「さて、ヒロくん。教頭のおかげ私達には一週間の休日が与えられたわけだが」
「おお」
電話越しに聞こえる声は私と正反対でどこか重ダルそうだった。
せっかく学校が休みなったというのにヒロくんは嬉しくないのかな?
「第一回、ヒロくんモテ男会議を開催します!! ドンドンパフパフ〜!!」
「お、おお」
ちょっと緊張しているらしい。
別に相方になったからって何かが変わるわけじゃないのに。
変だな、ヒロくんは。
修学旅行の一日目の夜に相方になることを受け入れたヒロくん。それにより友達から相方へランクアップ、ジョブチェンジした。
恋人と言い切らないところには色々理由があるが、今はどうでもいい話だ。
とにかく晴れてヒロくんは私の期限付きの相方になったのである。
期限は中学校卒業まで。その間に私はヒロくんをイケメンにする!
高校入学後にはヒロくんの華々しい高校ライフが待っている!
ただ中学卒業まであと一年ちょっとしかないので急がなければいけない。
不完全な状態で終わるなんて許されない。
ヒロくんはイケメンに生まれ変わるのだ。
「じゃあ、まず第一に容姿をどうにかしよう」
「整形ってこと?」
「ヒロくん、容姿の変え方が整形しかないと思っているなら世の女性を馬鹿にしすぎだよ」
ボケてるのかイマイチわからない反応に私は冷たい声色で返す。
整形なんてまだまだ日本だと高くて一部の女性の魔法だ。
そんな魔法をヒロくんに使うわけには行かない。
「まず髪型。そのいかにも何も手入れされたない髪をどうにかしよう!」
「手入れされてないって、頭は毎日洗ってるけど……」
「洗うだけで手入れしたなんて、片腹痛いわ! いいかい、ヒロくん! まずは髪型だ! 人の印象は髪型で大きく左右される。女の子や一部の男性がカツラを被っているのが良い証拠だ! 中途半端なハゲほど見窄らしいものはないでしょ!」
「そ、そうなのか。俺にはよくわからん……」
「これだからヒロくんは……。とにかく、まずは髪型。ヒロくんの場合は顔の形にセンターパートが似合うからそれにしよう」
「顔の形で似合う似合わないとかあるのか」
「そう! 最も綺麗に見えるひし形って言うのがあって、そのひし形に合わせるように自分の顔と髪型を調整するの。ヒロくんの場合はまあまあ綺麗な塩顔だからマッシュでもセンターパートでも行けるけど、マッシュは個人的に根暗なイメージがあるからダメ」
「まず、そのマッシュとかセンターパートってなに?」
「髪型の名前。説明が面倒だから自分でググって」
そう言ってから数秒後に電話越しに新しい発見をしたヒロくんの声が聞こえた。
「俺はマッシュの方が好きだな」
「あっそ。ヒロくんの好みは聞いてないから大丈夫。モテとはヒロくんの好みじゃなくて女の子の好みに合わせるもだから」
「なるほど。でもそれならマッシュは女から受けが悪いの?」
「女の子ね。別に悪いわけじゃないよ。マスクしたらどれもそこそこイケメンに見えるから人気。だけどマッシュ好きな子ってメンヘラとか地雷系が多い傾向にあるからねぇ……」
「踏んでも足を動かさなきゃ大丈夫ってやつでしょ。結衣にそっくりだな」
「は?」
「アハハ。ごめん、ごめん」
「私が話しつけとくから、空いている日に今送ったりリンクの美容院に自分で予約して行ってきて」
私は自分の行きつけの美容院のURLを送る。
そこの美容院は個人経営でお客が少なくマイナーな美容院だ。
だけど、美容師さんの腕はもちろん、サービスもとてもいい。
最寄り駅から二駅の静かな住宅街にひっそりと佇むそこに私は中学生になってからずっと通っている。
美容師さんともとても仲がよく、ヒロくんのことを相談した時も二つ返事でOKをくれた。
「で、そこで美容師さんに言われたことをちゃんと覚えて帰ってきて」
「忘れそう……」
「それならメモするなり、美容師さんに書いてもらって」
「りょうかい」
なんとも頼りない返事。
「あ、そうだ。美容院のお金は私が出すから」
「えっ? いや、それはちょっと……」
「自分で出してくれるんならそれに越したことはないけど……。これからどんどんお金かかるよ。少なくとも十万くらい必要だけど?」
「出資、お願いします」
「素直でよろしい」
美容院だけで五千円以上。
月三千円のヒロくんのお小遣いではすぐに貯金の底が尽きるだろう。
中途半端になるくらいだったら一から十まで全て私出す。
女の子に奢られるのは男の子的は結構精神的に負担がかかるだろうけど、そこは我慢してもらうしかない。
モテにプライドはいらない
ヒロくん、悪いけど今は男のプライドを捨ててくれ。
「さて、じゃあ髪型の細かいの美容師に任せるとして、次は洋服だね」
最近すっかり制服と学校指定のジャージ姿しか見てない。
ヒロくんは私服どんなの着てたっけ?
