が赤黒く染まる。

 床を見ればポタポタと血が垂れ落ちていた。

 

 制服にも血がついて、私が思っている以上に流血しているらしい。

 

 ポケットからティッシュを取り出し、出血箇所であろうところを抑える。

 しかしティッシュはすぐに重くなり、意味をなさい。

 

「ちょっと保健室行ってきます。おっとと……」

 

 歩こうとした直後、地面が歪んだ。

 

 私はすぐさま自分の平衡感覚が狂ってる事に気づいた。

 気づいたが、それでも足を動かした。

 

 周囲が止めるなか、動く地面を少しずつ進む。

 

 早く、早く、保健室。

 

「細井くんと、手の開いている人は床を拭いといて! 私は船戸さんに付き添います! 船戸さん待って! 一人じゃ危ないわ!」

 

 声が聞こえる。

 私を引き止める声が。

 

 ごめん、英語先生。

 私、保健室のベッドに寝転びたい気分なの。

 

 階段までたどり着き、手すりを力一杯握りながら私は足を前に出した。

 しかしあったはずの階段が消えた。

 

 行き場を失った私の足はそれでもなお前に進み続ける。

 それにつられて体全体が虚無へ向かう。

 

 えっ?

 

 力一杯握っていた手すりは手から離れ、私は飛んだ。

 

「あっぶなっ!」

 

 直後、背後から声が聞こえた。

 同時に脇下から体を支えてもらっていることに気づいた。

 聞き慣れた声に私は名前を呼ぶ。

 

「ヒロくん? 私保健室に行かなきゃいけないんだけど」

「斎藤くんありがとう!!」

 

 英語先生の声も聞こえた。

 

「い、いえ!」

「とりあえず保健室に運びましょう」

「はい」

 

 気づけば私はヒロくんの背中の上にいた。

 大きくて温かい。

 私はヒロくんの背中に耳を押し付ける。

 心音が聞こえる。

 少し早いが一定のリズムで波打つそれはとても暖かった。

 

 




何回見直して誤字がある私に誰か誤字発見サイト等を教えてください泣
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。