「洋服は……面倒だから新しいの買うか」
変に既存の服と合わせるように、新しいセットを三つか四つ買った方が綺麗だ。
「今、身長いくつ?」
「最後に測った時は百六十後半だったかな?」
「じゃあ、Mで大丈夫だね。明日、朝十時に家のインターホン鳴らして」
「え?」
「察しが悪いな〜。明日、服買いに行くんだよ?」
「俺の意思と予定は??」
「ダメ。このあとの予定の見通しがたたないから」
「結衣忙しいの?」
「これから忙しくなるかも。この間の炎上事件で色々注目が集まって、その中に私を買ってくれる人がいて、色々誘われるてるから忙しくなる可能性があるの」
「まじ? めっちゃ凄いじゃん」
「でしょ?」
テレビ業界や音楽業界、モデル業界など様々なところから声をかけられた。
今の所前向きに検討しているのは音楽とモデルだ。それ以外は遠回しにお断りしている。
みんなに求められるのは非常に嬉しいが、残念ながら私の体は一つしかない。
体調を考えなかったらできないことはないだろうけど、私は別にテレビ業界でトップスターになりたいわけじゃない。
あくまでも人生を楽しむための選択肢の一つだ。
幼馴染が大スターになるかもしれないというのに、ヒロくんの反応は控えめだった。
驚きを隠している雰囲気は全くなく、素の反応に見える。
もう少し驚いてくれると思ったんだけど。ちょっと残念。
「じゃあ、明日の朝十時によろしく! 今日は落ちるね!」
「おお」
電話を切った私は早速、出かける準備をする。
行く場所はとあるオフィスビル。
私をプロデュースしたいと申し出てきた複数の会社の一つで、オンライン面接で残った優秀な企業だ。
彼らはアベマの収録のあと私が家に付く前に連絡してきた。
話を聞く限り炎上する前から私には目をつけていたらしく、今回の炎上がきっかけで一気に有名になった私をプロデュースして、ビックウェーブに乗りたいらしい。
知名度は大事だからね。
生放送などを見て、私の性格を知っていたらしく各社私をどう売り出して、どう商売道具になって何をしてほしいか既にプレゼン資料を作っていた。そのため翌日にはスピードオンラインプレゼン会が行われた。
その中から一次面接に合格した企業には二次面接が待っている。
それがこれから行う現場視察だ。
仕事をする上で大事なのは人間関係だと思う。
実際に数字に現れているように、会社を辞める理由の殆どが人間関係によるものだ。実際に天才だの神の子など言われている私でさえ、人間関係の問題は手につきにくいものだと感じている。
つまり私が何を言いたいのかと言うと、ギクシャクした空気が嫌いということだ。
私は一日かけて複数の会社を周り、その日の夜には結論を出した。
一社目はとてもきっちりした会社だった。
現場の空気はプロで、張り詰めており誰一人無駄口を叩く人はいなかった。
二社目はその逆でとても緩かった。
どうやらネットや大学同士に知り合いで作った会社らしく、みんなのんびりとした雰囲気でプロの現場という言葉とはかけ離れていた。
三社目は二つの中間で、途中でスタッフの笑みがこぼれたり、逆に時々真剣な表情になったりと。バランスのとれたいい空気だった。
四社目は……ダメだ。
現場監督は強い者に媚び、弱い者には横柄に出る、私が嫌いなタイプの人間だった。スタッフの人間関係も悪いらしく、ミスをお互いになすりつけ合う姿が目に入った。
私は二社目の株式会社愛好に決めた。
理由は三つある。
一つ目ははやり空気だ。仕事場の空気がとてもよく私が入りやすそうだった。一社目のプロの空気は嫌いではないが、息苦しいのが苦手の私は向いていない気がした。
二つ目はスタッフの年齢が私に近いことだ。別に離れていても問題ないが、年齢が近い人達とやるほうが良い気がした。三社目は仕事場の雰囲気は良かったが、高齢化が進んでいた。
三つ目は経営だ。愛好は会社を設立して十年近く経っていいるそうだ。そして社内のスタジオには他の会社にはない最新の機材が多く見受けられた。会社の寿命が八年や九年と言われているなか、あれだけの機材を持っているということはそれだけ経営が安定しているということだ。
それに対して三社目の会社は高齢化が進んでおり、機材も二世代ほど前のものを使用していた。あまり経営状態がよくないのだろう。
私は愛好に採用通知を送り、その他の会社にはお祈りメールを送る。
そしてスマホで時刻を確認すると泥のように眠った。
「なに、その格好……。不審者みたい」
朝の十時にインターホンがなり扉を開けた第一声、なんとも失礼なことを言われた。
「しょうがないじゃん。学校の誰かが私の顔さらしたから、そのままじゃ歩けないんだよ」
朝、ツイッターを眺めていたら私の顔がトレンド入りしてた。
どうやら写真を撮られていたらしい。
背景や服装から校内で撮られたことはすぐにわかった。だけど、写真をあげた本人は盗撮を指摘され、すぐにアカウントを消し逃走した。そのため写真だけが出回ってしまった。
そのおかげで、私は朝からマスクとサングラス、そして帽子を被るはめになった。
「全く、いい迷惑だよ! もう!」
せっかくのお出かけなのに!!
地団駄を踏みたく気持ちを抑えて出発した。
服選びで大事なことはいくつもあるが、男子と女子とはそれが全く異なるものである。
女子は自分の肌や体型などコンプレックスを強調したり隠せたりする服や、周りの女の子とかぶらないような服を選んだりする。
因みに、私はそんなこと気にしたことは一度たりともない。
その場でカワイイと思ったものを買うのが私のスタイルだ。
カワイイは正義。
しかし、男子の場合はいかに無難なものを選ぶか、だ。
ファッション素人が自分のセンスで服を選ぼうものなら、ただのダサい人である。
もちろん、中にはとんでもなくよいセンスを持っていて常人が着ないような服を着こなしている猛者がいるが、それは例外中の例外だ。彼らは宇宙人だ。
よって男子はモノクロファッションが一番いい。
街中で歩いている格好いい人は大体モノクロだ。
白は清潔感を表し、黒は大人を表す。
ということで、私はユニクロとGUでモノクロコーデを適当に買い漁った。
全部で三万いかないくらいの安い買い物。
ヒロくんは会計時横で目を瞠目させた。恥ずかしいからやめてほしい。
「とりあえず今日買ったのだけで合わせて着て。基本的には白の上には黒。黒の上には白だからね」
「三万……三万……」
「頼むからこれから出かける時にその小学生みたいな服装やめてよね」
その服いっぱいに描かれてる絵とか。
ダボダボしたズボンとか。
緑のチャック付きパーカーとか。
勘弁してくれ。
彼氏があれだと、彼女さんも大変ですね!
って店員に煽られる始末。
だけど多分あの店員、私の声を聞くことが目的だ。
格好的に私が有名な女優かなんかだと思ったんだろう。その有名人のゴシップとなれば週刊誌がいい値で買い取る。
声を聞いて私を特定しようとしたのだ。
その証拠に話しかけてきたのはお会計が終わったあと。使う金額や財布から金を出す仕草を観察していたんだろう。ネットで金持ちかどうかは使う金額と出す仕草でわかるとか適当なこと言っているのを見たことがある。
しかも煽るような口調。大方彼氏をディスされて私が怒るように誘導しようとしたんだろう。
なので私は大きくゆっくり頷いてやった。
ヒロくんの服装が終わっているのは事実なのだ。
買い物が終わり、ブラブラとモール内を歩く。
少し前を歩く背中を眺めながら私は問題を出題する。
「ちょっとお腹すかない?」
「そう? 俺はそうでもないけど」
時刻は十二時すぎ。
お昼を食べるのには良い時間だ。
特に食べたいものがあるわけじゃないが、口にしてみると返ってきた答えは否定だった。
ありえない。
「減点!」
「えっ?」
ヒロくんの服が入った紙袋で殴る。
「まず、なんで女の子に荷物持たせてるの!? 私の服ならまだしもこれ、ヒロくんの荷物だよ!?」
「いや、だって何も言ってこないし……言うタイミング逃したっていうか……」
「減点! そこは、ごめん、ありがとうって言って私から荷物を取るの!」
「いや、でも……」
「減点! 学習能力がないのか己は!」
私が紙袋を突き出すとようやく荷物を持った。
余計なことばっか言いよって!
「あと、歩くペースも早い! 女の子と歩く時はペースを女の子に合わせるものなの!」
「あ、はい。ごめんなさい」
「それに、なんで私が遠回しにお昼に誘ってるのにバッサリと切り捨てるの? 馬鹿なの? ん??」
「今のそういう意味なの!?」
「鈍いわ! いい、女の子、〇〇しない? は〇〇したいっていう意味なの! そこを察してスマートにリードするのがモテる男の作法なの!」
「べ、勉強になります」
「じゃあ、はい。やりなおし。リテイク」
咳払いをして、気持ちを切り替える。
「お腹すかない?」
「お、お、おお……空いたな」
ぎこちない……。
てか、なんでそっぽ向いてるんの? 透明人間でもいるの?
「……」
「ヒロくんは何か食べたいものある?」
おい、お前がリードしなくてどうするんだ。
「焼肉」
「おお、焼肉か。いいね! あ、でも、パスタとかも美味しそうじゃない?」
「そう? 焼肉の方が旨くね?」
背中にドロップキックを食らわす。
「ゲフッ!」
「なんで女の子の意見、否定するの? ダメでしょ! そこは、パスタいいね! 俺も食べたいわ。でしょ!?」
「す、すいません」
「てか、なんで会話の主導権をとらないの? ヒロくんが会話をすすめないとダメなんだよ? このヘタレ!」
それからご飯に誘い、店を見つけて入店するまでのくだりを何回も続けた。
「ねぇ、お腹すかない?」
「ああ、わかる! お腹へったわ。結衣なにか食べたいものある?」
「あ〜パスタとか、かな?」
「いいよね! パスタ! 俺も丁度食べたい気分だったわ! 一緒だな!」
「う、うん」
「ちょうど、あそこにあるからあそに入ろう」
腕を軽く引っ張られ、進路変更させられる。
「いいよ」
店内に入ると落ち着いた雰囲気でなかなかいい。
店内にはカップルがちらほら見える。
「なんか、カップル多くない?」
「う、うん! みんなデートかな?」
「そうじゃないかな? いいよね、ああいうの」
「わかる。なんか憧れる」
と、そこで店員がきた。
「何名様ですか?」
「二名です」
「かしこまりまりました。こちらへどうぞ」
と、そのまま店員に案内され私達は奥の席へ進む。
「結衣、奥座りなよ」
「ありがとう」
ヒロくんに言われ、私はソファー席に腰掛ける。
「どれも美味しそうで迷うな」
私が荷物を置き終え、自分を整え終えると既にテーブルの真ん中にはメニューが開いた状態で置かれていた。
向きも縦向きで互いに配慮した置き方。
「うん、すごく美味しそう。これとか凄い美味しそうじゃない?」
「カルボナーラメッチャ美味そう。あとこれとか」
「タラコもいいよね! よく子供の頃食べた。凄い迷っちゃうね」
「じゃあ、俺がタラコ頼むから結衣カルボナーラ頼みなよ。それで二人でシャアして食べようぜ」
「いいね、それ!」
メニューが決まったところで、ヒロくんが店員を呼び二人分注文した。
店員が立ち去ると、なにか緊張の糸が切れたらしくヒロくんは水を長く飲むと深く息をはいた。
「モテるって難しいんだな」
そして酷く疲れた声色で呟いた。
「ナチュナルイケメンはこれを素でやるからね。ヒロくんには到底無理だろうね」
「ああ。モテるって難しいんだな」
嘆き声をあげならテーブルに顔を落とす。
「まぁ、慣れれば歩くみたいに当たり前にできるようになるよ。それに今回はまだ会話がぎこちなかったり作業的だから、もっと自然体にできるようにならなきゃ。本番に台本はなくアドリブだけだから」
「結衣もそんな男が好きなの?」
「どう、だろうね」
私はヒロくんのことが好きだ。
だけど、客観的に見ればヒロくんにいいところはない。それは実際にヒロくんがモテていないから照明できてる。
なら、私はなんでヒロくんが好きなのか。
魔法とか惰性とか、腐れ縁とかきっと色々あるんだと思う。でもやっぱり、付き合いが長くて私のことをわかってくれるっていうのが一番大きいがする。
女の子は人を好きになると、その人がとても格好良く見えるようになる。逆に嫌いになればどんなイケメンだってブスに見える。
だからヒロくんはとっても格好いい。
それから少ししてパスタが届き、私たちはそれを美味しく頂いた。
思ったよりボリュームが足りなかったのかヒロくんは微妙な顔をしていた。
ご飯を食べ終わったあとはゲームセンターに入った。
太鼓の達人やクレーンゲーム、メダルゲーム、プリクラと一通り遊んだあと、私達は帰路についた。
家が隣なのに別れ際がこんなに寂しいなんて。
いっそのこと、家にお邪魔しようかと思った。
だけどきっと今家に行ったら取り返しのつかない間違いをする気がした。
だから私は自分の欲望をギュッと押さえ、自室に閉じこもった。